Owlly
これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

昆虫学者は役に立たない?お金もうけに直結しない仕事の価値って?

おカネの教室~僕らがおかしなクラブで学んだ秘密【3時間目 前編】

高井浩章 2018年3月28日 07:00
「この世には、おカネを手に入れる方法が6つあります」中学2年生になった僕は突然、奇妙なクラブに放り込まれた――謎の大男、大富豪の美少女、平凡な「僕」が、「お金と経済」を通して、世の中の仕組みを知る! 昨年Kindleで個人出版され、、累計1万DLを突破したお金の青春小説が最新のトピックも加えてパワーアップして書籍化!3月16日に発売されました。物語の始まりを、特別連載でご紹介します!

3時間目 役に立つ仕事立たない仕事(前編)

 毎週月曜日のクラブの時間。中学2年生の僕こと、木戸隼人(サッチョウさん)が、学校でも色んな意味で有名な福島さん(ビャッコさん)と一緒に入ったのは怪しいエモリ先生(カイシュウさん)が顧問を務める「そろばん勘定クラブ」。前回の宿題は具体的な職業や仕事を3つ、役に立つ、立たないという物差しで考えてくること。さて、「役に立つ」仕事ってーー?

サッチョウさん(木戸隼人)どこにでもいるフツーの中学2年生。小学校からバスケ部で、部活がない週末は公園でサッカーに燃える。消防士である父親がヒーロー。ひょんな巡り合わせで「そろばん勘定クラブ」に入ってしまう。
ビャッコさん(福島乙女)町一番の大富豪の娘。成績は常にトップクラスで、母譲りのスマートな容姿も相まって、誰からも一目置かれる存在。物事をとことん突き詰める頑固な一面を持つ。家族の手掛けるビジネスについて悩んでいる。
カイシュウさん(江守先生)「そろばん勘定クラブ」の顧問にして2メートルを超す大男。バイリンガルのハーフっぽいという以外、経歴等は不明。巨体が楽に収まるベンツが愛車。紅茶とスコーンをこよなく愛する。見た目は40代。

日曜にバスケ部の練習試合があったこともあって、この週末はクラブの宿題のことはすっぽり頭から抜け落ちていた。教室に着くまでに考えなきゃ。

うん、まずは先生、だな。一応、見本が目の前にいるし、これは世の中の役に立つってことにしよう。役に立たない例には昆虫学者を入れよう。最近、『ファーブル昆虫記』を読んで、虫の観察ばかりしてどうやって生活してるのか不思議だったんだよな。そもそも、虫のことをひたすら調べるって、役に立たないっぽいし。
ファーブルのことを考えていたら、3つ目を思いつく前に教室に着いてしまった。

「今日は世の中の役に立つ仕事、立たない仕事を具体的に考えようという話でした」
ビャッコさんがノートを取り出した。張り切ってるなあ。
「では、サッチョウさん、さっそく例を3つ挙げてください」
まだ2つしか考えてないな。ここはアドリブで乗り切ろう。

「1つ目は先生です」
「おっと、そう来ましたか。それは役に立たない例ですね」
「いえ。役に立つ、です。子どもに勉強を教えるのは大事な仕事です」
「末席をけがすものとして光栄です。では、次、どうぞ」
「昆虫学者。これは役に立たないほうで」
「渋いチョイスな上に、ずいぶん辛口ですね」
「『ファーブル昆虫記』は面白い本だけど、お金もうけとは関係なさそうだし」
「ふむ。ゼニにならん、と」
「なんというか、世の中の外にいて、あってもなくても誰も困らない仕事というか」
「昆虫学者不要論ですか。何かうらみでもあるんですか。その調子では、浮世離れした学者や芸術家は一網打尽(いちもうだじん)でアウトですね」
あれ?なんだか変だ。そんなつもりじゃなかったんだけどな。

「ビャッコさん、どう思いますか」
ビャッコさんは少し考えて、「昆虫学者や画家は、いなくてもすむかもしれないけど、新しい発見や素敵な絵で世界を豊かにしてくれます。お金もうけに直結しなくても役に立つ仕事だと思います」と言った。
おっしゃる通り。急ごしらえで答えると、ろくなことはないな。

「サッチョウさん、どう思いますか」
「昆虫学者のみなさんに謝ります」
「ちょっとフォローすると、生前のファーブルは本が売れず、とても貧しくて学者仲間から経済的な援助を受けていたようです。ゴッホの絵もまったく売れなかった。でも、自分のやりたいことをやらずにいられなかった。サッチョウさんが言う通り、世の中の外、お金の外で生きていたとも言えます。では、サッチョウさん、最後の一つをどうぞ」

パン屋さん。これは、役に立つ、です」
アドリブのでっち上げとはいえ、我ながらつまらない答えだな。
「うん、いいですね。材料を仕入れてパンを焼いて売る。非常にオーソドックスです。
こういう例もないと議論に穴が空いてしまう」
あれ。意外と好評だな。ここでカイシュウ先生が板書した。

先生

昆虫学者

パン屋

「今のところ全部、役に立つ、ですね。次はビャッコさん、どーんとお願いします」
3つ全部、役に立たない仕事でもいいですか
「助かります。バランスがとれて」
ビャッコさんは一瞬、間をとり、深く息を吸ってから、「わたしが役に立たないと思う3つの仕事は、高利貸しとパチンコ屋と地主です」と一気に言った。

教室に沈黙が降りた。僕はビャッコさんの顔を横目でちらっと見て、すぐ目をそらした。カイシュウ先生はチョークを手にしたまま、目を見開いてビャッコさんを見ている。ビャッコさんはしっかりその視線を受け止めている。
カイシュウ先生がようやく「これは……驚きましたね」と口を開いた。
「中学生の口からその3つが出てくるとは。少々、面食らいました」カイシュウ先生とは違う意味で、僕も驚いていた。なぜなら僕は、この町の人間なら誰もが知っている、でもたぶんカイシュウ先生が知らないことを知っているからだ。


その3つはすべて、ビャッコさんのウチ、福島家の家業なのだった。



次回は4月4日公開予定!

福島家の家業は役に立たない。そう言い切ったビャッコさん。その理由はどこに?


Kindle版で50件以上のレビューで平均★4.6を獲得した人気電子書籍、待望の書籍化!