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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

ヒット作が変えた、作家としてのこれから。「僕は、文字をもう一段階アップデートしたいんです」って!?

【神田桂一/菊池良 インタビュー後編】

佐藤大介 2018年4月5日 10:00
予想を超えてのヒット作となったた『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』。前編ではベストセラー作家にいつもは聞けないお金の使い方について伺ってみた。後編も引き続き『もしそば』の著者、菊池良さんと神田桂一さんに、印税が入って生活がどう変わったか、また第三作の構想などについて話を聞いた。

ヒット作はお金の心配をなくし、心の余裕を産む?

やはり、お金の余裕が出てくると日々の生活も変わっていくものでしょうか?

菊池良氏(以下 菊池):そうですね。CDなどを視聴したり、誰かのレビューを気にすることなく購入できる様になりました。大人買いです

神田桂一氏(以下、神田):菊池くんは会社員ですが、自分はフリーランスのライターです。種銭が溜まったことで、目先のお金の心配がなくなり、働き方や心に余裕が出てきたと思います。


自分の名前が出ている本が一冊あるって大切ですよね。

神田:ライター生活が長くなり、一昨年くらいから自分がやりたいと思っていた雑誌で執筆することができたり、会いたいと思っている人に会えたりなど、割と満足のいく結果が出せていたんですね。

でもいずれ、そういったことができなくなる前に、本を出すという目標はずっとありました。新年のSNSでも宣言して、そうしたら目標通りに本が出せた。しかもヒット作になったというおまけまで付いてきたのは、本当に運がよかったと思います。

周りからも、ここまで上手くいくなんて、めったにないんだからな! と釘を刺されているので、たぶん、どこかで痛い目を見るのでしょう(笑)


二作目は急に決まったので大変だった

二作目の『もし文豪たちがカップ焼きそばの 作り方を書いたら 青のりMAX』も非常に素晴らしい本ですよね。苦労話などあれば教えてください。

菊池:一作目は6月に発売、二作目は12月と、二冊目までの期間が全くなかったのは苦労しました。

神田:SNSなどでも愚痴ってますが、というかSNSで愚痴ることが多いのですが(笑)、それこそ『もしそば』がヒットするなんて、寝耳に水だったので全くストックを用意していませんでした。二冊一緒に購入してくれる読者もいるので、質を落とさず良い本となるよう、努力が必要でした。


でも苦労した分、2冊目も売れ行き好調ですよね。お金の面以外で、ヒットしてよかったことって何かありますか?

菊池:色々な人に取材いただいたり、本を紹介してもらった、というのが貴重な体験でしたね。石田純一さんや、高橋みなみさん、声優の上坂すみれさん、誰もが知っている著名人と実際にお会いできたのは、本のおかげです。

神田:仕事の幅も増えましたね。具体的に、文体模写で執筆してほしいといった仕事の依頼も来るようになりましたし、そう言った意味では本を書いたことで、印税とは別の収入にもつながったと思います。でも一番は、アレですね。大学のゼミのやつらの鼻を明かしてやったことです。


どんな大学時代だったんですか(笑)

神田:ずっと下を向いて生きていましたね。シューゲイザーですよ。かっこよく言うと。聴いていた音楽は初期エレカシですが。あんまり記憶もないのですが、僕のいた英米法の某ゼミは、わりと、うぇーいな高等部あがりのちゃらい連中が多いゼミで、毎回ディベートで授業するんですよ。これが苦痛で苦痛で。教授もアメリカナイズされた人で、授業はエンタテインメントだとか言って、新自由主義の権化みたいな感じで、受け付けなかったですね。

ディベートでも、僕は、どちらとも言えないとか、相手の意見に同意することもある。というかそれが日本人の美徳でもあると思っているのですが、一瞬で、神田はアホ認定されて。思い出しただけで腹が立ってきました。

神田さん……。大学にかなりの怨恨があるのですね。

神田:まあ、でも、今になって思うのは学生時代の人気とか、良い企業に内定したとか、まったく信用ならない。先のことなんて何にもわからないってことですね。 今の価値基準で勝ったとか言ってるやつはおめでたいなと当時の僕が思っていたかどうかはわからないですけど、そんなもの、幻想です。


ゼミの同級生で神田さんを発見した人もいるかもしれないですね。ちなみに菊池さんは、ヒットして達成感があったり、新たに目標としていることってあったりしますか?

菊池:自分は高い目標として、「文字をもう一段階アップデートすること」を目指しています。小説もコラムも、文頭から最後まで読んで想像して、初めて理解できるものですよね。でも、パッと本を開いたら日本語が頭の中に流れ込んでくるようなものがあったらとても便利だと思っていて。

夢枕獏さんに『タイポグラフィクション カエルの死』という本があるのですが、もっと文章を、文字を分かりやすくして、エキサイティングな感じなものにしたいというのが目標です。


壮大ですね。

菊池:ある意味、日本語をアップデートするものだと思います。「中動態 ※1」のような日常的な日本語とは違う形式のものを作らなくちゃいけないのかもしれません。小説は好きだけれども、読まなければいけない。読まないですむものというのがあれば、もっと人は色々感じられると思います。まあ、でもそれはとても時間がかかると思っています。じっくりと取り組んでいくつもりです。人生100年ですし。

※受動態・能動態と異なる動詞の使い方

二人の作家の次なる目標とは

お二人は、作家としてのキャリアをこれからも続けていくのですか?

菊池:あまり肩書きにはこだわっていませんね。自分はヒット作を作っても、会社員を続けていくと思います。


菊池さんは、IT企業で会社員をされていると伺いましたが、その理由はどこにあるのでしょうか。

菊池:企業でやれることと、個人でやれることはまったく違います。今は技術革新で個人がだいぶエンパワーメントされていますが、例えば個人で自動運転車を作ることはできません。いつかはできるのかもしれませんが、要するにそういうことです。 あと単純に楽しいっていうのはありますよ。

まぁ、不労所得が入ったら変わるかもしれませんね。例えば、僕のピンバッチを作ったらたくさん売れて、それだけで年間1000万円。なにもしないでもお金が入ってくる、とかだったら。


さすがにそれは無理かなあ……。

菊池:僕はソニーのウォークマンを作った話とかが好きなんですよ。会社というカルチャーが単純に好きなんです。いろんな人が集まって1つのものを作っていくというのが。別に会社員という肩書きにこだわっているわけじゃありませんが、まぁ、楽しいので。人生100年ありますし。

神田:肩書きは、色々あってシティ・ボーイやベビーシッター、ライター、先日作品を作ったのもあって、映像作家など。なので、自分も、作家業じゃなければ嫌だ、というこだわりはないです。でも、単著を出してみたいという気持ちはありますね。

『もしそば』がふざけた系なので、次は真面目なノンフィクションのルポをやりたい。で、真面目系で飽きたら、またふざけた系をやると。雑誌のライターも継続しつつ、本もメインとして、二足のわらじを履いていくのが目標です。


読者は『もしそば』第三弾も読者的には期待していると思いますが、構想ありますか?

神田:二作で、200人近くの文体模写をやったので、第三弾は勘弁してくれと言っています。残念ながら。もし、次やるとしたら、焼きそばは作ってないと思います。菊池君はどう?

菊池:やるなら2年後くらいですかねえ。

神田:いやいや無理。30年後ぐらい。その頃には石野卓球さんも忘れてくれているはず(笑)。



神田桂一
自称・最後のマガジンライター、ベビーシッター。『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・菊池良との共著)が10万部超えのベストセラーに。趣味は自動記述と瞑想。
Twitter:@MacBookAirbot

菊池良
1987年生まれ。ライター、詩人。2009年に「二代目水嶋ヒロ」を襲名。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)、『世界一即戦力な男』がある。
Twitter:@kossetsu


聞き手:佐藤大介
編集プロダクションWordStrike代表。WEB・書籍・雑誌、マルチなメディアでの執筆編集業を生業にする。1986年、東京生まれ。2010年に、株式会社NTTDATAに入社。2015年独立。テクノロジー・カルチャー・ビジネスの3分野で執筆中。

撮影:山口真由子