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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

累計15万部のベストセラー作家が語る、印税のリアルな使い道

【神田桂一/菊池良 インタビュー前編】

佐藤大介 2018年3月29日 07:00
「もし村上春樹がインスタント焼きそばを作ったら?」。2016年5月にライターの菊池良さんがTwitterに投稿したツイートは、およそ3万6000のいいねを獲得し、大きなバズを生み出した。その1年後に誕生したのが、『POPEYE』『Quick Japan』などのカルチャー誌で活躍しているフリーライター神田桂一さんとの共著で出版した『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』。本書はたちまちベストセラーになり、このたび、第二弾が発売された。
さて、多くの人が巷に並ぶベストセラーを見る際に気になるのは「この人って、印税いくらもらっているんだろう? その使い道はなに?」というお金についての疑問。シリーズ累計15万部のベストセラー作家に、普段は聞けない印税の話を伺った。

印税の仕組みってシンプルだけど面白い

ベストセラーとなった『もしそば』ですが、「印税」の仕組みや使い方について、とても気になる人は多いと思います。まず、一般的に言われる印税とはどのようなものなのでしょう。

写真左:神田桂一 写真右:菊池良

菊池良氏(以下 菊池):分かりやすくいうと、著者が売り上げの何%かを報酬として得るシステムが印税です。たとえば、印税を10%に設定した場合、定価1,000円で1万部発行すると、100万円が印税として振り込まれます。

印刷したぶんだけ振り込まれるという形式なので、重版※して増刷がかかればその分だけ上乗せされていくという仕組みです。というのを踏まえると、今回は累計で15万部なので、計算してみるとわかってしまいますね。

※出版社が一度発行した本を、再度印刷して販売すること


なるほど。印税の割合はどのように決まるものなんですか?

神田桂一氏(以下、神田):基本的には、出版社との話し合いで決まる場合が多いです。今回の本の場合は、文章は僕と菊地くんが半分ずつ書いて、という作業分担が決まってたので、外部編集で入っていただいた石黒謙吾さんのパーセンテージをとった残りを半分ずつわりました。


「印税を分ける」ことへの抵抗はありませんでしたか。売れても取り分が減ってしまいますよね。

神田:『もしそば』については、1人だけでは作りきれなかった本だと思います。編集者として手綱を引いてくれた石黒さんも含めて、3人でなんとか走り切ったという作品なので。


菊池さんは『世界一即戦力な男』という本も出版されていますよね。

菊池:前作は僕個人の単著だったので、もちろん印税のパーセンテージは今回よりも高かったですね。でも、『もしそば』は神田さんも言ったように1人では絶対にできない企画ですし、そもそも神田さんが持ちかけてきた企画なので。


そのお金はどのようにして手元まで届くのでしょうか。

神田:シンプルなんですけど、銀行振込です。基本的には発行部数で決まるので、まず発行部数に応じたお金が振り込まれます。その後、増刷がかかれば、翌月には銀行口座に振り込まれていくというフローになっていますね。100万単位でバーン!っと。

電子書籍の方は、現物がないので増刷という概念がなく、売れたら売れた分だけ、という形で、振り込まれます。もちろん紙の本よりパーセンテージは低いのですが。でも、あくまでもこれは一般論で、宝島社は電子書籍をやっていなので、僕らのふところには1円も入っていません。

菊池:そう、『もしそば』は電子書籍を出していないので、100%が紙です。なので、この本は書店員さんに売ってもらった本ということになります。


最初からベストセラーになるなんて誰にもわからない

出版したばかりのタイミングでは、ここまで売れるという予感はありましたか?

神田:全くありませんでした。自分は書籍を作るのがはじめてだったので、もう、完成しただけで満足感がありましたね。本を出せるだけで嬉しい、作っただけで終わったという気持ちでした。

菊池:同じくヒットするとまでは思っていませんでしたね。本屋さんに並んだあとは、サブカル棚に置かれるのかな、ぐらいにしか思っていませんでした。もちろん売れればいいなとは考えていましたが、いきなり売れ筋に入ったのはびっくりしましたね。


ベストセラーになると売れてきている実感というのは、やはりあるのでしょうか? それともあまり感じませんでしたか?

神田:実のところ、そうでもありませんでした。もともと週刊誌の記者をやっていたというのもあったので、記事が大きくとりあげられるということにも、ある程度慣れていましたから。
しかも、編集の石黒さんと菊地くんと、3人で分割することも分かっていたので、ある意味で、冷静にいられたのだと思います。


意外なところにあった、売れてきたという実感

実際に「売れた」という実感はどのタイミングで感じましたか?

神田:うーん……色々ありますね。よく言われることですが、知らない人から突然電話がかかってきたり、出版社からいきなり連絡が来て「文庫化しませんか? 」という依頼が来たりしました。あとは、母親がミーハーなので喜んでくれました。

彼女は大阪のオバちゃんなんですけど、本屋で『もしそば』を立ち読みしているお客さんに「あなたが立ち読みしている本、息子が書いた本なのよ」と言おうか悩んだみたいです。さすがに声はかけなかったみたいですが、マジでやめてくれって感じでした(笑)。

菊池:僕自身は、やっぱりあまり大きな変化はなくって。というか、あまり僕が書いたって伝わっていないのかもしれない。「俺が本を書いたの知っているでしょ」ってスタンスでいたら恥をかきますね。まあ、でもそれぐらいでいいと思っています。あと僕の周りには、水野敬也さん(『夢をかなえるゾウ』の著者)や長沼直樹(水野敬也との共著で『人生はニャンとかなる!』を出版)など200万部近く売る著者が多いので、あまり大きな数字に驚かないというのもあるかもしれません。


意外な人からの反響などはありましたか。

神田:僕の名刺って、近所のハンコ屋さんみたいなところで作ってもらっているんですが、その受付のオバちゃんと仲がいいんですよね。『もしそば』を出した後に、名刺を頼みに行ったらオバちゃんの方から「神田くん! 本出したでしょ!」と言われたのが、一番驚きました。こんな人も知ってくれているんだっていうのは、単純に嬉しいですよね。別に自分から言ったわけでもないのに。

菊池:親に何も言っていなかったんですけど、この前、実家の近所のバーベキューみたいなのに行ったら、みんな知っていましたね。情報社会(?)ですね。


印税の使い道は、2人とも◯◯に!

使い道はどうしました? パーッと使うとか堅実に貯蓄するとかあると思うんですけど。

菊池:まだ8割ぐらい残っています。本を買うぐらいしか使わないので。大きな使い道としては、イギリスやアジアに旅行で行きました。ファーストクラスに乗るでもなく、スイートに宿泊するでもなく、安い飛行機で行って、宿はAirbnb。あるアーティストさんが、夢がない人はお金を貯めろと言っていたので、それに倣っています。

神田:自分も旅行ですね。ヨーロッパ旅行や韓国に行きました。あとは、6年前に高城剛さんに言われたアドバイスを実践できました。「スペクテイター」という雑誌で、高城さんに取材させてもらったとき、ちょうど仕事を辞めたタイミングで、フリーランスのライターとしてお話を伺ったところ、「神田くんは早く引っ越さないとダメだよ」と檄を飛ばしてもらいまして、そのときはトルコのカッパドキアに引っ越せ、そして弁当屋をやれと。さすがにそれは無理でしたが、やっと引っ越して達成できた。


なんでカッパドキア(笑)。でも6年越しの夢ですね。ちなみに、どんな物件に?

神田:自炊しようと思っているんで、ちゃんとしたキッチンにある物件に引っ越しました。家賃はかなり上がりましたね。場所は高円寺から高円寺だったため、最寄駅も変わってないのですが、それでも前より良い部屋に住んだことで、暮らしは豊かになったかもしれません。

菊池:いいなぁ。僕も高城さんにアドバイスされたい。いつかヨーロッパを旅しているときに、偶然、高城さんに出会いたいですね。それが僕の夢です。



神田桂一
自称・最後のマガジンライター、ベビーシッター。『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・菊池良との共著)が10万部超えのベストセラーに。趣味は自動記述と瞑想。
Twitter:@MacBookAirbot

菊池良
1987年生まれ。ライター、詩人。2009年に「二代目水嶋ヒロ」を襲名。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)、『世界一即戦力な男』がある。
Twitter:@kossetsu


聞き手:佐藤大介
編集プロダクションWordStrike代表。WEB・書籍・雑誌、マルチなメディアでの執筆編集業を生業にする。1986年、東京生まれ。2010年に、株式会社NTTDATAに入社。2015年独立。テクノロジー・カルチャー・ビジネスの3分野で執筆中。

撮影:山口真由子