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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「若者は、今の経済はどこかおかしいと感じている」

【「おカネの教室」出版記念! 高井浩章 特別インタビュー後編】

「しごとのわ」編集部 2018年3月23日 07:00
「しごとのわ」の新刊「おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密」の作者、高井浩章さんは3人の娘を持つ現役の新聞記者。出版を記念してインタビューを実施しました。前編では、高井さんの考えるお金との付き合い方の基礎を聞きました。後編では、格差問題やタックスヘイブンなど今の市場経済が抱える課題や、仮想通貨の登場などで変わりつつある現代人の「おカネ」観について伺います。最後には、新刊「おカネの教室」の読者へのメッセージもいただきました。

「経済ってこんなに大切で、こんなに面白いのか、と」

「おカネの教室」という作品には、「お金は怖い」と「お金は面白い」という思いが両方含まれているようです。高井さんが考えるお金とは、どういうものでしょうか。

高井浩章氏(以下、高井):「お金は怖い」という話を前回たくさんしたので、「お金は面白い」「お金は大事」という方を話しましょうか。

私は1995年に記者になったときに株式市場と資産運用業界を担当したのですが、それまで恥ずかしながら株式や経済の仕組みをほとんど知らなかったんです。自営業の家の子供の常で世間知のようなものは人並み以上にありましたけど、経済理論とかお金と経済全体の関係とか、何も知らなかった。「まぁ、なんとなく、こうなんだろうな」という程度の認識しかなかったんですね。

高井:新聞記者というのは幸せな仕事で、その業界のトップ、第一線の人たちに直接、話が聞ける。自分の子供みたいな奴がくると、「お前、何もわかってないな」といろいろ教えてくれる人がいるわけです。社内にも経験も見識も豊富な先輩記者がいて、刺激をたくさんもらえる。

そうしたものを私なりに消化して、1年半くらいたったとき、資本市場に参加する、株式投資でお金がお金を生むというサイクルに参加するのは、自分にも世の中にもメリットがある行為だし、これを誰かがやらないと世の中が回らないじゃないかと、ストンと腹に落ちるような時が来たんですね。お金を回さないと日本という国全体が元気にならないのに、日本人はずっとそれを避けてきたんだ、ということにも思い至った。ぼんやりと全体像がわかってきたんです。

そうした目で見ると、それを何とかしようとしている人がたくさんいるのにも気づいた。賛否はありますが「ビックバン」という金融改革がおこなわれたり、さわかみ投信という、旧弊に縛られない独立系資産運用会社が生まれたり、資本効率を重視する経営者が出てきたり。そうした「お金をうまく活かそう」という流れと、バブル期の負の遺産の不良債権問題が綱引きをしているような時代でした。
いったん「軸」ができてみると、日々の経済ニュースのつながりやインパクトも実感できるようになって、「経済やお金、マーケットというものは、こんなに大切で、しかも、こんなに面白いのか」と、どんどんのめり込みました。


お金や投資のことは大事だな、とは思っても、なかなか踏み出せない人が多いですよね。

高井:「世の中を変えよう」という人たちが増える一方で、20年前のそのころは、株式投資なんてのは金持ちの道楽みたいなもので、庶民が欲をかいて手を出せば最後は損するんだ、というイメージも強かった。まだまだ、そういう時代でした。バブルの反動もあったでしょうし、根っこの部分で、お金そのものや投資を汚いとか胡散臭いと見る風潮は強かった。

その後、株式相場が長期で上昇する時期が何度かあったことや、日本人の意識が少しずつ変わって、投資家の裾野は地道に広がってはいます。でも、日本人全体でみたら、自分で理解して投資に取り組もうという人は少数派でしょう。「ちゃんと考えたことすらない」という人が多いと思う。なんでかと言えば、めんどくさいんですよね、単純に。株式投資やそれが経済の中で果たす役割なんて、入門書を読めば分かる程度のことです。でも、まぁ読まないですよね。我が娘がそんな本を読むかと考えても、絶対に読まない。ほとんどの人が、知らないまま大人になるわけです。

で、30、40歳になって、貯蓄と投資のことも考えてみるか、と意識が向かった時に初めに手に取るのは、たいていノウハウ本なんです。でもノウハウから入ると、土台ができていないので、自分が何をやっているかよくわからない状態になる。手っ取り早くお金を増やそうとして、運が悪ければ、いきなり痛い目にあう。

やっぱり、そういう行為にどう自分が携わっていくべきかという、軸を持った方がいいんです。脇道にそれたり、迷子になったりしないためには。

とはいえ、「日本人の金融リテラシーが低いから俺が変えてやる」なんて大胆な発想からこの本を書いたわけじゃありませんよ(笑)。「自分の娘には大人になる前にこれくらいは知っておいてもらいたい」と思ったことを書いただけです。


「市場経済への信頼が揺らいでいる」

本には「お金には信用や信頼が欠かせない」と言う部分がありますよね。一方で、格差問題やオフショアの部分を読むと、「いや、全然信用できなくないか…?」と思ってしまいます(笑)。

高井:お金が持つプラスとマイナスの側面は、表裏一体で切り離せない。それはお金が人間社会を写す鏡でもあるからですよね。お金というものが成立するには「信用」が不可欠というのは間違いない。これは人間の本性でもある。お互いを信頼し合うことで、より多くの価値を生んで支え合う。

でもそれは、すごく簡単に悪用できる仕組みでもある。生き物としての人類は、お金の扱いに慣れていないからです。この弱点も人間の本性です。金融の知識に長けていて、その弱点をついてお金を悪用する連中というのはいつの時代も必ずいる。そういう輩を作中で「ダニ」と書いたわけです。

高井:このダニ軍団を何とかしないと資本主義というシステムがおかしくなっちゃうよ、という議論はリーマンショックのちょっと前から行われていました。たとえばインドの中央銀行総裁だったラグラム・ラジャンというエコノミストが共著者になっている『Saving Capitalism from the Capitalists(資本主義者から資本主義を守れ)』という本は金融危機の数年前に出ています。皮肉の利いたタイトルで、健全な資本市場を軸としたCapitalismを、それを悪用しようしているCapitalistsから守れ、と。そういった問題意識の研究や著作は、リーマンショック後にはすごく増えました。資本主義、市場経済への信頼が揺らいでいるんですね。


正直、株式市場や経済って、実感を持ってわかりにくいところがあって。資本主義が危ない、という話もなかなか自分ごととして捉えられないように思います。

高井:株価が上がるのは、基本的には「景気や企業業績が良くなっている」ということですよね。企業がより多くの価値を生んでいるから株価が上がる。市場経済においては、企業が儲かるのは本来、世の中が豊かになるのとニアリーイコールのはずなんです。経済の主役は民間企業であり、株式を上場しているような企業は大きな影響力を持っていますから。

でも、今、問題になっているのは、企業の利益が増えて世の中が豊かになっているはずなのに、その実感の裾野が狭いことなんです。なぜか。単純化すると、分配がゆがんでいるからです。会社がもうかっても従業員の給料はなかなか上がらなかったり、大もうけしている企業がちゃんと納税をしなかったり、という問題がある。
納税という面では日本はマシな方だと思いますが、欧米大企業の節税はすさまじい。みんなが知っている超有名企業でも、すごく複雑な節税スキームをつくって少額の税金しか払っていない会社はいっぱいある。問題は、それは違法行為じゃないってことです。むしろ節税をちゃんとやらないと株主に叱られるし、バカ正直に税金払ってたらライバルに買収や研究開発で遅れをとってしまう。節税して資本を手元にキープする企業と比べて、複利効果でものすごい蓄積の差が出てしまうから。誰もこのゲームから降りられなくなっている。

みんなが一斉に「税金払いましょう」となったらいいけど、そんなことないですもんね。

高井:それは企業単位でもそうだし、国単位でもそうです。格差問題をどうにかしなきゃいけない、分配システムを修復しなきゃいけない、というのは薄々みんな気づいている。でも、現実に起きているのは、国同士の法人税の引き下げ合戦です。たとえば米国。トランプ氏は反エリート感情や格差への憎悪みたいなものを背負って大統領になったはずなんです。でも、彼の経済政策は富裕層への減税とか、格差を助長するものばかりです。解決策を示すどころか、今ある問題をよりいっそう膨らまそうとしている。

トランプ政権を例に挙げましたけど、問題の根はもっと深い。米国では昔から多くの会社が登記上の本社をデラウェア州に置いてます。事情を知らない人には、なんでデラウェアなんだよ、そもそもソレどこだよ、って感じですよね。なぜデラウェアかと言えば、税率が低くて、企業への規制も極めて緩いからです。米国内のタックスヘイブン、租税回避地なんですね。会計上の利益を最大化するには、本社をそこに置くのが合理的になってしまっている。
欧州にも同じような仕組みはあります。EU(欧州連合)の中なら、アイルランドがそういう存在です。「そんな西の外れより、もっと真ん中のほうに会社や工場を作ればいいのに」と素朴に思いますよね。でも、税率引き下げ競争の結果、アイルランドの存在感が不釣り合いに大きくなってしまっている。イギリスも旧植民地や王室直轄領を結んだタックスヘイブンのネットワークを持っている。

こうした歪みや格差を「なんとかしなきゃ」というのは、ずっと言われていて、ちょっとずつ直そうとはしている。でも、問題の大きさと対策が全然つり合わないんですね。だから、今、世界中で市場経済やグローバリズムに不信感を持つ人が増えているのだと思います。


「ビットコインは大きな問題提起をしてくれた」

そういう中で、今、日本でも「お金を改めて見直す」ということが注目されています。特にビットコインの騒動があって以降、その傾向が強いですね。いまの、お金を取り巻く環境をどう見られていますか。

高井:ビットコインへの関心を一気に高めたのは「欲」ですよね。値上がりするのを見て「買っとけばよかった」と後悔し、「今からでも遅くないかも」と思うわけです(笑)。これは過去のいろんなバブルと同じ心理で目新しいことじゃない。

ちょっと違うのは、仮想通貨に関心を持ってみると、「あれ、こんなのありなの?」っていう素朴な疑問が湧いてくるところです。一部だけど仮想通貨で支払いが可能なサービスやお店があるし、「これって、一応、『お金』なんだ」という素朴な驚きと戸惑いがある。誰もがスマートフォンでITサービスを享受する時代に、ITを使った『お金』が生まれた。

そこからもう少し深く考えると、これって普通のお金とどう違うんだろう、という疑問が浮かんでくる。支持者は「ビットコインは無国籍通貨」だと言いますよね。国家がコントロールする従来の通貨とは違う、と。これはコスモポリタン志向の人には魅力的に響くわけです。その裏では、世界中で進んでいる政府に対する信頼感の低下がある。リーマンショックや、あるいはその前から進んでいた格差問題といった市場経済の制度疲労で、だんだんと今の経済はおかしい、大半の人間にとってメリットがない仕組みになっているんじゃないのかという考えが広がっていた。そこにカウンターカルチャーのようにビットコインが浸透した。
金融危機後に各国の中央銀行がとった異例の金融緩和も、「今の貨幣制度って、もうもたないんじゃないか」という不安を後押ししたのでしょう。昔ならそういう時はゴールド、「金(きん)」が選択肢として買われたんですけど、ビットコインの方が目新しくて格好いいし、ものすごい勢いで急騰したので、そっちにお金が流れた。

経緯はともあれ、普段は考えない「お金って何だろう」という疑問に向き合うきっかけができたことは、とても良いことだと思います。ビットコインが大きな問題提起をしてくれた。「お金とは何か」というのは、考えれば考えるほどわからなくなるテーマなので、簡単には答えが出ない。だからこそ、考えること自体に意味があるように思います。


今、高井さんがいらっしゃるイギリスは、日本と比べてお金や経済に対する考え方や距離感みたいなものに違いはありますか。

高井:今の資本主義や市場経済のモデルを作ったのはアングロサクソンで、株式会社を中心に富を再生産するシステムの元祖はイギリスです。経済については大人の国というか、お金が汚いといった感覚はないですね。外交でも、もうかることなら、多少、評判やプライドが汚れようがなりふり構わず国益を追求するところがある。

ただ、この国でも従来のシステムはうまく回らなくなっています。イギリスは先進国の中ではアメリカと並んで格差がすごく大きい。アングロサクソンモデルの影響にくわえて、元々、階級社会で貴族と労働者階級は別世界に住んでいるような国ですから。中流階級にとっては、若いうちにローンを組んで家を買って、リタイアする頃にはそれが一財産になって老後は安泰、みたいなモデルがあったんですが、今の世代には不動産が高くなりすぎて手が出ない。買うどころか、家賃を払うのも厳しい。だから、若い世代の感覚が違ってきているんですね。資本主義の母国とも言えるこの国で「資本主義って、もうダメだろ」と考える人が増えている

イギリスは2大政党制で、いま政権を握っている保守党は伝統的に市場経済重視ですが、もう一方の労働党が最近復活してきた。いまの党首のコービン氏は古参の社会主義者なんですが、20、30代の人たち中心に彼を支持する草の根組織が急成長して影響力を増している。若者の社会主義的な傾向は米国やフランスにも共通する、おもしろい現象です。冷戦期を知る我々の世代からすると、「それ、もう派手に失敗した路線なんですけど」と思うわけですが(笑)。


日本でも同じようなことが起きますかね。

高井:日本経済はバブル崩壊後の最悪期は抜けてますし、経済統計上は景気も良くなっている。実際、新卒採用はものすごい売り手市場になっている。イギリスや南欧の若者よりは、少なくとも短期的にみれば置かれている状況は悪くないかもしれない。でも、若い人を見ていると、もっと深いところで私たちや一つ上の世代なんかとは違う、意識の変化を感じますね。ワークライフバランス重視というか、必死で仕事するよりほかに楽しいことあるんじゃないの、という気持ちが強そう。一方で起業して一発当ててやるぜという人も昔より多くて、二極化してるような印象です。いずれにしても、怒りをエネルギーに社会を変えてやろう、というパワーみたいなものは感じないかな。欧米の若者は、デモなんかへの参加も盛んで、一部の連中は火炎瓶投げたり、車を焼き打ちしたり、良い意味でも悪い意味でもパワフルです(笑)

それでも、今の市場経済や資本主義に対して、「これで大丈夫なの?」と思う気持ちってのは日本の若者にもあって、やっぱりその根底には格差問題、富の分配の問題があると思うんです。今の状態って、どこかおかしいんじゃないか、と思う人が増えている。そういう意味では、日本とイギリス、あるいは他の欧米諸国には共通部分がある。


最後に、読者の皆さんに一言、どうぞ。

高井:いろいろと小難しいことを言いましたが、基本を押さえるという意味では、経済や金融ってそんなに難しい話じゃありません。「おカネの教室」も、「ちゃんと読めば誰でもわかる」ように書いたつもりです。なにしろ、元が自分の娘向けの読み物ですから。数式がない数学の本みたいに、経済用語はできるだけ避けて書きました。お金なんて、誰もが日々、使っているわけですから、フツーの言葉でフツーに話せば、「言われてみればそうだよな」と、分かるはずなんです。

そういう敷居の低い本ですのでどなたにでも気軽に手にとっていただきたいですし、何より、私自身、カイシュウ先生とサッチョウさんとビャッコさんという、7年間付き合った3人の登場人物たちの住む世界をとても気に入っています。経済や金融の入門書としてだけじゃなく、笑ったり怒ったり悩んだりする彼らの物語を多くの人に楽しんでもらいたいですね。


高井浩章
1972年、愛知県出身。経済記者・デスクとして20年超の経験をもつ。専門分野は、株式、債券などのマーケットや資産運用ビジネス、国際ニュースなど。三姉妹の父親で、初めての単著となる本書は、娘に向けて7年にわたり家庭内で連載していた小説を改稿したもの。趣味はレゴブロックとスリークッション(ビリヤードの一種)。

聞き手・写真:ミシマ社 新居
「しごとのわ」レーベルでは、本書のほか、『小さな会社でぼくは育つ』『社長の「まわり」の仕事術』などの編集を担当。

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しごとのわレーベルとは
仕事について考えるとき、成果や時間、お金を意識することがあっても、輪を意識することは少ないのではないでしょうか。小さい輪でも大きな輪でも構いません。
会社や家庭、地域、過去と未来、わたしとあなた。切り離さなければ、輪はできます。仕事を考えるときそんな輪を大切にしたいという想いから、ミシマ社とインプレスの2つの出版社で起ち上げたレーベルです。
これまで読み物を中心に『魔法をかける編集』『社長の「まわり」の仕事術』『「かっこいい」の鍛え方 女子プロレスラー里村の報われない22年の日々』など、8冊の本を出版。「おカネの教室」が9冊目。

株式会社ミシマ社について
http://mishimasha.com/
2006年10月に東京・自由が丘に三島邦弘氏が創業したほがらかな出版社。今年で創業11周年を迎え、現在は9名のメンバーとともに「原点回帰」を標榜した出版活動を行っています。一冊入魂の出版活動に全国の書店員に支持者が多く、京都市内にもオフィス兼「ミシマ社の本屋さん」(毎週金曜日のみ開店)を運営しています。
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