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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「若いうちは悩みながら決めればいい 」 暗黒時代を経験したトミヤマユキコが考える、いい加減に生きることの大切さ

【トミヤマユキコ インタビュー前編】

羽佐田瑶子 2018年3月15日 07:00
大学時代、一気飲みばかりさせられる飲み会に参加したり、アルバイト三昧で遊べなかったり、高い教科書を授業ごとに買わされたり、お金との苦い思い出がみなさんひとつはあると思います。そんな苦い体験から学んだことをまとめた『大学1年生の歩き方』の著者のひとりであり、早稲田大学で大人女子マンガ研究をされているトミヤマユキコさんにインタビュー。まずは研究対象でもある「働く」について、トミヤマさんの考えをうかがいました。

27歳でニートに? パチンコとゲオ三昧の生活

現在は早稲田大学の助教、またライターとしてご活躍されていますが、ニートのような生活をされていた時期もあったと伺いました。

トミヤマユキコ氏(以下、トミヤマ):そうなんですよ〜(笑)。大学院生時代があまりにも長すぎて、いわゆる一般的な「仕事」をほとんどしないまま、ニートみたいになってしまって。

お恥ずかしい話ですが、27歳くらいで研究をする気がゼロになり、とりあえず籍は置いていたものの、大学院から逃亡したも同然みたいになってしまいました。修士課程まで江戸川乱歩の研究を真面目にやっていた人が、博士課程に進む頃には、開店に合わせてパチンコ屋に並び、午前一発勝負をしてお昼ごはんを食べてまた午後も勝負をし、勝っても負けてもゲオで映画を1本借りて朝4時くらいまで起きている、という……今思えばひどい生活をしていました(笑)。

食いぶちはパチンコか、編集プロダクションのアルバイトでつながった図書新聞の書評欄をときどき書くことか、奨学金か……。


それは大変な生活ですね……。

トミヤマ:フラフラしているのは楽しかったんですけど、お金がないのがきつかったですね。しかも奨学金を借りていたので、タイムリミットがあったんですよ。大学院博士課程の3年目までしか借りられないし、返済もある。

遅まきながら「ちゃんと仕事をしないとまずいぞ」と気付きはじめて。でも正規の就活ルートからはとっくに外れているし、実家は金持ちじゃないのであんまり頼れないし、どうしようかなと悩んでいたときに出会ったのが大人女子マンガでした。大人女子マンガって表向きは恋愛要素が強いけど、労働についても触れているんです。働く女子がたくさん出てくるので、いろんな労働観を知ることができると思いました。

私、あまり現実の女友達に励まされなかったんですよね(笑)。誰も朝からパチンコなんてやってないし、真面目でちゃんとしてるし、似たような悩みを抱えている人がひとりもいない。マンガの中の破天荒キャラの方が、話が合うなと思いました。


特に印象的だったマンガやキャラクターは?

トミヤマ:『ハッピー・マニア』(祥伝社、安野モヨコ作)の主人公シゲカヨには一番元気をもらいました。非正規労働者なのにこんなに元気な人がいるんだと(笑)。「私にはLOVEがあるから!」と振り切れていて、私もどうにかなるかもしれないと思えました。

安野モヨコ先生は労働についてきちんと書かれているんですよね。就職氷河期に少数精鋭としてどうにか就職したはいものの、後輩たちのぬるさにイラついてるのが『働きマン』。それ対して、ほぼ同じ時期に明治大学を卒業したのにフリーターで恋愛ばっかりの『ハッピー・マニア』。すごい落差ですが、同世代の女子なんだと思って読むとおもしろい。

マンガって、恋愛に関しては妄想の粉砂をいくらでも物語にふりかけられるんでしょうけど、労働のことになると作者の考えがはっきり映し出されるのでおもしろいんですよね。そう気づいてから、少女マンガ研究に専攻を変えて、ライター業もきちんとやりはじめました。


今思い返すと、ほとんど働いていなかった時はどんなことを考えていましたか?

トミヤマ:ここまで人はだらしなくなれるんだ、と思ってました。当時住んでいたマンションって、大家が同じフロアに住む大叔母だったんですけど、週に一度床掃除に行くと5,000円もらえたんですよ。パチンコで負けっぱなしでも5,000円あれば1週間死なずに生きていけることがわかってしまって(笑)。健全な現実社会とは切り離されて、変な保護膜に包まれたまま、終わりなき日常が続いていく感じがありました。

でも、ニート時代に映画やマンガにたくさん出会えたことは今の仕事にもつながっていて、結果的によかったと思います。特にマンガは親から禁止されていて、成人してから本格的に読み始めたので、「なんだよ、おもしろエンタメのフリして、深いじゃん〜!(感涙)」とすごく新鮮に感じました。お金がなくて本当に辛かった。でも、ニートの私にもやさしいマンガのおかげで、ゆるやかなウツ状態から回復していきました。今は、マンガと奨学金と大叔母さんありがとう、と思います。


修士課程から専攻を変えて、ライター業にも本腰を入れて、そういう変化を受け入れて行動した結果が、いまのトミヤマさんをつくられていますよね。

トミヤマ:運もよかったとは思います。ニート真っ盛りの時に、ちょうど学内で助手の公募があり、ここでダメなら研究をすっぱりあきらめようと思いながら書類を出したら、「文芸ジャーナリズム論系」という、今いる学部で助手が決まり、学内学会で発表した少女マンガについての研究を面白がってもらえて、助教にもなれてラッキーです。


声を大にして言いたいのは、もっといい加減に生きようということ

現在は「女性の労働」を研究テーマにされ、「女性として働き、女性として生きるとはどういうことか」という命題を考えていると伺いました。いま、トミヤマさんとしてどう考えられていますか?

トミヤマ:女性の人生は選択肢が多すぎて、逆にどのようにも生きられるので、大変だなと思うことがあります。

同級生が私よりも先に社会に出ていたのでいろいろ教えてくれて、「あれ、なんかこの世の中はおかしいっぽいぞ」というのがわかったんですよ。バリキャリとして働きたいのに、男社会の壁にぶつかってしまったら、婚活をして専業主婦として扶養してもらうしかない、みたいな。それって保険があるとも言えるけど、本当はバリバリ働きたいのにそういう逃げ道しかないなら、悲しすぎる。

もちろん、無理はしなくてもいいのですが、長期的に見ると、どんな形でもいいから労働という形で社会と関わっていた方が精神衛生上いいと思います。ただ、早稲田の女子学生を見ていると、以前はキャリア志向が強かったのに、今は在学中に有望な男子学生を見つけて卒業即結婚でOKという子が増加傾向にある。

たぶんですけど、両親がバブル崩壊を知っているがゆえに「まじめにやっても報われるかどうかわからない」と思っているんですよね。自分が頑張っても頑張らなくても結果は一緒、だから余計なチャレンジはせずに、いちはやくいい旦那さんを見つけなさいと。恋愛のプロセスよりも経済的な結果が大事だと考えているんでしょう。


たくさんある選択肢をいろいろ迷うのではなくて、一択に絞ることがよしとされているなら、ちょっともったいないような……。

トミヤマ:そうなんですよ、人生最初から決めてかかるのはもったいない。人生はカラフルな方がいいですよ。バリキャリか専業主婦か、どちらかの道を選択できる人が「ちゃんとしている」と思われがちだけど、そうじゃないと思います。若いうちは時間も体力もあるんだから、こっちかな〜どうかな〜って悩みながら、決めればいい。「仕事もしたいし、恋もした〜い!」って言っていいんですよ。

学生の中には、いい成績、いい就職をすると、将来楽できるんだ、と言う子がいるんです。でもそんなことないですよね? 人生とんでもないことになってるエリートなんてごまんといますよ(笑)。苦労の前払いはできないです。人生、人としてその一瞬を生きるしかない。だから私はよく、授業より“人生”が大事なんだから、この授業より大事なことがあるならそっちに行かなきゃダメだと話しています。

彼女とケンカして謝りたくて早退したいなら、そう素直に言えるかどうかが大事。真面目に授業に出ていれば将来も安泰だ、なんて考えは間違っています。いい意味で、もっといい加減に生きればいいと思いますね。自分の人生にもっと素直であって欲しい。そういう子の方が、実は臨機応変でおもしろそうな人生を送っているんですよね。


いい加減に生きる中で、大切なことはなんでしょう?

トミヤマ:結局は「人として」どう生きるかですよね。相手を思いやることだったり、嘘をつかないことだったり、理不尽なことに疑問を持てたり、そういうことだと思いますね。こういうこと、授業でもよく話すんですけど、このおばちゃん説教くせえなって思われていると思います(笑)。


トミヤマさんが思う、カッコいい女性の働き方、男性の働き方はありますか。

トミヤマ:「後進のためになにができるか」を考えて、仕事をしている人はいつだってカッコいいですよね。あとはちゃんと叱れる人。ハラスメントなど問題があるいま、冷静に叱れる人ってすごく貴重です。あと、お酒の飲み方がスマートな人も好き(笑)。

なんでしょう……男女限らず「人として」生きている人はいいですよね。まだまだ世の中は男社会なので、男であることに固執している人や、肩書きに固執している人が多いですけど、そういう人には興味ないです。また、男社会を生き抜くべく、いわゆる「女をつかう」ような仕事の仕方を選ぶ人もいて、それもまた人生の知恵だとは思いますが、私が好きなのは、自分が女か男かなんて忘れて、相手にも忘れさせて、ただ人として働ける人。それってとてもカッコいいですよね。


トミヤマユキコ
79年生まれ。ライター、少女マンガ研究者(現・早稲田大学文化構造学部助教)。日本の文芸やサブカルチャーを専門とするライターだが、少女マンガに描かれた女の労働について論文を書く研究者としての一面も。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(清田隆之との共著、左右社)がある。

聞き手:羽佐田瑶子(はさだ・ようこ)

87年生まれ。映画会社、訪日外国人向け媒体を経て、現在はフリーランスのライター、編集者。女性アイドルや映画を中心に、マンガ、演劇、食、伝統工芸などのインタビュー・コラムを執筆。主な媒体はQuick Japan、She is、CINRA、映画パンフレット製作など。週3はアイドルの現場、少女マンガは年間600冊ほど、一番好きな方は岡崎京子さんです。

Twitter/Instagram:@yoko_hasada

撮影:ともまつりか