Owlly
これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

あなたのお値段、おいくらですか?

おカネの教室~僕らがおかしなクラブで学んだ秘密【1時間目 後編】

高井浩章 2018年3月7日 00:00
「この世には、おカネを手に入れる方法が6つあります」中学2年生になった僕は突然、奇妙なクラブに放り込まれた――謎の大男、大富豪の美少女、平凡な「僕」が、「お金と経済」を通して、世の中の仕組みを知る! 昨年Kindleで個人出版され、、累計1万DLを突破したお金の青春小説が最新のトピックも加えてパワーアップして書籍化!3月16日の発売を前に、特別連載をスタートします!

1時間目 そろばん勘定クラブへようこそ(後編)

 毎週月曜日のクラブの時間。中学2年生の僕こと、木戸隼人は人気のクラブにくじで落選。時代遅れも甚だしい「そろばんクラブ」に入ることに。外国人かハーフのような怪しいエモリ先生に「サッチョウさん」なんてあだ名をつけられて、学校でも色んな意味で有名な福島さんの3人で、クラブの1時間目は始まった。せっかく持ってきたお母さんのお古のそろばんは使わないという。「そろばんクラブ」ではない、「そろばん勘定クラブ」ってーー?


 「福島さん、そろばん勘定(かんじよう)、って言葉、ご存じですか」
 「損か得か、ちゃんと考えるという意味です」
 「パーフェクト!」
 おお。ネイティブみたいな発音だ。
 「そうです。損得、つまりお金の物差しで物事を見極める、ということですね」
 エモリ先生が手早く黒板の文言を書き換えた。


そろばん勘定クラブへようこそ!


 「このクラブのテーマはそろばん勘定です。残念ですが、それは出番がありません」
 年季の入ったそろばんが急に不憫に見えてきた。しかし、妙なことになってきたな。
 エモリ先生は「では、さっそく最初の問題です」と、黒板にこう書いた。


あなたのお値段、おいくらですか?


 「大事な自分の値段です。じっくり考えてください。制限時間は5分とします」
 展開が早すぎて、僕も福島さんも戸惑い気味だ。エモリ先生だけは涼しい顔で窓にもたれて校庭を見下ろしたり、空を見上げたりしている。
 それにしても、この問題、むちゃくちゃだ。先生だったら普通、人間の価値はお金なんかじゃ測れない、とか言うもんなんじゃないの?こんなこと、考えたこともないし。困ったな。僕はしばらくして、一つ、質問してみることにした。

 「あの、ヒントというか、ちょっと質問が。会社員の平均年収ってどれぐらいですか」
 「男性だと500万円ぐらいですかね」
 そんなもんなのか。ということは、月々40万円くらいだな。エモリ先生が時計に目をやって「はい、では、サッチョウさんからどうぞ」と促した。

 「えー、一応、1億円ぐらい、だと思います」

 「キリがよくていいですね。根拠を伺いましょう」
 「大学を出て40年ぐらい働くとして、年収500万円なら合計2億円です。生活費とかを半分ぐらい抜いて、まあ、1億円なら、いいかなって」
 「エクセレント!そういう計算を生涯賃金と言ったりします。経費を考慮したのが手堅くて良いですね。うん、順調なすべり出しです。では、次、ビャッコさん、どうぞ」

 は?

 福島さんも凍っている。
 「あの、今、なんて」
 「ああ、ビャッコさん。今、ワタクシが考えました。白虎(びゃっこ)隊は会津藩の名高い少年部隊です。薩長連合中心の新政府軍と戦い、飯盛山(いいもりやま)で自刃(じじん)して果てた、旧時代の花です

 いや、それはちょっと……。
 「……ビミョー……」

 そう、微妙、だよな。少年だし。死んでるし。それに、僕が敵みたいじゃないか。
 「嫌なら代案を出しましょう。文句だけ言うのはズルです」
 そう言われると、僕も福島さんも沈黙するしかない。


 「では決まり。ワタクシはカイシュウさん、でお願いします。勝海舟(かつかいしゅう)は江戸城の無血開城をまとめた幕閣(ばつかく)です。江戸の守りのカイシュウさん。オツでしょう」
 福島さんが諦めたように、「はい、カイシュウさん、ですね」と答えた。
 適応力高いな。「あの、カイシュウ先生、でもいいですか。なんか呼びにくいので」と僕。
 「お任せします。では、ビャッコさん、あらためて、ハウマッチ」
 福島さんが淡々とした声で「とりあえず、10億円ぐらいで」と答えると、エモリ先生改めカイシュウ先生が派手にのけぞった。

 「これは、ふっかけてきましたね!いや失礼。では、根拠をお聞かせください」
 「わたしが誘拐されたら、祖母がそれぐらいの身代金なら払うと思います」
 「ほう。あまり大きな声で言わないほうがいいですね。本気で狙うやつが出てきますよ」
 丸眼鏡の奥の目が、獲物を狙う鷹(たか)のように光った。冗談に聞こえない。

 「いや、実に興味深い。サッチョウさん、何かご意見はありますか」
 「10億円について、ですか」
 「1億と10億という、あまりと言えばあまりな差について、でもいいですよ」
 まともな先生が言うセリフじゃないよ。

 「僕が高給取りになればいいんでしょうけど、そんな先のことわからないので」
 「うん、実に現実的ですねえ。ビャッコさん、庶民にひと言どうぞ」
 「……10億円は自分のお金じゃないです。木戸くん、じゃなくてサッチョウさんの考え方なら、わたしの値段はもっと安いはずです」
 「気を遣わなくていいですよ。それに、お祖母さんのお金って言っても、一部はビャッコさんのお金みたいなものでしょう。そのうち相続するんだから」

 ここで福島さんが「そういうカイシュウさんの値段はいくらなんですか」と反撃した。
 「グッドクエスチョン。いくらぐらいだと思いますか。あ、こんなおっさん、タダでも御免って顔してますね、サッチョウさん。まあ、あえて言えば、人間に値段をつけるような愚劣な行為には与したくないですね」


 ちょっと待て。
 「今度はお前が言うなって顔してますね。大人なんて汚いもんですよ。それより、お二人の意見、大変面白いです。サッチョウさんは『かせぐ』という手段からアプローチした。ビャッコさんは誘拐犯が求める身代金、いわば犯罪者による『ぬすむ』という視点から考えた。誘拐をリアルに想像したことがある、お金持ちらしい発想です」
 福島さんがむっとしたオーラを発した。カイシュウ先生は気にするそぶりもない。
 「ビャッコさんのほうにはもう一つ、隠れた視点がありました。相続、つまり遺産を『もらう』です。さて、ここまでに我々はお金を手に入れる方法を3つ発見しました」

かせぐ

ぬすむ

もらう

 カイシュウ先生が腕時計を見た。異様に時計が小さく見える。
 「そろそろ宿題を出して終わりましょう」

この3つ以外に、お金を手に入れる方法を3つ挙げなさい

 チャイムが鳴り、カイシュウ先生はパンパンッと手をはたくと「では来週の月曜日に」と教室から出ていった。福島さんも「じゃ、また来週」と行ってしまった。
 残された僕は、一人で黒板を丹念に消した。


Kindle版で50件以上のレビューで平均★4.6を獲得した人気電子書籍、待望の書籍化!