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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「ぼくたちは忙しくなるために課金をする」 #わたしのサブスク 柳下恭平

今井雄紀(株式会社ツドイ) 2018年3月6日 12:00
Amazonプライム、日経新聞、Netflix、Apple Music……わたしたちの日常に欠かせないものとなりつつある、サブスクリプション(定額課金)サービス。なにをサブスクしているかでその人がなににお金を払い、なにに時間を使っているか、その姿勢が見えてくる。連載第1回目は、書籍の間違いを見つける「校閲者」であり、東京は神楽坂にある街の書店「かもめブックス」の店主でもある柳下恭平さんにお話を伺いました。

取材陣がやってきたのは、東京メトロ東西線の神楽坂駅から徒歩1分、坂のいちばん上にある小さな書店「かもめブックス」。定休日で静けさただよう店内に、柳下さんはいらっしゃいました。

今日はよろしくお願いします。簡単に、現在のお仕事を教えていただいてもいいでしょうか?

校閲者で、株式会社鴎来堂の経営者でもあります。校閲というのは文章の間違いを見つける仕事でして、誤字脱字をチェックすることもあれば、書かれていることが事実に即しているかを調べることもあります。

たとえば「2018年2月の半ば、東京は大雪だった」と書いてあったら、実際の天気の記録を調べ、事実確認をとります。そういった校閲の仕事と並行して、「かもめブックス」という書店の店主でもあります。


今日は事前にいただいたリストをみながら、お話をうかがえればと思います。

おもしろい企画ですよね〜! よろしくお願いします!

地下鉄の切符を、ライフログとして本に挟む

経営者なのに、新聞がないのが意外でした。

実はある時期「家のない暮らし」をしていまして……。そのときに、家にまつわるサブスクリプションはすべて解約してしまいました。新聞や、WOWOWがそうですね。今でも新聞は移動中にコンビニエンスストアとかで買っているんですけどね。


どうして「家なき子」をされてたんでしょうか?

意図的なことだったのですが、理由は大きくふたつあって。ひとつは、単純にほとんど家を使っていなかったんです。出張がすごく多いのと、集中して作業したいときはホテルにこもっていたので全然帰れていなくて。

もうひとつは、14年間ずっと会社の近くの神楽坂住まいだったのですが、他の街を知らないのももったいないなと。


停止したサブスクは、他にもありますか?

昔はPASMO(地下鉄の電子定期券)を持っていました。同行している人たちを待たせたくなくて携帯していたのですが、ひとりで動くことが増えたのを機に解約しました。なので、電車移動の際は切符を買うんですが、これが便利で!

PASMOの方が便利じゃありません?

電車の中で本を読むとき、しおり代わりにできるんですよ。自動改札だとそのまま吸いこまれてしまいますが、改札で駅員さんに頼むと、判子を押して返してくれます。僕は毎日、約1冊の本を読むので、刻印された日時や駅名を見ると、いつどこでその本を読んだか、どこで買ったかなどがよくわかるんです。


おしゃれですねー!

おしゃれかな? おしゃれかも。読書という行為自体がマイノリティなので、おしゃれにみえるのかも。あと、携帯電話を持たない生活もいいかなと思っていて。意外に電話しないんですよね。モバイルWi-Fiとラップトップ(ノートPC)をずっと持ち歩いているから、チャットワークやLINEにはいつでもアクセスできますし、大体の連絡はそっちで済んでしまいます。


電話はわずらわしいものとお考えですか?

嫌ではないですよ。よく、不意に時間を取られちゃうから嫌っていう人がいて、すごく気持ちがわかるんですが、都合が悪いときは出なければいいわけですし。実際に移動と打ち合わせが続くと出れないし、携帯電話が普及して、着信履歴が残るようになってからの電話は、それ以前ほどの強制力を持たなくなったと思います。非通知が一番困るなあ。

あと、テキストメッセージより音声通話の方が、たくさんの情報をスピーディーに伝えられていいですね。ぱっと予定を合わせる時や、ちょっとした確認をするときとか。情報の熱量がさめにくいのもいいですね。作家さんと話すのも要所では、いまでも音声通話が一番だと思います。


クルマは「動く会議室」

自家用車の維持に加えてカーシェアリングもと、クルマに関するものが多めですね。

初対面の方と打ち合わせするときに、クルマが便利なことがあります。人見知りをする方とも互いの顔を見ずに話せるし景色も変わっていくので、変な間も生まれません。目的が移動にあるから、会話がなくても自然なんですよね。

友達と移動するときも、のんびり話せるのがいいですね。忙しい人でも、出先でたまたま会ったときに「次の目的地まで、送りますよ」と持ちかければ30分、1時間話すことができます。

移動会議室って感じですね。

そうですね。あと、タイムズカーシェアは自家用車と同じような用途に加えて、緊急避難的に車中泊もできるという、裏技もあります。まともな大人のやることじゃないけど、全国どこでも簡単に寝床が確保できて、すごく便利ですよ。

この前大阪で、まったく宿が取れない夜があったんです。同じ日に大阪で大きな学会と、アイドルグループのコンサートがあって。その時も、最終手段としてタイムズカーシェアで借りたクルマの中で眠りました。


校閲者という職業ならではのサブスク

ひとつ、聞き慣れないサービスがありました。「ジャパンナレッジ」とは、どんなサービスなのでしょうか?

ジャパンナレッジは、有料の辞書サイトで、いろんな百科事典を横断検索できるものです。『日本国語大辞典』や『国史大辞典』といった業界では名の知れたものはもちろん、人名辞典や方言辞典などといった、いささかマニアックなものもそろっていて、重宝しています。校閲者ならみんな知っているんじゃないでしょうか。


他にも、「校閲者なら常識!」というサービスはありますか?

Webサービスではないしサブスクリプションでもないのですが、「大宅文庫」は使っている人が多いと思いますね。雑誌がすべてアーカイブしてある私設図書館です。また、専門図書館に行くことも多いです。

たとえば、四谷三丁目には消防の図書館がありますし、東京ドームの近くには野球の図書館があります。昔水道橋にあった交通の図書館なんかも便利です。時刻表のバックナンバーが全部置いてあったりするんですよ。


「課金」ではなく、なにを「買った」かが、センスを育む

音楽系のサービスは使用されてないんですね。

Apple Music、使ってないんですよね……。とても便利なのはわかっています。いつでもどこでも好きな音楽が聴けちゃうし。ぼくも何度も、誘惑に負けそうになりました。でも、偏った考えだと自覚していますが、これは長いスパンでみたら自分の音楽のセンスを殺してしまう仕組みなんじゃないかと思ってて。


どういうことですか?

ぼくは音楽でも本でも映画でも旅行でもファッションでも、消費という強いインプットのアクションには強い意志を持っていたほうがいいと思っているんです。Apple Musicを否定はしません。いろんな音楽に気軽に出会えるという可能性を広げるサービスだと思います。でも、ぼくは自分のセンスというものを磨く方法は「身銭を切って少しだけ失敗すること」だと考えています。リスクを取って無難じゃないものを試すという行為が必要です。


リスクを背負って手に入れたものが、自分の経験値になると。

要は可処分時間(自分の裁量で自由に使える時間のこと)可処分取得(自分の裁量で自由に使えるお金のこと)の割り振りなんですよね。時間もお金も有限なんですよ。

ちょっと飛躍してしまいますけど、商業のクリエイティブにかけられる時間って有限ですよね。締め切りがあるから。制限があるからできるものって絶対ある。締め切りはすべてのクリエイティブの母です。

ひるがえって無自覚に音楽を聴くのは、締め切りがない状態でものをつくるという癖がついてしまいそうです。「音楽を聴くときはレコードをターンテーブルにのせる」とまでは言いませんが、意志をもって選曲するっていうことを手放すことは僕にとってはデメリットで、だって、「いつでも聞ける」って「聞かなくても済む曲が増える」にちょっと似てないかなあ。うん、偏った考え方だと自覚はしています。


課金すればするほど忙しくなる。それが「サブスク」

動画系のサービスを使っていないのはどうしてでしょうか?

AmazonプライムやNetflixって、ユーザーが動画を見続けちゃう仕組みづくりが上手ですよね。Netflixなんて、ひとつ観終わるとすぐ次がはじまりますし。あのループに身を落とすと、ものを考える時間がなくなっちゃうんですよ。だから意識的に距離を置いてます。

たとえばYouTubeで漫才をみるとするじゃないですか。ぼく大好きで、時間があるとついチュートリアルや千鳥のネタを観ちゃうんですけど。それも、どうインプットするかを考えた上で見ないと、時間の浪費になってしまうんですよね。

日本の漫才を見て、「じゃあ違う言語・文化圏のお笑いってどんなものなんだろう?」って考えて、海外のお笑い動画を見る……というのはインプットだと思います。でも、千鳥の漫才動画を流れるまま見続けるとかっていうのは、アウトプットの衝動が緩やかに殺されていくんですよね。もちろん、千鳥さんはめちゃくちゃおもしろいんですけどね!


わかります。ぼくもつい『チハラトーク』を流しっぱなしにしてしまいます。

それもわかるな〜。でも、時間てほんとないんですよ。一回、ぼくの人生の残り時間を考えてみましょうか。いま40歳で、60歳で死ぬとしましょう。


ダメです。20年早いですよ!

ええ!? じゃあ70で死ぬとしましょうか(笑)。計算してみるとですね……僕の残りの人生は、あと1600万分くらいなわけですよ。そこから1/3は睡眠で削られる、生きていくために働くとなると1/4くらい、移動を入れるともう少し増えるかな、食事もしなくてはだし、色々諸々……そんなふうに考えていくと、多分、時間ってそんなにあまらないんですね。

児童文学の『モモ』には「時間泥棒」と呼ばれる存在が出てきますが、本当に時間って、いつの間にか奪われているもので。「あれ? 今週なにしてたっけ?」って思うこと、ありますよね。


しょっちゅうありますね。

ぼくは無自覚に時間がなくなるということをとても恐れています。

たとえば炊飯器の場合は昔は薪を割って、釜にくべて、お米を炊いていたじゃないですか。炊飯器ができて、家事の時間が圧倒的に短くなるはずだったのに、いまも変わらず忙しいですよね。信じられないけど、20年前の証券取引所はハンドサインで株の売買を行っていたんですよ。今はコンピュータがコントロールしてくれている。効率化ではなくて、生産量が増えていく。

結局ぼくたちは忙しくなるために進化しているんです。我々の時間というものは、どこにも残らない。楽をするために課金しているのではなくて、忙しくするために課金をしている。サブスクにはそういう側面もあると思います。時間とお金の使い方を無自覚にするという側面です。


柳下恭平(やなした・きょうへい)
鴎来堂」「かもめブックス」代表
1976年生まれ。さまざまな職種を経験、世界中を放浪したのちに、校閲者に転身。28歳の時に校正・校閲を専門とする会社、株式会社「鴎来堂」を立ち上げる。2014年末には、神楽坂に書店「かもめブックス」を開店。2017年2月には京都鴨川で出版レーベル「文鳥社」を、7月には池袋に袋とじの本だけを扱う「本と珈琲 梟書茶房」をオープン。

取材・文/今井雄紀(株式会社ツドイ
写真/なかむらしんたろう