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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「ネオ浪費」が愛する文化を継承する

【ジモコロ編集長・徳谷柿次郎 インタビュー後編】

根岸達朗 2018年3月8日 00:00
いいお金の使い方とは何か。ジモコロ編集長の徳谷柿次郎さんは、関係性構築のためにお金を使う「ネオ浪費」を提唱する。極貧時代を経て、進化を続ける柿次郎さんのカウンター的浪費論について、前編に引き続きインタビューした。

「ネオ浪費」の定義

編集者として取材相手との関係性を構築するために惜しみなくお金を使う行為。一期一会の出会いの中で「モノ」を介在させて、お互いの記憶に留める側面もある。言ってしまえば「投資」だが、あえて「ネオ浪費」という言い方をしている

死んだらいくら持っていても関係ない

柿次郎さんはローカル領域の編集者として、若手の人材発掘や育成にも力を入れていると聞きます。そこでも順調にネオ浪費をしていますか?

徳谷柿次郎(以下、柿次郎):はい。先日、宮崎のパブリックスナック*で出会ったカズエという女の子にiPad Proを買ってあげました。彼女は東京の美大を出ているんですが、都会生活が合わなくて、地元の宮崎に帰ってスナックで働いていたんですね。お金を貯めてiMacを買って、いつかデザインの仕事がしたいと思いながら。

でもある日、高速道路を運転していたらイノシシ7頭の群れと衝突してしまって、車が大破。イノシシとの衝突は保険がおりなかったらしく、貯めていたお金が全部消えてしまったそうなんです。目標が遠ざかったと嘆くのですが、それをとてもおもしろく話すんですね。

顔も味わい深いし、キャラも最高。これは何とかしたいなと思って、じゃあ僕がひとまずiPad Proを買うので、その代金分、イラストの仕事をしてくれと頼んだわけです。

*パブリックスナック……宮崎の新しいカルチャー。キャパが大きいスナック。

柿次郎さんがiPad Proをネオ浪費したカズエ(本名、小野 一絵。27歳)。現在はイラストレーターとしてはたらく傍ら、FM宮崎でラジオパーソナリティーとしても活躍中。
FM宮﨑のカズエさんのプロフィール

例えば1枚5,000円のイラスト仕事を20枚やりきったら、iPad Proは自分のものになって、さらにスキルも上がる。イラスト仕事をこなせるようになれば、食い扶持も増えるし、悪くない話なのではないかと。今、彼女は実際に僕が発注するイラスト仕事をやってくれています。


すごい。道具を買い与えるというネオ浪費ですね。

柿次郎:それと、今年から若い子にお年玉をあげるようにしました。長野・飯山で『鶴と亀』っていうかっこいいフリーペーパーをつくってる小林直博くんや、僕のアシスタントをしてくれている友光だんごさん、編集者のあまのじゅんぺいさんなど、がんばっている若者にあげました。

柿次郎さんが若い子にお年玉をあげるために探して買ったというぽち袋。

みんな「え? いいんすか?」みたいな顔をしていたけど、飲み代として5,000円おごるより、その5,000円をお年玉としてあげた方が圧倒的におもしろいじゃないですか。あと、単純に親戚付き合いが皆無な人生なので、「若い子にお年玉をあげたい!」という謎の欲求もあります。


全体的にすごく親方っぽいですね。

柿次郎:気づけばこうなってました。僕は今、編集・ライター界隈の複数の親方が複数の弟子を共有し合う「パラレル親方」というプロジェクトをやっているのもあり、親方プレイにはまってるんですよね。若い子に投資をして育てていかないと僕自身も業界的にも先がないですから。

あと、僕が貧乏だったから、お金を持つのが怖いというのもありますね。宵越しの金は持たないというか、死んだらいくら持ってようが関係ないという思想がある。

今、みんなが貯金をしすぎて経済が回ってないという状況があるならば、少しでも使って、自分の回りだけでも元気になったらいいなって思うんです。だから、がんがん使う。で、なくなったら、また稼げばいいだけですし、そこでまたモチベーションも湧いてくるじゃないですか。


アウトドア雑誌『GO OUT』への執拗な情熱

ちゃんと社会に還元しているような感じで、いいお金の使い方ですね。

柿次郎:そういう風にしないと生きる喜びがないのかもしれません。というのも、僕はお金が欲しくて独立して、今はある程度安定しているのですが、そもそも、そんなにお金を求めてないことにも気付いたんです。それよりも僕が欲しいのはセンス……センスなんですよ!


いや、もう充分、生き方にセンスあると思いますけど。

柿次郎:まだまだです。僕は生まれ育った環境からセンスを一切受け継いでいないので、そもそもセンスの磨き方がわからないんです。だから、とりあえずお金を持ったら、センスがありそうな人と積極的に出会って、ネオ浪費の価値観でお金を使い、リスみたいにものを集めている。めっちゃダサい発言ですけど(笑)。

人生を巻き返すかのように投資してるのは、結局センスへの憧れがあるからなんです。だからとりあえず、家はいつか『GO OUT』に出られるようにしたい。『GO OUT』はおしゃれなアウトドアライフを紹介している雑誌で、僕はこの雑誌に取り上げられている人たちを信じているんです。


出る必要あります……?

柿次郎:あります。信じてるんで。ただ、『GO OUT』に出てるような人は、僕みたいに『GO OUT』に出てるようなものを気にしてないんです。でも、僕は『GO OUT』に出るために『GO OUT』に出ていそうなものを、いつだって探している。

そして『GO OUT』に出ていそうな人に出会ったら、モノを買って、取材して……。そうして自分もいつか『GO OUT』にって、本気で思っているんです。『GO OUT』という砦を攻略したいんですよ、僕は!


すごい執着……。

柿次郎:だから量販店の家具は買いません。なぜなら、『GO OUT』の人は量販店の家具をきっと買わないから。ちなみにこの話には何の根拠もありませんし、ただ心の中にダサい物差しを飼っていることを、エンタメ的に捉えてるだけです(笑)。現状は長野の家もツルツルの賃貸住宅なので、いつか木の質感がかっこいい古民家に移り住まないとダメなんですよね……。『GO OUT』の砦はまだまだ遥か先です。

『GO OUT』への執拗な情熱……理解しました。柿次郎さんにとって、ネオ浪費は『GO OUT』的センス確立への道でもあったんですね。

柿次郎:はい。それでいうと、たとえば音楽で自己表現している人は、おしゃれな人が多いじゃないですか。どうやって食べているんだろう? みたいな人たちも、かっこいい服を着てるなとか、家かっこいいなとか。あれは何なのかなって、考えていたんです。

それは多分、彼らがストリートカルチャーを愛して、きちんと若い頃からネオ浪費しているからなんですよね。お金がなくても、大概のモノは覚悟さえあれば買える。常に何かを追い込むような姿勢に、美意識が宿るんでしょう。

買うことは、文化を残すという意味ではとても大事なことですし、全員がミニマリストになったら、お金を稼ぐ必要がない。そうすると、文化も生まれていかないんですよ。だから、僕は若い人たちにもっといいモノ買いなよとか、本当にそれでいいのか? なんていうネオ浪費ハラスメントをし、どんどんうるさいおじさんになっていく……。


文化を残す。そのためにお金をおもしろく使うわけですね。

柿次郎:そう、おもしろく使う……それが一番語弊がないかもしれないですね。もうひとつ真面目な話をすれば、大量生産・大量消費って価値観やばくない?というのがあって。ジモコロの取材で気づいたのは、東京に届けられるものは全部完成品ばかりで、その過程を知らない人があまりにも多いということ。自分も知らなかったんですが、そこがめちゃくちゃおもしろかったんです。

モノができるまでの過程がごっそり抜け落ちたものに、みんなお金を払ってるけれど、もう少し過程を知ってお金を使えば、世の中のクレームも減るだろうなっていうのがあるんです。世の中ってこういう風になってるんだ、ということを知ってしまった以上は戻れない。だから、ネオ浪費もやめられないんです。

みんなどんどんお金使っていきましょう!




徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)
株式会社Huuuu代表取締役。おじさん界代表。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ、温泉、カレー、コーヒー、民俗学など。Twitter:@kakijiro

聞き手:根岸達朗(ねぎし・たつろう)
1981年生まれのライター。文章を書いて生きています。東京・多摩地域在住。
Twitter:@onceagain74/note:https://note.mu/tatsuronegishi

撮影:八木咲