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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

新しい快楽「ネオ浪費」で人は仲良くなれる

【ジモコロ編集長・徳谷柿次郎 インタビュー前編】

根岸達朗 2018年3月1日 00:00
ローカルメディア「ジモコロ」の編集長・徳谷柿次郎さん。長野と東京で二拠点生活を実践しながら、取材で全国各地を飛び回る柿次郎さんは、「ネオ浪費」と名付けた独自の人間関係の構築術を実践し、ものづくりの担い手や仕事仲間にお金を惜しみなく使う。極貧時代を生き抜いた柿次郎さんが今考える、いいお金の使い方とは?

「ネオ浪費」の定義

編集者として取材相手との関係性を構築するために惜しみなくお金を使う行為。一期一会の出会いの中で「モノ」を介在させて、お互いの記憶に留める側面もある。言ってしまえば「投資」だが、あえて「ネオ浪費」という言い方をしている

金を持つと使いたくなる遺伝子

柿次郎さん。単刀直入に聞きますが、ネオ浪費って何ですか?

徳谷柿次郎(以下、柿次郎):僕にしてみればいつものお金の使い方なんですけど、自分なりにこのお金の使い方で得られているものも大きいので、みんなにも知ってもらいたいと思って、啓蒙的に名付けました。ただ、これを説明するのは、僕の貧乏時代から話していく必要があるなって。


貧乏時代。お願いします。

柿次郎:まず、前提として僕は浪費家です。そして、あまり育ちがよくない。僕の生い立ちは、CAREER HACKのインタビューを見てもらえればわかると思いますが、お金を持つと使いたくなってしまうダメな環境遺伝子がまずある。親父がパチンコ大好きのギャンブラーだったし、夜逃げも経験しているし。とにかく10代20代はずっとお金がなかったんです。

で、お金がないからモノが買えない。たとえば、欲しい家電があっても買えないから、電気屋をめぐって、ただ見るだけの暇つぶしをよくやっていましたし、欲しい漫画を1円でも安く手に入れるために、チャリで4駅分くらい移動しながら、古本屋をめぐるというようなこともしていました。


涙ぐましいエピソードです。

柿次郎:自分なりの楽しみだったんですけどね(笑)。貧乏がゆえに、物質的な豊かさを常に求めてきた人生といえるかもしれません。だから、26歳のときに50万円貯めて上京した際も、引越しで30万円近く使っているにもかかわらず、10万円の液晶テレビをいきなり買ってしまう。なぜなら、貧乏で、モノがない生活をしていた僕にとって、テレビは豊かさの象徴だったから……。


なんとも昭和的な……。

柿次郎:でも、前職のバーグハンバーグバーグという会社にいたときに「ジモコロ」というメディアをはじめてから、そうした浪費のあり方が少し変わってきた。というのは、純粋にモノを求めるだけというよりも、背景にあるストーリーだとか、それをつくっている人に対してお金を使うようになっていったからです。


「買う」ことで仲良くなれる

物欲は変わらないんだけど、その質が変わってきたということですか?

柿次郎:そうですね。それは、編集者として全国各地のローカルを取材していくなかで、若い世代が手仕事でかっこいいものをたくさん作っているんだ、ということを知ったのが大きいと思います。

僕はそういう人たちと仲良くなりたいし、そうした手仕事の良さを伝えたい。そして、僕のことも覚えてもらいたい。だったら、その人がつくっているモノを買った方が、薄っぺらい会話をするよりも圧倒的に印象を残せるし、距離を縮めるにも話が早いということに気付いたんです。


確かにプロダクトを「買う」というのは、作り手に対するひとつの敬意の表し方でもありますね。

柿次郎:もちろんそれは、僕自身が本当に「いい!」と思うからこそ「買う」のであって、なんでも買えばいいと思っているのではありません。ただ、これには編集者的な考え方もあって、僕は、取材をするにも、相手と距離を縮めてからの方が腹を割った話ができると思っているんですね。そういう取材方針なので、結果、取材相手と友達になってしまうということも多いのですが。


確かに、ジモコロのインタビュー記事には独特の親密さがありますよね。柿次郎さんの人柄もあると思いますが、ネオ浪費はひとつのきっかけづくりになっていると。

柿次郎:そうですね。それでいうと、最近は特に長野にある「ondo work shop(オンドワークショップ)」という革小物のお店で、よくネオ浪費していますね。一度ジモコロで取材させてもらって、財布とベルトをつくってもらったんですが、この店をやっている、同い年の木村真也という男が直接会った人間のモノしかつくらないというこだわりで、本当にいいモノを安くつくるんです。人間的にもとてもいい。

柿次郎さんがよくネオ浪費している「ondo work shop」のキーケース。長野の自宅に遊びにきてくれる友人たちにプレゼントすることもあるという。

で、僕も昨年、二拠点生活のため長野に家を借りたというのもあって、みんなに長野を好きになってもらいたいという理由から東京の友達を20人近くこの店に連れて行き、オーダーさせているんですよ。この店の商品を3個以上買ったら「オンダー」(思いつきの称号)になれるとか、みんなの購買意欲を煽って、ネオ浪費ハラスメントしているんです。


ネオハラ……という名の営業ですね。

柿次郎:そう。でも僕はみんなに、そうやってオーナーと対話をしながらストーリーを感じて、自分の人生にあったものをつくってもらうという、いい浪費を楽しんでもらいたい。同じお金を使うのでも、そういうお金の使い方の方が圧倒的に気持ちいいわけですから。


手癖でするな、手癖で買うな

なるほど。ネオ浪費は気持ちのいいお金の使い方なんですね。

柿次郎:そうです。で、気持ちいいということでいうと、僕はひとつ持論があるんです。たとえば、エロビデオを借りにいくじゃないですか。思春期とかに。


ええ、まあ(急に何の話だろう……)

柿次郎:僕は当時レンタルビデオ屋に行って、いつも2〜3時間パッケージ見て悩んでいたんですよ。で、これだ! と決めたものを借りてきてオナニーをするんですけど、悩んだ時間が長ければ長いほど気持ちのいいオナニーになると思っていて。

……まあ、例えがオナニーである必要はまったくないのですが、言いたいことは、助走距離が大切だということですね。オナニーをするぞと決めてビデオ屋にいく、そしてパッケージを見てあれこれ悩む。そういった「タメ」があるからこそ、気持ちのいいオナニーになる。助走があるから、ひとつの記憶と体験が強くなるんです。


まっとうな話でよかったです……。

だから、「XVIDEOS」なんかの無料ストリーミング動画を見て、パパッとオナニーをするというのは愚の骨頂だと思います。オナニーだって、ていねいにやらないとだめなんですよ!大きな声を出す理由はまったくないんですが。

浪費も同じなんです。手癖で金を使って、インスタントに満たしているようでは、まだまだ。「タメ」をつくって、その「タメ」にお金を使うような気持ちで浪費する。それが本当に気持ちいいお金の使い方だと思うんです。


徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)
株式会社Huuuu代表取締役。おじさん界代表。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ、温泉、カレー、コーヒー、民俗学など。Twitter:@kakijiro

聞き手:根岸達朗(ねぎし・たつろう)
1981年生まれのライター。文章を書いて生きています。東京・多摩地域在住。
Twitter:@onceagain74/note:https://note.mu/tatsuronegishi