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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「人は変わる。矛盾する。でも、それでいい」【松浦弥太郎 インタビュー後編】

中沢明子 2018年2月22日 00:00
前編では松浦さんの選択基準がどのように培われたかを訊いた。後編では「松浦弥太郎」という「ブランド」を自身ではどう考えているか、さらに、現在、取り組んでいるタイガー魔法瓶など企業との協働についても、その真意を伺った。率直な返答がとても興味深いので、ぜひ最後までご一読を!

今も僕は自分の殻を壊したいと思っています

松浦さんはご自身が選んだ上質なモノをさまざまな媒体で紹介されてきました。また、仕事、お金、考え方、マラソンなど、いろいろな分野に関する発信もされていますし、企業と組んだタイアップのメディアも手掛けていらっしゃいます。最近はタイガー魔法瓶のフラッグシップモデル「GRAND X」と協働されています。そこでお訊ねしたいのですが、松浦さんは「松浦弥太郎」というブランドを意識的に作り上げているのでしょうか。つまり、松浦さんに企業が協働を提案するのは「松浦弥太郎」というブランドに信頼を持たれている証左だからですよね。

松浦弥太郎(以下、松浦):ははは。「松浦弥太郎」を「ブランド」ととらえているか、ということですね。では、まず僕自身が「松浦弥太郎」をどう考えているのか、ということからお答えします。

僕は常に成長し続けたいと思っています。それは、変わることを怖れない姿勢を持ち続けてこそ、可能なこと。人生において「変わる」って、チャレンジの先にある楽しいことだと思うんです。だけど、変わるとガッカリされることがありますよね。

僕は上質なモノを選ぶ目を持ちたいと思っていますが、それは価格が高いモノだけが良いということではありません。ただ、比較的、上質なモノの価格は高いケースが多いのは事実ですが、その品質と価格は必ずしも一致するとは限らない。ですから、手の届きやすい価格で良い品を生み出す企業があれば、その姿勢に強いリスペクトを抱きます。

質実ともに本当に良いものがあれば、おすすめしたい。常々、何に対しても否定しないというスタンスが大事だと思うんですよね。自分の価値観に固執せず、守りに入らず、自分の殻を壊したい。

そして人が成長して変化したら、以前言っていたことと矛盾することがあっても良いのです。だからここで謝っておきますが、昔の僕の本を今読んでくださっている方からすると「矛盾している!」と思われる節があるかと思います。


「松浦弥太郎」は今もこれからも変化する

ははは、松浦さん、率直でいらっしゃいますね。でも、そうした「変化」や「矛盾」が「松浦弥太郎」というブランドを毀損するかもしれない、という恐れはないのですか。

松浦:僕がもっと賢ければ、「松浦弥太郎」を守るためにも、保守的になるかもしれません。だけど、僕は自分の殻を破るのが生きがいと言っても過言ではないほど、いろいろなことを学んで、自分が新しくありたいんです。


タイガー魔法瓶「GRAND X」シリーズの上質な暮らしを提案するWEBメディア「GRAND X クラブ」のディレクションを手掛けていらっしゃいます。こちらはなぜ協働されたのでしょうか。おそらく松浦さんにはさまざまな企業から依頼があると思いますが、ご自身が良いと思わないと絶対に一緒に仕事はされないですよね。


タイガー魔法瓶「GRAND X クラブ」(外部サイトへ移動)


松浦:僕は2006年から9年間、雑誌『暮しの手帖』の編集長を務めました。そのときに、お米は土鍋で炊くのが美味しいのはわかっているけれど、やはり毎日は面倒くさいから美味しく炊ける炊飯器を探そう、という自分プロジェクトを立ち上げました。


その中で、いろいろな機種を試してみた結果、タイガー魔法瓶の土鍋炊飯器が断トツに美味しく炊けた。だから、我が家でも10年以上、タイガー魔法瓶の炊飯器を愛用していたんです。おそらく僕が愛用しているのはGRAND Xシリーズの基本となる初代の土鍋炊飯ジャーだと思いますが、美味しいご飯が気軽に炊けると「ご飯が食べたいから早く家に帰りたい」と思うようになるんですね。早く仕事を終えて、家族の時間が増えて、我が家の幸せな食卓に欠かせない家電になった。

でも、「よくできたストーリー」になるのが逆に嫌で、タイガー魔法瓶の皆さんには仕事をスタートしてだいぶ経ってからお話ししました。ちょっとあまりにも「いい話」すぎて恥ずかしいというか(笑)。

GRAND Xシリーズの炊飯器は僕が感動した炊飯器の進化形の土鍋圧力IH炊飯ジャーです。コーヒーメーカーやホームベーカリー、スチームコンベクションオーブンなど他のキッチン家電にも炊飯器での感動のポイントが活かされると思いました。だから、喜んで、自ら仕事をご一緒したいと提案させていただいたのです。

昨今、ビットコインなどの仮想通貨が注目され、クレジットはもちろん、電子マネーも日常に馴染んでいます。松浦さんのふだんのお金の使い方は今、どのような感じですか。

松浦:現金でお金を払うリアルな経験は必要だと考えていますが、やはり、高額の支払いはクレジットカードか電子マネーになっています。

財布は2~3年周期で変えています。インナーと似ていて、くたびれてくると「そろそろ取り換えよう」と思います。今、使っている財布は小さなサイズ。少しのお札とクレジットカードだけ入れています。ジッパー式のシンプルな財布で使いやすいです。知り合いが使っているのを見て「素敵だね、いいなあ」と言ったら、その後、同じものをプレゼントしてくれました。

財布はバッグにしまうので、周期で考えると取り換え時ですが、あまり傷んでいません。お金は大事にしたいから、お金を入れる財布も大切にしています。

無限のバリエーションを身に着けると、人生は楽しくなる

最後に、松浦さんが考える「幸せ」とはなんでしょうか。

松浦:「自分が楽しめることを自給できる」ことが幸せのキーとなると考えています。それは自立する、ということでもあります。

たとえば、じゃがいもを料理するとして、レシピを1つしか知らないよりも30知っていれば、それだけたくさん楽しめます。「無限のバリエーション」を自分で作りだせると、たとえそれほどお金をかけなくても幸せを手に入れることができると思います。

「Owlly」は新しいWebメディアということですが、Webメディアも無限のバリエーションが考えられますよね。たとえば、昼間は国内外の素敵な景色が流れているだけで、夜になると朝までには消えてしまう記事がアップされるとか(笑)。その時間に読まないと消えてしまうとなったら、固定読者が必ずできると思います。

僕がやっている「くらしのきほん」というWebメディアの「泣きたくなったあなたへ」というコンテンツは夜8時から朝5時までの公開ですが、深夜ラジオの「オールナイトニッポン」のようなWebメディアがあってもいいんじゃないかなあ。

こんなふうに、無限のバリエーションの可能性を考えるのって楽しいし、幸せだと思いますよ。


松浦弥太郎
1965年東京生まれ。エッセイスト、編集者。2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。タイガー魔法瓶「GRAND X クラブ」のクリエイティブディレクションを務める。ベストセラーに『今日もていねいに』『しごとのきほん くらしのきほん100』他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。


聞き手:中沢明子

なかざわ・あきこ●1969年、東京生まれ。ライター、出版ディレクター。女性誌、ビジネス誌など幅広い媒体で執筆。延べ2000人以上にインタビューし、雑誌批評にも定評がある。得意分野は消費、流行、小売、音楽。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)、『それでも雑誌は不滅です! 』(朝日新聞出版)、共著に『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)、プロデュース本に『ケチケチ贅沢主義』(mucco/プレジデント社)、『深読みフェルメール』(朽木ゆり子+福岡伸一/朝日新聞出版)などがある。最新の構成本に『「働き方改革」の不都合な真実』(常見陽平+おおたとしまさ/イースト・プレス)。