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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

ブックデザイナーとしての挑戦【佐藤亜沙美 インタビュー後編】

柴﨑朋実 2018年2月8日 07:00
20代、尊敬する人のもとで働きながらデザイナーとしてやりたいことが見えてきた佐藤さんは30代に入って独立し、自らの事務所「サトウサンカイ」を立ち上げた。後編では、独立して初めてぶつかった「経営」という現実に、彼女がどう立ち向かったのか掘り下げていく。

独立して痛感した、「クリエイティブ」と「経営」のバランスの重要性

独立を意識したのはいつ頃ですか。

佐藤亜沙美(以下、佐藤):コズフィッシュに在籍して6年目くらいの頃でしょうか。ひとつの仕事に対して、自分なりにこうしたらどうか、という思いが強くなり始めてきたころです。

そのころ祖父江さんに独立のご相談をしたことがあったのですが、「もう少し続けてみてもいいんじゃない?」とアドバイスしていただきました。今思えば、当時の私はまだ未熟だったのでわかりませんでしたが、できるだけコズフィッシュにいるあいだに、独立してからは難しくなるような仕様とか印刷、加工などの経験を積んでおいたほうがいい、ということだったのかなと思います。

徐々に一人で任せてもらえる仕事が増えてきて、編集者とも直接やりとりさせていただくなかで、個人宛てにお仕事をご依頼いただく機会があって。でもさすがに個人的に受けた仕事を社内で作業するのは申し訳ないと思い、祖父江さんにご相談したら「よい機会だから、ひとりでやってみたら?」と。そのとき「社内独立」というかたちも薦めてくださったのですが、それでは本当の意味で自立できないと思ったので、このタイミングで出ようと決めました。


独立にあたって必要な資金はどうしましたか?

佐藤:東京都の創業補助金制度を利用しました。起業に必要な経費をサポートしてくれるというものです。事前に審査があり、たくさんの書類が必要になるので、詳しい方に創業計画など必要書類の揃え方を教えていただきました。

あとは自分の準備資金と、家族からの支援と、日本政策金融公庫なども利用させていただきました。仕事の合間に準備して半年で、なんとか独立することができました。


独立してからお金に対する考え方は変わりましたか?

佐藤:だいぶ変わったと思います。コズフィッシュでは、ひとつひとつの作品に向き合うのに必死で、経営のことまでは想像が及んでいなかったのですが、独立後はスケジュールをもとに、経費、外注の方への費用のことなども総合的に考えながら、責任が持てる範囲でお引き受けするようになりました。

書籍は、制作からデータ納品、印刷、製本までの時間もかかります。その時間も考えながら、お引き受けしたり、経営の目安を立てたりもします。


そうですよね。

佐藤:つい職人的な面が勝って、お金のことが二の次に思えることもあるのですが、外注の方への支払いなどもあるので、そちらへの責任も常に意識しています。いくら楽しい仕事でも、その責任を放棄するわけにはいかないので、バランスが大事だということもこの3年で学びました。もどかしいこともありましたが、今は楽しめるようになってきました。

それと独立一年目から税理士さんに入っていただいていて、一ヶ月に一回、売上と支出を見せていただく機会があるので、クリエイティブな部分と経営の部分を客観的に把握できてありがたいです。


自分がおすすめできるような本にしたい

仕事の仕方はどう変わりましたか。

佐藤:時間も大切ですね。時間が足りないと仕事が荒くになってしまうこともあるので、どう時間を確保するかも大切な仕事のひとつだと思っています。

デザイナーは作品があってこその仕事なので、作品がさらによいかたちで読者に届くようにと思いデザインを担当していますが、心がけているのは、自分から人によい本だから見てみて!とおすすめしたくなるようなかたちになるように、ということです。


独立前と独立後の違いというと、ご結婚されたこともありますよね。ワークライフバランスも変わったのではないかと思うのですが。

佐藤:もともと一緒に暮らしていた時期が長いので、そこまで劇的に変わったことはありませんが、外に出ている時間が長いわたしの代わりに、自宅で仕事している夫が家事を引き受けてくれているので、本当に夫に支えられて仕事が続けられていると思います。夫が忙しいときは役割を交代することもあるのですが、そのときは支えられていることに改めて気がつきます。精神的な安定にもつながっていますね。

働き方自体はどうでしょう。


佐藤:根を詰めすぎてしまうのは相変わらずなので、セーブしなきゃとは思いつつ、熱量を感じるものが個人的に好きなので、自分が担当する作品もそうなるようにと思って、思うかたちになるまではやり続けます。


効率を優先したいとは思いませんか?

佐藤:器用なタイプではないので、まずはよいかたちを目指してからですね。

これからのことは未知ですが、出版点数が減ったりして、一冊一冊が貴重なものになっていくとしたら、できるだけ特別なものを作っていたいという気持ちがあるので、いまは効率より、本にどのような可能性があるのか、探っていたいと思います。



佐藤亜沙美(さとう・あさみ)
1982年、福島県生まれ。2006年から2014年、日本を代表するブックデザイナー祖父江慎氏が率いるコズフィッシュに在籍。2014年に独立し、サトウサンカイ設立。数多くの書籍を手がけるとともに、2016年より『Quick Japan』(太田出版)のアートディレクター&デザイナーも務める。

聞き手:柴﨑朋実

新潟県魚沼市出身。仕事に関するインタビュー、旅取材などをして、雑誌、新聞、webなどで原稿を書いています。関心は、旅(商店街散歩からクルーズまで)、まちづくりや地域活性化、エンターテインメント(ラジオ、テレビドラマなど)、デザイン(グラフィックからコミュニティまで)等。
Twitter:https://twitter.com/UMI_ToT_YAMA

撮影:三浦咲恵