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基本性能と刷新されたメディア機能「Plexメディアサーバー」を試す
“超ド級”の高性能無線LANルーター「Nighthawk X10 R9000」

2017/07/05 清水理史

ネットギアから最新の無線LANルーター「Nighthawk X10(R9000-100JPS)」が発売された。60GHz帯の利用で最大4600Mbpsの通信を可能となるIEEE802.11adに準拠した製品だが、それに先行して基本的な性能と刷新されたメディア機能「Plexメディアサーバー」を試してみた。

あらゆる点が“超ド級”

今までのIEEE802.11acの2倍以上となる最大4600Mbpsの無線性能! 最大10Gbps(SFP+)の有線LAN!! 1.7GHzクアッドコアのCPUと1GBものメモリ!!! アクティブアンテナ!!!!……、などなど。

とにかく、性能を追求するために最新技術をこれでもか! というほど詰め込んだ超ド級の無線LANルーターが、ネットギアから新たに登場した「Nighthawk X10」だ。

エンタープライズ向けの最新技術をいち早くコンシューマー向けに展開するネットギアらしく、国内初となるIEEE802.11ad(以下、11ad)対応の無線LANルーターであるのが最大のポイントだが、IEEE802.11acを利用した通常の無線LANやメディア共有機能などが充実したハイエンドモデルと呼ぶにふさわしい製品となっている。

ネットギアの超高性能無線LANルーター「Nighthawk X10(R9000-100JPS)」。IEEE802.11adに対応した製品だが、IEEE802.11acの無線LANやメディア共有機能も充実したハイエンドモデル

ハイエンドモデルらしくパッケージも豪華。ハードウェアやソフトウェアも含め、これでもかというくらいコストがかけられている

今回は、同製品の基本的な部分とメディア機能に注目してレビューをお届けするが(11adは追ってレビュー予定)、と言っても気になる部分ではあるので、概要だけ簡単に解説しておこう。

これまでの無線LANは、5GHz帯の帯域を利用するIEEE802.11ac(以下、11ac)が主流で、その最大速度は4ストリームMIMO、80MHz幅、1024QAMという構成で最大2166Mbpsとなっていた(同社製品で言えばNighthawk X8 R8500が対応)。

これに対して、今回、Nighthawk X10が対応するIEEE802.11adは、5GHz帯をはるかに上回る60GHz帯を利用する規格となっている。11acが80MHz幅(規格上は160MHzもある)の電波を利用するのに対して、11adでは2160MHz(2.16GHz)幅と文字どおり、ケタ違いに広い帯域の電波を通信に利用することで最大4620Mbps(SCモード)を実現している。

速度だけ見れば2倍以上も高速な夢のような規格だが、利用する上での注意点がある。それは通信距離が短いことだ。非常に高い周波数を利用することから、11adは10m前後となっており、どちらかというと、アクセスポイントと同じ部屋に設置されたPCなど、大容量のデータ通信を必要とする端末を高速にワイヤレスで接続するための規格となっている。

また、利用するにはPCなどのクライアント側の対応も必要だが、現状、11adに対応した製品は少なく、一部のPCに搭載されるのみとなっている(WiGigと表記されていることが多い)。このため、技術的には大きなトピックとなるが、実用性という点では今後の普及が期待されるものとなっている。

もちろん、Nighthawk X10は、11adだけに特化した製品ではなく、最大1733Mbpsの5GHz帯と最大800Mbpsの2.4GHz帯という従来の無線LAN規格にも対応している。今後、11adが普及していくことは間違いないので、将来的にリビングのPCなどを11adで超高速に接続しつつ、ほかの部屋のワイヤレス化も実現できる「イイトコドリ」ができる製品というわけだ。

贅沢なつくり

それでは、製品をチェックしていこう。本体は、同社のロゴなどにも採用されている幾何学的な模様をイメージさせるデザインとなっている。

上部から見ると、長方形に対角線を引いたようなデザインだが、前後から中心部分に向かって配置されている三角形のプレートは、側面から見ると微妙に浮き上がっており、その下のメッシュ部分とは独立した複雑な形状となっている。

このデザインのおかげか、本体サイズは幅224×奥行168×高さ74mmと大きいのだが、薄くスリムな印象に見え、あまり大きさを感じさせない。

アンテナは、背面×2、側面×2の4本構成で、一般的な無線LANルーターに比べて太くボリューム感がある。これは、内部に回路を搭載した同社ならではのアクティブアンテナであることが大きな理由。

アンテナとしては大きいが、ただの棒ではなく、本体に合わせてうまくデザインされており、全体的にマッチしている印象だ。

正面

側面

背面

非常に凝った造形が採用されており、上部のパネルが浮いており、立体的で複雑なデザインとなっている

インターフェースは、正面から見て左側の側面にUSB3.0×2が搭載される以外は背面に集中している。

WAN×1、LAN×6で、しかもLANポートのうち2ポートはLAG(リンクアグリゲーション)対応となっており、別途、対応NASなどと接続することで1Gbps×2系統の負荷分散&フェイルオーバーとして構成することが可能となっている。

そして、さらに驚きなのが、WANポートの横に配置されている10Gbps用のポートだ。出荷時状態では、保護用のキャップが取り付けられているが、取り外すことでSFP+のモジュールを接続することが可能となっている。

SFP+は、企業向けのスイッチやサーバー機器などで採用されているトランシーバーモジュールだ。企業向けでは、10Gbpsクラスの通信では光ファイバーを使ったネットワーク接続が主流だが、その接続に利用する。

最近では、従来の銅線ケーブルを使った10Gbpsのネットワーク通信も一般的になりつつあるが、あえてSFP+を採用した点が企業向け技術の普及を目指すネットギアらしい。さすがに家庭での利用は難しいと言えるが、中小企業などであればSFP+対応のスイッチが導入済みの場合も珍しくない。こうした環境に11adによるワイヤレスの恩恵をもたらすこともできるだろう。

USBポートは3.0×2が側面に配置される

LANポートは合計6ポート用意されており、そのうち1と2はLAG対応

SFP+の10Gbpsポートを搭載。スイッチやNASなどに10Gbpsで接続できる

このほか、ハードウェア的な特徴としては、家庭用の無線LANルーターとしては珍しくファンが搭載されていることが挙げられる。

本体上部のメッシュ部分を覗き込むと、おそらくCPUが搭載されているであろうと思われる部分に、巨大なヒートシンクと4~5cm前後のファンがうっすらと見える。

さすがに1.7GHzクアッドコアクラスになるとファンレスというわけにはいかないと考えられるが、実際に使ってみると、このファンは驚くほど動かない。ベンチマークテストで頻繁に通信したり、PCやスマートフォンから家中の機器を接続して通信してみたのだが、結局、一度も回転しているところを見ることができなかった。

本製品はメディアサーバーやダウンローダーなど、さまざまなアプリを稼働させることができるようになっているため、これらをフル稼働させてCPU負荷が高くなれば稼働する可能性はあるが、基本的には緊急用という位置づけで、普段は回転しないしくみになっているのだろう。

当初は、ファンの動作音を心配したが、一般的な利用であれば無音で利用することができそうだ。

写真ではわかりにくいが、上部のメッシュ部分から小型のファンが見える。ただし、ほとんど動作しないため、緊急用という位置づけだと考えられる

セットアップ用アプリ「Netgear UP」を提供

セットアップに関しては、ブラウザーでのPCからのセットアップに加えて、スマートフォン向けの新アプリ「Netgear Up」を利用したセットアップが可能になった。

現状は英語版だが、Wi-Fiで接続後、アプリを起動することでインターネット接続や無線LANのSSIDなどの無線LANルーターの初期設定をアプリから簡単に実行することができる。

このアプリで高く評価したいのは、初期設定のウィザードの流れの中でファームウェアのアップデートを実行できる点だ。

最近では、ルーターなどの機器の脆弱性を狙ったマルウェアやボットなどの被害が報告されることも珍しくない。しかし、初期設定の段階でファームウェアをアップデートしておけば、こうした被害を当面は防ぐことができることになる。

本製品を使うユーザー層であれば、ファームウェアの定期的なアップデートの重要性を理解している人が大半かもしれないが、そうでない初心者が使うことも想定して、しっかりと初期段階からセキュリティ対策を実施している点は高く評価したいところだ(ブラウザー経由で初期設定した際もアップデートチェックされる)。

ただし、管理者パスワードは初期設定では変更されないので、これは初期設定完了後、必ず変更しておくことをオススメする。

設定用の新アプリ「Netgear Up」を提供。初期設定が簡単にできる

インターネット接続の設定を済ませると、ファームのチェックが実施され、最新版があれば更新される。通信機器の脆弱性が問題になる中、こうした対応は高く評価したい

「Netgear Up」では管理者パスワードは変更できない。後から自分で変更しておこう

従来の「Netgear Genie」を利用して設定や管理をすることもできる

通常の無線LANルーターとしての実力は?

セットアップが完了すれば、通常の無線LANルーターとしてはすぐに利用可能となる。前述したとおり、本製品は5GHz帯と2.4GHz帯にも対応しているため、WPSによるボタン設定や本体底面に記載されているネットワークキーを手動で入力することで、PCやスマートフォンをすぐに接続することができる。

11acの性能は、4ストリームMIMOの最大1733MbpsでMU-MIMOにも対応するが、今回は機材準備の関係で867MbpsのMacBook Air 11 2013を利用して速度を計測してみた。

木造3階建ての筆者宅にて1階にNighthawk X10を設置し、1F、2F、3F、3F端の各ポイントでiperfによる速度を測定した結果は以下のとおりだ。

単位:Mbps
※サーバー:Intel NUC(DC3217IYE),Windows Server 2012R2
※クライアント:Macbook Air Mid-2013 11インチ(866Mbps)

1階で603Mbps、2階で358Mbpsをマークし、3階でも見通しのいい場所で137Mbps、もっとも距離が離れた3階端でも33.7Mbpsでの通信が可能だった。11acの無線LANルーターとしての性能も十分に高いと言ってよさそうだ。

唯一、注意すべき点があるすれば、5GHz帯のチャネルだろう。本製品はいわゆるW52となる36、40、44、48の4チャネルにしか対応しない。標準でモードは「最大1733Mbps」となっておりW52のすべてのチャネルを利用するので、近隣で同じチャネルを使われたとしても変更できないことになる。

5GHz帯で利用できるのはW52のみ

Plexメディアサーバーなどのアプリを利用可能

このように基本性能に優れたNighthawk X10だが、余裕のCPUパワーを生かしたアプリが活用可能になっているもの特徴のひとつとなっている。具体的には以下のようなものが利用可能だ。

  • クラウドバックアップ:USBストレージのデータをAmazon Cloudにバックアップ
  • NETGEAR Download:Bittorrentファイルのダウンロード機能
  • Plexメディアサーバー

残念ながら筆者がテストしたタイミングでは、まだクラウドバックアップの機能が日本から利用できなかったため、今回はPlexメディアサーバーの機能を試してみた。

利用するには、設定画面(NETGEAR genie)からPlexメディアサーバーをダウンロードし有効化する。まるでNASにアプリを追加するのと同じような感覚で、今後はルーターでもこういった機能が一般化していくことを感じさせる。

アプリを追加することで機能強化可能な点もNighthawk X10の魅力。「Plexメディアサーバー」も後から追加インストールすることで利用可能となる

Plexを起動したら、設定画面からPlexのサービスにサインインする。Plexでは、モバイル同期などの機能を利用するために有料サービスへの加入が必要となるが、Nighthawk X10のユーザーは3カ月の無料パスが利用できるようになっている。

もちろん、無料のまま利用することも可能となっている。「Server setup」でNighthawk X10を機器登録後、USBストレージをライブラリとして登録すれば、USBストレージに保存された写真や動画をPlex経由で再生できる。

Plexメディアサーバーの利用にはアカウントが必要となる

モバイル同期などの機能を利用するには有料プランが必要だが、Nighthawk X10購入者は3カ月の無料パスが利用可能。もちろん無料プランでも十分に活用できる

USBポートにストレージを接続後、メディアの参照先として指定すれば設定完了

ブラウザーでメディアを再生することも可能だが、スマートフォン向けのアプリを利用することでも同様にメディアを再生できる。外出からの再生も可能なので、USBストレージに保存した写真や動画をどこからでも再生できることになる。

また、Amazon Fire TVなどでもアプリを追加することでPlexに対応可能となるため、リビングのテレビなどでNighthawk X10の動画を楽しむこともできる。

ブラウザーで動画などのメディアを参照して簡単に再生可能

アプリを使えばスマートフォンでもメディアを再生できる。もちろん、外出先からの再生もOK

Amazon Fire TVでも利用可能。リビングのテレビなどで動画を楽しめる

Plexメディアサーバーのメリットは、さまざまな環境をPlexというプラットフォームで統合できる点だ。PC、スマートフォン、STBなどをプレーヤーとして使えるうえ、サーバーアプリも、本製品だけでなく、同社製のReadyNASや他社製のNASなどで利用できる。

このため、ルーターやNASなど保存先を切り替えながら、各種メディアをさまざまなデバイスから手軽に再生できるようになる。利用機器や再生場所、再生先、利用するアプリなど、余計なことを意識せずに、メディアを扱えるのは大きなメリットだ。

なお、本製品はNASとしても利用可能となっており、PCやスマートフォンからデータを保存したり、共有することも簡単にできる。このため、実質的な役割としては無線LANルーター+NASと言うことができる。RAIDによる保護などは利用できないが、NASとしても使えることを考えると実売5万円という価格も決して高いものではないという印象だ。

有線LAN(1Gbps)で接続されたPCから、USB3.0接続のSSD(256GB)に対してCrystalDiskMark 5.1.2を実行した結果。シーケンシャルで100MB/sを超えており、ミドルレンジのNASと同等と言っていいパフォーマンスを発揮できる

11adも楽しみだがそれだけではない実力の持ち主

以上、ネットギアのNighthawk X10 R9000の基本機能、およびPlexメディアサーバーを実際にテストしてみたが、ハイエンドモデルらしい高い実力を備えた製品と言ってよさそうだ。

IEEE802.11acの実力は高いうえ、余裕のCPUパワーを生かしてメディアの共有も手軽にできるようになっている。ネックはやはり価格だが、前述したようにUSB3.0でストレージを接続すればNASとしても十分以上の性能を発揮できるので、さまざまな用途に使えることを考えると、この投資は決して高いものではない。

また、ハイエンド製品ならではの敷居の高さもなく、初心者でも扱いやすく、アプリなどを利用して簡単にセットアップや管理ができるように工夫されている

それにしても期待したいのは、IEEE802.11adの実力だ。あらためてレビューする予定なので、楽しみにしてほしい。