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竹中監督の作品の特長とも言える見事なディテールについてはこう話している。
「ディテールという言葉であまり考えたことないんですね。つまりその人が着てる服とか、ソックスの色とか、やっぱりそういうのって楽しいじゃないですか、決めるのね。その人が使っているお茶碗がどういう色のものかとか、その人の生活してるカーテンとか、寝てるベッドがどういうものだとか、そういうのを決めてゆくのが好き、好きだっていうかそれが一番映画撮ってて楽しんで。やっぱりバックの壁の色は何色かとか、そこの壁にかかっている絵は何かっていうのは。でも、それが監督の仕事だからな。だから普通のことっていうか(笑)。こだわっていることでも何でもないって気がします。それは、こだわるっていう表現をすると、ちょっと劇的になって、なんかかっこいいと思われがちかもしれませんが。自分の好みだけですからね。(中略)だから自分のわがままにみんなにつきあってもらってるっていう(笑)。こだわってるって感じでもないのよ。」
キャスティングする際に注意している点はあるのだろうか。
「注意しますよ、まるで信号のように(笑)。キャストも全部自分の好きな人。一度仕事をしてみたい人っていうか、自分のものにしたい、自分のものにしたいっていうか、別に女優さん使ったからって、その女優さんを自分のものにするってことじゃねえんだよな(笑)。まあ、そういう意味じゃなくて、自分の作品の中に写したい、それだけですからね」。
今回、脚本を読んだ時から、妻役には天海祐希さんをイメージしていたと言う。二人にはこんな出会いのエピソードがある。竹中氏がNHK大河ドラマ「秀吉」に主演していた頃のこと。紅白歌合戦の審査員に呼ばれ、場違いな雰囲気に圧倒されて楽屋で小さくなっていた時に、突然声をかけられた。美しく、自分より背の高い天海さんにいきなり“ファンです”と言われたという。その時抱いた彼女のイメージが心に残っていたのだ。
「天海さんのダイナミックさっていうか、なんかね。その天海さんの印象がずっと残っていて。(脚本を)読んだ瞬間に、天海さんしかいないなって思って」。
最後に、監督として自分の映画にかける想い、キャスト、スタッフへの思いを聞いてみた。
「映画っていうのは観た人の印象だったりするんで、結局作って出来上がるまでっていうのは監督のものだと思うんですが、出来上がってからは見た人の印象で作品は何通りにも色が変わって来るんで、それが面白いなと思うんですね。(中略)天海さんが魅力的に写ったって言われれば、私としては嬉しいし。やっぱり監督の作業としては、その人を愛するっていうところから始まるんですね。俳優さん、女優さんを愛さないとやっぱり撮れないですから。こいつ嫌いだな...あっ、嫌いだなって思っても撮れますね。カメラ合わせれば撮れるわけですからね。嫌いっていうこともやっぱり大切なことなんですね。でも、やっぱり映画に出てくださる方はやっぱりみんな好きだし。どんなちょい役の人もちゃんと愛して撮りたいというのはありますね」。
スタッフ、俳優への思いやりに溢れた竹中直人監督。そしてジャンルにとらわれず、ますます活躍のフィールドを広げる芸人、竹中直人。彼と過ごしたのはほんの20分。だが、インタビュー中は声色を変えたり、ジョークを連発したりとさまざまな表情を披露し楽しませてくれた。類稀なる才能に直接触れることのできた貴重な時間だった。
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