ご存知の通り、映画には女優が裸となって登場するシーンが数多くある。それを目当てに行くお客さんもいるし、そのお客さんを目当てに作る映画もある。ま、需要と供給ですな。古い話をすると、まだカラーが出始めの頃、“パートカラー”といって、通常はモノクロで進むのだが、エッチなシーンにさしかかるとカラーに変わる映画も存在した（全編カラーだとコストがかかるため）。これは「ここから裸が出てきますよ！」という合図にもなる。
　以上のように、裸が出る時には、それなりの前フリや煽ったりするのが常套手段であり、観る側も「よし、ここだな」と背もたれから15cmほど身を乗り出し、心の準備を整える図式が出来ている。

『北京原人 Who are you?』（97）――様々な角度で検証されている本作品だが、ボクはもっとも意外な流れで裸が登場する映画だと認識してている。警戒する北京原人に近づくため、北京原人と同じ裸になって近づこうとする研究員の緒形直人。その案に最初は躊躇する女性研究員だが、次のカットではパンツ１枚でフレームイン！心の準備がない分、得したような損をしたような不思議な感覚に陥られた。例えば、雑誌『鉄道ジャーナル』のなかに、全裸に帽子だけかぶった女性駅員さんのグラビアがあったりしたら、妙な気分だろう。「急にかよ！」と。それと一緒だ。『北京原人』は、そんな“寝耳に水なヌード”が拝見できる作品であり、その“寝耳に水なヌード”を披露したのが片岡礼子に他ならない。

『ハッシュ！』での片岡は、田辺誠一扮するゲイボーイに「子供が欲しいの」と言い寄る歯科技工士を演じている。これだけだと、ひたすら言い寄る鬱陶しい女のようだが、実に男っぽい性格で、好きでもない男と割り切ったエッチを繰り返す日々を送っている。田辺たちを見て新しい何かが目覚めたのだ。 しかし田辺には高橋和也演ずる彼氏がいるし、いざ子供を作ろうにも、エッチもできない。ゲイだから。さらに話をややこしくというか、面白くさせているのが、田辺が勤める職場の同僚・つぐみの存在。彼女もまた田辺に猛烈なアタックを仕掛ける。う～ん、田辺誠一ときたら女２人に男１人と、やたらモテますな。さすがは紫のバラの人！（ドラマ『ガラスの仮面』より）

　で、片岡よりもつぐみの方が鬱陶しい女なのだ。ちょっとした会話だけで、勝手に両思いだと決め込んだり、片岡のデータを興信所から集め田辺の親戚に送りつけたり。恐い女だ。メロン記念日の新曲『This is運命』で描かれている女性は「私をフったら知りませんよ！」「わかってるわよね？」と、やたら恐いのだが、ここでのつぐみはそれに虚言癖を加えた最強に“恐い女”なのである。

　恐い部分以外は問題ない。事務職を健気に勤め、制服の上に羽織ったピンクのカーディガンも、足の長さが左右異なるので歩くのがヘタという設定も、キュンとくるではないか。しかも、つぐみですよ、つ・ぐ・み！彼女の魅力は『贅沢な骨』の回でも触れているが、その後も栗山千明と“ロッテ紗々”というメジャーどころのＣＭにも進出し、今乗りに乗っている。

　ヘビースモーカーで部屋が汚く誰とでも寝る片岡（でもべっぴんさん）か、妄想が激しくどんな手を使ってでも相手を追いつめるつぐみ（でもかわいこちゃん）か……どちらもイヤだが、どちらもイヤではない。なんとも“この娘”映画塾泣かせな両キャラクターである。

　冒頭の話に戻るのだが、片岡礼子は『北京原人』を始め、幾つかの作品で素晴らしいボディを披露している。一方のつぐみも、『贅沢な骨』などでこれまた素晴らしいボディを披露してきた。出演者に両者の名を発見し、てっきり二人が脱ぐものだと決め込んで試写に挑んだ筆者だったが、期待も虚しく、最後まで二人は脱がず終い。それでも二人の魅力は充分伝わった……ＯＫ！　ちなみに、本作品でもっとも露出度が高く、下着姿を披露しているのは、秋野暢子であり、男性陣では高橋和也であることを記しておこう。
　期待して裸が見られなかった『ハッシュ！』と、期待せずに裸が見られた『北京原人』……映画とは観る側にもドラマがある。

（佐藤ろまん）

【関連サイト】
・『ハッシュ！』OFFICIAL SITE
http://cine.co.jp/hush/

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