◆MOVIE Watch (毎週金曜日発行:無料)─────────1998-9-11

☆今週のHEADLINE☆─────────────────────────────

●MOVIE Watchリアル・ランキング
 MOVIE Watchがオススメする今週の5本(平均値/ライター別評点)

●オススメ封切り情報
 『CUBE』 不条理な死の罠"キューブ"から脱出する術はあるのか?
 『スライディング・ドア』 人生に「もしも」があったとしたら……
  『キャラクター/孤独な人の肖像』 父子の愛憎と確執を描く重厚な人間ドラマ
 ○公開作 CHECK 5本!
 『シークレット/嵐の夜に』『シティ・オブ・エンジェル』 ほか

●MOVIE PADDOCK 出走を待ちわびる新作情報(期待値%つき!)
 『疑惑の幻影』 ロサンゼルスを舞台に繰り広げられるサスペンス・スリラー
 『時雨の記』 人生の秋にさしかかった男女の「純な愛」を描く ほか

●映画4人衆
 『フラッド』 史上最悪の大洪水の中で繰り広げられる、命を賭けた現金争奪戦

●TOPICS
 黒澤明監督、死去 ほか

●興行成績ベストテン

●特別企画1 ~追悼~ 黒澤 明監督
 【映画監督  黒澤 明】
 【追悼 黒澤明】 名づけて「クロサワ・ファンタジーXXX」

●特別企画2 『始皇帝暗殺』完成披露記者会見

●オススメVIDEO
 『オスカー・ワイルド』 文学の雄のかくも生々しき恋と性
 『ディアボロス』 ただただ俳優たちの魅力的な競演を見る
 ○CHECK 3本!

●BS&CS今週の3本

●THE DAY OF BIRTH

●後記

                [◆◆◆MOVIE Watchリアル・ランキング◆◆◆]
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    現時点での劇場公開作からピック・アップした、MOVIE Watch独自の
        採点による上位5作品。今観るならこれだ!
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  夏休みが終わり、ランキングも小休止。今週末の動きを静かに待ちわび
  ながら、街の映画館にふらりと足を運んだり、クロサワ作品をあらため
  て紐解くのも悪くない。

             平均値/ライター別評点(5点満点)

                  唯  巴  古  冴
 1.タイタニック       5.00  5.0  5.0  5.0  5.0
 2.L.A.コンフィデンシャル  4.63  4.5  5.0  4.5  4.5
 2.スウィート・ヒアアフター 4.63 5.0 4.5 5.0 4.0
 4.リーサル・ウェポン4    3.75 3.5 4.0 4.0 3.5
 5.スクリーム2        3.63 4.5 4.0 3.5 2.5

                    [◆◆◆オススメ封切り情報◆◆◆]
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『CUBE』         不条理な死の罠"キューブ"から脱出する術はあるのか?
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9月12日より公開 '97年/カナダ/1時間34分 ◇監督・脚本:ヴィンチェンゾ・ナ
タリ ◇脚本:アンドレ・ビジェリック ◇出演:モーリス・ディーン・ウィント、
ニコール・デボアー ◇配給:クロックワークス、ポニーキャニオン
 ―シネ・ヴィヴァン・六本木 11:00/13:00/15:00/17:00/19:00(~20:50)

 目が覚めたら、そこは白く輝くキューブ(立方体)の中だった。閉じ込められた人
間たちは、各キューブに仕掛けられた殺人トラップを避けながら、脱出路を探し始め
る……。カナダの若い監督が撮った、低予算のサスペンス映画。設定はSFめいている
が、内容は人間ドラマ。極限状態の中で、普段は隠されている人間の素顔が見え始め
る。絵コンテ出身の監督だけにビジュアルのセンスは抜群。カナダもあなどれない。
 □OFFICIAL SITE
  http://cubethemovie.com/index2.html
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『スライディング・ドア』        人生に「もしも」があったとしたら……
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9月12日より有楽町スバル座他にて公開 '97年/アメリカ、イギリス/1時間40分
◇監督・脚本:ピーター・ホーウィット ◇製作:シドニー・ポラック ◇出演:グ
ウィネス・パルトロウ、ジョン・ハンナ ◇配給:KUZUIエンタープライズ

 グウィネス・パルトロウが「偶然」という人生の不思議に挑んだ、一風変わったラ
ブストーリー。地下鉄のドアが目の前で閉まるという、誰の生活の中にもよくある瞬
間から、主人公ヘレンの人生はふた通りの道をたどり始める……。パルトロウは『ダ
イヤルM』も間もなく公開される売れっ子だが、本人のキャラクターには、この映画
のような「普通の女性」が似合うような気がする。この映画の彼女はじつに素敵だ。
 □OFFICIAL SITE
  http://www.toho-group.co.jp/cinema/sliding/welcome-j.html
 □MOVIE Watch
  http://www.watch.impress.co.jp/movie/guide/sliding/sliding.htm
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『キャラクター/孤独な人の肖像』   父子の愛憎と確執を描く重厚な人間ドラマ
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9月12日より公開 '96年/オランダ/2時間5分 ◇監督・脚本:マイケ・ファン・デ
ィム ◇原作:F・ボルデバイク ◇出演:ヤン・デクレール、フェジャ・ファン・
フエット、ベティ・スヒュールマン ◇配給:アルシネテラン
 ―シネマスクエアとうきゅう (日祝9:20)11:45/14:10/16:35/19:00(~21:15)

 悪名高い執行官ドレイブルハーブンと、彼の家のメイドとの間に生まれた主人公ヤ
コブ。私生児として育てられた彼は、成長するにつれて父親を恨み、憎むようになっ
ていた。やがてそれは殺意にまで発展する……。今年のアカデミー賞で最優秀外国語
映画賞を受賞したオランダ映画。主人公の人生に立ちはだかる怪物めいた父親を『ア
ントニア』にも出演していた名優ヤン・デクレールが貫禄たっぷりに演じている。
 □OFFICIAL SITE
  http://www.spe.sony.com/classics/character/index.html
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○公開作 CHECK 5本!
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★=注目作 ★★=見て損はしない ★★★=これは必見! (未)=未見

■『シークレット/嵐の夜に』 9月15日より全国松竹東急洋画系にて公開 ★★★
ミシェル・ファイファーとジェシカ・ラングがシェイクスピアの「リア王」に挑戦。
 □OFFICIAL SITE
  http://www.gaga.co.jp/movies/98secret.html

■『シティ・オブ・エンジェル』 9月12日より全国松竹東急洋画系にて公開 ★★
人間に恋した天使の物語。名作『ベルリン・天使の詩』のハリウッド版リメイク。
 □OFFICIAL SITE
  http://www.city-of-angels.com/
  http://www.warnerbros.co.jp/movie/angel/index.htm

■『あぶない刑事フォーエヴァー』 9月12日より全国東映系にて公開 ★
テレビや映画でお馴染みの人気シリーズ完結編。ラストシーンにはびっくりするぞ!
 □OFFICIAL SITE
  http://www.toei.co.jp/MOVIE/new_mov/abudeka/title.html

■『しあわせになろうね』 9月12日より丸の内シャンゼリゼにて公開
組の解散を前に思わぬ騒動に巻き込まれるヤクザたちを描いたコメディ。残念★なし。
 □OFFICIAL SITE
  http://www.kss-inc.co.jp/movie/siawase/index.html

■『BEAT』 9月15日より全国松竹系にて公開 ★
舞台演出家の宮本亜門が映画監督に初挑戦。内田有紀が骨っぽい芝居を見せている。
 □OFFICIAL SITE
  http://www.shochiku.co.jp/cinema/beat/index.html
                           [Written by 服部弘一郎]

                        [◆◆◆MOVIE PADDOCK◆◆◆]
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     出走を待ちわびる新作情報を、期待値%つきでお届けします
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■『疑惑の幻影』
11月/東劇ほか全国松竹・東急洋画系(期待値70%)
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犯罪が多発するロサンゼルスの街で、大富豪の娘が惨殺される事件が起きた。被疑者
の弁護を引き受けた敏腕女弁護士キット(メラニー・グリフィス)と、対立する検察
側、キットの元夫ジャック副検事補。彼女はジャックから提示された司法取引をはね
つけ、独自の調査で真犯人を突き止めようとするのだが……。トム・ベレンジャー、
ミュージシャンのヒューイ・ルイス共演によるサスペンス・スリラー。『ジャイアン
ト・ベビー』のランダル・クレイザー監督作品。
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■『時雨の記』
11月14日/全国東映系(70%)
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仕事も、地位も、家族も捨てて、女と共に山の庵に住みたいという夢を一途に追い求
める男(渡哲也)と、その夢を情愛こめて抱き取る女(吉永小百合)。人生の秋にさ
しかかった2人の「純な愛」を、京都・奈良の四季の移ろいと共に美しく描き出す。
原作は芥川賞作家、中里恒子の「時雨の記」。監督は澤井信一郎。
 □MOVIE Watch
  http://www.watch.impress.co.jp/movie/guide/sigure/
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■『ザ・ハリウッド』
10月24日/銀座テアトル西友、新宿シネマカリテ(65%)
11月21日/京都朝日シネマほかにて全国公開
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誰にでも、心に残る思い出の映画がある。京都のレンタルビデオ店「ハリウッド」を
舞台に、そこで働く少年と外国人留学生の友情を軸にして、さまざまな人々の人間模
様を描きつつ、映画への限りない愛、見果てぬ夢をうたいあげたファンタジー。主演
は、元ジャニーズJr.の喜多見英明。監督は、大映京都出身の野村恵一。

                         [◆◆◆映画4人衆◆◆◆]
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『フラッド』 史上最悪の大洪水の中で繰り広げられる、命を賭けた現金争奪戦
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ミシシッピー川流域に位置するインディアナ州ハンティングバーグ。いつ果てるとも
なく降り続ける雨にダムの水位は決壊寸前まで上がり、今にも大洪水が街を呑み込も
うとしていた。セキュリティー・ポリスのトム(クリスチャン・スレーター)は、叔
父チャーリー(エドワード・アスナー)と共に街の銀行から預かった現金を運び出す
道すがら、寸断された道路にはまってしまう。救助隊を待つことに決めた2人だった
が、現金を狙うジム(モーガン・フリーマン)の一味に襲われてしまい……。
                                            (満点は★5つ/半は★半分)

■憎めないパニックスリルでツッコミどころも多く、一応好きなタイプのB級感覚。
でもお金はかかったんでしょ? と思うとヤマ少なすぎで減点かな。★★半☆☆<唯>

■窒息寸前の水責め映画かと思いきや、画面から伝わってくる窒息感は、大量の雨水
が及ぼしてるのではなく、何と! 映画そのものが窒息してたのね。★★半☆☆<古>

■なにしろ"悪役"がモーガン・フリーマンだものねぇ。パターンではあるけれど、中
盤以降、「ほほほぅ、そう来たか!」と、大洪水を満喫。     ★★★半☆<巴>

■危機的な状況と度を過ぎたストレスで豹変する人と、災害時に遭遇するかもしれな
い危険の予備知識をありがとう。それだけじゃ楽しめないけれど。 ★★☆☆☆<冴>

 □OFFICIAL SITE
  http://www.hardrain.com/
  http://www.toho-group.co.jp/towa/flood/welcome-j.html

                            [◆◆◆TOPICS◆◆◆]
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★黒澤明監督、死去
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『羅生門』('50年ベネチア国際映画祭グランプリ、米国アカデミー賞外国語映画賞)、
『七人の侍』、『影武者』('80年カンヌ国際映画祭グランプリ)など映画史に残る
名作を世に送り出し、文化勲章、米国アカデミー賞特別名誉賞にも輝いた映画監督、
黒澤明(くろさわ・あきら)氏が、6日午後0時45分、東京都世田谷区成城の自宅で
脳卒中のため死去した。享年88歳。7日に通夜が、8日に密葬が自宅マンションでし
めやかに営まれ、親族や映画関係者約200人が最後の別れを告げた。13日午後2時か
ら、横浜市緑区霧が丘の「黒澤フィルムスタジオ」で「お別れの会」が行われる。
会場には、映画『乱』('85年)をイメージした金箔で飾られた祭壇や、一般のファ
ンのために献花・記帳所が設けられるもよう。
 □黒澤明の世界
  http://www.asahi-net.or.jp/~zc2t-ogw/MKHome/AKHome/AKHome.htm
 □黒澤明 DataBase
  http://www2.tky.3web.ne.jp/~adk/kurosawa/AKpage.html
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★黒澤監督、幻の31作目
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山本周五郎の短編小説を黒澤監督が自ら脚色、生前に映画化を考えていたが、監督の
体調不良や製作費の高騰などで製作がストップしていた幻の31作目『海は見ていた』
が、『乱』('85年)のプロデューサーでアスミック・エース社長の原正人氏の意向
を受けて、監督の長男、久雄氏の監督により映画化される動きが出てきた。
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★黒澤30作品を網羅したCD-ROM発売中
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黒澤監督の全30作品と関係者の肉声、監督自らの手による絵コンテをはじめとする膨
大な資料、メーキング・フィルムなどで構成されるCD-ROM「黒沢監督The Complete
AKIRA KUROSAWA」(東芝EMI/2枚組税別価格7,800円)が、先月26日に発売され話題
をよんでいる。詳細は以下のサイトへ。

 □TOSHIBA EMI HI-SCORE
  http://www.toshiba-emi.co.jp/hiscore/index/pc/kurosawa.htm
 □TOSHIBA EMI DIGITAL WORKS(WEBからも購入可能)
  http://emall.justnet.or.jp/shop/emishop/
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★『タイタニック』、11月20日ビデオ発売決定
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国内で公開された映画としては、歴代配収1位、週間興収半年間連続1位、歴代観客動
員数1位など、数々の新記録を樹立した『タイタニック』のビデオが、11月20日から
発売されることになった。通常の劇場用映画がビデオ化される場合は、劇場公開から
約半年後にレンタル用として約1万7千円で発売され、さらに半年後に廉価版がリリー
スされるが、『タイタニック』は初ビデオ化時から廉価版(税別価格1本3,980円)で
リリースするダイレクト・セルスルー方式をとる。いずれも2巻組で、字幕スーパー
版、日本語吹替版(声/松田洋治、日野由利加ほか)、ワイドスクリーン版の3種類
が発売されることになっており、撮影当初からビデオ用の映像を別のカメラで撮影す
るなど、随所に配慮が行き届いている。また、2巻目の巻末に、アカデミー賞受賞曲
「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」(歌/セリーヌ・ディオン)のミュージック
・クリップも収録されるもよう。

                     [◆◆◆興行成績ベストテン◆◆◆]
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  初登場の『フラッド』『スプリガン』が1位、2位。『ディープ・インパク
  ト』は首位を譲るも上位にとどまって。4位以下では、夏休み後の傾向が
  はっきりと色分けされた感じだが、今週末から本格化してくる秋の新作
  攻勢でまたひと波乱か。
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  【配収】
 1 初(─)フラッド                  ( 1週)
 2 初(─)スプリガン                 ( 1週)
 3 ↓( 1)ディープ・インパクト            (12週)
 4 ↑( 5)仮面の男                  ( 5週)
 5 ↑( 9)機動戦艦ナデシコ/スレイヤーズごうじゃす  ( 5週)
 6 ↑( 8)L.A.コンフィデンシャル           ( 8週)
 7 ↓( 6)リーサル・ウェポン4             ( 6週)
 8 ↓( 2)アナスタシア                ( 2週)
 9 ↓( 4)スクリーム2                 ( 4週)
 10 ↓( 7)TAXi                    ( 4週)

 興行通信社調べ1998/9/5~1998/9/6(銀座・新宿・渋谷3地区代表館集計)

               [◆◆◆特別企画1 ~追悼~黒澤 明監督◆◆◆]

   1998年9月6日午後0時45分、世界中に愛された映画人、黒澤明監督永眠。
   MOVIE Watchでは、監督のご冥福をお祈りすると共に、「世界のクロサワ」
   に対する限りない敬意と愛情をこめて、以下の2文を捧げたいと思う。
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【映画監督  黒澤 明】
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 「映画は芸術か娯楽か?」。そんな疑問に答えてくれるのが黒澤映画だ。厳かな芸
術的映像の重みとワクワクするような物語的快感の同居。黒澤映画は芸術をも娯楽を
も貪欲に呑み込み、こんな風に疑問に答えているような気がする。つまり「映画は映
画である」と。
 30作どれもこれもが、まぎれもなく「映画」だった。細部まで気を配った一幅の絵
画のように美しい1カット、1カット(どの作品でも、ビデオでランダムに場面をスチ
ルしてみてほしい。白黒の深い陰影、カラーの色彩美)。主人公の実在を信じさせ
てしまうほどの俳優陣の繊細でパワフルな演技(何度、笑わされ、怒らされ、そして
泣かされたことか)。絶妙な音楽の使い方(心にズシンと来るインパクト)。挙げれ
ば、まだまだきりがないが、すべての要素が信じがたいほどの光を放ち、作品を輝か
せた。そんな訳だから、黒澤映画はきっと映画ファンの心をその映画的醍醐味で満腹
にさせてくれる。黒澤映画1本は、映画の名を借りた腑抜け映画100本ぶんに値する充
足感があるのだ。
 それにしても、なぜ、黒澤映画はこうも「映画的」なのだろう。単純な言い方にな
るけれど、やはり、映画への限りないピュアな愛が作品に反映されているからではな
いだろうか。それが、まがいものではない本物の「映画」を創り出す原動力となって
いるのだ。そして、そこから黒澤映画の美質である人間へのやさしさや温かみが生ま
れる。
 なればこそ、黒澤映画は、いとも簡単に国境を越え、世界中で愛されるのだ。近年
も、宮崎駿監督、北野武監督と対談したり、キアロスタミ監督の作品を褒めたりと、
最後まで、監督の映画への無邪気な愛が消えることはなかった。
 「人の一生に影響を与えるような映画を創りたい」というのが黒澤監督の信条だっ
たと聞く。とすれば、これだけ観客を虜にしたのだから、黒澤監督の思いは、間違い
なく結実したといえるだろう。
 まさに世界を股にかけた偉大な映画監督だった。
                           [Written by 渡辺慎也]
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【追悼 黒澤明】 作品の中に仕込まれたゲーム的な感覚が魅了する
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 希代の映画作家の追悼に際して、いささか礼を失するとは思いながら、お許し願い
たい。黒澤作品を論ぜよという題目に対して、そのどれもが優れて面白くキリがない
ため任意に選んで作品を論ずることができないのだ。困った挙句に考案したのが、黒
澤作品を体感できるこんなゲーム(実際には存在しません)。

 作品のタイトルが記入されたルーレットをまわす。かりに『天国と地獄』が出たと
する。双六タイプとRPGタイプがあり、後者をセレクトしたあなたはもうミフネ状態
でスタンバイ。つまり靴会社の常務のあなたは、会社を乗っ取るために全財産を投げ
うって、株を買い占める資金を用意する。しかしそこへあなたの子供と間違えて、お
抱えの運転手の子供が誘拐されるという事件が舞い込む。あなたは身代金を払ってや
るものかどうか、苦悶する。その間にもいろいろなキャラクターが登場する。あなた
と競合して会社を狙う者、あなたの地位を狙う狡猾な部下、あなたを憎む姿なき犯人、
犯人を追う刑事。身代金を出すといえば、映画の設定のように特急列車から金を投げ
出すことになるが、犯人の要求に答えず金を出さないという選択も可能。あなたは会
社の乗っ取りに成功し、無残に川に投げ込まれた子供の死体が発見され、世論から窮
地に立つ羽目にあうかもしれない。

 にわかにこの展開に恐れおののいたあなたは、直ちにリセット・ボタンで次のルー
レットを回してみる。おー『七人の侍』だ。やったぞ。最新技術と公的資金を導入し
ても、再現は不可能といわれた作品。しかし別のルーレットがあらわれて、あなたは
当惑する。七人の侍のうちだれかを選ばなければならないのだ。あなたはどこかで宮
口精二の役どころを望んでいながら、稲葉義男に当たってちょっぴりショックだ。死
を予想したあなたはすかさずリセット。よし『野良犬』がきた、こいつぁはシビレル
ぜと意気込んでみせるものの、刑事のあなたはアイテムのピストルを盗まれる。夏の
暑苦しい町中を延々歩きまわるが手がかりはなく、戦闘コマンドのデカ長からの「不
運は人間をたたきあげるか押つぶすかどちらかだ。君は押つぶされる気か?」との励
ましもむなしく、うっかりダメージを受けたままゲーム・オーバー。

 なかなかはかどらないゲームの手強さに舌を巻きつつ、次のルーレットを回すと
『一番美しく』になる。あなたはこの変なタイトルからゲームの面白さに振り向きも
せず、ふたたびリセット。まんまと『用心棒』をあてて、肩をまわしながらミフネ状
態で待ち構える。ところが、縄張り争いの親分から金をもらったまま、強欲な親分の
女房の話も聞きのがして、片棒をかついだために、本来の用心棒ではなく、あさまし
い浪人へ身を落とすことになり、お洒落コマンド仲代達矢に出し抜かれ殺されてしま
う。ちくしょう、あの金に執着したなと後悔しつつ、セレクトボタンで『椿三十郎』
にステージを変えるが、最後の最後でコントローラの方向キーを押し間違え、刀の抜
き違いをして斬り殺されてしまう。コントローラを叩きつけたい気持ちを抑えて、も
う一度ゲームをやり直そうと、次のルーレットは『生きる』をあててしまい、のっけ
から死が約束され、やりきれなくなってしまう。しかし、これまで死んでばかりいた
あなたは癌と知らされた男の生き様を通して勇気を与えられ、ゲームと知りながらわ
が身を振り返ることになる。そしてこれがゲームでよかったと独りつぶやきながら、
もう一度ほかのゲームをやったものか悩んだ挙句、ルーレットを回すと『夢』が当た
る。次から次に映し出される夢のような映像の中で、疲れ果てたあなたはゲームのス
イッチを切るのを忘れたまま深い安らかな夢を見続ける……

 どうやら、作品の中に仕込まれたゲーム的な感覚が、黒澤映画が広く親しまれてい
る理由ではあるまいか。むろん、画、音、話の細部にいたるまで、とことん面白さを
追及する監督の姿勢が桁外れだったからこそ、胸をときめかせた偉大な人生ゲームの
数々。だからこそ私たちは、黒澤作品に触れるたび、何度でもこんなすばらしいゲー
ムを体験できることに感謝せずにはいられないのだ。
                            [Written by 竹本穣]

『天国と地獄』('63) 『七人の侍』('54) 『野良犬』('49)
『一番美しく』('44) 『用心棒』('61)  『椿三十郎』('62)
『生きる』('52)   『夢』('90)

           [◆◆◆特別企画2 『始皇帝暗殺』完成披露記者会見◆◆◆]

 9月4日(金)、帝国ホテル「孔雀西の間」にて、陳凱歌(チェン・カイコー)監督
 をはじめとするキャスト・スタッフを迎えて行われた『始皇帝暗殺』(渋谷パンテ
 オン他、全国松竹・東急洋画系にて11月14日公開)の完成披露記者会見のもようを
 お届けします。
     http://www.werde.com/movie/interview/first_emperor.html


-------------------------[◆◆◆オススメVIDEO◆◆◆]------------------------
     今週はストーリーや演出よりも俳優のすばらしさを。知名度
     では『ディアボロス』の3人に勝てないものの、『オスカー・
     ワイルド』の両俳優の存在感もまた注目。
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『オスカー・ワイルド』 文学の雄のかくも生々しき恋と性
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【データ】'97年/英/1時間57分(9/18発売:ポニーキャニオン)
監督:ブライアン・ギルバート 出演:スティーヴン・フライ、ジュード・ロウ

 世界中の文学・舞台・映画に自由な国で、『サロメ』を知らない人はもはや多くな
いだろう。生前から評価をものにしていた、名実ともに文豪であるオスカー・ワイル
ドの半生。それは当時厳しく禁じられた性愛の物語だった。数ある「愛人」の中から
ワイルドを激しく虜にする青年を演じるジュード・ロウの妖しすぎる美青年ぶりが話
題となった。が、なんといっても評価したいのがワイルドを演じたスティーブン・フ
ライの怪演。というか似てるし。似てるだけでなく、文才と名声を有しながら、許さ
れぬ愛に追いつめられていく悲惨さを胸が詰まるほどに表現してくれたその演技と、
ゆるぎない存在感は、評価を越えて勉強に値する。
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『ディアボロス』 ただただ俳優たちの魅力的な競演を見る
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【データ】'97年/米/2時間30分(9/18発売:日本ヘラルド映画)
監督:テイラー・ハックフォード 出演:キアヌ・リーヴス、アル・パチーノ

 勝ち続ける優秀な若手弁護士をキアヌ・リーヴス。彼を高額で引き抜いた悪魔の親
分をアル・パチーノ。仕事漬けになるばかりでなく悪魔の手先に染まっていく若き夫
と自分の環境に対して、不信とやつれと恐怖を徐々に抱いていくさまを好演した、チ
ャーリズ・セロン。この3人に注目していれば(もうひとり怪しい美女が出てくるが)
2時間半はもつはず。別に新しくないストーリーも適度に複雑だし、CGに頼りすぎの
演出もまあ浮いているわけでもない。それらを補って余りある名優の名演を見ずして
なんとする。著作権訴訟になったボスの部屋の彫刻も、クライマックスでこそ堪能で
きるのだし。
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○CHECK 3本!
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■『ポストモーテム』1時間46分/米(9/18発売:ポニーキャニオン)
アクションの巨匠が描いた、一風違うサイコサスペンス。検死をめぐって浮かび上が
る新たな謎。連続殺人鬼と元刑事の心理戦。
監督:アルバート・ピュン 出演:チャーリー・シーン、マイケル・ハルシー

■『フラバー』
1時間35分/米(9/18発売:ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント)
意思を持つゴム「フラバー」と、それを発明した博士の大騒動。
監督:レス・メイフィールド 出演:ロビン・ウィリアムス

■『バッドムーン』1時間20分/米(9/18発売:ポニーキャニオン)
ジャングルで狼男になってしまった男と、シェパード犬との闘い。監督は『ヒッチャ
ー』のE・レッド。日本未公開。
監督:エリック・レッド 出演:マイケル・パレ、マリエル・ヘミングウェイ
                           [Written by 唯よーじゅ]

             [◆◆◆BS&CS今週の3本◆◆◆]
                              セレクター:歩知
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 9/13(日)『レジェンド・オブ・フォール』 SKY MOVIES(13:00~)
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モンタナ州の牧場を舞台に、1人の女性をめぐる3人兄弟の心の葛藤を描くヒューマン
ドラマ。ブラッド・ピットのアウトローで繊細な弟役はみもの。大自然の美しい映像
美で'94年アカデミー最優秀撮影賞受賞。
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 9/17(木)『突破口!』 NHK衛星第2(20:00~)
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ニューメキシコの田舎町で、小さな銀行を4人組強盗が襲撃。まんまと大金を手にす
るが、その金はマフィアの隠し預金だった。マフィアが差し向けた凄腕の殺し屋の手
が彼らに迫る。息を呑む犯罪アクションの傑作。
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 9/17(木)『すべてをあなたに』 SKY MOVIES(午前1:00~)
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トム・ハンクス監督・脚本・出演作品。'60年代を舞台に、仲間同士で楽しんでいた
ロックバンドが見いだされあっという間に大人気になるが、1ヒットで解散を迎えて
しまうまでの、ちょっぴり切ない青春を描く。

                 [◆◆◆THE DAY OF BIRTH(9/12~9/18)◆◆◆]
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 9/12 モーリス・シュバリエ(1888)、イアン・ホルム(1931)、
    藤田弓子(1945)、レスリー・チャン(1956)

 9/13 ジャクリーン・ビセット(1944)、ピーター・セテラ(1944)、
    フランク・マーシャル(1946)、山崎一(1957)

 9/14 ジャック・ホーキンス(1910)、サム・ニール(1947)、安達祐美(1981)

 9/15 アガサ・クリスティ(1890)、ジャン・ルノワール(1894)、
    フェイ・レイ(1907)、オリバー・ストーン(1946)、
    トミー・リー・ジョーンズ(1946)、竹下景子(1953)

 9/16 ローレン・バコール(1924)、B・B・キング(1925)、
    ピーター・フォーク(1927)、デビッド・カッパーフィールド(1956)、
    ミッキー・ローク(1956)

 9/17 アン・バンクロフト(1931)、橋爪功(1941)、大島さと子(1959)

 9/18 グレタ・ガルボ(1905)、神谷明(1946)、うじきつよし(1957)、
    中井貴一(1961)、石橋保(1965)、濱田万葉(1974)

▼星座別オススメ映画はwebへのリンクに移行しました。
 http://www.cup.com/yoge/tarot/astro/
占い協力:TAROT-ASTROLOGY OF THE WEEK

▼MOVIE WatchのHP
 http://www.watch.impress.co.jp/movie/

----------------------------◆◆◆ 後記 ◆◆◆----------------------------
■女性割引デーをやる映画館はたくさんあるけど、吉祥寺バウスのような「カップル
割引」をもっとやってほしいな。これ絶対つかえるんだから。        <唯>

■ヒットする映画はミッド・ポイント(中盤、話がガラッと変わる部分)がはっきり
しているが、『用心棒』はそれが端的な作品─とは、あるアメリカ映画人の話。<菊>

■知人と共にラブ・コメの女王に関するバトルを展開中。果たして、メグ・ライアン
はもうその座を譲るべきなのか、はたまた、彼女は永遠なのか。あ、熱い。  <巴>

■『始皇帝暗殺』で「男の中の男」を描きたかったとチェン・カイコー。それぞれの
胸の中に生き続ける"MY BOY"、"MY GIRL"に想いを馳せるにはいい季節。    <冴>

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