◆MOVIE Watch (毎週金曜日発行:無料)─────────1998-4-10

●HEADLINE―――――――――――――――――――――――───―――――――

[MOVIE PADDOCK]
 ●出走を待ちわびる新作情報(期待値%つき!)
  ドキュメンタリーのようなフィクション?!◆『ウワサの真相』
   マット・デイモン、話題の最新作◆『レインメーカー』 ほか

[オススメROAD SHOW]
 主演俳優がゴールデングローブとアカデミーの2冠獲得!◆『恋愛小説家』
 スピード感あふれるバイオレンス描写に酔え!◆『ドーベルマン』
 ●CHECK10本!

[REVIEW/映画4人衆]
 『シーズ・ソー・ラヴリー』──「愛」それは「類まれな優しさ」

[TOPICS]
 ◆フィル・ティペット「驚愕映像の世界」展、開催 ほか

[ザ・ランキング]
 ●『タイタニック』、鑑賞100回の強者も?!

[オススメVIDEO]
 『上海の休日』──なんと素朴な、愛すべき老人と、中国の人たち
 『悪魔の囁き』──それはとても変な、そして危険な患者だった
 ●CHECK3本!

[BS&CSチェック]
 今週はこの3本!

[ESSAY]
 【映画のノイジオグラフィー(3)~音響の博物誌~】──棺桶が奏でる響き

[THE DAY OF BIRTH]

             ──●MOVIE PADDOCK●──

      出走を待ちわびる新作情報を、期待値%つきでお届けします。

■『ウワサの真相』 近日/全国東宝洋画系(期待値80%)
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大統領のセックス・トラブルをもみ消すため、ワシントンの腕利きスピン・ドクター
(もみ消し屋)とハリウッドの有名映画プロデューサーがヤラセの戦争をでっち上げ
て……。ダスティン・ホフマンとロバート・デ・ニーロがウワサの真相を暴露する?!

・OFFICIAL SITE
http://www.wag-the-dog.com/

■『JOKER 厄/病/神』 5月下旬/新宿東映パラス2他(55%)
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かつて黒社会を揺るがした男と、不治の病を抱えながらも、短い命を精一杯生きよう
とする青年。2人を覆う黒い影は、やがて壮絶なエンディングへと加速していく…。
4年ぶりのスクリーン復帰を果たした、萩原健一のハード・アクションが見物。

■『チェイシング・エイミー』 初夏/シネ・アミューズ(70%)
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『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で、マット・デイモンと共にアカデミー
賞脚本賞を受賞したベン・アフレック主演作。経験豊富でちょっと大胆な女の子と、
不器用な男の子のエロティックで繊細なラブ・ストーリー。ケヴィン・スミス監督。

■『安藤組外伝 群狼の系譜』 6月中旬/キネカ大森(55%)
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かつて安藤組組長としてその地位を築き上げた安藤昇の原作に基づき、昔気質の本物
のヤクザを、『十三人の刺客』の工藤栄一監督が、ビバルディの旋律にのせて独自の
映像美で描き出す。出演は中条きよし、萩原流行ほか。

■『レインメーカー』 近日/丸の内ピカデリー他全国松竹・東急洋画系(90%)
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理想に燃える若き法学部卒業生ルーディ(マット・デイモン)。彼の夢は一流の法律
事務所で大きな成功を納めることだったが、ある事件をきっかけに知り合った女性
(クレア・デーンズ)との愛、1人の若者との友情が彼の人生を変えていく……。

・OFFICIAL SITE
http://www.therainmaker.com/


            ──●オススメ ROAD SHOW●──

  情報誌には山ほど映画が載ってるけど、本当に面白い映画はどれだろう……?
    そんな疑問に答える耳寄り情報。この週末はこれさえ見れば大丈夫!

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主演俳優がゴールデングローブとアカデミーの2冠獲得!◆『恋愛小説家』
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4月11日より全国東宝洋画系にて公開 '97年/アメリカ/2時間18分 ◇製作・監督
・脚本:ジェームズ・L・ブルック ◇原案・脚本:マーク・アンドラス ◇出演:
ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント、グレッグ・キニア ◇配給:ソニー

 病的潔癖症で人間嫌いの作家が、子持ちのウェイトレスと恋に落ちる少し古風なロ
マンチック・コメディ。ゴールデングローブ賞での作品賞・主演男優賞・主演女優賞
受賞に加え、アカデミー賞でも主演男優賞・主演女優賞をとった作品だ。主演のニコ
ルソンがじつにチャーミングに「いやな奴」を演じている。彼に振り回されるヘレン
・ハントも、『ツイスター』のぼんやりした印象を払拭する好演ぶり。これは必見。

・OFFICIAL SITE
http://www.spe.sony.com/movies/asgoodasitgets/

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スピード感あふれるバイオレンス描写に酔え!◆『ドーベルマン』
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4月11日より公開 '97年/フランス/1時間45分 ◇監督:ヤン・クーネン ◇原作
・脚本:ジョエル・ウサン ◇出演:ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、チ
ェッキー・カリョ、アントワーヌ・バズレール ◇配給:コムストック
 ―公開劇場 シネスイッチ銀座/シネセゾン渋谷/シネマミラノ 他

 映画鑑賞の年齢制限が細分化されているアメリカでは、まず製作することが不可能
と思われる、劇画タッチのスーパー・バイオレンス・ムービー。生まれながらの強盗
ドーベルマンと、彼を執拗に追う鬼畜刑事の対決を悪党同士の戦いとして描いている。
美術、衣装、銃器の扱い、画面の急速なワイプやスクロール、CGの使用など、監督の
こだわりがびしびし伝わる内容。これはベッソンの『ニキータ』以来の衝撃だ!

●CHECK10本!

★=注目作 ★★=見て損はしない ★★★=これは必見!

■『SADA』 4月11日より全国松竹邦画系にて公開 ★
チン切りで有名な阿部定の生涯を大林宣彦監督が描く。主演は『失楽園』の黒木瞳。

■『アンナ・カレーニナ』 4月11日より有楽町スバル座他にて公開 ★★
ロシアの文豪トルストイの原作を、フランスの女優を使って描く、アメリカ映画。

■『蜘蛛の瞳』 4月11日より中野武蔵野ホールにて公開 ★
『CURE/キュア』の黒沢清監督最新作。主演は哀川翔。『蛇(へび)の道』の続編か?

■『キャリア・ガールズ』『秘密と嘘』 4月11日より下高井戸シネマにて公開 ★★
マイク・リー監督作の2本立て。人間の「情」に肉薄する、演出の切れ味の鋭さ。

■『タイタニック』 全国東宝洋画系にて公開中 ★★★
相変わらず大ヒット中ですが、間もなく『エイリアン4』に押し出されて劇場を移動。

■『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』 全国松竹東急洋画系にて公開中 ★★
感動のクライマックスは「窓ぎわのトットちゃん」と同じだと思うけどなぁ……。

■『フル・モンティ』 シャンテ・シネ他にて公開中
日本の景気もどんどん悪くなって、この映画も他人事じゃなくなってきたぞ。

■『フェイス/オフ』 4月24日まで全国東宝洋画系にて公開 ★★★
アジア系映画監督のハリウッドでの大成功は、映画史に残る快挙なのです。

■『F<エフ>』 4月17日まで全国松竹洋画系にて公開 ★★
和製ロマコメとしてはかなりイイ線いってる映画ですが、興行面では苦戦中。

■『ポストマン』 4月17日まで全国松竹東急洋画系にて公開 ★
「今年の最低映画」の烙印を押された作品ですが、見て感動する人はわりと多いです。

                           [Written by 服部弘一郎]

               ──●REVIEW/映画4人衆●──

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『シーズ・ソー・ラヴリー』──「愛」それは「類まれな優しさ」
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 故ジョン・カサベテスの脚本を、実の息子であるニック・カサベテスが、監督2作
目とは思えない見事な演出で映像化することに成功した。実生活でも夫婦のショーン
とロビンは、主人公2人の愛の過剰性を演じて、最後まで魅せてくれるし、トラボル
タも頑張った(土壇場の悪あがきが胸をつく)。しかし、この役者たちの生き生きと
した演技をここまで克明にフィルムに記録しえたのは、役者の持ち味そのままを作品
に仕上げようとする姿勢が確実に窺える、監督ニック・カサベテスの力量だろう。
 物語は、過去のジョン・カサベテスのいくつかの作品群でもとりあげられてきた、
剥きだしの愛を描いている。その愛はあまりに過剰で、観る者は時に胸がしめつけら
れ、時にこっけいさを味わいもする。えてして過剰なものは生々しく醜いものである
が、その結晶こそが「愛する」という行為だから、当然のことながら主人公の2人は
醜く、その行為は喜劇的でなければならない。このあたりがラブ・ストーリーのおも
しろさであり、本編のおもしろさも終始そこに集約されている。
 それでは、本編で語られる愛とは一体どういったものだったのか。冒頭クレジット
に「愛とは寛容ではない。類まれな優しさ」とあるが、気になるのは結末の「彼女は
どっちも愛してないんだ、彼女は夢の中の女性なんだ」というショーンのことば。こ
れは男と女の愛についての差異ということなのか。私はこう思うのだ。あらゆる価値
とはコミュニケーション(代償)によって生まれるものだが例外がある。それが愛。
人を愛するということは、類まれな優しさ、つまりそこに代償は決して介在しない
(本来は……である)。そして、そのことに自覚的なのは女、無自覚なのは男である
と。だから愛とは常に困難なものなのだ。
                           [Written by 古山 慶]

                              (満点は★5つ)

■過剰なものは醜い。しかし、だからこそ生々しく、時に切なく時に喜劇的で、そも
そもそれが人間なのだから……。結局、醜くても愛なんだよ。   ★★★★★<古>

■父、ジョン・カサベテスがかつて描いた体当たりの激しい恋愛が、脚本の中に息づ
いていた。後半もいいけど、前半の痛切さがとにかく胸に響いてる。★★★★☆<唯>

■エディの口にする「3か月」という言葉の重みが忘れられない。ただ1人を求め、求
められることの強さが、スクリーンを突き破り胸を貫く。      ★★★★★<巴>

■この世には、何とかしたくてもどうしようもないものがある。「本物」はすごい。
気持ちそのままに右往左往する人々がたまらなくいとおしい。   ★★★★★<冴>

『シーズ・ソー・ラヴリー』
http://vie.co.jp/vin/Mdata-T/asmic3.html

予告編(RealVideo)
http://www.iijnet.or.jp/ASMIK/index-Trailer.html


              ──●TOPICS●──

◆フィル・ティペット「驚愕映像の世界」展、開催
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『スターシップ・トゥルーパーズ』(ポール・バーホーベン監督)の公開にちなみ、
同作品の視覚効果を担当した、ハリウッドSFX界の第一人者、フィル・ティペットの
「驚愕映像の世界」展が、4月19日(日)まで池袋サンシャイン60展望台で開催され
ている。会場には、同作品の他、『スター・ウォーズ』『ジュラシック・パーク』
『ロボコップ』『ドラゴンハート』『フィル・ティペットのSFX工房』などのゾーン
が設けられ、展示品の中には本国アメリカでも一般公開されていないものが少なく
ない。入場料金は大人620円、子供310円、毎日午前10時から午後8時30分(最終日午
後8時)まで。

◆「OS・シネフェニックス1、2、3」オープン
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大阪のオーエス(株)は、4月25日(土)に「OS・シネフェニックス1、2、3」をオー
プンする。これは、神戸三宮センタープラザ6階の関西東映ビデオ販売(株)直営館
「神戸三宮シネ・フェニックス1、2、3」を譲り受け、一部改装の上「OS・シネフェ
ニックス1、2、3」として新たに開館するもので、最新の映写・音響設備と上映の待
ち時間にゆったりくつろげる広いロビーを特長としている。

◆『始皇帝暗殺』今秋、世界同時公開決定
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陳凱歌監督『始皇帝暗殺』(日本・中国・フランス・アメリカ合作)は今秋、丸の内
ルーブル系で公開されるが、アジア・ヨーロッパ・アメリカなどでも同時公開される
ことが決定した。同作品は、構想8年、製作費60億円、製作期間3年を費やし、中国全
土にわたるロケーションを敢行したことでも話題をよんでいる。製作には中国の北京
映画製作所、フランスのステュディオ・カナル・プラス、アメリカのソニー・ピクチ
ャーズ・クラシックス、日本の角川書店、日本ヘラルドが加わっている。


            ──●ザ・ランキング●──

  『タイタニック』のリピーターが多いのは周知の事実。だが、なんと!100回
  通った強者がオーストラリアにいたらしい。数々の記録を打ち立てた『タイタ
  ニック』も、先週末、本国では15週ぶりに“Lost in Space”に首位の座を明
   け渡した。となると、日本でもそろそろ……?  ご覧になっていない方はお早
   めに。来週の予想順位は、タイ→恋愛小説家→ビーン→グッド→トゥモロー。

  【配収】
  1 →( 1)タイタニック             (16週)
  2 →( 2)ビーン                ( 3週)
  3 →( 3)グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち ( 5週)
  4 ↑( 5)トゥモロー・ネバー・ダイ       ( 4週)
  5 ↓( 4)フェイス/オフ            ( 6週)
  6 →( 6)ドラえもん・のび太の南海大冒険    ( 5週)
  7 →( 7)フラバー                ( 2週)
  8 ↑( 9)ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ( 4週)
  9 ↑(10)マウス・ハント            ( 5週)
 10 ↑(11)HANA-BI                (11週)

 興行通信社調べ
 1998/4/4~1998/4/5(銀座・新宿・渋谷3地区代表館集計)

            ──●オススメVIDEO●──

    ◇ 日本未公開の『上海の休日』。監督は『女人、四十。』の ◇
    ◇ アン・ホイ、脚本は『非情城市』のウー・ニェンチェン。 ◇
    ◇『悪魔の囁き』には『ニキータ』のアンヌ・パリローが出演。◇

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『上海の休日』──なんと素朴な、愛すべき老人と、中国の人たち
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 上海のアパートで独り暮らしをする老人、グー。休日の養女の訪問を唯一の楽しみ
に、昨日と同じ今日を繰り返す。そこに突然、アメリカにいる息子夫婦からの電話。
彼は小学生の孫をしばらく預かることになる。炊事場共同、風呂なしのアパートに不
満だらけの孫を、最初はレストランやホテルでもてなすグーだが……。わかりやすい
素朴な展開も文化のギャップも、老人の表情が安らぎに変える。安心して温かい目に
なれる作品。

【データ】'91年/香港/1時間24分(4/17発売:東和ビデオ)
監督:アン・ホイ 脚本:ウー・ニェンチェン 音楽:チェン・ヤン
出演:ウー・マ、ウォン・コンユン、カリーナ・ラウ (日本未公開)

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『悪魔の囁き』──それはとても変な、そして危険な患者だった
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 劇場公開時のタイトルは『見憶えのある他人』。セラピストのリビエールを訪れた
小太りの男・ベルグは、妻を殺したと告白する。挑発的なベルグを不快に思いながら
も、操られるように深入りするリビエール。高額で怪しげなセラピストへの風刺もフ
ランスならではの味わいで匂わせながら、アンヌ・パリロー演じる女性患者の静かな
誘惑が冷たい運命のドラマの不条理さを彩っていく。

【データ】'96年/フランス/1時間35分(4/17発売:ポリグラム)
監督:フランシス・ジロー 出演:ダニエル・オートゥイユ、アンヌ・パリロー
原作:ジャン=ピエール・ガッテーニョ『悪魔の囁き』(扶桑社刊)

●CHECK3本!

■『ジレンマ』1時間24分/米(4/17発売:アスキービジュアルエンタテインメント)
脱獄囚(『コン・エアー』のダニー・トレホ)に相棒を殺された刑事の執念の追跡。

■『フリーズ』1時間28分/米(4/17発売:日本ヘラルド映画)
クリストファー・ランバート主演。アラスカを舞台に繰り広げられる復讐のバトル。

■『肉の蝋人形』1時間35分/伊(4/17発売:コムストック/ポニーキャニオン)
ルチオ・フルチ/ダリオ・アルジェント原作。蝋人形館での連続変死事件の恐怖。

                           [Written by 唯よーじゅ]


            ──●BS&CSチェック●──

◆今週はこの3本!                     セレクター:歩知
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 4/11(土)『ガープの世界』 NHK衛星第2(21:35~)
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暴力と性に溢れた、第二次世界大戦後のアメリカを、独特のぬくもりとやさしさで明
るく描いた秀作。ロビン・ウィリアムス、ジョン・リスゴーが好演。原作はジョン・
アーヴィングが'78年に発表した同名の自伝的ベストセラー小説。

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 4/12(日)『花嫁のパパ2』 WOWOW(18:00~)
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'91年公開『花嫁のパパ』の続編。愛する娘の結婚からやっと立ち直ったパパを襲っ
たのは娘と妻の同時妊娠。W妊婦を抱えたパパが大奮闘する、スティーブ・マーチン
主演のハートフル・コメディ。

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 4/13(月)『シャロウ・グレイブ』 スター・チャンネル(21:00~)
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『トレインスポッティング』で大ブレイクしたダニー・ボイル監督の、スピード感あ
ふれる新感覚犯罪映画。長髪のユアン・マクレガーも悪くない。インテリアなどの色
彩にも注目を。'95年イギリス・アカデミー賞イギリス映画賞受賞作品。

                    ──●ESSAY●──

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【映画のノイジオグラフィー(3)~音響の博物誌~】──棺桶が奏でる響き
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 物を作るという行為は自らの欲求を満たし、作られるであろう物への、第三者のあ
たたかい目によって強い動機づけを得る。物を作ることが一種の自己主張であるとす
るならば、人の目にまったくさらされないことを承知で面倒な作業を続けるのは、ひ
どく屈折しているか、逆に純粋な行為かであろうが、どちらにしてもひどく切ないこ
とのように思える。
 幼なじみの老女の死を葬るため、離れ小島で棺桶を作る老人の姿であれば、その切
なさもひとしおだ。『春にして君を想う』(1991年/アイスランド/フレドリック・
トール・フリドリクソン監督)のワンシーン。この老人が棺を作るにあたって板切れ
を削るところから始まる一連の物音ほど、無償の愛に満ちたものはあるまい。板をノ
コギリで切り揃え、丁寧に鉋をかけ、1本1本釘を打ち付けていく。いくら上手に作ろ
うと、それを誰もほめてはくれないし、誰の目にもとまることなく埋められてしまう
のだ。この映画は、牧歌的な歌声やオルガン、そして都会生活の騒音から離れようと
する老人の行動や暖炉の火の音、潮騒、讃美歌の引用など、音響に関する配慮の行き
とどいた秀作だが、特に、棺桶づくりから、シンセとバイオリンの音楽を挟んで埋葬
に至るまでの音響は、その美しい映像を凌ぐ出来映えであろう。
 えてして映画の中で、物音は記号としての意味を持たされてしまいがちである。黒
澤明の『用心棒』では、盛んに聞こえてくる棺桶を作る音が、今にも死者が出んとす
る宿場の緊迫した状況を表すのに利用された。音響が意味素のイニシアチブをとるこ
とで映画的な醍醐味が加わるのも確かだが、まったく純粋に、その音が裸のまま晒さ
れたときにゆらめき立つ風情も、映画のクオリティを支持するものとして重視されて
いい。意味という恩恵をさずかってしまう音響より、なんの代償もない響きにこそ心
が動かされることもある。北の国の1老人は、無欲な祈りのように棺桶を作る行為を
もって、このことを教えてくれていたような気がする。
                             [Written by 竹本穣]


         ──●THE DAY OF BIRTH(4/11~4/17)●──

 4/11 おおたか静流(?)、加山雄三(1937)、武田鉄矢(1949)、森高千里(1969)

 4/12 ハービー・ハンコック(1940)、アンディ・ガルシア(1956)

 4/13 サミュエル・ベケット(1906)、スタンリー・ドーネン(1924)、
    藤田まこと(1933)、ロン・パールマン(1950)、萬田久子(1958)、
    つみきみほ(1971)

 4/14 ジュリー・クリスティ(1941)、ロバート・カーライル(1961)、
    サラ・ミシェル・ゲラー(1977)、伊藤歩(1980)

 4/15 范文雀(1948)、 酒井和歌子(1949)、エマ・トンプソン(1959)

 4/16 アナトール・フランス(1844)、ロバート・スティグウッド(1934)

 4/17 ウィリアム・ホールデン(1918)、テオ・アンゲロプロス(1935)


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占い協力:TAROT-ASTROLOGY OF THE WEEK
 http://www.cup.com/yoge/tarot/astro/


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