通信エリア解説2013春
~2年間、良好に使えるエリアと端末を選ぼう

(2013年3月 5日)

『人口カバー率』比較はできない最近の携帯電話事情

 携帯電話の普及期には、エリアの広さを示す数値として「人口カバー率」がよく示されていたが、今はすでに人口カバー率ではエリアの充実度は比較できなくなっている。

 なぜなら、人口カバー率とは、総務省の規定によると「その市区町村の役場がエリアになっているかどうか」で判断しており、今や役場の場所くらいはエリアになっていて当然。その基準で言う人口カバー率は、どの事業者でもほぼ100%になっていると言って良いからだ。

 また、「平成の大合併」と呼ばれる市町村合併が全国的に行われた結果、エリアになっていなかった市町村が合併で消滅してしまえば、仮に実際のエリアは全く広がらなくても人口カバー率だけは合併にアップしていったことになる。

 さらに通信事業者ごとに人口カバー率の算定方法が若干異なっている。ドコモの場合は、市区町村役場だけでなく役場の全支所までもエリアになっていて初めて「カバーしている」と判断するといい、他の事業者では市区町村役場だけで判断しているところもあり、算定条件が違えば比較すらできない。

 また、auは独自に「実人口カバー率」という数値を用い、役場の場所だけでなく、実際の人口の分布に合わせたカバー率を発表しているが、他の事業者と比べようがなく、競合に対するauの優位性はわからない。

 では、携帯電話のエリアはどう判断したら良いだろうか。それは、長年の実績や評判をベースに、最新の基地局の増加情報、エリア拡大情報で判断する。そして、自分と行動範囲の近い人の最新情報を加え、最終的には自分で判断するしかないというのが、筆者の考えだ。

 後述するが、エリアは“今”の状況だけで判断してはいけない。最近のスマートフォン購入は2年間の分割払いや、回線契約が2年契約だったりすることが多い。今後2年間、安心して快適に使えるかどうかも考えなければならない。

LTEの基地局が多いのはドコモ

 それでは、現在の指標である基地局数を見てみよう。ドコモが昨年11月に発表した数値では、LTEの基地局数で見れば、東京23区、政令指定都市、中核市ともドコモの基地局が多くなっている。

 もちろん、ドコモがLTEのサービスを開始して年月が経っているということや、ユーザー数が多いという点もあるが、実際に数が多ければエリアに穴が少ないなどが期待できる。

各事業者のLTE基地局数の比較

 ドコモauソフトバンク
2GHz800MHz2GHz2GHz
東京23区2681132516081436
政令指定都市6061350225813319
中核市(人口30万人以上)271323269451701
※2012年11月、ドコモ説明会による発表数値。総務省免許許可数を元に作成

 ドコモの場合、今後のエリア展開に加え、新しい周波数の利用が始まっている。今、新端末で「100Mbps(112.5Mbps)対応」とあるのは、1.5GHz帯に対応し、新しい周波数に対応した基地局が稼働次第使えるようになっている機種。100Mbps対応端末を購入しておけば、今後の新周波数によるLTEの高速化の恩恵を受けられる。

 2012年11月現在で100Mbps対応エリアは7県10都市だが、2013年春には札幌、仙台、広島など全国50都市以上で下り最大100Mbpsのサービスが開始、順次拡大し、肝心な首都圏も2014年春には利用が開始される予定だ。

ソフトバンクのプラチナバンド基地局数

2013年1月16000(※1)
2014年3月計画数値27000(※2)
2015年3月計画数値36000(※1)
※1 2013年1月、ソフトバンク業績発表会での掲載数値
※2 2012年10月、ソフトバンク業績発表会での掲載数値

 また、ソフトバンクは900MHz帯の電波を“プラチナバンド”と呼び、基地局数や計画数値を公表している。ソフトバンクのプラチナバンドは当面、3G方式でのみ使われるため、3G通信でのエリア改善はあっても、この数値がLTEによる高速通信ができる範囲の拡大とはリンクしない点は注意が必要だ。

 一方、auのLTEエリア展開は他社とは異なり、iPhone 5の2GHz帯とその他のLTE対応Android端末や法人向けのモバイルルータが対応する800MHz帯の、2つの周波数帯を同時に展開している。2つの周波数帯を同時に整備するのは難しいはずだが、auは一気にLTEエリアを広げているようで、筆者の経験上は「LTE」と表示されることがとても多い印象だ。

現場力がものを言う携帯電話のエリア

 ここで、携帯電話のエリア化について考えてみよう。携帯電話のエリアは、地形や建物の形をシミュレートし、コンピュータで計算された候補地に基地局を配置していけばよさそうに思え、基地局の数が多ければ多いほど良さそうに感じるが、そうではない。多いにも限度がある。

 その理由として、同じ周波数に収容できる数には限度があるということ。なので、混信やデータの流れやすさを確保するためには対策が必要だ。そのひとつに多数の違う周波数が必要になってくる。その証拠に、各事業者は、周波数の確保に血眼になって努力しているのは、各ニュースが示すとおりだ。

ドコモは基地局のラインナップも複数用意している

 では、基地局をたくさん建て、周波数も確保すれば良いのかと言えばそうでもない。基地局にも種類があり、カバーする範囲の大小もあるが、カバーする方向にも種類がある。基地局の周囲360度を均一にカバーするものもあれば、何度かに区切るものもある。特にドコモはおよそ60度ずつ6方向に区切るタイプの基地局も導入している。360度全方位や3方向に分割するタイプに対して単純に2~6倍になるわけではないが、混雑の影響なしに通信・通話ができる端末数が増えることになる。

 また、基地局の配置には現場での調整が不可欠。電波もただ遠くまで届けば良いのではなく、基地局ごとに届く範囲を調整し、混信や途切れなく利用できるようにしなければならない。その調整とは、鉄塔に技術者がよじ登って、力を入れてアンテナの向きを揃えるということだけではないが、多くの人員が必要で、どれだけ優秀な調整技術者がいるか、ノウハウが蓄積されているかが鍵となる。

 実際の調整にあたっては、ユーザーの苦情や要望といったピンポイントなエリア情報も重要な情報になる。各事業者ともにエリアの改善要望の窓口が用意されているのはそのためだ。

 しかも、申告された要望どおりに改善するためにはアンテナをどう調整したらよいかなどは、非常に高度な技が必要になってくる。

 つまり、蓄積されたノウハウ、優秀な人員とそれを動かすための資金力、もちろん基地局を立てるための資金力もたくさん必要なのが、「良好なサービスエリアの実現」なのだ。

ソフトバンクはプラチナバンドで、低い周波数ほど電波が使いやすい進み方をしてくれるとしている

 余談ではあるが、ソフトバンクの“プラチナバンド”の宣伝で、900MHz帯の優位性が強調されている。低い周波数ほど電波が使いやすい進み方をしてくれるというものだが、実際にどれほどの効果があるかは意見が分かれている。しかし、プラチナバンドといえども魔法の電波ではなく、魔法のように使いやすくするためには現場の技術力次第ということも忘れてはならない。

 また、ソフトバンクはプラチナバンドでのLTEの展開は2014年以降、しかも現時点で対応端末はない。

エリアは生モノ、日々改善が必要

 一方で、エリアを維持することにも手間がかかることを忘れてはならない。一度エリアになってしまえば良いというものではなく、ビルが建てば電波が届かない場所ができる。そしてビルの中には人がいるので、その人のところまで電波を届かせないといけない。基地局を1つ配置すれば、周辺基地局を含めたエリア調整が必要になってくる。

 また、ビルは建たなくても、人が大勢集まるお店が開店すれば、多数の利用者を収容するためにエリアの再調整が必要になってくる。

 そして、基地局も機械。稼働していく中には、稼働年月の経過による劣化、外に置いておく設備だけに台風や積雪、大型の鳥によるアンテナのトラブルなどもあり、その対策も考えられる。基地局が多くなるということは、それだけ維持に手間がかかるということでもある。

 急激にエリアを拡大している事業者があったとしても、それに見合った維持管理の人員や設備、ノウハウがなければスムーズに通信できるという品質が維持しにくくなるのは想像できるだろう。急激なエリア拡大には、それを裏付けるだけのバックグラウンドが必要なのだ。

2年後まで見据えたエリア展開、そして対応端末を選ぶ

 ここで、実際にエリアの充実度をもとに携帯電話事業者を選ぶ方法を考えてみよう。最終的なエリアの判断は周囲で使っている人の情報を元に、自分で判断と最初に述べた。であれば、ドコモ、au、ソフトバンクのLTE機種を使っている人に評判を聞いてみればだいたいわかる。

 しかし、快適なサービスエリアの維持には前述のとおり、優秀なスタッフが揃い、設備投資ができ、既存基地局も新設基地局もバランスよく良好なメンテナンスができることが必須。今後2年間、同じ事業者と付き合うことを考えれば、“今”だけのエリアで考えては不十分だ。

 また、今、購入する端末も今後2年間付き合うことになる。仮に、自分が加入する通信事業者で今年末に画期的な高速サービスが始まったとしても、現在の端末でその高速サービスが使えなければ自分にはメリットは何もない。今、選ぶべきは、今、買える端末で近い将来の高速化やエリア拡大の恩恵を受けられることではないだろうか。

(正田拓也)

URL

NTTドコモ サービスエリア
http://www.nttdocomo.co.jp/support/area/
au サービスエリア
http://www.au.kddi.com/service_area/
ソフトバンク サービスエリア
http://mb.softbank.jp/mb/service_area/

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