連載:ぼくらの自由研究室

プラチナチケットに当選! 品川-名古屋間40分の超電導リニアを一足先に体験してきた!【後編】

10年ぶりとなる超電導リニア(以下、リニア)の体験乗車に参加した筆者だが、前編では、2027年に品川-名古屋間を結ぶ営業車となるL0(エルゼロ)の乗り心地や車内の様子、10cmも浮上する日本のリニアのしくみなどを紹介した。後編では、500kmの世界を実現するためのリニアのモーターや超電導磁石、2027年開業に向けての現状などをレポートしていこう。

【9分4秒】前編でも紹介したが、東京側~名古屋側まで全43kmの車内映像のノーカット版。43kmを9分で駆け抜ける!

リニアの走行はリニアモーター。要はモーターの開き

さて、リニアの浮上と案内がわかったところでいよいよ推進力。これこそが「リニアモーター」。

ふつうのモーターは、ステーターとローターの2つの部品からできている。ローターは、モーターから出ている軸につながっている部分、ステーターはローターを囲むように作られているケース内部の磁石。この2つの磁石の吸引力と反発力で、モーターは回転する。

通常のモーターと鉄道
リニアのモーター

リニアモーターは、通常は円筒状になっているモーターを、魚の開きのようにして板状にしたもの。つまり、軌道上には永遠とステーターが展開されていて、車両には開き状態になったローターがついている。

そして、軌道側のステーターに流れる電気のプラスとマイナスを周期的に変えると、軌道の磁石(コイル)のN極とS極が交互に切り替わって車両が動き出すというわけ。

推進にはリニアモーターを使っている
浮上・案内コイルの裏に、もう1枚のリニア推進用のコイルが埋め込まれている

速度はプラスとマイナスを切り替えるタイミングをどんどん早くすれば、そのぶん速く走るようになる。よく通勤電車や新幹線が発車するときに、ブーン、ビーン、キーン! とモーターのうなる音が高くなっていくが、あれがモーターのプラスとマイナスを切り替えているタイミング。

実験センターの奥にある変電施設
ここで軌道のコイルに流す電力を作り、プラスとマイナスを入れ替えている
運転はこの建物から遠隔操作で行われる

一般的な鉄道ならモーターのステーターを制御する、この回路を車両の床下に持っている。しかし、リニアの場合は、ステーターが軌道上にある。そこで、軌道上のコイルを制御する回路を、変電所が持っている。つまり、変電所からコイルに流す電気のプラスとマイナスの切り替え制御を行い、その切り替え速度も変電所で調整するのだ。そのためリニアに「運転席(台)」に相当するものはない。

リニアには運転席がない! ただし、緊急時のために、車掌室のような小さな小部屋があり、システムなどをモニターできるようになっている

リニアの体験乗車のあとで、先頭車の撮影ができるタイミングがあるのだが、みなさん「運転席はどこだ?」と探しているようだ。しかし、試作機のMLX01にも、営業運転用のL0系も運転席は存在しない。

ちなみに、変電所で制御を行っているが、ここにも運転席と呼ばれるものがない。運転はすべてコンピュータによって行われ、そのほかの運行管理システムなどと連携して、リニアは時間どおりに運行されるのだ。

一定区間ごとに担当する変電所を持つ
同一変電所が担当する区間に2本の列車が入らないように安全システムを構築
隣の変電所に列車を引き渡す場合は、速度情報などを引き渡しスムーズにリニアモーターの制御を連携する

なお、「永遠に続くステーターを軌道に展開して」と説明したが、ステーターをある区間ごとに区切って、それぞれに変電所による制御を行うようになっている。こうすることで、先行区間に車両が走っている場合は、その手前の区間では減速・停止して、同一区間に複数の列車が入らないようになっている。

逆に先行区間に車両がいない場合は、その手前の区間を制御する変電所からコントロール情報が引き渡され、区間をまたいだ瞬間にも同じ速度で走るように、コントロールされる。この方式はすでにJR各社から私鉄でも採用されている方式で、高い安全性を確保できる運行・信号システムとなっている。

運転台もなく、変電所で車両をコントロールするリニアは、軌道に信号はないが、データの信号が変電所間をハンドオーバーして制御しているのだ。

超強力な磁石は超電導という不思議な物理現象

ここまで「車両側の磁石」と一言で済ませてしまっていた磁石だが、じつは、この車両側の磁石こそ、日本が世界に誇る最先端技術を詰め込んだ「超電導磁石」だ。

電磁石の一種だが「超電導」にすることで超強力電磁石になる。すでに実用化している上海トランスラピッドは、ふつうの電磁石を使っているので力が弱く8mmしか車体を浮上できない。数年前に開催された愛・地球博で話題になったリニモも同様で、乗客が多すぎて浮上できないなんてエピソードもある。しかし、超電導磁石は100mmも浮上できる。

その違いが「超電導」だ。超電導たる由来は、特定の合金を超低温に冷やすと、ある温度を境に電気抵抗がゼロになるという「超電導」状態になるしくみを使っているからだ。

数十年前の超電導磁石。上部には-270℃にするための液体ヘリウムを貯蔵しておくタンクが搭載されている
-270℃まで冷やさなくても、-253℃という高温(-270℃に比べると・笑)でも超電導状態になる新型超電導磁石

エナメル線などの銅線を使った電磁石は、電池をつないでいる間だけ磁石になる。強い磁石にしたい場合は、よりたくさんの電気を流せばいいのだが、ひとつ問題がある。銅線には抵抗があるので、あまりたくさんの電気を流すと、電線が熱を持って燃え(溶け)てしまうのだ。

銅線で作ったコイルに大電流を流すと、電線自体の抵抗で燃えてしまう

その一方で、ニオブとチタンという金属で作った電磁石を、液体ヘリウムなどで-270℃(宇宙においてもそれ以上温度が下がらない絶対的な零度(-273℃))近くまで冷却すると、抵抗がゼロになる。ここに電池をつなぐと、抵抗がゼロなので、電池を外しても一度流れた電気がずっと流れたままの状態になるのだ。これによって、通常の電磁石には流せない電気を流すことができ、それによって強力な電磁石ができるというわけだ。しかも、外から電力を供給するとこなく、一度流した電気がそのまま流れ続け、ずっと電磁石として機能する。

特定の金属を極低温に冷やすと、抵抗がゼロになる。これを超電導状態という。より高い温度で超電導になる金属を科学者は模索中だ

リニアは、この超電導を使った電磁石を使っているのだ。

しかし、モノを-270℃近くまで冷やすというのは、非常に難しいこと。20℃ぐらいの地上を走行していると、絶対零度(-273℃)からしてみれば300℃の灼熱地獄。液体ヘリウムはどんどん温度が上がって気化してしまうので、冷凍機を使って液体ヘリウムを冷やし、気化を抑えなければならないのだ。現在は冷凍機の技術が進歩し、直接冷凍機でコイルを冷却しているようだ。

リニアには世界最先端技術が採用されているので、スペックが明らかにされていないが、近年では安価な液体窒素で冷却できる196℃でも超電導状態になる合金なども発見されているので、車両の磁石も営業運転時までにさらに改良されるだろう。

2027年開業を目指し、開発最終段階でブラッシュアップ

遠い未来の夢の乗り物かと思っていたリニア。しかし、実際に試乗ができ、営業時と同じ時速500kmを体験できるところまで、実現化されている。しかも、10年後の2027年の開業に向けて、すでに建設は着工開始済み。品川-名古屋間の工事費は5兆5千億円にという試算だ。桁が多すぎて感覚がわからないが、鉄道建設にしては多額というのは理解できる。

ブラッシュアップも進んでいる

しかし、軌道に接触せず宙に浮いた状態で走行するリニアは、レールや車輪(低速走行車輪のみ交換必要)が磨り減ることもなく、電気を架線からパンタグラフで集電することもない。

初期投資はかかるが、交換が必要な部品が少ないというのもリニアの特徴だ。

いちばん数が必要になる軌道に設置するコイルの改良も進み、より安く簡単に取り付けられ、メンテナンスが少なくて済むものを、営業線向けに開発中という。

山間部をトンネルで貫くため、海沿いを走る新幹線のような車窓は期待できないが、名古屋-品川間を現在の1時間半から40分に短縮できる。これなら一杯飲みながら名古屋メシをたらふく食べても、都内の感覚で帰宅できる。また、名古屋からちょっと足を伸ばして、伊勢志摩、奈良、高山方面へのアクセスが便利になるだろう。

赤い線が中央新幹線(リニア)の路線図。地図を見てわかるとおり山間部をトンネルで貫き、都市部は大深度地下を走行する。山梨実験線(およそ43km)は、そのまま営業運転用の路線として使われる

また、大阪までの延伸は当初2045年としていたが、最速で8年前倒しの2037年をメド(政府の低金利融資のメドがついたため)に変更。JR東海のリニアに対する入れ込み具合がよくわかる。

東海道新幹線は、もはや山手線なみにダイヤがパンパン。しかも、そこにはのぞみ、ひかり、こだまと複雑な追い越しがある。

赤が実験センターで、右が東京側。左側は名古屋方面。JRでもトップを競うほどの急勾配があったり、ほとんどがトンネルという実用化に着目した実験線になっている

とはいえ、都合のいい時間帯は東京-新大阪間はいつも満席。素人目に見ても、キャパシティをオーバーしているのがわかる。

リニアの開業で移動手段の選択がさらに広がり、ビジネスに観光に、いろいろと便利になるだろう。

藤山哲人