2019年2月21日、楽天と中国の大手ECサイトを運営する京東集団は、日本国内の無人配送ソリューション構築に向けて、連携を進めると発表。今後楽天が自社の配送サービスで利用する京東製のドローンとUGVを報道関係者に披露した。

 楽天は2016年5月からドローンを使った配送を開始し、同11月には携帯電話網を使った都市部でのドローン配送実験をNTTドコモ、自律制御システム研究所と共同で実施。2017年10月には福島県南相馬市でローソンと共同で配送実験を開始し、同10月にはドローンと屋内配送ロボットを組み合わせた配送実験を行うなど、ECサイト「楽天市場」を運営する同社だけに、ドローンを使った物流の中でも、とりわけ“配送”分野にこだわった技術の開発を続けている。そして今年1月には国内2例目となる補助者なしの目視外飛行によるドローン配送実験を実施し、いよいよ次のステップとして社会実装が見えてきている。このように楽天がこれまで積み上げてきたドローン配送が、いよいよ実装段階へと移る中で、そのソリューションのひとつとして白羽の矢を立てたのが京東集団である。

 京東集団は「京東商城(JD.com)」を運営する中国大手のECサービス企業だ。2015年にはドローンの開発に着手し、無人倉庫、無人配送車、ドローン、スマートリテールといった、無人配送サービスの技術開発を行う京東X事業部を設立。2016年には江蘇省、陝西省とそのほかの省の農村部で世界初となるドローンを用いた商用配送を開始し、これまでに43万分以上の無事故飛行実績と、130トンの配送実績を積み重ねている。現在、陝西、青海、福建、海南、江蘇、広東、広西、四川の8省に常設のドローン配送拠点を設けており、2019年1月からはインドネシアで政府承認のドローン飛行試験を実施するなど、その展開をアジアに広げつつある。

京東X事業部は、ドローンや地上配送ロボット、無人仕分けセンターや無人配送センター、無人配送ステーションなど、物流の省人化を進めている。

 さらに、2016年4月から無人運転や配送ロボットの開発にも着手。これまでに4世代の配送ロボットを開発しており、2017年には複数の大学構内や一部の都市の住宅地などで、ロボットを使った配送サービスを実施している。2018年には世界初のロボット自動配送ステーションや自動配送センターを開設するなど、京東集団によると配送ロボットはスマートシティのインフラのひとつになりつつあるという。

 こうしたドローンや配送ロボットの実績を重ねる京東集団と楽天は2018年1月から連携への模索を開始。そのひとつの成果として、楽天が日本国内で構築する無人配送ソリューションに、京東のドローンと地上配送ロボットを導入することとなった。
 今回公開された配送用ドローンは幅160cm、高さ60cmの二重反転式6ローターマルチコプターで、最大5kgの荷物を搭載して約40分、16kmの距離を飛行可能としている。

楽天が導入を予定している京東集団の配送用ドローン。日本では珍しいローターアームが3つの二重反転式6ローターマルチコプターだ。
荷物は機体の下面に専用の段ボールを吊り下げる形で搭載する。
楽天が導入する京東集団のドローンのスペック。最長16km、最大40分の飛行が可能。
京東集団のドローンを活用した楽天のドローン配送サービスのイメージ動画。

 地上配送ロボットは縦171.5cm、幅75cm、高さ160cm(上部センサーを含む)のスクエアな車体に4つの車輪を持つUGVで、最大積載量50kgという貨物スペースは、側面から引き出して出し入れする形の15の引出し状となっている。最大走行速度は15km/hで、センサーからの情報をもとに周囲の状況に応じて速度の調節が可能だ。

 発表会当日は記者会見場を約2km/hの速度で走行し、安藤公二楽天常務執行役員と肖軍京東集団副総裁兼X事業部総裁の前に停車。安藤氏が車体後面のディスプレイにパスキーを入力し、側面に開いた貨物スペースから荷物を取り出すと、肖氏に手渡すというデモンストレーションが行われた。

楽天の地上配送ロボット。バスを模したようなスタイルで、前面ガラスの部分には「配送中」の文字が表示されている。
天面にはレーザースキャナを搭載し、周囲の状況を検知する。
側面には15の引出し上のカーゴスペースを備えている。
車体後面のタッチパネルディスプレイにPINコードの入力画面を表示。
地上配送ロボットのサービスは楽天のスマホアプリと連携。注文後に送られてくるPINコードをUGVに入力して荷物を受け取るほか、UGVの走行位置が地図上でわかるといった機能がある。
楽天が導入する京東集団の地上配送ロボットのスペック。最大50kgの荷物を搭載して、最高速度15km/hでの走行が可能。
会場内をゆっくりと走行する楽天の地上配送ロボット。最高速度は15km/hだが、この日は走行スペースに合わせて2km/hで走行している。

 発表会後の質疑応答で、現在、京東集団が行っているドローン配送サービスの採算や料金について「(配送することの)料金は取っていない」(肖氏)と説明。中国ではクルマでさえもたどり着けないような山間の農村地域が多く、そういった交通アクセスの悪い地域への配送はどうしても物流コストが高くなってしまう。空中を飛ぶドローンはそうした地域への物流を100%カバーできるといい、まずはドローンによる配送を常態化し、次の段階でより大型のドローンや長距離を飛行可能なドローンによる配送を実現していきたいと肖氏は説明した。

京東集団副総裁兼X事業部総裁の肖軍氏。

 楽天のドローン配送サービスの開発においては、当初から自律制御システム研究所(ACSL)のドローンを採用してきたが、今後はシーンに応じて最適なものを活用すると安藤氏は説明。また、今回導入する京東集団のドローンと地上配送ロボットの実用化時期については未定とするものの、ドローンについては2019年内に次のステップについて案内をしたいとしている。しかし、地上配送ロボットについては、現在の法規制では公道を走ることができない。そのため私有地といった限定的な環境で、サービスの実証実験などを行っていくという。

楽天常務執行役員の安藤公二氏。

 また、楽天はこれまでさまざまな形でドローン配送に向けた実証実験、試験サービスを行ってきた。その上で2019年に目指すのは定期運航だと、向井秀明楽天ドローン・UGV事業部ジェネラルマネージャーは説明。ドローン配送をオペレーションするスタッフを育てて、定期的な運航を行うサービスとして成り立つような体制を構築し、「送料をいただいたりするようなサービスらしい形を目指すのが2019年の目標」(向井氏)という。

楽天ドローン・UGV事業部ジェネラルマネージャーの向井秀明氏。