千葉県千葉市の幕張メッセで3月13日から15日の3日間にわたって開催されたドローンの祭典「Japan Drone 2019」。2018年は補助者なしの目視外飛行による物流用途での利用が実用化段階に移るなど、ドローンの社会実装がさらに進んだ一年となった。2019年は農業分野や点検分野での法規制が変わり、さらにドローンの利活用シーンが増えることが見込まれている。今回のJapan Drone 2019では、こうした流れを受けて、より実用的なハードウエアの展示が数多く見られた。

エアロネクスト

 エアロネクストは独自で開発し特許も取得している重心制御技術「4D Gravity」を駆使した独創的なドローン開発を行っている。そんな同社のブースで来場者の目を引いていたのがカーボン製の翼を持つVTOL機だ。「Next VTOL」と名付けられたこのVTOL機は2枚の主翼と4枚の尾翼を備え、4つのローターが離着陸時の上昇下降と、水平飛行時の推進力を生み出す。

 離着陸時は4つのローターを上にしたスタイルで上昇下降を行う一方、水平飛行時は機体が複葉機のように見える形となり、主翼の浮力も使って飛行するため、長時間の飛行が可能となる。貨物は機体の4本のフレームの中央に搭載するつくりとなっており、搭載部には飛行姿勢に応じて貨物を移動させて重心を最適化する機構を採用。これにより「強風下での離着陸が可能」(鈴木陽一CTO)となっており、今後さらに開発を進め、将来的には1枚の主翼と1つのローターでも同じスタイルで実現が可能だという。

2枚の主翼と4枚の尾翼を持つ独特の姿を見せる「Next VTOL」。巡航時は機体を90度寝かせた複葉機となる。荷物は機体中央のレール部に搭載し、適切な重心位置に移動させることで安定した飛行を実現する。
NextVRのデモ動画。

 さらにエアロネクストではJapan Drone 2019に先駆けて、「4D Gravity」を採用した「Next」シリーズの量産に向けて、岡山県岡山市の農業機械製造大手の小橋工業との業務提携を発表している。この量産に向けた取り組みの一環として、「Next DELIVERY」の量産試作機と、「Next VR」の新しい試作機を公開していた。

物流用ドローン「Next DELIVERY」の量産試作機。2019年春には大手物流企業と協力し、日本発の都市部での配送実証実験を行うとしている。
機体を貫通する垂直のステーの上下端にカメラを搭載し、安定したVR撮影が行える「Next VR mini」。2018年公開時のものより小型となり、離着陸時に展開する脚を装備している。

センシンロボティクス

 センシンロボティクスでは近年、全自動ドローン運用サービス「DRONEBOX」を展開してきたが、今回のJapan Drone 2019では、新たに自社で開発した「SENSYN DRONE HUB」を公開した。これはドローンの機体、自動離発着や充電を行う基地、そして制御ソフトウエアと業務アプリケーションが一体となったもので、大規模な工場の警備監視や定期的な設備点検といった用途に向けて開発されたソリューションだ。

 機体は対角約75cmのクワッドコプターで、IP54相当の防水性能を備え、1時間の充電で約30分の飛行が可能。そしてこのドローンの基地は縦横約2m弱の開閉式フードを備えたヘリポートで、機体の脚を介して充電ができる端子も備えている。同社ではこのDRONE HUBに加えて、先ごろ発表した顧客業務自動化統合プラットフォーム「SENSYN FLIGHT CORE」と「SENSYN DC(ドローンコミュニケーションサービス)」と組み合わせることで、遠隔地からの監視といった定期的なミッションを自動的に行うサービスを展開するとしている。

DRONE HUBを前面に打ち出したセンシンロボティクスのブース。
開閉式のフードを備えたDRONE HUBのドローン基地。
独自に開発した専用のクワッドコプター。着陸時は基地の端子から脚部を通じて充電が可能としている。

マクセル

 ドローン用バッテリーを開発・製造するマクセルは、前回に続いてドローン用インテリジェントリチウムイオン電池パックを展示。同社のこのバッテリーは高出力の角型リチウムイオン電池を使用した127Whの電池パックで、日本国内のドローンメーカーの多くに採用されている。今回の出展では新たにナイルワークスが2019年度から本格的に販売を開始する農業用ドローン「Nile-T18」用のバッテリーを公開した。

 さらにこのバッテリーの展示に合わせて、ナイルワークス、ダイハツと共同で農業用ドローンの新しい形を提案。ダイハツの軽トラック「ハイゼット」にNile-T18と予備バッテリー等を搭載したこのパッケージは、RTK-GPSによって軽トラックの荷台に設けたヘリポートから直接離着陸ができる。これにより農業用ドローンを運用するうえで作業者の負担となる機体の積み下ろしを省くことを実現した。

 またマクセルでは技術ロードマップを公開し、その中に全固体電池を盛り込んだ。従来のリチウムイオン電池に比べて10倍程度の出力が見込めることと、固体電解質は燃えにくくいため、ドローン用の電源としても大きな期待が寄せられている。今後4~5年後の製品化を目指して開発を進めている。

マクセルのバッテリーを採用した日本国内のドローンをずらりと展示した同社のブース。
現在、ドローン用のバッテリーとして展開しているインテリジェントリチウムイオン電池パックと4チャンネル対応充電器。角型缶のリチウムイオンバッテリーの中ではドローン用として高出力を実現している。
ナイルワークスのNile-T18用に開発した12セル1Pバッテリー。今後汎用化を目指しているという。
ナイルワークス、ダイハツとコラボレーションした「ハイゼットVer.Drone Concept」。マクセル製バッテリーを採用したナイルワークスのNile-T18と予備バッテリー、薬液タンクをダイハツの「ハイゼット」軽トラックに搭載。車体にRTK基地局も搭載している。

テラ・ラボ

 愛知県春日井市の研究開発型ベンチャー、テラ・ラボは2018年8月に北海道大樹町で実施した連続100km自動航行試験で使った固定翼機「TERRA-EG-4000」を展示していた。同機は翼長4000mmのエンジン機で、人工衛星を経由して地上と通信を行うもので、2018年8月の長距離飛行実験では、燃料3lを搭載した同機が大樹町の滑走路を離陸し、約3000mの周回経路を30周以上周回することで、約100kmという長距離を飛行した。今後も同機は、大規模災害発生直後の人命救助と救援・復旧作業のために、被災地情報を収集・分析する目的で研究開発が進められる。

長距離無人航空機「TERRA-RG-4000」。エンジンの推力で飛行し、約5~10時間の飛行が可能

IE Japan

 英国のIntelligent Energy社は、ドローン用燃料電池セルを出展していた。同社は自動車用や定置用電源、ドローンといった用途に燃料電池を開発しており、2006年からはスズキと燃料電池スクーターの共同開発を行っており、2017年には公道走行を実現している。今回出展したドローン用燃料電池は650Wものが790g、800Wのものが880gと極めて小型軽量な燃料電池セルとなっている。燃料電池の燃料となる水素は高圧タンクから供給され、今回展示した約4.7lのタンクには約300気圧をかけて充填することで、約70分程度の飛行が可能となっている。

DJIのMatrice600に850Wのモジュール2機を搭載した機体を展示。水素のタンクはアルミとFRPもしくはカーボンファイバーの複合素材を使用している。
800W(左)と650W(右)の燃料電池セル。価格は120~150万円。

TOHASEN/日本化薬

 2018年度から本格的に始まった補助者なしの目視外飛行。その航空法の許可・承認の要件の中で求められている、不測の事態、特に墜落時への対応策として効果が見込まれるのがパラシュートだ。Japan Drone 2019ではそんなパラシュートの製品や開発に関する出展も見られた。

 DJI製ドローンの販売を手掛けるTOHASEN(リサイクルポイント東京)では、イスラエルのParaZero社が開発したドローン用パラシュート「SafeAir Phantom」を展示。これはDJIのPantom4の上面に取り付けるだけで利用可能なパラシュートシステムで、機体と電気的に接続したりする必要がない、極めてシンプルな取り扱いが特徴だ。本機が機体の異常を検知すると自動的にパラシュートを展開。興味深いのは、展開時に本体を半回転させることでその足がプロペラの回転を強制的に停止させ、パラシュートの絡み合いや、地上で人に裂傷などの危害を与えることを防ぐことができるという。すでにTohasen Storeで販売を開始しており、価格は税込み49,800円。

パラシュートを展開させた状態の「SafeAir Phantom」。
開発中のMavic2用モデル。Phantom4同様、展開時には本体が45度回転することで、4本のツメがプロペラの回転を強制的に停止させる。

 また、自動車用エアバッグのインフレーター等を製造している日本化薬は、現在開発中の産業用大型ドローンに対応した火薬式安全装置「Para-Safe」を披露していた。こちらもドローンに搭載するだけで、独自にドローンの落下を検知し、火薬によってパラシュートを展開し、落下速度を減速させるというもの。総重量5~25kgのドローン向けのものとさらに大きな機体向けのものを開発しており、2021年以降の製品化を予定している。

5~25kg用の「PCR12-A001」(左)と100kg以下の機体向けの「PCR40-A001」(右)。

スペースワン/ROVファン

 Japan Drone 2019では飛行型ドローンに加えて、複数の水中型ドローンの出展があり、この市場の盛り上がりを象徴していた。中国CHASING INNOVATION社の水中ドローン「GLADIUS」シリーズを扱うスペースワンは、最新の「GLADIUS mini」を展示。小型ながら最大深度100mを実現し、5つのスラスターを備えていることで最大45°の仰俯角を維持したまま潜航・浮上が可能となっている。またスペースワンではこのGLADIUS miniを使った水中ドローンスクール「GLADIUS CAMP」を開講し、水中事業の人材育成についても紹介していた。

スペースワンのブースでは水槽を設置。仰俯角を付けての潜航浮上が可能な「GLADIUS mini」のチルトロックモードを披露していた。

 また、仙台を拠点に水中ドローンによる調査や点検を行っているROVファン(チック)では、BlueROV2を使った業務を紹介。同社では数年前から水中ドローンを使った業務を手掛けており、その運用や画像解析といった技術を蓄積している。また、米Blue Robotics社と連携をしながら、BlueROV2の定期的な点検や修理といったサポート技術の高さをアピールしていた。

産業用水中ドローンとして運用実績の高い米Blue Robotics社のBlueROV2。ROVファンでは100mテザーケーブルや1500ルーメンのLEDライト4灯などをセットにして販売している。