ドローンジャーナル

5年後には事業化を目指す“空飛ぶクルマ”

-今後のロードマップを取りまとめた「第4回空の移動革命に向けた官民協議会」-

 経済産業省と国土交通省は2018年12月20日、「第4回空の移動革命に向けた官民協議会」を東京都内で開催し、これまでに3回にわたって協議会で議論されてきた内容を「ロードマップ」として取りまとめた。現在、さまざまな民間企業や団体が、人を乗せて空を移動する“空飛ぶクルマ”の研究開発や実証実験に取り組んでいるが、この協議会はこうした“民”の取り組みと、それを支援し、制度を整備する“官”がしなければならないことを示すロードマップを作るために2018年8月に発足した。
 8月の第1回以降、10月に第2回、11月に第3回と会議を重ねてきたこの官民協議会。航空機メーカー、ドローンメーカー、航空会社、航空サービス企業、物流会社といった民間企業と、大学、研究機関、政府などからなる構成員が現状や課題などを発表。3回目ではロードマップの素案をもとに議論し、第4回となる今回はこのロードマップを取りまとめる形で今年度の協議会を締めることとなった。

今回の会議で取りまとめられた「空の移動革命に向けたロードマップ」。

 冒頭、国土交通省航空局安全企画課の新垣慶太課長と、経済産業省製造産業局総務課の三上健治デジタル戦略官から、今回取りまとめるロードマップについての説明が行われた。第3回で掲げられたロードマップの素案から今回の取りまとめ案に書き加えられた大きなポイントは、2020年代半ばとなっていた事業スタートが2023年と明確にされたことだ。これは多くの事業者が同年に少数の台数で事業化すると明言していることを受けての表現だという。

 また、制度や体制の整備では、試験飛行のための離着陸場所・空域に加えて、電波についても既存の航空機のそれと整合を図りながら調整・整備が必要と指摘。あわせて来年度からの試験飛行・実証実験を受けて、2023年の事業化以降に総合的な運航管理サービスの提供と拡充を求めている。これには「技術開発に応じた空の交通ルールの検討」という項目も付け加えられている。また、機体や技術の開発面においても、多数機の運航管理・衝突回避等のための高度な操縦支援や遠隔操縦時術の確立が、2020年代半ばの事業化以降の期間に盛り込まれている。

 さらに、「こうした空飛ぶクルマが社会的に受容されるためには、安全や騒音対策に加えて、保険加入や被害者救済ルールの整備が必要」だと国交省の新垣氏。また、福島ロボットテストフィールドを試験飛行の拠点として整備や、2020年代の事業化フェーズでは新たなビジネスモデルに応じたヘリポート等の確保といった、環境面の整備を付け加えたことを説明した。

社会ニーズから浮かび上がる空飛ぶクルマへの期待

 会議の前半ではロードマップの取りまとめにあたり、協議会メンバーの中からロードマップを遂行していく“決意表明”のようなものとして5人の構成員がそれぞれの取り組みを発表した。その一人であるDRONE FUNDの千葉功太郎氏は、SKYDRIVEが提唱するローカル&アーバンモビリティとリージョナルジェットを組み合わせた構想を発表。千葉氏はこの日午前中にホンダが2015年から販売を開始した小型ビジネスジェット機「ホンダジェット・エリート」の日本で最初のオーナーのひとりになったことを披露し、こうしたビジネスジェットと空飛ぶクルマを組み合わせることで、「日本中の点から点への移動をすべて空でつなぐことができる」(千葉氏)と提唱。日本におけるジェネラルアビエーションのあり方に一石を投じていきたいと意気込みを述べた。

リージョナルジェットと空飛ぶクルマを組み合わせた空の移動革命を提唱したDRONE FUNDの千葉功太郎氏。

 また、東京大学大学院教授の鈴木真二氏は、「空の移動革命を実現するには、従来のヘリコプターをハイブリッド化、マルチローター化して、安全性を高めながらコストを抑えることが必要」だと訴えた。空飛ぶクルマといわれるこの新しい乗り物が社会に受容されるためには、ヘリコプターの2倍以上の安全性、自動車のように運転が簡単、整備も10倍以上簡単、運用コストも10分の1で、騒音も4分の1という水準を目指すことが必要だと付け加えた。

「電動、ハイブリッドの機体の安全性をどう証明するか。そのために有人の航空機でも十数年かかる技術認証の制度を急ぎ整備する必要がある」と訴える、鈴木真二東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授。

 慶應義塾大学大学院教授の中野冠氏は、ステークスホルダーのインタビューという研究テーマの観点から、「ドローンとは違って人が乗る乗り物であることから、どういうサービスやビジネスに社会的なニーズがあるかということを考える必要がある」と説く。タクシー会社、災害救助関係者、フライトドクター、離島診療所の医師、小学校教諭、過疎地の公共団体関係者などに、空飛ぶクルマへの期待と課題を聞いて回ったという。その中から安全性はもちろん、飛行の保証や騒音・ダウンウォッシュの軽減といったユーザーから見た要求項目を紹介した。

ユーザーから見た空飛ぶクルマへの要求項目を説明する、中野冠慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。機関停止時にオートローテーションで着陸が可能なヘリコプターに対して、電動の空飛ぶクルマはパラシュートやエアバッグといったそれに代わる損害回避方法が必要だと紹介。また、急患輸送の3分の2を占める夜間の飛行のために、自動飛行や騒音対策も必要だと訴えた。

 「事業化、制度、技術開発の3つが並行して進むことと、2020年代前半に事業化するというスピード感ある計画ということに意義を感じている」と、ロードマップの取りまとめ案に対して感想を述べたのはJAXAの理事であり航空技術部門長の佐野久氏。JAXAでは産官学連携の航空機電動化コンソーシアムを立ち上げ、航空機を電動化することで、航空機から排出される二酸化炭素の削減を目指した取り組みを行っており、「空飛ぶクルマは航空機電動化の初期の段階における社会実装先である」と説明した。

佐野久JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構) 理事・航空技術部門長は、「これまで新しい技術ができると、それを使って事業が始まり、制度ができていくというシーケンシャルな流れだったものが、このロードマップでは3つがパラレルに進む計画となっている」と評した。

多くのプレーヤーがロードマップの後押しを表明

 今回の協議会では冒頭でプレゼンテーションを行った5人の他にも、ロードマップの取りまとめ案や今後の進め方についての意見を述べる機会が与えられた。その中でCARTIVATORの中村翼氏は「この協議会は今回でロードマップを取りまとめたことになるが、今後も色々なレイヤーの人が議論できる場を、半年に1回のように定期的に開いていくことが必要」だと訴えた。また、楽天の向井秀明氏は「楽天はドローンで物流にイノベーションを起こそうとしており、2019年も無人航空機を使った物流を推進していきたい。そこから得られるものを空飛ぶクルマにフォードバックしていきたい」と表明。

中村翼CATIVATOR共同代表。
向井秀明楽天新サービス開発カンパニードローン事業部ジェネラルマネージャー。

 さらにANAホールディングスの津田佳明氏は、「ANAは空飛ぶクルマの機体やシステムを開発することはないが、これまで60年以上に渡って培ってきた旅客機を安全にオペレーションするノウハウは空飛ぶクルマに生かせる。今後実証実験に参加したり、制度設計に役立ててもらいたい」と述べ、さらに、「空飛ぶクルマの社会受容には安全性を担保するだけでなくニーズを作っていかなければならない。地域の人にとって魅力的なサービスを作り上げ、そういうサービスが欲しいという声が上がってくれば、制度設計のフェーズも上げやすくなる。そのため実証実験は地元を巻き込みながら、ニーズを喚起していった方がいい」と提案した。

「ニーズを作っていくことで空飛ぶクルマを社会が受け入れるようになる」と話す、津田佳明ANAホールディングスデジタルデザインラボチーフディレクター。

 また、経済産業省の広瀬直氏は「2019年からの試験飛行の場所としては、東京・大阪・三重や福島ロボットテストフィールドに加えて、その他の自治体も検討を始めている。経産省としてはまずはこうした試験を行いたい事業者と自治体のマッチングを行っていきたい」と説明すると同時に、「空飛ぶクルマに関しては海外にもいろいろなアイデアがあり、そうした海外との連携が大事。来年度には空飛ぶクルマの国際会議を開催し、先行する海外の企業や関係機関との議論を通じて、国際的な連携を高める方策を考えていきたい」と意欲を示した。

「ロードマップに基づいて、色々な事業者や自治体、アカデミアといったプレーヤーにコラボしてもらうと同時に、さまざまな政策会議を開いていきたい」と話す広瀬直経済産業省製造産業局審議官。

 最期に事務局である国土交通省と経済産業省を代表して各省の大臣が挨拶。国土交通省を代表して石井啓一国土交通大臣は「世界に先駆けた空飛ぶクルマの実現のためには、技術開発やビジネスモデルの確立、制度や体制の整備等を官民足並みそろえて進めていくことが重要」と述べた。また、世耕弘成経済産業大臣は「空飛ぶクルマに関するロードマップを発表するのは世界初の試みであり、2019年の試験飛行、2023年の実用化という野心的な目標を盛り込んだロードマップを取りまとめたことは大きな第一歩である」と述べたうえで、「空飛ぶクルマは単なる移動手段にとどまらない大きな意義が二つある。ひとつは社会課題の解決に大きく寄与すること。もうひとつは日本の将来産業のロールモデルになるということ。そのため、このロードマップを絵に描いた餅にしてはならない。経産省は国交省と共に2023年事業化の目標達成に向けて、これらの課題解決に取り組んでいきたい」と述べた。

「それぞれの分野の取り組みが、初めて共通認識として形になったものが本日取りまとめたロードマップ」だと話す石井啓一国土交通大臣。
「空飛ぶ未開の市場で日本がプレゼンスを示すことができれば、国内の事業者にとって勝ち筋をつかむロールモデルになる」と話す世耕弘成経済産業大臣。
今回のロードマップの取りまとめに合わせて、経済産業省が空飛ぶクルマがもたらす未来の社会や生活をえがいた動画「さあ、空を走ろう。」を公開した。