2018年6月25日、神奈川県藤沢市の神奈川県立湘南海岸公園で「湘南UAVデモンストレーション2018」が開催された。このイベントは慶應義塾大学のドローン共創コンソーシアムが中心となって開催する、日本初の産業用ドローンを対象にした屋外デモンストレーションだ。当日はトランジェクトリー、日本サーキット(J DRONE)、Drone Future Aviation、フジ・インバックの4社が最新のドローンを出展し、実際に湘南海岸でフライトを披露。ドローンに関心を持つ公官庁や企業の関係者ら120名を超える来場者を前に、日本初お目見えとなる海外製ドローンをはじめ、普段はあまり見ることができない大型産業用ドローンの飛行デモンストレーションを行った。

湘南UAVデモンストレーション2018の会場雰囲気

イスラエルの軍事・警察向けドローン「G2」

 最初にフライトデモンストレーションを行ったのは、航空管制システム開発に携わってきた小関賢次氏が今年3月に創業したトランジェクトリー。同社が持ちこんだイスラエルのエアロセンチネル社製「G2」は、ライトグレーの流麗なフェアリングを纏った60cm四方のクワッドコプターだ。機体下部に可視光と赤外線のカメラを2軸ジンバルを介して搭載しており、地上のグランドステーションからのコントロールによって、最大4km離れた場所から、カメラが撮影した映像を伝送する。

エアロセンチネル社の「G2」。軍事用として開発されただけあって、マットグレーの機体色は空に溶け込んで被視認性が低い。
G2飛行の様子

 プロペラも含めてマットグレーに仕立てられたこのG2は、すでにイスラエルの軍隊や警察で偵察活動などに使用されている。カメラが撮影する敵やテロリストに近づくと、逆に撃ち落とされる可能性があるため、なるべく遠くから被写体を撮影できるよう、可視光で40倍、赤外線でも16倍という光学ズーム機能を搭載。トランジェクトリーの説明によると、現在、市販のドローンに搭載されている赤外線カメラで16倍ズームのもつものは希少だという。

2軸ジンバルを介して赤外線カメラと2つの可視光カメラを搭載。ソフト上でブレ防止処理も行っている。

 もうひとつのコンセプトがなるべく滞空時間を長くするということ。トランジェクトリーでは事業のテーマとして山岳捜索を掲げているが、そういった目的に使用する場合には少しでも長く要救助者を撮影できることが求められる。このG2は14000mAhのバッテリーを搭載し、最大で約80分もの飛行が可能。この長い滞空時間はバッテリーによるものだけでなく、飛行を制御するソフトウエア面でもなるべく電力を消費しないようにプログラムがされている。プログラムによる自律飛行の場合、なるべく停止しない、なるべく減速しない、そしてなるべく急な高度変化をさせない、といった飛行軌跡を自動的に算出してフライトをすることで、1分でも飛行時間を伸ばすようにしているという。

地上での操縦はPanasonicのタブレット「TOUGHPAD」を搭載したグランドステーションで行う。

2機のドローンが連携しておぼれた人を助ける

 DJI製品の販売やDJIアリーナを運営する一方で、顧客のニーズに合わせた独自の機体開発やカスタマイズを行っている日本サーキットは、海上や河川でおぼれている要救助者に向けて浮き輪を投下するドローンを披露した。同社オリジナルの「JH950」をベースに浮き輪投下装置とスピーカーを搭載した浮き輪搭載ドローンは、2年ほど前からさまざまな防災訓練などで披露されているが、今回はDJIのInspire2とのコンビネーションで、要救助者を発見し、そこへ浮き輪搭載ドローンが駆けつけて浮き輪を投下する、という実践的な活用事例としてデモフライトを行った。

Inspire2が湘南海岸をパトロールしている中で要救助者を発見。そこに浮き輪搭載ドローンが駆けつけるという連係プレーを行う。
J DRONEのヘキサコプター「JH950」に、着水すると自動的に展開する浮き輪と、要救助者に対して呼びかける大型のスピーカー、スピーカーの音声を伝送する特定小電力トランシーバーを搭載した浮き輪搭載ドローン。
要救助者の頭上に飛来した浮き輪搭載ドローンは、風向きなどを考慮しながら適切な位置でホバリングして浮き輪を投下。その浮き輪に要救助者がたどり着くのに並行して、浜辺からはライフセーバーが駆けつける。

30kgの資材を運べる弩級ドローン

 今回、デモンストレーションを行った中でもひときわ注目を浴びていたのが、Drone Future Aviation(DFA)が持ち込んだ世界最大級の輸送ドローンだ。ノルウェーのGriff Aviation社製の「Griff135」は、30kgという世界最大級のペイロード(同社調べ)を誇り、物資輸送の他、人命救助や災害地支援、農業などでの活躍が期待されているという。

Griff Aviationの二重反転式オクトコプター「Griff135」。

 機体名の「135」は最大飛行重量135kgを表しており、38インチのプロペラを持つローター8つを2つずつ二重反転式にして搭載。そのサイズは全長約230cm、全幅約245cm、全高約40cmと巨大で、アルミをCNCで削り出して作り出された機体は約60kgもあり、展示飛行前には4人のスタッフに抱えられて離陸場所まで運ばれていた。

ローターアームとプロペラを折りたたむことで144cm×77cmのサイズになる。

 Griff135は航空機部品の製造認可を受けたGriff Aviation社の工場で生産されていて、その製造過程や品質管理などが航空機製造レベルで行われているのが他の多くのドローンと大きく違うポイント。そのため、EASA(欧州航空安全局)が2022年にドローンの認証を開始する時点で、その基準をクリアできるものとなっているという。

バッテリーは胴体の左右に2個取り付ける。この2本のバッテリーで30kgの荷物を搭載して約30分の飛行が可能。

 DFAではこのGriff135のアジアでの独占販売契約をGriff Aviationと結んでおり、この大きなペイロードを生かして、建築・土木現場や災害現場での資材輸送などで活用されることに期待している。またこの日は農薬散布用のアタッチメントも会場に持ち込んでおり、今後農薬散布機としての認証を得る予定だ。

総アルミ製の機体の重量は約60kg。この日はスタッフ4人で抱えて運んでいた。
離陸のために砂浜に機体を置くとその重量でスキッドが砂に埋まるほど。砂煙を巻き上げながら離陸する様は迫力がある。

固定翼ドローン2機は個性的な離陸を披露

 この日のデモンストレーションには、マルチコプター型ドローンだけでなく固定翼ドローンも参加した。航空自衛隊や陸上自衛隊に射撃訓練用無人標的機を納入しているフジ・インバックは、その技術を生かした固定翼ドローン2機のフライトを披露した。

 1機目は電動機の「D-5」で、ウイングスパン約3mの機体はブラシレスモーター2基を搭載し、巡航速度約60km/hで最長約2.5時間、約150kmもの距離を飛行することが可能だ。カタパルトによる離陸から飛行、そして着陸までプログラムによる全自動で行うことが可能となっている。

電動固定翼ドローン「D-5」。専用のゴムカタパルトから離陸する。
飛行中はもちろん、離陸、着陸もすべてプログラムによる自律航行が可能だ。
「D-5」の離陸の様子。ウインチが引き延ばしたゴムの力と、機体後部のプロペラの推力で離陸する。

 もう1機はガソリンエンジンを搭載した「W-T」だ。水平対向2気筒の86cc2サイクルエンジンを2基搭載するほか、この日は機体後部にタービンエンジンも搭載。興味深いのは一見すると高翼スタイルの航空機だが、実は浮力は機体上面に取り付けたパラシュートが担い、モーターパラグライダーのように飛行するということ。パラシュートを付けたまま離陸して飛行、着陸するため、墜落するということがないのが最大のメリットだという。もともとは短距離離着陸システムとして生まれたこのパラシュートを使った方法は、大きな浮力が得られるため、約20kgの荷物を積んで約50km飛行できる。

パラシュート飛行ドローン「W-T」。一見すると固定翼機だが基本的にパラシュートの浮力で飛行する。
機体前面には2機の水平対向2サイクルエンジンを搭載している。
「W-T」の離陸。2機のガソリンエンジンに加え、機体後方のタービンエンジンの推力で前進し、パラシュートの浮力によって極めて短距離で離陸できる。

 これら2機の固定翼ドローンは、その飛行距離が非常に長く、完全に目視外の飛行となるため、地上からコントロールする手段として、衛星通信システムを採用しているのも大きな特徴だ。地上の管制用パソコンからインターネットを経由してインマルサット衛星で中継した信号が機体に届けられ、逆に機体からのデータや映像も衛星経由で地上に送られる。