本記事は「4K時代の最新版 ドローン空撮入門 」インプレス発行(2018/07発売)より掲載しています。
中村佳晴さんは、DJI JAPANがYouTubeなどで公開している動画の多くを撮影するDJIの専任パイロットだ。ドローン講習会である「DJI CAMP」で講師としても活躍する中村さんの視点から、現在のドローン業界の動向や、ドローン操縦の極意について語ってもらった。
産業での本格活用が始まりドローンの用途が急速に広がる
ドローンを取り巻く環境は、ここ1~2年で一変した。業界最大手のDJIで専任パイロットを務める中村さんも、この変化を肌で感じている。
「一気に変わったのは産業用途です。測量や災害対応、農薬散布などの分野で、ドローンはものすごい勢いで広まっています。導入理由は、正確性の向上と、時間的、人的コストの大幅な削減です。測量を例に挙げると、ドローンと自動操縦システムで土地を俯瞰撮影し、画像をつなぎ合わせて3D化して地形のデータを取得します。従来は人力で何時間もかけていた現地での計測作業が、ドローンなら10分足らずで終わります。災害対策では、ドローンに赤外線カメラを搭載し、海や山で遭難した人を熱感知カメラを使って探します。2017年には、65人の方の命が、ドローンによって救われたという発表がありました」。
さらにこの流れは、DJI主催のドローン講習会「DJI CAMP」の参加者の顔ぶれにも現れている。
「警察署や消防署、市役所、動物園など、以前に比べて参加する方の分野がバラエティに富んでいます。彼らが自分たちの 領域でのドローンの有用性を実証できれば、活躍の場はより広がると思います。個人的に印象に残ったのは、広大な霊園を管理するお寺からの参加者ですね。ドローンで墓地を空撮して図面化し、墓地の効率的な管理ができないだろうかというお話でした」
基本は機体から目を離さず 常に冷静に操縦すること
ドローンユーザーが増える中、中村さんが一貫して訴えたいのは、ルールを守って安全に飛ばすという基本中の基本だ。
「国土交通省の航空法は施行されていますが、それに加えて、小型無人機等飛行禁止法や各自治体の条例、林野庁の入林届など、ドローンを飛ばすには、さまざまな手続きが必要な場合があります。まずはその点を理解して、遵守してほしいです。加えて、これも基本的なことですが、飛んでいるものは落ちる可能性があるということを常に頭に置いて、慎重に飛行させることですね」
これからドローンでの空撮を始めたいと思っている初心者に向けて、ドローン操縦の極意を聞いてみた。
「ドローンの操縦中は、とにかく機体をよく見ること。これに尽きます。ドローンを飛ばすと、特に初心者はモニターの映像に目が行ってしまうんですね。実はDJIへの修理依頼の8~9割は、機体を木の枝などに引っ掛けて落としてしまうパターンです。これはモニターを見て操縦してしまい、機体周辺の木の枝などに気が付かないのが主な原因です。機体を注視しながら操作すれば、初心者でもトラブルはほとんどないはずなんです」
また、現在の空撮用のドローンは簡単に飛ばせるため、気の緩みが失敗につながることも多いという。
「実際、怖がりな人ほど事故が少ないです。私がドローンを練習し始めたころは、今の機体ほど安定していなかったので、慎重にならざるを得ない事情がありました。しかし、今でもその心がけは重要だと痛感しています」
では、空撮のテクニック向上のための秘訣は何だろうか?
「ドローンを自在に操作できることと、美しい空撮映像を撮影できることは、もちろん共通点はありますが、同じスキルではありません。上手な空撮の基本は直線的で安定した飛行にあり、スムーズな動きにあるからです。まっすぐ飛ばしながら、途中で軌道修正することなく一定の速度で撮影する。撮影しながら旋回する際は、何度も微調整するのではなく、スティックを固定してゆっくり旋回させる。これが美しい空撮動画を撮影するコツです」
最近では撮影した動画をスマートフォンでしか見ないユーザーが多いので、スムーズな操作の必要性に気付けないことが多いと、中村さんはアドバイスする。
「自分で撮影した動画を試しに大画面テレビなどで見てみるといいと思います。おそらく初心者の方が撮影した映像は、揺れまくっていて、見続けると気持ちが悪くなってしまいます(笑)。大画面で見ることで、スマートフォンやノートパソコンの画面では気が付けない自分のクセや修正点が見えてきます。そうすれば、修正を重ねることで必ずレベルアップできますよ」
<本記事は「4K時代の最新版 ドローン空撮入門 」より掲載しています。>