ドローンの産業利用を推進するために、企業や団体の活動を支援する目的で2014年7月に設立されたJUIDA(一般社団法人日本産業UAS産業振興協議会)。2015年10月に始まった認定スクール制度は、現在、全国に約140の認定スクールを擁し、すでに約4100人の無人航空機操縦士と約3700人の安全運航管理者を輩出している。また、2016年3月にはドローンの専門展示会「Japan Drone」を開催。以来、毎年3月に開催される同展示会は今年で3回目となり、毎年、日本のドローン業界のトレンドが一堂に会する場として定着している。そんなJUIDAの千田泰弘副理事長に、2018年度のドローン業界はどうなっていくのか、というトレンドを聞いた。聞き手:ドローンジャーナル編集長=河野大助

2018年は“目視外飛行の元年”、そして“大型ドローンの実用化の年”

一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長 千田 泰弘 氏

――毎年、“○○ドローン元年”と言われていますが、2018年度の日本のドローン産業はどういった方向に向かうのでしょうか?

 2018年は日本も含めた全世界で、いよいよ本格的にドローンが目視外飛行をするというのが大きなトピックだと言えます。それも自律航行で長距離を飛ぶ、そして重いものを積んで運ぶという大型のドローンが出てくることでしょう。その意味で2018年は“目視外飛行の元年”であるし、“大型ドローンの実用化の年”になるでしょう。さらにこの目視外飛行の広がりによって、ホビー用ドローンと産業用ドローンが明確に分かれ、言わば“次世代ドローン”の時代が始まると思います。次世代ドローンとは目視外飛行で安全に飛べるように設計されたドローンのことです。

 目視外飛行を実現するのは非常に難しいことです。単に飛行方法やオペレーションといったことだけではなくて、ドローンの機体そのものが安全に作られていることが大前提となります。安全な機体、安全に飛行させる方法がセットになって初めて目視外飛行が可能になる。物流はその典型です。というのも物流のための飛行となると、目的地まで一往復するといったものではなく、一日中飛び回るようなことになります。そうなると、機体の安全性を徹底的に上げない限り、目視外飛行が世間から容認されることはありません。

 2015年11月に安倍総理が「早ければ3年以内にドローンを使った荷物配送を可能にする」と発言しました。その3年目となるのが2018年です。このドローンによる物流を実現するためのルールづくりとして、政府が主導して官民協議会を設置しました。その流れをくむ「無人航空機の目視外及び第三者上空等での飛行に関する検討会」の物流分科会でも、目視外飛行について検討を重ねてきました。ちょうど2018年3月でこの検討会が終了するのですが、これまで目視外飛行についての課題を挙げてきました。そしてこの4月からはこの課題を受けて、ルール作りを始めることとなります。そのためには法律の改正もありうるでしょう。

──その目視外飛行のためのルールというのは、いつごろできるのでしょうか?

 それはまだ決まっていません。もちろん我々としてはなるべく早くしてほしいところです。そこでJUIDAでは昨年から物流委員会を作り、政府やドローン関連の企業、団体の方々に参加していただいて、物流ドローンを実現するにはどうしたらいいか、ということを独自に検討してきました。そして昨年12月にJUIDAの会員向けに公表したのが「JUIDA物流ガイドライン(案)」です。今、世界中で目視外飛行、そして物流ドローンのルール作りが進められていますが、このような形でガイドラインを公表したのはJUIDAが世界で初めての団体となります。

 その主な内容ですが、先に述べた機体の安全性と、もうひとつは安全に飛ばすための方法として“空路”というものを設定することとなっています。12月に公表したものに対して、JUIDAの会員の皆さんから多くの意見をいただきましたが、まもなく会員以外の皆さんにも内容を公表して、さらに広く意見を頂きたいと思っています。2018年3月「JAPAN DRONE 2018」において正式にJUIDAガイドラインとして発表しました。

【無人航空機による物流に関する安全ガイドライン公表について】

物流ドローンはもはや航空機に近い存在になっていく

──“空路”についてもう少し詳しく教えてください。

 飛んでいるドローンの下は安全だという場所を選んで空域を作るというのが第一段階での考え方です。そのため、最初はまったく第三者がいない場所を選んで空路を作ることになります。その次の段階では、どうしても道路を横切ったり、第三者の人が通る道の上を飛ばさなければならなくなります。確かにドローンの下に第三者がいれば、それがたとえ一人だとしても危険です。しかし、人がいない場所だけを選んでドローンを飛ばして物流を行うというのは現実的ではありません。そのためにも、機体の安全性と空路という両輪で安全な目視外飛行を支えていくわけです。

──航空機の場合、航空路というと二つの空港を結ぶルート、というイメージですが、物流ドローンも宅配というより搬送物流に重きをおくということでしょうか?

 はい。実はドローンを使った物流でラストワンマイルの配送は特殊な地域、例えば過疎地等以外ではあまりビジネスにはなりません。 ドローンで物流というと、多くの皆さんが宅配をイメージされるかと思いますが、我々はまったく違う見方をしています。確かに過疎地ではそういった宅配でも経済効果があります。しかし、過疎地以外ではどう考えても従来のクルマ等使う地上系の配送にドローンは当面のところ勝てません。ましてや都会ではほとんどビジネスとして成功はないと我々は見ています。これは海外の研究でもそういった結論が出ています。そのためドローンの物流で最初に始まるのは宅配ではなく、2地点間の輸送“搬送物流”です。ドローンによる宅配はもっと先の事だと考えています。安全で確実な宅配を実現させるには宅配先に安全な着陸場所があること、および受け取りの証明、不在配達の通知手段などをスマートに解決する必要があります。

 そしてこの二地点間の輸送には、大型のドローンが必要となります。同じ量の荷物を運ぶのに、小型のドローンを100回飛ばすのと大型ドローン一回飛ばすのでは一回の方が経済的ですし、なにより100回飛行するより1回の飛行の方が絶対に安全です。すでに海外ではペイロードが100kg、500kg、1tという大型のドローンが続々と登場しています。現在、日本ではまだそういったドローンはありませんが、それを作ろうという動きはあります。

──そうなるとドローンというより、自動で飛ぶ航空機というイメージですね。

 はい。そう思ってもらって間違いではありません。というのも実は日本と海外でドローン、つまり無人航空機の定義が違います。日本では人が乗ることのできない構造のものが無人航空機ということになっていますが、海外ではリモートパイロット、つまり操縦者が乗っていなければ無人航空機ということになっています。そのため、たとえドローンが運ぶものが荷物だけでなく人、つまり旅客機であっても、パイロットが乗っていなければ無人航空機という定義です。例えば中国のEHang(イーハン)という企業が、旅客が一人乗れるドローンをドバイで飛ばしています。すでに1000回以上飛行に成功しているそうですが、あれは人が乗っていても、操縦装置が付いておらずパイロットが乗っていないため、海外では無人航空機=ドローンということになります。

 物流の場合は運ぶものが人ではなく物ではありますが、間違いなく数十kg、数百kgというペイロードのドローンが物流には必要になってきます。そのためには、現在のような電池で動くモーターではなく、内燃機関で発電する電気によるモーターも使われるようになるでしょう。そういった今までにないドローンの開発といったことに対しても、我々JUIDAは側面支援を行っています。

 さらにそのルール作りも進んでいます。すでにICAO(国際民間航空機関)が2021年から、まさにパイロットの乗らない航空機を飛ばせる国際ルールの導入を始めます。各国の航空法はこのICAOのルールをベースに作られています。それが大きく変わって、物流ドローンがその中に組み込まれるわけです。これを待っているのは、DHLやFedExといった国際航空貨物業者だといわれています。将来的にはこうした国際間輸送も、リモートパイロット、つまりドローンが担うことになるのではないでしょうか。

目視外飛行の物流ドローンで欠かせないのは安全運航管理者

──航空機のような扱いになってくると、UTMも欠かせないものとなりますか?

 日本では JUTM というのがありますしNEDOも航空管制を研究しています。 UTM というのはもともとNASAが2014年に提唱して、それがヨーロッパに広がってGlobal UTM という30カ国40カ国以上が参加する組織になっています。UTMは文字通り無人航空機の交通管制なのですが、実は無人航空機だけ管制しても意味があません。同じ空を飛ぶものとして航空機のことを考えておく必要があります。

 航空機の場合、ADS-Bという自機の位置を周囲に知らせるシステムがありますが、欧米ではその搭載の義務付けが始まっていますが、日本では義務ではありません。また、日本の中でもドクターヘリや消防ヘリ等は、エアラインの航空機とは別の特別な飛行ができます。このように、航空機でもその飛行方法にバラエティーがあるなかで、そこにドローンを組み込むというのはとても大変なことです。

 確かにJUIDAの物流ドローンのガイドラインの中にはUTMについても触れています。ただし、UTMを使わないといけないとは書いていません。というのも、UTMが有効に機能するのは、無人、有人問わずすべての航空機がUTM に登録した上でのことだからです。物流ドローンの中では UTM は外部のデータベースのひとつという位置づけです。UTM以外にも、気象や地形などさまざまなデータベースがあります。しかし、ドローンを運用する立場から見るとそれはあくまでも安全を支援するデータベースであって、JUIDAの物流ドローンのガイドラインでは安全に飛行させるための支援の仕組みと位置付けています。

──物流ドローンが実用化されるようになると、JUIDAが行っているようなドローン教育も変わってくることになりますか?

 JUIDAでは海外との連携も事業のひとつとして行っていますが、海外の団体が我々の活動の中で注目しているのが安全運航管理者の教育システムです。ドローンを操縦することを教えることは多くの企業や団体でも行っていますが、物流ドローンのように今後目視外飛行が増えてくると、いままでのドローンを操縦することとは別の技術が必要となります。その時の重要な教育の一つが安全運航管理者という考え方です。この安全運航管理者の認定を行っているのはJUIDAだけで、世界でも例を見ないものだといえます。

 安全運行管理者の最大の目的は、正しくリスクアセスメントをできる能力、知識を持つということです。ありとあらゆるリスクがどのように起こるかということを分析してリスクアセスメント表を作る。場合によってはそれに点をつけたりする。実はこれはドローンの操縦とも関係なくデスクワーク的な作業でもあります。もちろんその中にはドローンのメンテナンスも入っています。こうした安全運航管理者が行うことは、目視飛行であれ目視外飛行であれ、ドローンを飛ばすうえでは実は一番大事なことなのです。

 また、目視外飛行となると自動操縦がメインで、人の手による操縦はサブ、という位置づけになってきます。手動の操縦であれば今のドローンがそうであるように、どの機種でもおおよそ共通ですが、自動操縦ということになるとドローンのメーカーによってその方法が違ってきます。そのため、ドローンの操縦方法、ということを教育する場合に、メーカーごとに違う操縦方法を教えるようになるのではないでしょうか。実はこれも航空機と同じなのです。航空機のパイロットの操縦ライセンスは、機種ごとに異なっています。目視外飛行を行う物流ドローンは、そういった面でも航空機に近づいていくといえます。