ドローンジャーナル

レジャー施設を高高度から、そしてすぐ頭上で見守る4機のドローン

KDDIが世界初の4G LTEで自律飛行する複数ドローンを活用した広域警備のデモを実施

 3月15日、KDDIとNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)、テラドローン、セコムは、KDDIの4G LTEモバイルネットワークを使い、自律飛行する複数のドローンによる広域遠隔巡回警備の公開実験を報道陣に公開した。この実験はKDDIが推進する「スマートドローン構想」の実用化段階へのステップとして、レジャー施設のような広い面積の施設を複数のドローンを使って上空から警備するというものだ。

UTMが三次元空間で複数のドローンを同時に管制する

今回の実証実験の意義について話す、国立研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ロボット・AI部部長の弓取修二氏
高高度を飛行する俯瞰ドローン2機と低高度を飛行する2機を、KDDIの4G LTEネットワークを用いて運行管理システムと結んで自律飛行させるというのが実証実験の内容。
NEDOの「DRESS(Drone and Robots for Ecologically Sustainable Societies project)プロジェクト」では、ドローンの性能評価基準の開発、UTMと衝突回避技術の開発、そして国際展開という3つのステップを2016年から5年間かけて取り組んでいる。

 この実証実験の中心的な存在である運行管理システムは、NEDOが取り組んでいる「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト(DRESSプロジェクト)」という5年間のプロジェクトのうち、「無人航空機の運航管理システム及び衝突回避技術の開発」という2017年から3年間で開発が進められている成果の1つ。今回の実証実験は、その初年度の成果を示すもので、2019年の実用化を目指している。

プレゼンテーション会場の一角に設けられた運行管理システム。上段左から「飛行ルート表示卓」「運行管理卓」、下段左から「信号監視卓」「3D飛行ルート表示卓」「監視カメラ卓」「警備員配置マップ卓」「気象情報卓」が並ぶ。
警備員が手にしたタブレットのアプリを表示した「運行管理卓」。1と2が俯瞰ドローン、3と4が巡回ドローンの映像だ。必要に応じてタブレットの操作により映像の配置を切り替えて表示したり、緊急時は巡回ドローンをマニュアル操作で任意の位置に移動させるといったこともできる。
運行管理卓に表示されたルート。遊園地エリア(左)とキャンプ・バーベキューエリア(右)にそれぞれ2機ずつのドローンが飛行する。青と緑は俯瞰ドローンのルート、紫と水色は巡回ドローンのルートで、俯瞰ドローンはあまり場所を移動せず、巡回ドローンは施設を広く移動していることがわかる。
3D飛行ルート表示卓ではドローンの飛行ルートを三次元で表示。俯瞰ドローンと巡回ドローンのルートが、平面上では重なっていても三次元で見ると高度が違うことがわかる。また、低高度を飛行する巡回ドローンは、地形に合わせて高度を変えながら飛行する。

 この日の実験では神奈川県相模原市のレジャー施設「さがみ湖プレジャーフォレスト」で、あらかじめ決められたルートに従って4機のドローンが園内を飛行。2機が十数m~20m程度を巡回飛行するのに対して、残りの2機はさらに高い高度を飛行しながらより広い範囲を俯瞰する形で園内を撮影。その映像はKDDIの4G LTEモバイルネットワークを使い、施設内に仮設した警備室の運行管理システムに伝送され、施設内に設置された監視カメラと同様にモニター上に表示される。

俯瞰ドローンが不審者を発見。オペレーターが巡回ドローンを不審者がいる場所に向かわせ、威嚇を行う。

 俯瞰ドローンが撮影した映像上に不審者を発見した場合、警備員は手元のタブレットで低い高度を飛ぶ巡回ドローンに対して、不審者の上空に移動するよう指示。巡回ドローンがその場所に急行すると、高倍率のズームカメラで不審者を撮影すると同時に、機体に搭載したスピーカーで威嚇し、不審者を排除するというのが、今回の実験のシナリオとなっている。

 この実験でカギとなるのは、KDDIの4G LTEネットワークによる遠隔操作と映像伝送、テラドローンのUTMが高度差をつけて複数のドローンを同時に飛行させる運行管理機能だ。今回の実験に参加しているセコムでは、すでにドローンを使った侵入監視と巡回監視サービスを2015年12月から提供しているが、いずれもショッピングセンターや工場といったある程度範囲が限られた施設で、ドローンの映像伝送には無線LANを使用している。しかし、今回のさがみ湖プレジャーフォレストのようなレジャー施設はさらに規模が大きく、無線LANでは対応できない。そこでKDDIの4G LTEネットワークを使って、広い範囲を移動するドローンに対して、操作の指示やテレメトリーのデータ伝送、そして監視映像の伝送を行う。

4G LTEネットワークを使って複数のドローンの映像を同時に監視すること、遠隔制御で自律飛行するルートを変更できるようにすること、そして超高感度カメラや赤外線カメラ、スピーカーといった、警備用にカスタマイズした機体を提供する、という3つのテーマを今回実用化した。

 現在、一般的にドローンの制御には2.4GHz帯(ISMバンド)が利用されるが、物流をはじめとした産業利用では長距離飛行が欠かせないものとなることを踏まえ、KDDIではそれに代えて4G LTEネットワークの利用を推進してきた。2017年4月には、日本で初めてLTEによるドローンの完全自律飛行実験に成功し、2017年11月には三次元地図とドローンポートを利用したLTE長距離完全自律飛行実験に成功している。今回の実験はその次の段階として、モバイルネットワークで複数のドローンを遠隔制御するというものだ。

この実証実験の運航管理システムのハイライトは、高度による空域の分割管理だ。三次元地図の情報をもとに、違う高度を飛ぶ2機のドローンの飛行ルートを同時に管理できる。

 また、複数のドローンを同時に運行させるために、テラドローンの「TERRA UTM」をベースにした運行管理システムをバックボーンと利用している。とりわけ今回の実証実験でカギとなるのは、複数の機体の高度を変えて同時に運航するということにある。事前にドローンで撮影して作成した三次元地図をもとに高度を設定し、低高度を飛ぶ巡回ドローンと高高度を飛行する俯瞰ドローンのルートを設定。二次元で表現した地図上では巡回ドローンと俯瞰ドローンのルートは交錯しているが、高度差があるためもちろん衝突するようなことはない。この管制技術は実機では当たり前のことではあるが、UTMとしてはまだまだ新しく、今後物流などで複数のドローンが飛び交うようになると、必須となってくるであろう。

ドローンを使った警備というものがよりリアルに見えてきた

 今回使用したドローンは、プロドローン製の機体(機種名等は実験機のため非公表)でKDDIのスマートドローン用にカスタマイズしたオクトコプターだ。巡回ドローンにはカメラのほかにLEDライト、スピーカーを搭載。俯瞰ドローンには高倍率のズームが可能な超高感度カメラを搭載している。いずれも機体と搭載機器を合わせた総重量は20kgを超える。この日は日中に園内に侵入した不審者を発見するというシナリオだったが、例えば夜間には俯瞰ドローンの超高感度カメラが不審者の発見に欠かせないほか、巡回ドローンのLEDライトが発見した不審者を明るく照らし出してくれる。また、搭載カメラとしては赤外線カメラも選択肢として用意されているという。

俯瞰ドローン(左上)と巡回ドローン(右下)。今回の実証実験ではこのペアがエリアを変えて2組、さがみ湖プレジャーフォレストの園内を飛行した。
園内上空約60mを飛行する俯瞰ドローン。キヤノンの超高感度カメラを搭載。高倍率のズーム機能を備えている。
低高度を飛ぶ巡回ドローン。ジンバルにはカメラに加えてLEDライトを搭載。さらにその上部には下向きのスピーカーを備えている。

 この日の実証実験は大勢の関係者や記者が集まっており、当然のことながら来場者が持っているスマートフォンなどが4G LTEネットワークに与える負荷は小さくはない。デモ前に各自のスマートフォンを航空機モードにすることが呼びかけられてはいたが、デモ中には幾度となくドローンからの映像が途切れることがあった。これについてKDDIとしては、「現在は4G LTEネットワークを利用しているが、いずれはより高速大容量の5Gネットワークを利用することで、こうした問題も解決できる」という。

 また、今回は俯瞰ドローンから運行管理室に送られてきた映像を監視員が見て不審者を見つける、という形になっているが、いずれは画像認識技術などを使って監視やドローンによる追尾を自動化することも視野に入れている。さらに、現在はドローンの飛行時間はおよそ10分程度だが、これは「今回の機体が約20kg以上の総重量となっているためであり、いずれ機体の開発が進めば20分、30分以上の飛行が可能なことはすでに検証済み」だという。また、ドローンで巡回警備を行う上では、原則として長時間滞空することが必要となるが、そのためには充電式のドローンポートを利用することを想定しているという。

 さらに、今回の実証実験の自律飛行、つまり目視外飛行は、俯瞰・巡回ドローンの飛行中、報道陣関係者が園内のレストラン内にいることで、無人地帯の上空飛行という状況を作り出している。しかし、今後想定されているドローンによる巡回警備は、閉園後の入場者がいない状態だけでなく、入場者がいる状態での飛行を前提としたものだ。そのため、「最終的には当局による有人地帯上空の目視外飛行が当局によって認められることが条件となる」という。

スマートドローン構想に対してセコムは、これまで巡回や駆け付けといった警備員が行っていた役割を、ドローンが担うことに期待を寄せている。

 この日公開された実験は、まだあくまでも実験段階ということで、通信品質の問題や、ドローンの飛行時間、さらには映像を通じた監視体制、そして有人地帯上空の目視外飛行といった様々な課題を残している。しかし、敷地全体を俯瞰しながら監視するドローン、そしてトラブルの場所に警備員より素早く急行して対処をする巡回ドローンと、複数の機体を目的に合わせて飛行させるという、より具体的なドローンの活用方法を社会に示す形となった。とりわけ警備業は2020年の東京オリンピックで欠かすことのできない存在であり、昨今の人手不足もあってドローンによる警備が社会実装される契機となることは間違いない。あわせて、ドローンによる長距離輸送といったテーマでは、盛んに議論に上がるUTMをそういった“線”の移動のためというより、それより狭いながらも“面”の中、それも高度の違う空路の”レイヤー”を同時に管制するという、また新しいUTMの姿を示した今回の実証実験となった。

複数ドローンを活用した広域警備実験のデモムービー(KDDIのYouTubeから)。