ドローンジャーナル

第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している?

ドローン専門弁理士が解説!知財戦略を通して見えてくる「ドローンビジネスの未来予想図」

 みなさんこんにちは、株式会社Drone IP Lab代表取締役 弁理士の中畑です。前回の連載では、世界のドローン特許事情を俯瞰しました。第2回は、ドローン王と言っても過言ではないフランク・ワン氏が率いるDJIの知財戦略をみていきます。今や世界シェア7~8割とも言われているDJI。彼らはどこを目指しているのか、知財戦略から読み解いていきたいと思います。

DJIの国際出願戦略

第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 図1 国ごとの特許出願(累積):筆者作成
図1 国ごとの特許出願(累積):筆者作成

 図1は、国ごとに見たDJIの特許出願件数です。
 トップはPCT出願と呼ばれるもの。PCT出願は、特許協力条約によって定められた国際出願です。PCT出願を出しておけば、条約加盟国である152か国(平成29年3月現在)に対してスムーズに出願手続きを進めることができます。ただし、注意しなければならないのは、PCT出願は言わば保留状態の出願であり、基本的には出願日から30カ月以内に各国に出願を移行しなければなりません(国内移行と言います)。図1において注目すべきは、464件出されているPCT出願のうち、各国に移行されていないものが相当数残っているという点です(言い換えると、もしすべてのPCT出願について国内移行がされていた場合、図1の各国の特許出願件数は少なくとも464件になっているはずです)。このことは、水面下に潜っている特許出願(今後国内移行されてくる特許出願)という驚異が存在しているということになります。
 さて、DJI本社は中国の深セン(つちヘンに川)にあるのですが、中国出願の件数よりも国際出願が圧倒的に多いことがわかります。このことからも、最初からグローバルに展開することを見据えた知財戦略がとられていることがわかります。
 そして、第2位は米国。DJIが主戦場としているのはこの国でしょう。第3位以下の2倍以上の特許出願で強固な保護を図ろうとしていることがわかります。次いで、日本、中国、欧州と続きます。
 ちなみに、これらの件数にかかる費用は、知財費用の相場からするとザッと10~20億円程度と推定されます。

第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 図2 各国への特許出願の推移(年度別):筆者作成
図2 各国への特許出願の推移(年度別):筆者作成

 DJIは2006年に創業しています。特許出願を遡れた範囲では2010年あたりから出願していました。2010年といえば「Ace One」などの商品が出始めた頃です。
 そして、2013年以降、各国の出願件数が急激に伸びています。この年にはPhantom 2 Visionがリリースされました。2014年以降伸びてくるかと思いきや、出願が増え続けているのは米国のみとなっています。
 このようにDJIが米国市場を重要視していることがわかります。そして、DJIが米国で取った行動にも裏打ちされています。

「当社は競争を歓迎するが、知的財産権は守る」

(1)Yuneecを特許権侵害で提訴

 2016年の4月、DJIは米国において、Yuneecを特許権侵害で訴えました。当時のDJIサイドからは「当社は競争を歓迎するが、知的財産権は守る」というコメントが出されています。対象となった技術は、目標物のトラッキング技術と、積載部(カメラ部)のマウント技術です。

(2)Autel Roboticsを特許権および意匠権で提訴

 DJIのコンシューマ向けドローンは、その独特なデザインで有名です。このデザインに発生する権利が意匠権(Design patent)です。DJIは特許権のみならず、意匠権でもドローンを保護していました。この意匠権にもとづく権利行使の対象になったのが、Autel Roboticsの製品です。
 下の画像は、Autel RoboticsからリリースされているX-STARです。ぱっと見るとPhantomに似ているようにも思えます。注目すべきは値段です。開発費や研究費が乗っているDJIはそれ相応の値段となっています。一方のX-STARは半額。一般に費用を安く抑えることができるのは、開発費がかかっていない場合(いわゆるパクり)や、優れた大量生産技術を有している場合などが挙げられますが、いずれなのかは訴訟の場で明らかにされるでしょう。

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 さて、これらの訴訟を見ても、DJIの米国出願が単なる件数稼ぎではなく、取得した権利を積極的に行使する姿勢がうかがえます(中国から海を越えて訴えに行くほどのモチベーションです)。このことからも、DJIが米国市場を本格的に取りに行こうとしていることがわかります。
 そして、米国の次に対象となりそうな国は、先ほどの図1の順番からすると日本ということになります。DJIが日本において張っている伏線を見ていきましょう。

日本への出願

(1)出願件数とポートフォリオ

 日本への出願推移を調べてみたところ、図3のように、2014年に大量に仕込んでいたことがわかりました。半数近くがすでに特許成立しています。

第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 図3 日本への特許出願の推移(年度別):筆者作成
図3 日本への特許出願の推移(年度別):筆者作成

 また、これらの出願の中身を見てみると、図4のようにドローン本体に関する技術、ジンバルの構造、画像の通信と続き、全体を見てもハードウェアとソフトウェアがまんべんなく出願されていることがわかります。いくつかの特許を具体的に見ていくことにしましょう。

第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 図4 日本における出願ポートフォリオ(割合):筆者作成
図4 日本における出願ポートフォリオ(割合):筆者作成

(2)日本における成立特許

墜落防止のためのエアバッグ
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 衝突保護装置(特許第5985784号:2014年2月27日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
衝突保護装置(特許第5985784号:2014年2月27日出願:出願人SZ DJI TECHNOLOGY CO.,LTD)

 発明の名称は「衝突保護装置」と記載されています。図が機能ブロックのみの概念図しかないため、実際のDJIのドローンにどのような形状で取り付けられるのかは不明です。
 ドローンが機能不全に陥ったことを示す信号が発せられると、ドローンの飛行のための電力源とは別系統の電力源によって、傍聴可能部材に圧縮ガスが流入してエアバッグが作動します。機能不全に陥ったかどうかは、センサー情報から分析して判断するようです。
 個人的には、いくらエアバッグを搭載していたとしても、上空50mからInspireレベル(約3kg)のドローンが頭部に落下してきたら…と考えただけでゾッとします。

Osmo Mobile
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 雲台、雲台を制御する方法及び制御装置 (特許第6090818号:2014年4月30日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
雲台、雲台を制御する方法及び制御装置 (特許第6090818号:2014年4月30日出願:出願人SZ DJI TECHNOLOGY CO.,LTD)

 図面を見た瞬間にOsmo Mobileという製品がわかってしまうという特許です。雲台(うんだい)の移動方向に追従して移動する追従モードと、雲台(うんだい)を指定方向にロッキングするモードが含まれており、かつトリガーボタンを長押しするとスマートフォンの向き(姿勢)が維持されることも権利範囲に含まれています。
背景技術としては、「キャリアなど自体において高周波の振動と低周波の振動が存在する(注:要は、揺れる)ので、安定的な撮影を実現するように、安定的な自動平衡雲台を配置してビデオカメラ、カメラなどを搭載する必要がある」という点が指摘されています。

近接撮影時の安全機構
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 近接撮影時の安全機構(特許第6103672号:2016年7月20日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
近接撮影時の安全機構(特許第6103672号:2016年7月20日出願:出願人SZ DJI TECHNOLOGY CO.,LTD)

ドローンを使って被写体に近寄る場合、とくにFPV飛行時には画面に集中しすぎて被写体に衝突…なんていうことも起こり得ます。
 この特許はそんな危険を回避してくれるものです。ドローンが被写体に近づこうとした際、被写体からの距離が一定の距離(制限距離)になるとそこから先はズームのみの操作しかできなくなります。ドローンは制限距離を超えて被写体に近づくことはないため、安全が確保されるということです。ドリー・インからのズーム・インというところでしょうか。

窓ふきドローン
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 移動体、移動体の制御方法、及びプログラム 特許第6114865号:2016年8月17日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 移動体、移動体の制御方法、及びプログラム 特許第6114865号:2016年8月17日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している?
移動体、移動体の制御方法、及びプログラム 特許第6114865号:2016年8月17日出願:出願人SZ DJI TECHNOLOGY CO.,LTD)

 ドローンにアームを持たせていろいろな作業をさせようというものです。実施例の中には、虫取り網を持たせたり、高枝切りばさみを持たせたり、マジックハンドを持たせたものが掲載されています。
 これだけだと、よくありがちなアイデアレベルなのですが、図をよく見ていただくとわかるように、アームを伸ばした時に変化する重心に対応できるようプロペラ側のフレームを伸張させることによってバランスをとっています。アームを左右に振ったときにも対応するプロペラ側のフレームを伸張させることによって、重心変化に対応します。
 単なるアイデアではなく、実現するとしたらどのような構成にするのかがきちんと検討された発明です。

飛行制限区域における強制着陸
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 飛行制限区域に対する飛行制御 (特許第6133506号:2014年4月17日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
飛行制限区域に対する飛行制御 (特許第6133506号:2014年4月17日出願:出願人SZ DJI TECHNOLOGY CO.,LTD)

 ドローンが飛行制限区域内に入ると強制的に着陸させる技術です。ただし、飛行制限区域に入った瞬間に強制着陸させるのではなく、その直前に着陸を促す区域を設けることとしています。
 図において、ドローンがロサンゼルス空港から半径5.5マイルの区域に入ると操縦者に着陸を促し、さらに半径5マイルよりも内側の区域内に入ってしまうと強制的に着陸させます。
 DJIは、このような安全に関する技術もきちんと出願しています。

ドローンを利用した仮想観光(特許第6172783号)
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している? 無人航空機を用いて仮想観光をするシステムおよび方法(特許第6172783号:2014年7月31日出願:出願人SZ  DJI  TECHNOLOGY  CO.,LTD)
第2回 DJIの周到な知財戦略 ー 狙いはあの国?こんなものまで特許が成立している?
無人航空機を用いて仮想観光をするシステムおよび方法(特許第6172783号:2014年7月31日出願:出願人SZ DJI TECHNOLOGY CO.,LTD)

 複数台のドローンから送信される映像や画像を利用して仮想的な観光を体験できるものです。
 たとえば、日光に行きたいというツアーをリクエストすると、最適なドローン群が選定・配置され、ナビゲーションにしたがって、この地域のデータを取得し始めます。取得したデータはユーザのヘッドマウントディスプレイ等に表示されます。
 権利範囲には「観光」という文言が使われてしまっていますが、たとえば、某ナビゲーションアプリや、某ストリートビューのような使用の仕方もできます。何より、全方位カメラを積んだ車や自転車でデータを集める必要がなくなりますね。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。DJIは、とくに米国に対しては相当な知財投資を行っていると考えられます。一方で、PCT出願をあれだけの件数行っているということは、これから先、ドローン産業が興り得る国に対していつでも国内移行を行う準備ができているとも捉えることができます。もっとも大きな市場は確実に取りに行きつつ次の市場を虎視眈々と狙い、幅広い技術の保護を図る姿を見ると、知財戦略においてもトッププレイヤーと言えるでしょう。
 さて、次回は、欧州のトッププレイヤー「Parrot」の特許動向を見ていきます(ちなみに、私は、自宅練習用にはMamboを愛用しています)。DJIにトップの座を奪われたParrotがどの分野で巻き返そうとしているのか、意外な分野に活路を見出そうとしていることがわかりました。

【今後の連載予定】
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第1回世界のドローン特許の俯瞰
第2回世界のトッププレイヤーの特許動向(DJI)
第3回世界のトッププレイヤーの特許動向(Parrot)
第4回世界のトッププレイヤーの特許動向(3DR)
第5回日本企業の特許動向
第6回まとめ&コラム(特許以外の保護の仕方)
第7回各社の特色1(伝統企業)
第8回各社の特色2(新規事業系)
第9回各社の特色(スタートアップ)
第10回各社の特色(その他)
弁理士 中畑 稔
横浜市立大学理学部、同大学院修了。特許事務所入所後、電気・機械・材料系に関する国内・外国出願実務に幅広く従事。株式会社コロプラに入社し、ソフトウェア特許を中心に社内発明創出を仕組み化し特許出願件数を驚異的に増加させた功績により社内MVPにノミネート、知財部門を創設。同社退職後、都内特許事務所にてスタートアップ企業の係争案件を扱う。現在、ヘルスケアスタートアップの株式会社FiNC知財戦略室長、東京理科大学平塚研究室フェロー、NX特許事務所代表、株式会社DRONE IP LAB代表取締役を兼務。
株式会社DRONE IP LAB(DIPL) http://d-ipl.com
DIPL は、「国産ドローン産業の育成と発展を知的財産から支援する」ことを理念に創設された、千葉道場ドローンファンド直轄の戦略的会社です。知的財産の分野で実績のある専門家を中心に組織され、ドローン関連の知財プラットフォームおよび、メディア・マーケティングプラットフォームを企画・運営しています。