富士通「LIFEBOOK AH77/W」デザイナーに聞く

「シンプル」を目指したその先にあるものとは?
見る、聴く、打つがすべて心地いい
プレミアムなノートパソコン

富士通の「FMV LIFEBOOK AH77/W」(以下、AH77/W)は、非常にシンプルなノートPCだ。

15.6型のタッチ機能付きフルHDディスプレイに、Skylakeベースの最新CPU「インテル® Core™ i7-6700HQ プロセッサー」を採用。8GB(最大16GB)のメインメモリに約1TBのストレージ、光学式ドライブ、ハイレゾ再生に適したオンキヨー製スピーカーなど、磨きをかけたハイスペックが光る。

しかし、この「AH77/W」の本質は、スペック表にはあらわれない部分……すなわち、そのデザインに凝縮されている。

ジュエリー、自動車、スマートフォン、そしてパソコン

「AH77/W」をデザインした富士通デザイン株式会社は、2007年に富士通本社から総合デザインセンターが分社して誕生した、デザインを専門とする会社である。

ハードウェア部門とソフトウェア部門があり、携帯電話、スマートフォン、タブレット、パソコンといったお馴染みのデバイスから、オフィスの机、銀行の室内空間のデザイン、人の導線設計、管制システム、スーパーコンピューター、ビッグデータを可視化するためのソフトウェアなど、かなり幅広い産業分野のデザインを担当しているという。ユーザー中心の「ヒューマンセントリックデザイン」を掲げ、これまで、デザイン界のオスカーといわれるドイツのiFデザイン賞や、プロダクトデザイン賞のレッドドット・デザイン賞なども多数受賞している。

益山宜治氏。AH77/Wのデザインを指揮した

「AH77/W」のデザインを手がけたのは、その富士通デザイン株式会社のサービス&プロダクトデザイン事業部 チーフデザイナーの益山宜治氏と、 同じくデザイナー の渡邊剛士氏の2名だ。

富士通のコンシューマー向けPCのデザインを統括しているという益山氏はこれまで、携帯電話、スマートフォン、ノートPC、デスクトップPCのデザインを手がけてきた。聞けば、以前はジュエリーのデザインをしていたのだという。

ジュエリーなどのファッション関連からコンピューターへというのは、かなり劇的な転身に聞こえるが、益山氏は「デザインの基本はあまり変わっていないですね。携帯電話もパソコンもどんどん小型化してきて、アクセサリーの一部みたいになってきています。持ってる人にカッコイイと思ってもらえるとか、持ってる人が素敵に見えるっていうのは、服飾品に共通するかなと。根底にある考え方は常に一緒のつもりです」と語る。

渡邊剛士氏。今回のAH77/Wのデザインの生みの親だ

一方、「AH77/W」のデザインを実際に線を引いて担当した渡邊氏。もとは自動車のデザインを出発点としており、富士通デザインにおいては、折りたたみ型以前の最初期フィーチャーフォンに始まり、現在の最先端スマートフォンまで、一貫して携帯電話のデザインに携わってきた。車と携帯電話、ここにも共通するものはあるのだろうか。

渡邊氏は「車のデザインに携わっていた頃に、<面の綺麗さ>の重要性をたたき込まれました。車の面というのは、車体に映り込む光や周囲の街並みの美しさなどを表現するからです。スマートフォンなどは車よりは小さいですが、手で持てる小さいものでもそういうのはあるんじゃないかと思います。光や周りの景色が映り込んだりしたときに、綺麗に感じる形とか面の張り方があるんじゃないかなと。モノは違っても、人が綺麗に思うものを作りたいという点は共通していますね」と語る。

富士通の掲げる「ヒューマンセントリックデザイン」に、益山、渡邊両氏に共通する美しさへのこだわり、そしてパソコンにおける同社の近年のコンセプト「シンプル&プレミアム」を加えて生み出されたのが「AH77/W」だ。

「シンプル&プレミアム」を表現するデザイン

「今、弊社のパソコンのデザインコンセプトとして、“シンプル&プレミアム”を掲げてます。不要な要素を取り払い、質感は高く、ちょっとしたアクセントや面の張り方で、とてもクリーンだけど安っぽく見えず、家の中のどこに置いても、すっと違和感なく中に入っていける。そんなデザインを考えました」(益山氏)

15.6型のスタンダードノートPCであるAHシリーズは、2013年冬モデルにおいて「シンプル&プレミアム」を目指してそれまでのデザインを一新。薄型化とともに、メッキ処理など余分な加飾要素を極力なくす方向にシフトした。そこから数えて3世代目となるAH77/Wは、その方向性をさらに推し進めるべく、完全新規デザインモデルとして開発がスタートした。

デザインにあたりまず取り組んだのは、とにかく大量のデザインスケッチを描くこと。渡邊氏は海外の事務所と共同で、様々なアイディアを盛り込んだスケッチを描きまくったという。結果として生まれた100を超えるデザインスケッチの中から1案だけ候補が選ばれた。

選ばれたそのデザインは、ひとことでいえばクリーンでニュートラル。年齢性別問わず、幅広いユーザーがターゲットだ。

渡邊氏が今回のAHシリーズで目指したのは「心地よさを伝えられるデザイン」

「ターゲットユーザーを広く、というのはとても難しいことなのですが、誰にでも『いいね』と言ってもらえるデザイン、どんなインテリアにも馴染むデザインを目指しました」と益山氏。

渡邊氏は「余分な要素をなくすことで、<見る>(画面の綺麗さ)<聴く>(音の良さ)<打つ>(キーボードの打ちやすさ)の心地よさと使いやすさをデザインで表現し、お客様にお伝えできないかを考えました。」と語る。

つまり、富士通がPCで「シンプル」を目指すのは、PCが「ユーザーや周囲の環境に馴染み」、かつユーザーが「PCを使う」ことに最大限に集中できるようにするため、という狙いがある。

では、カバーを閉じた状態を見てみよう。輝くインフィニティロゴを中心に、光沢のある天板をそなえている。天板は一体成型で、パーティングライン(成型時に生じる線)が見当たらず、非常になめらかだ。天頂から周囲に向けて非常に微妙なカーブがあり、益山氏によれば「光が入ったとき、ふわっとハイライトが入るような優しい形」になっている。

カバーを開けてみると、天板の光沢感とは対照的に、キーボード面はマットな仕上り。さらっとした手触りで、指紋も目立ちにくい。また、視界を邪魔する要素がないので、美しいディスプレイに没入しやすい。

「天板とキーボード面は、素材も違えば表面処理も違うので、『同じ色に見えるようにする』ために非常に根気の要る調整が必要となりました。色の担当は、本当に長い時間調整してくれて、ありがたかったですね」(渡邊氏)

「見えないところも色々工夫しています」と益山氏

キーボード面は、パームレスト部分がやや高くなっている以外は、完全フラットな面にキートップや電源ボタン、スピーカーなどが配置されている。

「キーボード面をフラットにするというのは、『シンプル&プレミアム』のために絶対に実現したかった部分です。しかし同時に『薄型』も目指しているので、内部設計的には非常に難しくなりました。ハイレゾ対応のボックス型スピーカーというのも、『薄く』という要求には真っ向から反するような装備です。それでも、今回はあくまで薄く、フラットというのにこだわりました。そのために、キーボード面のプラスチックを一部分だけギリギリまで薄くして内部の部品を詰め込んだりと、見えないところでも色々と工夫しています。」(益山氏)

完全フラットなキーボード面

「当初はパームレスト部分とキーボード部分の表面処理を変える案もあったのですが、ボツとなりました。そのかわり、キーボード面は完全なフラットに、手に触れるパームレストは柔らかい曲面にしてコントラストを出しています。この機種は、とにかく曲面に非常にこだわっていますね。曲率が一定ではない曲線を多用しています」(渡邊氏)

パームレスト部は曲面を多用しやわらかなデザインに

キーボード面上部の両サイドには、ハイレゾ対応スピーカーが配置されている。ときおり角度によってエッジがキラリと光り、さりげなく存在感を主張するデザインとなっている。

「今回はオンキヨー製のハイレゾ対応スピーカーを搭載したので、そこはしっかりアピールしたいと思いました。ただ、大型ノートPCをインテリアの一部として考えたとき、ギラギラさせたくはなかった。そのほうが店頭では目立っていいのかもしれませんが、買って帰ってから家で開いたらなんか違うぞと思われるかもしれない。なので、スピーカーらしいけれど、クセがでないよう配慮しています。具体的には、金属製のスピーカーグリルの上面にさらに塗装を施して、本体と色を合わせています」(渡邊氏)

ちなみに今回、両氏は試作段階のAH77/Wのモックを持参してくれた。実際に出来上がった製品版と比べてみると、カードスロットの配置や、前述の表面処理など、細かな部分では違いがあるものの、全体の形状や受け取るイメージは、ほとんど相違がない。

「当初考えていたデザインが、製品になるころには色々変わってしまっている、というのはよくあることですが、今回のAH77/Wに関しては、当初のデザインの再現度がかなり高いですね。設計の方もがんばってくれました」(渡邊氏)

左が試作モック、右が製品版。
スピーカーなどのデザインや各部の面構成などはほとんど変わっていない

使いやすさを一番に。ヒューマンセントリックデザイン

デザイン上のこだわりが凝縮されている「AH77/W」だが、ここでいう「デザイン」は、なにも外見のことだけではない。人が触ったときの使いやすさ、それも富士通、そして両氏のこだわりが凝縮された「デザイン」だ。

たとえばキーボード周りは、「AH77/W」のハイライトといってもいいだろう。両氏がともに「今、キーボードにここまでこだわってやってるところはないのでは」と語る自信作だ。

そのポイントは「約2.5mmのキーストローク」「3段階押下圧キーボード」「ステップ型キートップ」「球面シリンドリカルキートップ」の4つ。

現在のノートパソコンでは、キーストローク1.4〜1.7mmのキーストロークが主流だが、しっかりとした「押し感」、「返り感」を実現するには、そのストロークでは浅すぎるという。そこで、「AH77/W」はやや深めの約2.5mmキーストロークを採用した。

「通常、ノートパソコンは薄さとのトレードオフの問題があって、なかなか深いキーストロークにはしません。しかし、以前弊社がリリースした大人向けノートパソコンGRANNOTE(グランノート)で3mmのストロークを採用したところ、大変ご好評いただきました。そこで、それよりはやや短い2.5mmではありますが、今回のモデルでもがんばって入れてみようと考えました」と益山氏。

もちろん、ストロークを深くすれば、そのぶんキートップは出っ張るのだが、AH77/Wでは、見た目には薄く見える。これはキーボード全体が1段低い位置に配置されていることや、キーの透明部が光を反射して輝く「プリズムクリアキー」になっているためだ。

キートップもリデザイン。サイドが透明になっている

約2.5mmのキーストロークに合わせてキートップを軽やかな印象に、と語る渡邊氏

「これまでのAHシリーズでは、キートップ側面を彩色する『サイドカラードキー』を採用していましたが、今回約2.5mm出っ張るということで、サイドカラードだとちょっと重く見えると感じました。なので、側面を透明にして、軽やかな印象を与えたかったのです」と渡邊氏は説明する。

タイプしてみると、約2.5mmというストロークの深さに一瞬驚きを覚えるかもしれない。やがてこれが疲れにくいキーボードであることに気づくだろう。

理由は「3段階押下圧キーボード」にある。手の5本の指、それぞれの押す力が異なることに着目し、親指が押すキーは一番重く、小指で押すキーは弱くといった具合に、キーの押し感を3段階に調節しているのだ。キー単体で押してみても違いは分かるが、しっかりタイプしてみると、力が弱いはずの小指でも力を入れずにキーを押下できる。

しかも「ステップ型キートップ」のため、1列ごとにキートップが画面に向けて傾斜している。列ごとに段差がついているため、指で列を感じやすくなっている。

加えて、個々のキートップがわずかに凹形状になっている「球面シリンドリカルキートップ」により、指の腹をしっかりキャッチ。指が確実にキートップにすいつき、スイスイと動かしやすいよう、細かい部分までとことんこだわり抜かれているのだ。

特に長文を打ち始めると、一般的なノートパソコンのキーボードと比べて指の動かしやすさに違いを感じられる。「ノートパソコンですが、デスクトップの打ち心地を実現しました」という渡邊氏の言葉に納得だ。これはぜひ店頭で試していただきたいポイントといえよう。

キーボード以外の部分にも、ヒューマンセントリックの思想は息づいている。例えば、本体を閉じたときの側面形状。特徴的な谷型の凹みは、どの部分からでも指を添えてカバーを開けやすくするための形状だ

カバーを閉じたときの側面の凹みは、どこからでもカバーを開きやすくするため

タッチパッドのボタンは、2ボタン分離型で、クリック感もあり使いやすい。ボタン形状もふっくらとした形状で、指先への「あたり」もやわらかだ。

やわらかな曲面で指先にやさしいタッチパッド

ほかにも、マウス作業の邪魔にならないようにヘッドホン端子が左側に移設されたり、バッテリーを手前側に内蔵することで重心を前面に置き、タッチパネル使用時に本体がうしろに倒れにくくしていたりと、使い勝手を考えた工夫が多数盛り込まれている。これが、富士通なりの「デザイン」のかたちと言えそうだ。

とても細かい部分だが、本体裏面もコンセプトに違わないフラット面となっている。ボディカラーと同じ色が採用されており、見た目にもスッキリとシンプルにまとめられている。おかげで、ふと持ち上げた瞬間でも、世界観を崩す心配がない。

むしろ、持ち上げてこそ活きるノートPCといえるかもしれない。据え置きのイメージがある15.6型ノートだが、「AH77/W」はどんな場所にも馴染む上、バッテリー駆動時間も約4.5時間(JEITA 2.0)と長持ちなので、書斎、寝室、リビング、キッチンと、屋内で好きな場所で使用できる。書斎でしていた書き物を、気分を変えてベランダで、というのもありだろう。つまり「AH77/W」は“ハウスモバイル”用としてもいいのだ。

「このサイズなら、外に行かないにしても家の中でモバイルしやすいです。むしろそうやって使っていただきたいと思っています」と益山氏も笑顔を見せる。「AH77/W」を抱えて室内を颯爽と移動しているうちに、ライフスタイルもちょっとプレミアムなものになりそうだ。

「薄くてフラット、余計な出っ張りも少なく持ちやすいので、家の中でもモバイルして使っていただきたいですね」と両氏

触ってわかる富士通のこだわり

以上で見てきたように、一見シンプルなスタンダードノートだが、いや、だからこそ、そこには開発者のこだわりや意気込み、心遣いが息づいていることがわかる。

ノートパソコンを選ぶときは、店頭でぜひ「AH77/W」に直接触れてみていただきたい。閉じて持ち上げる、裏返す、キーボードで好きな文章をなるべく長めに打ってみる……そうすることで、Webの記事やPOPでは伝わらない良さを感じられるはずである。

(Reported by すずまり)

LIFEBOOK AH77/W スペック

品名
AH77/W
CPU
インテル® Core™ i7-6700HQ プロセッサー(最大3.50GHz 4コア/8スレッド)
OS
Windows 10 Home 64ビット版
メモリ
標準8GB(8GB×1)/最大16GB
(デュアルチャネル対応可能DDR4 SDRAM PC4-17000)
ストレージ
約1TB HDD
液晶
15.6型ワイドフルHD[1920×1080] 高輝度・高色純度・広視野角 TFTカラーLCD フルフラットファインパネル(タッチ対応)
光学ドライブ
BDXL™対応 Blu-ray Discドライブ(スーパーマルチドライブ機能対応)
外形寸法(幅×奥行×高さ)
378.0×256.0×25.7~27.4mm
質量
約2.5kg
駆動時間
約4.5時間(JEITA 2.0)
付属ソフト
Office Home & Business Premium プラス Office 365 サービス、ATOK 2015 for Windows、マカフィー リブセーフ 3年版、Corel® Digital Studio for FUJITSU、筆ぐるめ 22、広辞苑第六版、リーダーズ英和辞典第三版/新和英中辞典第5版、学研パーソナル統合辞典(4種)など

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