「平均株価で1万4000円、東証株価指数で1300ポイントなら御の字」―。大手銀行の企画担当者は年初からこう語っていたが、果たして3月末の株価は、原価法を前提にした今期の銀行決算が波乱なく着地できる水準に回復してきた。その要因は、政府・与党の緊急経済対策への期待感や構造改革進展の兆候、一部都銀の赤字決算をはじめ不良債権処理の微かな前進などの材料で目先の底入れ感が出たことだけではない。公的年金資金などを活用した、株価のPLO(プライス・リフティング・オペレーション)がかなりの効果をもたらしているのだ。自民党総裁選にも微妙な影響を与えるPLOを成功に導いた凄腕の“司令塔”は?
●“身内”出し抜く巧妙なPLO
PLOは、郵便貯金や厚生年金、簡易保険の自主運用資金を信託銀行などに委託する単独運用指定金銭信託(指定単)を経由して、政府が隠密に株買いを指揮する手法だ。
ただ、下手に出動すると、株価の底値感を損なったり株価形成を歪める恐れがあり、市場参加者の嫌気を誘う。1998年の旧日本長期信用銀行の経営不安を巡る金融危機の際には、自民党の山崎拓政調会長(当時)が、異例の出動宣言を発したが、「空砲」であることが市場に見抜かれ、効果を上げなかった例がある。
今回のPLOは、日銀が3月19日の政策委員会・金融政策決定会合で、当座預金残高に目標を設定して資金の供給量を増やす「実質的なゼロ金利政策への復帰」を決めたことを受け、20日の休日を挟んだ21日から開始された。東京生命保険と冨士工が立て続けに破綻した23日まで、PLOによる活発な買いが入ったことは間違いない。
が、週明け26日になると、指定単を実際に運用している信託銀行の担当者から「“身内”にまで内緒にすることはないじゃないか」と、政府への憤懣の声が上がった。平均株価で600円以上の値上がりを見ると、PLOが実施されている可能性は高いのだが、信頼に足る情報が得られなくなったのだ。
そうした中、同日の取り引き終了後に、「今日は株価指数先物にわずかの買いが入っただけ」ということが判明する。
都銀系証券筋によると、この日のPLOは前週の株価上昇により、海外の機関投資家の間で従来の「日本株売り」ポジションに不安が高まっている状況を敏感に把握し、「先物で軽く背中を押せば上げ相場を維持できる」という市場の地合いをよく理解した運用指図だという。
●余力残した絶妙な買い出動
こうした絶妙な買い出動は、政府内部でも注目を集めた。株券の受渡日を考慮すれば、投資家の年度内の取り引き最終日は27日となるが、「こういう無駄打ちを避けた出動なら、残る28~30日の3日間、駄目押しの買い支え資金にも余裕を残せる」(財務省筋)。
さらに、3月末の株価持ち直しが、金融システムや経済の当面の「軟着陸」を演出できた場合、「景気対策派」と「構造改革派」のせめぎ合いの様相を示す政局にも、微妙な影響を与える可能性がある。
もちろん、自民党総裁選は4月20日前後で固まりつつあり、それまでの間、市場の波乱が両者の力関係にどう変化をもたらすか、予断を許さない。
ただ、当面は「3月末の株価が、金融機関や企業の決算に打撃を与える水準であれば、亀井静香・自民党政調会長らが主導する経済対策への『不信任』を突き付ける形になった。反対に、3月末が『軟着陸』なら、とりあえずは自民党主流派にとって有利な材料になる」(同)。
市場音痴で知られる政府に似つかわしからぬ手腕が意外感を与えているわけだが、今回のPLOに限り、政官民に渡る経済関係者だけでなく、政局ウォッチャーも背後の真相に並々ならぬ関心を寄せる所以だ。
■URL
・株価急騰を演出した“官製相場”~海外投資家は静観の構え
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/22/doc2337.htm
・1万3000円割れで大手銀の含み完全消滅~注目集める外資証券リポート
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/13/doc1973.htm
(小倉豊)
2001/03/28
10:18
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