FINANCE Watch
コラム 瓦版一気読み~不自然な東証株急騰

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●投資家は「とりあえず・・・」
  きのう21日の東京株式市場は日本銀行による量的緩和策に加え、日米首脳会談で森首相が不良債権処理を含めた構造改革を精力的に進めることを公約したことからほぼ全面高となり、平均株価の終値は912円高97銭高の1万3103円94銭と急反発した。

  「東証1万3000円台回復」(東京)、「構造改革、公約に期待感」(朝日)、「期待感膨らみ912円高」(産経)。きょうは、この3紙が1面トップで報じている。

  1万3000円台の回復は、3週間ぶり、東証株価指数の上昇率では歴代7位、上げ幅は1998年1月以来の大きさという。政治の世界も一寸先が読めないが、株式相場もよくわからない。きのう、このコーナーでも、読売が「日経平均株価が1万3000円台を回復するには相当時間がかかるだろう」(準大手証券)という観測記事を紹介したばかり。アナリスト諸氏も「1年前のネットバブル以来、久々のにぎわいだ」と語っているように、一夜明けて不自然な急騰に株価のボードをみつめながら右往左往している姿が手に取るようにわかる。

  もっとも、この日の急騰で株価が本格的な回復軌道に乗るとみる専門家は少ない。「とりあえず買っておこうという動きが出たようだ。経済の基本的な状況は変わっておらず、4月に入れば売り圧力が再び高まる可能性がある」(外資系証券アナリスト)「米国株が下げ続けるなかで、海外マネーの流入も期待できない。ゼロ金利のもとでの御祝儀相場で一時的な上昇に過ぎない」(準大手証券エコノミスト)などと慎重な意見も飛び交っている。

  気になるのは、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価が、今朝も2日連続で終値は大幅に下落している。これが東京市場にどう響くのか・・・。

  ◇日経は、森首相が「苦い薬」にも「全力挙げる」とブッシュ米大統領に「公約」した金融機関の不良債権処理の具体的な計画見通しを明らかにしている。それによると、大手都市銀行16行の今3月期で約4兆円規模を計上、東京三菱銀行(8315)なども赤字決算になる可能性があると伝えている。

  ◇毎日はKSD事件で、東京地検特捜部が元労相の村上正邦容疑者を受託収賄罪で起訴した記事を取り上げている。本人は容疑を全面的に否認しているが、昨年10月の家宅捜査で始まったKSD汚職事件の捜査も事実上終結したことになる。

  ◇私は「変人と言われているが、変革の人だ」と、20日に行われた演説で、事実上の出馬表明をした自民党森派会長の小泉純一郎元厚相が、「出馬の意向を固め、森派幹部に伝えた」と、読売がだめ押しの記事。橋本派が擁立する候補との一騎討ちとなる公算が大きくなった。だが、観測気球が上がっている段階で論じるのは時間の無駄。

  【経済・IT】
  ●「回復」から「足踏み」に
  「量的金融緩和」に踏み切ったばかりの日銀が3月の金融経済月報を発表したが「輸出の減少を背景に、ここのところ足踏み状態となっている」と景況判断をした(日経)。日銀は2000年7月以降「緩やかな回復」との表現を続けてきたが、9カ月ぶりに「回復」が消えたことになる。「当面、景気は停滞色の強い展開が続く可能性が高い」との見解もあって、しばらく「回復」の文字が「回復」することは期待できないようだ。

  ◇NTTドコモ(9437)が、加入者が2,000万人を超える携帯電話向けインターネットサービスの「iモード」の通信網を2003年春に開放する方針を決めた(読売)。「@ニフティ」や「BIGLOBE」などの有力プロバイダーや新電電が持つコンピューター・通信設備にも接続が可能になり、携帯電話でもパソコンと同じような豊富なサービスがうけられるようになる。

  「iモード」で一人勝ちのドコモに対しては、総務省が「市場シェアが大き過ぎるので監視を強める必要がある」と新たな規制法案を今国会に提出する動きもあるが、ドコモは猛反発。とはいえ、今回の「設備の開放」を決めたのは、規制を回避するためのスタンドプレーに違いない。

  ◇そのプロバイダー最大手の「@ニフティ」は、来月6日からコンビニの「ローソン」(2651)の店頭で、電子商取引の代金決済ができるサービスを開始する(産経)。現行のコンビニでの決済はパソコンのプリンターで支払い票を印刷し、店頭に持ち込む必要があるが、新たにローソン店頭に設置された情報端末「ロッピー」の活用で支払い票は不要になる。ローソンは三菱商事(8058)がテコ入れしたものの、既存店の売上げは頭打ち。ニフティの「仮想商店街」でどこまで巻き返しが図れるのか?

  ◇NEC(6701)が、相手に応じて人と会話をしたり、命令されると家電製品のスイッチを入れてくれるという賢い家庭用ロボット「パペロ」の試作品を発表した(朝日など)。余談だがNECは、1998年に発覚した防衛庁への不正請求事件、99年の巨額の赤字決算などで、空前の経営危機に陥った。

  その後、西垣浩司社長を中心に大胆なリストラを断行中。だが、旧経営陣との不協和音もあって、内紛のようなゴタゴタ続きで一触即発の様相だ。社内では “ミニ・ヒットラー”と呼ばれている西垣社長の周りは、この試作品のような有能なイエスマンが多いというのも皮肉な話だ。

  【トピック】
  ●「1円を笑うものは・・・」
  1年間「1万円を預けても、利息はたったの1円」(毎日)。「100万円を預けてもわずか160円(税引き後)」(東京)。東京三菱銀行など、都銀各行が日銀の量的緩和策による市場金利の低下を受け、普通預金金利を年0.11%から史上最低の0.02%に引き下げると発表。

  「1円を笑う者は・・・」とはよく言うが、引き出し手数料などを考えると「預けると損する」ことになるが、老後のことなどを考えると「タンス貯金」が増えるのは必至。これでは消費は拡大しない。いずれ住宅ローンなど貸出し金利も引き下げられることになるが、借り手がいない中での「量的緩和」は無意味という批判の声も上がっていることもお忘れなく・・・。

  [メディア批評家 増山広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm

2001/03/22 09:18