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「日本の政治を読む」~狂い始めた「野中首相」誕生のシナリオ

  【今週の主な政治日程】
  ▼12日(月) 自民党全国幹事長会議
  ▼13日(火) 自民党大会(日本武道館)
  ▼15日(木) 参院予算委公聴会
  ▼16日(金) 民主党幹事長会議

  【政局の焦点】
  ●「第3の候補」浮上か
  森喜朗首相が10日、自民党5役に対し、事実上の退陣表明をしたことで、今後の政局の焦点は次の首相候補は誰かに絞られてきた。再三述べてきているように、公明、保守両党首脳の支持も受けた野中広務前幹事長が最有力候補であることに変わりはない。しかし、その一方で、自民党内には「野中で参院選を戦えるのか」との筋論のほか、腹心の古賀幹事長を使って森首相を強引に引きずり降ろした手法に森派などが強く反発。後継選びが総裁選に持ち込まれた場合、小泉純一郎氏との相打ちとなり、橋本龍太郎元首相やさらに若い世代などの「第3の候補」が浮上してこようとの見方も出始めている。

  ●狂い始めた「野中首相」誕生のシナリオ
  今回の「森降ろし劇」について森首相自身は「野中の陰謀だ。野中なんかには(政権は)回せない」と激怒、森派会長の小泉氏も「野中政権は絶対に阻止する」と周辺に漏らしているという。確かに首相側が「首相訪米前に退陣表明することは百パーセントない」としていたにもかかわらず、公明党幹部も使っての有無を言わさない引き降ろし工作には相当な軋轢が生じている。10日の5役会議での「退陣表明」も表向きは古賀幹事長が主導していることになっているものの、そのバックに野中氏がいたことは周知の事実。「森の後は野中」との野中氏らと公明党・創価学会合作による「野中政権誕生」のシナリオは狂い始めている。特に最終場面で、野中氏が「森降ろし」の引き金を直接引いたとみられることが、今後の後継選びに影響しそうだ。

  ●橋本派幹部は野中氏に冷ややか
  また、橋本派幹部の青木幹雄参院幹事長が最近、小泉氏としばしば会談していることも野中氏側を疑心暗鬼にさせている。青木氏のほか、橋本氏や綿貫民輔衆院議長、村岡兼造総務会長などの同派幹部は野中氏擁立に必ずしも賛成しておらず、野中氏としては派内の一本化を図ることが今後の最優先事項となる。後継候補としては野中、小泉、橋本3氏のほか、平沼赳夫経済産業相、麻生太郎経済財政担当相、高村正彦法相、堀内光雄元通産相、野田聖子副幹事長らの名前が上がっているが、今のところ、いずれも噂の域を出ていない。

  ●拡大県連代表による投票へ
  また首相候補選びにはその選出方法が重大な影響を及ぼす。少なくとも森首相の時のような密室協議による選出は今回は回避することが絶対条件とみられ、衆参両院議員と都道府県連代表による総裁選が実施される見通しだ。県連代表も従来の1県1票ではなく、300小選挙区の支部にも各1票の計347票とする案が浮上している。これが国会議員と同等の価値を持つなら、県連代表の意向が総裁選びを大きく左右することになる。各紙の県連アンケートなどによると、参院選を考え、勝てる候補として小泉氏を推す声がある一方、景気対策などでは幹事長、官房長官で実績があり安定感もある野中氏が最適とする意見も根強い。いずれにしても選出方法決定には古賀幹事長の意向が大きく反映しよう。

  ●早ければ4月中旬に新内閣発足か
  総裁選の時期については党執行部側が4月早期の実施を意図しているのに対し、森首相側は連休後の5月を要求するなど駆け引きが続いている。今後のスケジュールについて、最も早いケースを想定すると、◇3月21日予算成立◇23日主要な予算関連法案成立◇25日日ロ首脳会談◇27日森首相の正式退陣表明会見◇4月1日総裁選告示◇6日立ち会い演説会◇13日新総裁選出◇15日首班指名選挙◇16日新政権発足―が考えられる。もちろんこの日程は、今後の予算審議での野党の出方、総裁選での候補の絞り込みができるかなどによって大きく変動する。

  ●「空証文」に終わるか緊急経済対策
  与党3党が9日発表した緊急経済対策は、株式買い上げ機構の設置や都心の土地流動化を目指す「都市再生本部」の新設など意欲的とみられる内容も盛り込まれている。しかし、財政当局は「今、税法改正案を国会に出しており、そんな話に僕らは関われない」(宮沢喜一財務相)と極めて冷ややかな態度で、実現性に疑問符がついている。何より、同対策は自民党の亀井静香政調会長が森首相擁護策として策定を急いだだけに、肝心の首相の退陣が事実上決まった現在、推進力を失った「空証文」になる可能性が大。“オオカミ老年”亀井氏のほら話がまたひとつ加わっただけに過ぎないかも知れない。

  ●もはや投げやり?宮沢財務相
  先週、景気低迷の“戦犯”として森首相ら5人を挙げたが、その内の1人、宮沢財務相が参院予算委員会で「日本の財政は破局に近い状況」と述べたことは、ヘラルドトリビューン、フィナンシャルタイムズ、フィガロ、NYタイムズなど外国主要紙がいずれも1面トップまたは準トップで報じ、さらに「日本崩壊寸前」(フィガロ)などの特集記事を組んだ。あまりの反響の大きさに宮沢氏はその後、発言を修正したが、いくら実態がそうだからと言ってストレートに言えば、あれくらいの騒ぎになることくらい首相も経験した財政通の同氏なら分かりそうなもの。政権末期とあって、同氏がもう投げやりになっているとの見方が出ても当然だ。それにしても同発言を日本の各紙は経済面の囲み程度の小さな扱いしかしなかったのは、一体どうしたことか。森首相の退陣問題ばかりがニュースじゃあるまい。

  ●自民の参院選惨敗を予感させる調査も
  東大の蒲島郁夫教授が「論座」4月号に掲載した「無党派が蜂起する」と題する調査内容が政界で話題を呼んでいる。同論文の要点は(1)自民党が公明、共産両党を上回る「拒否政党」となった(2)自民党が第1党の座を民主党と交代した(3)社会の中核である40~50歳代が自民党に一番嫌悪感を感じている(4)有権者の8割が自民党は自力で変わることはできないとみている―など。つまり、これまで自民党長期政権を支え続けてきた層が雪崩を打って自民党支持から離れつつあるということで、7月の参院選での与党惨敗を強く予感させる内容となっている。ちなみに、自民党を嫌う理由に森首相の存在を挙げた人はわずか6%にとどまっており、森首相が退陣しても自民党の低落傾向は変わりないとの結果も出ている。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/03/12 09:29