FINANCE Watch
コラム 瓦版一気読み~その意図するところは?

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●「生みの親」去る
  「森サンでいいじゃないか」

  脳梗塞に倒れた小渕恵三首相の後継を誰にするか。昨年4月2日夜、赤坂プリンスホテルで行われた自民党5幹部の会合で、村上正邦参院議員会長がこう言い放った。

  この場に居合わせたのは、村上氏のほかに青木幹雄官房長官、野中広務幹事長代理、亀井静香政調会長、そして森喜朗幹事長の4人。森政権は、この「5人組」による密室の協議で誕生した。世に言う「赤プリの密談」である。

  この流れからみれば、キングメーカー、つまり森首相の「生みの親」は口火を切った村上氏ということになる。

  その村上氏に、東京地検の捜査の手が伸び、1月の参院議員会長辞任に続き、22日には遂に議員辞職という事態に追い込まれた。村上氏のKSD疑惑は、受託収賄容疑で捜査を進める地検の手によって立件され、公判での全容解明が期待される。が、森首相選出過程の密室性と政権の正統性を巡る疑問は解明されることなく、闇へと葬り去られる。

  村上氏の議員辞職問題に話を戻す。このニュースをトップで報じたのは、朝日、読売、毎日、東京の4紙。報道によれば、辞職願いを持って国会に現れた同氏は、青木氏に「KSD問題で国民や議会の皆さんに大きな心配や迷惑をかけたので議員辞職したい」と語ったという。が、心配をかけた「国民や議会の皆さん」に一言もメッセージを発することなく国会を後にした。

  随分と潔い身の処し方だが、彼の真意那辺にありや。かつて中曽根康弘元首相が村上氏のことを「村上水軍の末裔だから潮目を読むのが上手い」と評したことがあるという(朝日)。ならば、この局面で村上氏はどんな潮目の読み方をしたのか。

  「辞めれば(罪が)軽くなるかもしれない」。毎日によれば、村上氏は周辺にこんな言葉を漏らしたという。社会面に掲載されたこの記事の見出しは、<捜査迫り計算ずく?>

  要するに、情状酌量が目当ての議員辞職ということか。

  ◇総務省が、CSデジタル放送とCATVの事業者に対する外資規制を大幅緩和、外国人の出資比率制限(現行20%未満)を撤廃する、と日経が報じている。「海外事業者などの新規参入を容易にし、多様な番組提供を促す」のが狙いというが、時代遅れの外資規制の撤廃は当然である。

  しかし、地上波とBS放送については「基幹放送」との位置付けを変えず、今後も参入規制措置を継続する方針という。

  ◇中国外務省が、検定中の一部の歴史教科書について、日本政府に「侵略を美化する教科書の登場阻止」を求めるとの公式見解を表明した。

  このニュースをトップで取り上げた産経は、脇に解説を掲載し、「事実上の内政干渉にあたる重大なもの」と中国側を非難している。

  【経済・IT】
  ●さざ波が立つ日銀政策委
  「景気認識に基づいて、日銀として可能なことを時宜をとらえて実施していくことが重要だ」

  日経平均がバブル崩壊後最安値を更新したきのう、日銀政策委員会の田谷禎三審議委員が宇都宮市で講演し、金融の追加緩和に柔軟な姿勢を示した。“つまみ食い”の新聞記事から発言の意図を読み取ることは難しいが、朝日や日経によれば、その前提として不良債権の最終処理の必要性を強調。その結果、倒産の多発や大量失業などでデフレ圧力が強まった時には「(金融)政策で対応すべきだ」という文脈で論じたらしい。

  ともあれ、政策委員会の中で中立派に属する田谷氏が、日銀当局よりも厳しい景気認識を示したことは事実。毎日は、政策委の「メンバー9人に、景気への懸念が広がっていることを浮き彫りにしている」と報じている。

  下げ止まる気配が一向に見られない株式市場では、「日本銀行の金融政策による景気刺激策を期待する声も高まり始めている」(朝日)。市場が催促するからといって、簡単に政策を変更されたのでは、何のための「中央銀行の独立性」か分からなくなるが、田谷氏は講演の中でこんなことも言っている。

  「デフレ圧力が高まってからでは遅い」「コール金利は既に低く、下げても効果がないという態度は生産的でない」

  ◇「持ってけドロボー!」。ダイエー(8263)が24日から4日間、全店の8割にあたる約270店で大幅値引きの在庫一掃セールを実施、衣料品約250万点を9割引きで販売する(日経)。

  在庫負担の圧縮と仕入れ量の適正化が狙いで、“叩き売り”に伴う特別損失は今年2月期の業績予想に織り込み済み。損を覚悟の再建戦略だが、出直しは可能か?

  【トピック】
  ●後継は誰?
  「いい天気だなあ、きょうは。椿が咲いてる」

  きのうの午後、森首相は官邸の階段を下りながら窓の外を見て、こんな言葉を漏らした。

  首相を支える「5(首相を除くと4)人組」の一角が崩れ、政権の自壊が進んでいるというのにこの余裕。「森降ろし」を加速させようにも、後継者が見当たらないことが椿を眺めるだけのゆとりを首相に与えているようだ。

  政策新人類改め「日本の明日を創る会」の面々がきのう、国立国会図書館で会合を開き、次の自民党総裁選について、密室で決めず開かれた総裁選にするよう執行部に求めていくことを決めた。

  趣旨は分かるが、綺麗事に過ぎる。「日本の明日を創る」ことのできる後継候補を担ぎ、「森降ろし」に打って出るくらいの気概がなければ、老獪な首脳陣に「若手の遠吠え」と一蹴されるのがオチだ。

  [メディア批評家 増山広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー 2月
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/02.htm

2001/02/23 09:13