FINANCE Watch
問題企業へ破綻宣告か?~「直接償却」促す金融相の真意

  引当金中心の間接消却から最終処理(直接償却)へ―。金融機関の不良債権処理を巡る金融当局の突然の方針転換が波紋を呼んでいる。不良債権の処理の遅れが経済再生の足を引っ張っていることは確かだが、最終処理の促進はゼネコンや流通など問題企業への「破綻宣告」につながり、大型倒産の続発という事態も予想される。それでもなお、大手銀行に対し、問題企業向けの債権を資産から完全に切り離す「直接償却」を促す柳沢伯夫金融担当相の真意は?

  ●衝撃受ける大手銀行
  「経営支援中の取引先を破綻認定せよということなのか」

  19日に開かれた金融庁と民間金融機関の定例意見交換会の席上、複数の大手銀幹部が血相を変えて金融庁の参事官や課長らに詰め寄った。会合のメーンテーマは、先週末、柳沢金融担当相が不良債権処理の新たな促進策として「直接償却」の積極推進を、マスコミを通じて打ち上げたことだ。

  都銀の中枢部門である企画部の幹部は、「不良債権を直接償却すると何が起こるか、マスコミも官僚も政治家も分かっていない。その意味するところが判明すれば、誰もが沈黙するだろう」と平静を装うが、相当深刻な衝撃を受けているのは明らかだ。

  現在の制度では、「直接償却」の要件は、債務者が「破綻先」か「実質破綻先」に転落することに、ほぼ限られている。

  例えば、昨年7月に民事再生法を申請して倒産した大手百貨店そごうに対する旧日本長期信用銀行(現新生銀行)の場合、当初、「破綻懸念先」に認定した上で債権総額1,976億円のうち約1,000億円の引当金を積んでいた。これは、貸出債権を保有したまま将来の損失に備える「間接償却」である。

  しかし、その後発生した事態を振り返ると、法的処理(民事再生法)に伴いそごう向け債権が「破綻先」に転落、担保でカバーされた一部を除く全額を損失処理する必要が生じた。再生手続きが裁判所の下で確定すれば、そごうへの債権は、銀行の資産から消え去る。

  柳沢金融相が主張する「不良債権の最終処理」はこのようにして実現するのだ。

  ●債権放棄では解決しない
  ところで、経営不振続きだったそごうに対する当初の「間接償却」のように、約1,000億円分は貸し倒れに備えていたとしても、引当金でカバーされない900億円超の債権に対しては、経営の一段の悪化や、担保価値の目減りで、銀行は引当処理の積み増しを迫られる恐れが残る。

  事実、事態はごく短期間でそのように推移した。ダイエー(8263)、マイカル(9269)など一部流通業や、過剰債務を抱える信販会社などに対する現時点での銀行の対応は、当初のそごうと同様、「間接償却」で損失発生に備えている段階と言えるだろう。

  また、そごうが要請した970億円の債権放棄が実現していたとすれば、放棄額だけ資産から切り離す部分的な直接償却によって、問題企業向け融資はいく分軽くなっていた。

  しかし、柳沢金融相の意図は、債権放棄による部分的な直接償却ではあるまい。そごうの例を見れば、旧長銀に残った1,000億円余りの残債権は劣化が避けられず、破綻の時期が先延ばしされただけで、いずれ追加処理に至ったはずだ。

  これほどひどい状態かどうかはっきりしないが、熊谷組(1851)、ハザマ(1837)など中堅ゼネコンをはじめ、トーメン(8003)、兼松(8020)など中下位商社に対し、銀行が施している措置は、債権放棄による経営支援。柳沢金融相は、こうした従来の対応では、金融不安の除去は十分でないと主張しているかのようだ。

  確かに、大手16行の不良債権は昨年9月末時点で約17兆2,500億円と3月末に比べ、たった5,800億円程度しか減っていない。不良債権をいくら処理しても再膨張してくるのは、景気不振や地価下落によって構造改革業種の経営の悪化が止まらないからだ。

  昨年後半以降、市場では金融システムへの懸念が再燃し株価下落を招いている。先週開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の声明でも、日本は「金融部門を強化する努力を拡充すべき」とクギを刺された。

  ●金融庁も“思案投げ首”
  さりとて、従来の小渕・森政権の政策スタンスや日本の銀行の経営文化からは、債務者を締め上げて次々と経営断念に追い込むハード・ランディング的な対処は取り得ない。ならば、どのような策があるのか。

  柳沢金融相は、今のところ、「会社分割法制を活用した新手法」など、新たな妙手を例示して過激な表現を避けているが、金融庁の事務当局は具体策について首をかしげるばかり。

  「債権の流動化・証券化」や、複数企業向けの債権を一括して海外投資家に売却する「バルクセール」などの直接償却の手法は、文字通り「失われた10年」1日(いちじつ)のごとき不良債権処理策の万年候補だが、「うまく機能する」と本気で期待を寄せる関係者は絶無だ。

  政府が、金融システム問題の“軟着陸路線”の放棄を本当に決断できるかどうか、直接償却促進の具体策をまとめる期限の、3月末までには判明することになるだろう。

■URL
・金融庁
http://www.fsa.go.jp/
・揺らぐ「安全宣言」の確度~金融当局の国際公約に「?」
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/05/doc1895.htm

(小倉豊)
2001/02/22 10:13