FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~致命傷になりかねないゴルフ問題

  【今週の主な政治日程】
  ▼13日(火) KSD、機密費に関する衆院予算委集中審議
  ▼14日(水) 党首討論

  【政局の焦点】
  ●致命傷になりかねないゴルフ問題
  衆院予算委員会は、予想通りケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)と外交機密費問題に議論が集中、もうひとつの「K」である株価問題はほとんど取り上げられていない。そうした中で宇和島水産高校の実習船がハワイ沖で米原子力潜水艦と衝突、沈没した事故で、連絡を受けた森喜朗首相がゴルフプレーを直ちに中断し、首相官邸へ戻らなかったことが政治問題化しつつある。野党側が13日の集中審議などで首相の危機意識のなさを追及するのは当然として、何やらこの問題が首相にとって致命傷となりかねない予感がする。人命に関する失態だけに、これまで首相を必死で支えてきた人たちの緊張の糸がぷっつり切れる恐れがある。

  ●首相には秘書官もついていなかった
  10日、事故の一報が首相に入ったとみられるのが午前10時半頃。頃というのは首相官邸の危機管理センターに一報が入ったのは午前10時15分だが、横浜市で友人とゴルフを楽しんでいた首相には、異例のことに秘書官が1人もついておらず、連絡が遅れた可能性がある。その後誰かが首相に携帯電話を渡し、初めて事故を知ったものと思われるが、そうだとすれば、直ちに官邸に戻らないでいいとの判断は首相自身が下したことになり、より責任は重くなる。また当日は福田官房長官も群馬に出張していたため、安倍副長官が留守役として官邸にすぐ出向く義務があったが、これまた一報後、相当遅れている。以上のような状況から首相官邸の危機管理体制は誠にお粗末といわざるをえない。

  ●「森退陣論」に方針転換した公明党
  公明党の神崎武法代表は11日、「すぐゴルフを中止して官邸に戻ってほしかった」と批判した。同党は参院選での劣勢が伝えられる中、KSD、機密費両疑惑でも「真相の徹底解明」を主張、ほとんど「与党内野党」と化しており、同党幹部の発言もこのところ「森首相が自民党総裁である間は支える」と、自民党総裁交代を容認する内容に変化している。同党はこれまで、自ら「森降ろし」に手を染めない方針だったが、最大の支持団体の創価学会の森首相に対する反発がすさまじく、「自公連立解消論」まで噴き出しているため、「森首相退陣」に積極的に関与する方針に転換したとの情報もある。

  ●極めて重要だった森・青木会談
  また、自民党最大派閥の橋本派も森首相とさらに距離を置き始めたようだ。野中広務前幹事長は通常国会が始まる前から首相に対し、「緊張感を持って臨んでほしい」と繰り返し警告してきたが、実習船事故で森首相の緊張感のなさが改めて実証された形。11日の首相と橋本派幹部の青木幹雄参院幹事長との会談が今後の国会運営だけでなく、いつまで森首相でいくかなど政権の行く末を含めた極めて重要な内容を含んでいた可能性が十分ある。

  ●森、橋本両派が離反
  一方、3月13日に日本武道館で予定されていた自民党大会の際の加山雄三ショーが中止されたことをめぐっても、森派幹部から「いったん総理と幹事長に一任したのに、野中、青木両氏がひっくり返したことは(森政権への)揺さぶりだ」と、橋本派幹部に対する不満が漏れている。もともと橋本派は森政権から1歩引いた構えだったが、堀内派(42人)を実質的に手に入れたことで政権の死命を制する立場が一層強固となり、森派の総裁派閥としての立場がますます苦しくなっている。

  ●「ポスト森」、小泉氏も色気
  こうした中で「ポスト森」候補の名前が大きく変動している。有力候補だった河野洋平外相は機密費事件で脱落。代わって森派会長の小泉純一郎元厚相の名前が浮上。このほか野中氏や扇千景保守党党首の名も取りざたされている。小泉氏は自民党内若手を中心に「若いし、元気もいい」と評価が高まっており、敵対する民主党幹部からも「自民党が小泉氏に代えられるようなら大したもの」と妙な期待が上がっている。また小泉氏本人にも「色気が出てきた」(森派幹部)との見方が強まっている。小泉氏は「最後まで森首相を支える」としているものの、首相に引導を渡す役目を担えるのが小泉氏しかいないのもまた事実だろう。

  ●生温い対応なら民主党は万死に値
  一方、村上正邦前参院議員会長の証人喚問は2001年度予算案が衆院通過する直前の今月末が見込まれているが、同氏逮捕の可能性が高まっているため、自民党側が逮捕を見込んで証人喚問をずるずる引き延ばすことも考えられる。いずれにしても民主党がどこまで本気で取り組むかにかかる。以前も指摘したが、同党が「森首相を参院選前の辞任に追い込まない」などの生温い対応を取れば、同党は万死に値し、必ず参院選でしっぺ返しを受けよう。

  ●最高検は村上逮捕の意向固める
  ところで最高検は、村上氏逮捕の方針を既に固めているとみられるが、福岡地検の次席検事が福岡高裁判事の妻のストーカー事件で不明朗な行動があった問題で、やや気勢をそがれた格好となっている。最高検としては3月末の定期人事異動前に逮捕に踏み切りたい意向とみられるが、その場合、森首相の退陣などの「3月危機」とも直結しかねないだけに、現在、そのタイミングを慎重に測っているもようだ。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/02/13 09:55