FINANCE Watch
武富士株を売り浴びせた、つばさ証券~“売り本尊”は「?」

  消費者金融最大手、武富士(8564)株の1月の売買動向を巡り、証券関係者の間で奇妙な憶測が流れている。同社株は、昨年11月下旬に5450円の安値をつけた後、戻し局面に入り、今年1月末には9000円近辺に回復した。しかし、武富士はホームページ上や会見で全面否定しているものの、市場には昨年来「武富士の香港現地法人が巨額の損失を抱えている」などの噂が流され、何やら不穏な情勢。こうした中、1月月間の証券会社別売買動向で、三和銀行(8320)グループのつばさ証券(8621)が92万株を売る一方、買いがゼロという取り引きに出ていたことが分かったのだ。

  ●突出する「売り」の背景は?
  武富士側の調べでは、内外証券29社中「売り」のトップはつばさ証券の92万株。2位のインドスエズ証券が30万4,700株(「買い」は1万株)というのだから、つばさ証券の突出ぶりが分かるが、「つばさ証券の売り本尊は不明」(武富士関係者)という。

  ちなみに、「売り」が「買い」を上回った証券会社は12社。逆に、野村証券は22万4,200株の「売り」、71万9,800株の「買い」で、差し引き49万5,600株の買い方トップだ。

  こうした動向が何を意味しているか、明確にはわからない。ただ、三和銀行グループと武富士の間に限れば、業界関係者なら誰もが思い当たる因縁はある。個人向けの無担保ローン業務に欠かせない個人情報の活用を巡るサヤ当てが、いま展開されているのだ。

  銀行業界は、景気不振による資金需要の低迷で、企業向けの貸し出しが伸び悩んでいる。儲け口に困っているのは、今年4月に出そろう4大銀行グループも例外ではなく、一斉に「リテール重視」の旗を掲げ、利ざやの厚い「消費性ローン」分野に乗り出そうとしている。

  その先頭を走るのが三和銀行グループ。消費者金融大手のプロミス(8574)と組んで無担保ローン会社専門の「モビット」を設立し、既に業務を開始した。CMなどの露出度では、同じ都銀系のさくら銀行(8314)の「さくらローンパートナー」などを引き離しつつある。

  ところで、三和・武富士の間にあるのは、先発組みと新規参入組みの単純な緊張関係にとどまらない。というのも、新規参入の成否を握るは、ユーザーの信用情報をどう獲得するかだが、消費者金融業界では従来から「全国信用情報センター連合会」(全情連)に情報を集中し、業界で共同活用してきた。

  ●個人情報提供巡る確執との憶測も
  とりわけ、「延滞経験のない優良顧客の利用回数や債務残高」は、その場で即座に無担保ローン審査を行う際に不可欠な情報で、銀行や信販会社といった新規参入組みには垂涎の的である。

  新規参入組は、三和銀行を中心に、優良顧客情報にアクセスするため、提携した先発組みも巻き込んで、全情連の情報を有料提供する新会社「テラネット」を昨年10月に設立。参入後の攻勢の足がかりを作ったはずだった。

  しかし、これに待ったを掛けたのが、武富士が中小の消費者金融20社と結成した「テラネット構想を阻止する会」。顧客情報をテラネット経由で提供することについて、「利用顧客の同意を得ていない」と、提供差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請した。具体的には、全情連を構成する全国33の情報団体のうち、関東1都4県を所管する「ジャパンデータバンク」(JDB)を相手取り、JDBの情報をテラネットに提供しないよう求め、今後は全国展開や本訴に拡大していく戦略という。

  三和銀行と武富士は、個人信用情報の取り扱いという、極めてデリケートな問題を挟んで対峙している両派の頭目という格好なのだ。

  立場の違いはもともとあったとはいえ、年末には決着が司法判断に委ねられる大荒れの展開。そうした中で、1月のつばさ証券による突出した武富士株売りがわかっただけに、この対立の周辺に隠微な雰囲気が加わってきている。

■URL
・武富士
http://www.takefuji.co.jp/
・つばさ証券
http://www.tsubasa-sec.co.jp/
・モビット
http://www.mobit.ne.jp/
・JDBに対する信用情報提供差し止め仮処分命令申立のお知らせ(武富士)
http://www.takefuji.co.jp/takefuji/html/jt121208.html
・風説に関する当社の見解(武富士)
http://www.takefuji.co.jp/takefuji/html/jt121122.html

(小倉豊)
2001/02/09 15:00