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「日本の政治を読む」~激しい攻防が予想される「3K国会」

  【今週の主な政治日程】
  ▼5日(月) 衆参両院で各党代表質問(7日まで)

  【政局の焦点】
  ●村上氏逮捕の見方消えず
  第151通常国会は、5日から衆参両院で森喜朗首相の施政方針演説などに対する各党代表質問が行われ、論戦の火ぶたが切って落とされる。今国会はケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)の政界への資金提供問題や外務省元幹部による機密費横領疑惑に株価下落問題を合わせた「3K」が焦点となる。KSD疑惑では村上正邦前参院議員会長の証人喚問が不可避の状況で、同議員の議員辞職や逮捕の見方も消えていない。機密費問題の処理とともに野党側の政府・与党批判は熾烈を極めるものとみられ、7月の参院選を控え、森首相の退陣の可能性もにらんだ激しい与野党の攻防が予想される。

  ●橋本派が村上氏を切り捨て
  村上氏の証人喚問については自民党執行部は当初、「何としてでも守る」(橋本派幹部)との方針だった。同氏を守り切れなければ、政権誕生時の経緯が不明朗な森内閣の「正統性」が改めて蒸し返される恐れがあったためだ。しかし、前出の橋本派幹部は最近、「派閥としてきちんと対応すべきだ」と述べ、村上氏は喚問に応じるべきだとの方針に転換した。喚問問題の処理が長引いた場合、予算審議への影響が懸念されるほか、参院選に重大な悪影響が予想されるためだ。つまり党内最大派閥の橋本派は先に、身内の額賀福志郎経済財政担当相の首を切ったのと同様、村上氏も容赦なく切り捨てるということだろう。言い換えれば、それだけ自民党が参院選に強い危機感を抱いている証拠でもある。

  ●公明党の動きが政局のポイントに
  KSD疑惑に関連して森首相が施政方針演説で「誠に残念の極み」と述べただけで、明確に陳謝しなかったことに、自民、公明両党など与党の中からも「緊張感が足りない」(橋本派幹部)などの批判が噴出している。公明党の神崎武法代表は演説直後、「拍子抜けした。首相としてリーダーシップを発揮して、徹底的に真相究明するんだという姿勢を明確にして欲しかった」と厳しく批判した。

  神崎氏は機密費問題とも合わせ「公明党らしく対応し、断固たる姿勢を貫きたい」との方針を再三強調しているが、これらの言だけで公明党が与党離脱の構えを強めいると見るのは早計だろう。同党にとって最も重要な選挙とされる都議選と参院選が6月と7月に相次いで行われることがその背景にあるからだ。このまま自民党の「汚辱」に巻き込まれた場合、「クリーン」を標榜する同党が壊滅的打撃を受けかねないとの判断がある。

  従って、党のためになるなら村上氏らの証人喚問には積極的に応じる姿勢だし、「森首相では参院選を戦えない」と判断すれば、自民党内の動きに呼応する可能性も十分あるといってよい。このため今国会は同党の動きが政局の大きなポイントのひとつとなるだろう。ただ、「独自性」もそこまでで、同党が自民党と手を切りかつての野党に戻ることは考えられない。

  ●外務省官房長は直ちに辞表を出すべき
  一方、機密費問題は領収書などの物証が乏しく、また外務省と首相官邸が上部に類が及ぶのを避けるため、松尾元室長の「個人の犯罪」(河野洋平外相)にしようとしており、捜査が難航しているもようだ。真相解明は司直の手に待つ以外にないだろうが、現時点で今後の展開をあえて予想すれば、結局うやむやに終わるだろう。

  しかし、ひとつだけはっきりさせておかなければならないことは、調査内容を発表した時の記者会見で阿部知之官房長が松尾元室長の「個人の犯罪」の責任を問われた際、「われわれの目は節穴だった」と述べたことだ。居直ったのかどうか現場の雰囲気はよく分からないが、少なくとも疑惑の舞台となった要人外国訪問支援室を直接監督する立場にあり、しかも調査の責任者でもあった人物がこういう言辞を弄する時は同時に辞表を提出すべきである。

  その覚悟もなく、いけしゃあしゃあとこういうことを言ってはばからない官僚の存在を許している役所だから、ああいう不祥事が長年にわたって放置(黙認?)されてきたという気がしてならない。松尾個人の犯罪であろうとなかろうと、外務省に対する国民の信頼を大きく失墜させた以上、この際、現在の責任者である大臣、事務次官、官房長は直ちに辞表を出すべきである。それが世間でいう「けじめ」の常識というものだ。

  ●野中氏らにしてやられた「お公家集団」
  自民党の名門派閥で第2位の勢力を誇ってきた加藤派(宏池会)がついに分裂、ポスト森の第一人者であった加藤紘一元幹事長はわずか15人の弱小グループの長へと転落した。加藤氏は今後、全国を行脚、少人数の会合をこなして理解を得たいとしているが、遅きに失した感がある。それをやるなら昨年11月の「加藤の乱」の直後、あるいはもっと前から行っていてもよかった。この人はいつも後手後手に回る悪い癖がある。

  一方、42人を集めた反加藤グループの堀内派が主流派に転じて万々歳かといえば、決してそうではない。第1に総裁候補を持たず、求心力がない。第2に、所詮はポスト欲しさで集まった集団だけに、早くも内部対立が始まっている。第3というか、これが最も問題なのだが、同派が実質的には野中広務前幹事長の全面的な支援を受けた「古賀誠幹事長派」という現実だ。同派は橋本派の別働隊との見方が党内外では強まっている。

  そうして考えてみれば、野中、古賀両氏が「加藤政局」の時から「加藤氏は党の宝」などと甘言を弄する一方で、加藤、反加藤両グループの離反に熱心だった理由が良く分かる。堀内派の面々は独自色を出すつもりでも、何のことはない、「お公家集団」が百戦錬磨の橋本派にしてやられただけに過ぎない。

  ●加藤氏側近が新党旗揚げ
  4日になって、かつて加藤氏の側近で現在落選中の白川勝彦元自治相が参院選に向け、新党を結成するという話が飛び込んできた。「自民党は離党しない」と言い続けている加藤氏との連係は今のところないもようだが、反創価学会系の宗教団体の支援を受けるとみられ、参院選の結果次第では加藤氏との合流も考えられなくはない。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/02/05 09:36