FINANCE Watch
金融システム不安は消えたか?~なおもくすぶる“火種”

  今週に入り、金融当局が一斉に「金融システム不安再燃説」の打ち消しに動いた。22日に森昭二金融庁長官と全国銀行協会の西川善文会長(住友銀行頭取)らが、「株安を理由にした大手銀行への再資本注入は不要」との認識で一致。24日には速水日銀総裁が、参院決算委員会で「年度末に金融システム不安が生じることはないと言っていい」と答弁したのだ。一連の発言は、一見すると言い逃れのできない「明言」に見える。ただ、やや長い目で見ると、「3月末を越えても大丈夫か」「株安のほかに不安定要因はないのか」という点で、不透明感は依然残る。

  ●株安の影響は「軽微」
  「先の政局で、ある政治家が2、3月に金融システム不安があると発言し、それが広がったものだ。これはちょっと行き過ぎ、広がり過ぎだ」

  19日の日銀総裁会見。広がりをみせていた金融システム不安説ついて、速水総裁はこう喝破した。

  「ある政治家」とは、「森降ろし政局」を仕掛けた自民党の加藤紘一前幹事長。同氏が「森内閣では2月の金融危機は乗り切れない」と発言したことで金融システム不安に火がついたが、この発言の真意は本人の挫折と蟄居状態で今や薮の中。

  金融不安説打ち消しの主眼は、金融庁が22日、昨年12月下旬の詳細なヒアリングを基に、「平均株価1万3500円で時価会計を全面導入したとしても、大手16行の自己資本比率の低下幅は0.3~0.4%にとどまる」ことを公表したことだ。

  さらに、三菱東京フィナンシャル・グループなどを除く大手各行が、3月期決算で株式評価損の処理を先送りする「原価法」を採用するため、なおのこと株安が銀行財務を直撃する要因は小さくなる。

  ●危機感薄い銀行業界
  ただ、そごうや千代田生命保険、協栄生命保険などの大型破綻に象徴される債務者分類の悪化は、株価とは別の収益下振れ要因であるのは確かだ。

  市場が注目しているのは、金融庁が東京三菱銀行(8315)、三菱信託銀行(8402)、中央三井信託銀行(8408)、あさひ銀行(8322)などに対し実施した検査の最終結果通知を、年度末まで引き伸ばしている点。大幅な償却積み増しを迫られて資本不足に陥り、公的資金の注入が必要になるのではとの観測は、完全に消え難い状況だ。

  ただ、この点でも、大和銀行(8319)への通知がつい最近行われた模様で、内容は判明していないが、大きな波乱はなかったとされている。そうなれば、金融当局の方針としても、3月期決算は各行とも大きな混乱なく乗り越えることを追認している公算が出てきた。

  今期決算で想定し得る大手行の経営問題があるとすれば、各行とも健全行の資本比率を維持しつつも、株の益出しが困難な中で不良債権処理が一定以上の水準に達して、経営健全化計画で国民に約束した利益計画が未達に終わる事態。その場合は、増益計画の策定を迫られたうえで業務改善命令を受けるケースや、最終赤字まで決算内容が悪化するならば、公的資本である優先株に議決権が復活するケースも想定される。

  ただ、その銀行に対する市場の信認がどれだけ悪影響を受けるかまでは、当局ですらも予測し難い。はっきりしているのは、銀行業界に危機感、緊張感が極めて希薄なことだ。

  ●年度末を乗り切っても
  ともあれ、「加藤発言」は、今なお不気味な余韻を引きずっている。

  その背景には、ゼネコンや流通など構造改革業種向けの債権が適切に引当処理されているのかという疑念がある。小渕、森と続く連立政権下の金融行政が、経済構造改革の軟着陸に腐心するあまり、あえて問題を先送りしていたとすれば、時間が経過するほど、そのツケは増幅された形でいずれ回ってくる。

  加藤の氏の反乱が腰砕けに終わったとはいえ、構造改革を旗印に掲げた同氏が金融システム問題への対応策を、より徹底した次の段階に進めるトリガー(引き金)をあえて引こうとしたのかどうか。その答えは7月に参院選が行われる来年度に持ち越されることになりそうだ。

■URL
・尻すぼみの株価対策~やる気なくした特命委
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/26/doc1789.htm
・唐突な日銀総裁指示の波紋~「資金供給策拡充」に憶測広がる
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/22/doc1732.htm
・株安で「実質国有銀行化」も~3月期控え高まる金融不安
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/18/doc1702.htm

(小倉豊)
2001/01/26 11:37