FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~遅すぎる首相の株価対策への言及
  【今週の主な政治日程】
  ▼16日(火)日ロ外相会談(モスクワ)
  ▼18日(木)経済財政諮問会議、自民党行革推進本部総会
  ▼20日(土)民主党大会

  【政局の焦点】
  ●首相からやっと語られた株価対策
  森喜朗首相が9日間にもわたるアフリカ漫遊を続けている間に日経平均株価が続落、バブル崩壊後の最安値更新の可能性も出てきた。さすがに気になったのか首相は14日、アテネでの内政懇談で、株式市場活性化のため、諸外国での対策や金庫株についても自民党内で幅広く検討させる意向を示した。同問題を放置すれば、企業の3月期決算を控え、株価のさらなる低下や金融危機再発も懸念されるだけに、遅まきながら姿勢だけでも取り組む姿勢を示したものとみられる。

  ●「米自動車業界、15万人レイオフ」「金利再引き下げ」の情報
  しかし首相に近い政府筋は先週、株価対策について「米国の要因であって、日本が悪いわけじゃない」と、政府自ら対策を立てる必要はないことを強調。また自民党幹部も「経済界は株価が上がればと言っている割には彼らが株を買っている気配はない。とても奇異なことだ」と、経済界の姿勢を批判しており、政府・自民党が同問題に本気で取り組むかどうか疑問だ。

  一方、政府筋はブッシュ米次期政権筋から、米自動車業界が2月に15万人のレイオフを計画しており、これを機にFRB(米連邦準備制度理事会)が来月、今年3度目(FF金利は2度目)の金利引き下げを実施しようとの情報を得たと言われる。

  ●浮上する森首相の“長期政権論”
  何事にも脳天気な森首相に対して、一般的には早期退陣論が充満しているようにみえるが、実際には“長期政権論”が出ているところが永田町の摩訶不思議なところ。年明けの自民党内には「少なくとも参院選までは森首相。途中に引きずり降ろすパワーは橋本派にもない」とあきらめムードが蔓延。周辺によると、首相は「参院選はもちろん、その先まで自分でやるつもり」と、参院選に勝利し、9月の党総裁選での再選を確信しているという。

  ●思惑で首相追及手控えも
  こうした背景には、民主党など野党が建て前とは異なり、「森首相の方が参院選を戦いやすい」と考えていることとも無関係ではない。つまり。与野党逆転に向けくみしやすい森首相を参院選に引っ張り込むため、国会などでの追及はほどほどにしようというものだ。しかし、こうした政治家の駆け引きの間に、日本経済が取り返しがつかないほどのダメージを受けることもまた避けられないだろう。

  ●自民が前回議席を上回るのは困難
  ところが参院選見通しとなると、古賀誠自民党幹事長や神崎武法公明党代表らが示す勝敗ライン「64」のクリアは困難との見方が強まっている。いうまでもなく、与党3党は改選76議席のうち64を獲得すれば、過半数を維持できる。その前提として自民党が52議席、最低でも50議席を確保する必要がある。しかし同党は前回44議席、前々回も45議席しか取っておらず、当時より諸条件とも悪い今回がこれを上回るのは相当困難とみられている。

  ●与党惨敗で政界に大激震か
  それどころか、参院に比例代表制導入後最低だった1989年の36議席に近付くのではとの厳しい見方すらある。その場合、与党3党で「50」の確保は難しくなる。そうなれば与党の過半数割れは10議席を大きく上回り、森首相の退陣や早期の衆院解散・総選挙などの大激震も予想される。いずれにしても1人区での勝ち負けが参院選の勝敗を決しよう。

  ●加藤派の分裂回避はもはや不可避
  池田勇人首相以来、自民党内の保守本流として名門派閥の名をほしいままにしてきた宏池会(加藤派)の分裂はもはや不可避となった。同派名誉会長の宮沢喜一財務相が関係修復の最後の努力をしているが、もともとこうした仕事は最も不得手な同相だけに、とても成就するとは思えないとの見方が大勢。加えて加藤紘一元幹事長が反加藤グループへの謝罪を拒否しているうえ、「人数は問題ではない」と今後は“純化路線”でいくそぶりをみせていることも、修復を一層困難にさせている。

  同派62人は今月末の通常国会前後にも加藤グループ20人対反加藤グループ40人程度に分裂するものとみられる。その場合、加藤グループは党内第2派閥から山崎派と同程度の弱小派閥に転落する。野中広務前幹事長らは参院選で自民党が敗北した場合の切り札として加藤氏を考えていたともいわれるが、弱小派閥の長ではそれも難しくなる。

  ●KSD事件の小山議員出頭はトカゲの尻尾切り
  ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)の政界への資金提供事件で、東京地検特捜部は14日、自民党の小山孝雄参院議員に出頭要請した。新聞では派手に政界へ波及と報じているが、これで同事件は名も知らぬ小物議員1人の首を取って幕が引かれることを意味する。焦点だった参院のドン・村上正邦参院議員会長や額賀福志郎経済財政担当相には及ばない、トカゲの尻尾切りとなるだろう。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/01/15 09:25