FINANCE Watch
株価対策に高まる拒否反応~「何もしないで!」と市場関係者

  「頼むから何もしないでくれ」(米系資産運用会社ファンドマネージャー)

  大量の持ち合い株の解消売りや新たな大型破綻への懸念から「3月は史上最悪の年度末になる」と囁かれている東京株式市場の関係者の間からこんな悲鳴が漏れてくる。市場関係者が最も恐れているは、自民党の「株価対策」。過去に様々な手が打たれ、どれひとつとして株価を浮揚させる決定打とならなかったにもかかわらず、大原一三元農水相が5日、亀井静香同党政調会長に独自の私案を提出したことをきっかけに新たな対策が検討されようとしているのだ。

  ●筋の悪い“ウルトラC”
  大原私案には、個別企業の特定事業部門の業績を連動させる株式「トラッキング・ストック」や、証券の翌日決済制度の早期導入を求めるなど、証券業界が求めていた規制緩和策なども盛り込まれている。

  が、最大の目玉は、持ち合い解消売りの受け皿作り。株価下落の元凶になっている銀行の株売却を別の形にすりかえようというもので、公的資金を注入された大手銀行が預金保険機構に公的資金を返済する際、保有株式での返還を認めるという“ウルトラC”のスキームだ。

  自民党は近く、相沢英之前金融担当相を委員長に「証券市場等活性化特別委員会」(仮称)を発足。大原私案についても検討する方針だが、「株価が3月末にかけて下がりだすと、必ず筋の悪い株価対策が浮上する。今回も何か出てくるのではないか」(銀行系証券エコノミスト)との市場関係者の懸念がまさに的中した格好だ。

  ●材料視されず
  大原私案の中には、昨年末に経団連の今井敬会長が提言した「自社株保有(金庫株)」の弾力化も盛り込まれている。これは米国で一般化している自社株保有を認め、最大で30兆円分の自社株を企業の保有可能分として年度末の需給悪化を改善しようというものだ。

  しかし、市場は「中長期的には検討すべき中身だが、年度末を強く意識したみえみえの対策」(準大手証券)と受け止め、ほとんど材料視されなかった経緯がある。

  株価対策としては、このほか、政府が持ち合い解消の受け皿機関を作り、引き取った株式を担保に国債を発行する「転換国債」構想も昨年11月後半からたびたび浮上しているが、先物指数だけが思惑的な動きで反応するのみ。市場関係者の眼には、これも「筋悪の弥縫策」と映る。

  市場関係者が自民党の株価対策に強い拒否反応を示すのは、株式というリスクマネーを国が野放図に抱え込んでしまうモラルハザード(倫理の欠如)を引き起こす恐れがあるからだ。

  ●“モルヒネ”はもう要らない
  大原私案の存在が明らかになって以降、長期金利の上昇や国自体の格下げを懸念する声も出始めており、銀行系証券会社のエコノミストは「ただでさえ財政状況が悪化しているのに、年度末を乗り切る目的だけで政府が民間のリスクマネーを引き受けてはならない」と警告する。

  「モルヒネのような対策が、バブル崩壊後の株式市場低迷を長期化させた」。このエコノミストはこうも語る。「何もしないでくれ」というのが市場関係者の本音だ。

  持ち合い解消売りなど国内需給要因で株価が悪化しても「今年3月末で膿を出し切ってしまいたい」と関係者の多くが覚悟を決めている中で、筋悪の株価対策がまたぞろ議論されようとしている。本来なら株価の維持が目的の株価対策が、市場関係者にことごく嫌気され、売り材料にされていることを政府・与党関係者は認識すべきである。

■URL
・自民党内に「転換国債」によるPKO構想が浮上
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/07/doc1298.htm
・株価は低迷のまま新世紀に~“持ち合い解消”止まらず
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/18/doc1431.htm

(相場英雄)
2001/01/09 09:35