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どこまで続くLinuxの快進撃~相次ぐ大手IT企業のプロジェクト

  コンピューター市場で実用化が進むのはまだ数年先―と言われていたLinux OSが2000年夏から日本でも破竹の進撃をみせている。昨年暮れまではパソコンの熱心なユーザーらによる極めて“オタク”的要素を多分に含んだシステムだったが、米国での反マイクロソフトムードも追い風となって富士通(6702)、NEC(6701)、IBMなど大手システム企業がLinux事業に力を入れ出し、クライアント側にはとどまらずサーバーOSとしても次々にソリューションに組み込まれた事業化がスタートしている。Linuxの快進撃はどこまで続くのか。大手各社の動きを追ってみた。

  ●ネットを意識した開発

  Linuxはもともとフィンランドの1学生が中心となって作り上げたUNIX互換のオープンシステムOSのことだ。1991年に現在の原型ができあがっており、すでに9年間の歴史を持っている。

  しかし、Linuxが爆発的な人気を集めたのは目新しさや学生が作ったといった物珍しさではない。開発の発端となった理由がそのまま人気集中の一因にもつながっている。つまりあくまでもオープンなソフトウェアで、ソフトの元の姿といえるソースコードも無料で公開し、できるだけ多くの人の参加を求めてブラッシュアップを重ねていったこと。また、当初からインターネットを意識した作り込みを進めているため、ネットワーク対応が比較的、簡単にできることなどが挙げられる。米国では1998年から大きな波となって大手各社がこのソフトに関連する開発を始めた。

  ●IBM、富士通、NEC・・・続々とプロジェクト

  最初に動き出したのはIBMだ。アジア太平洋地域でのLinux開発を目的に2001年以降4年間に2億ドルを投資し、「Linuxディベロップメントセンター」7ヵ所などの設置を決めた。自社のアプリケーションをLinux環境に移植する一方、Linuxがアジア太平洋エリアで需要が伸びると判断しての結果で、東京、上海、北京、台北、ソウル、バンガロール(インド)、シドニーに設置。これを核にLinuxに特化したコンサルタント、エンジニアなど300人を配置して対応する。

  一方、米インテル、IBM、ヒューレット・パッカード、NECの4社が決めたのは、Linuxのアプリケーション開発者に向けた研究所「オープンソース・デベロップメントラボ」の開設。Linux関連ソフトの開発がボランティアによるコミュニティーで改良されてきた経緯を尊重して、独立組織として運営される。研究所は、オレゴン州ポートランド近郊に開設し、数年間にわたって機器や資金の提供を続ける計画。デルコンピュータ、SGI、レッドハットなど米独の9社もスポンサー企業として参画した。

  富士通も負けていない。同社ソフトウェア事業本部内にLinux統括部を設置し、さらに100人体制のLinux開発部も新設。システムインテグレーションやインターネットサーバーなどの各分野でLinuxを活用していく。インテグレーションサービスへのLinuxサーバーを中心とするセット商品の組み込みやインターネットサーバー分野におけるオールインワン製品の提供に、Linux対応ミドルウェアの開発と提供を今後の計画に盛り込み、大きな事業への取り組みを打ち出した。

  ●UNIXも照準内に

  流れは、大手の総合企業だけにはとどまらない。データベース管理ソフト大手の日本オラクル(4716)の場合、コンパックコンピューターやLinuxのディストリビューターであるターボリナックスと提携して、Linux OS、ハードウェア、アプリケーション(データベース)の組み合わせでソリューション事業を行う動きも出てきている。

  こういった流れを裏付けるようなデータも発表された。IDCジャパンによる国内サーバーOSソフトの市場予測では2000年でライセンス出荷本数が前年比4割増の4万本を超え、伸び率ではトップに立つともに、同市場全体の中での占有率は前年の4.0%から7.8%へ飛躍的な拡大を遂げていることが分かった。60.9%のシェアをもつWindows NT Serverや18.3%のWindows 2000 Serverには及ばないものの、UNIXの9.4%は完全に照準内に捕らえたムードがある。

  IDCでは、Linux急伸の理由として(1)システムの一部に組み込んだSI案件が徐々に増えてきた(2)IBMなどベンダーのLinuxへの取り組み姿勢が一般に浸透し始めた(3)Linuxそのものが使いやすくなったほか、プレインストールサーバーが発売された―などを挙げている。さらに決定的な理由としては「エンドユーザーが自ら購入、インストールして導入を進めている」ことを指摘している。今後についてもLinuxは年間平均成長率69.5%で伸び続け、2004年にはシェアが25.4%に達すると予測しているほどだ。

  ●上潮ムードだがまだリスクも

  しかし、IBM、富士通、NECなどの大手からは「完全な上潮ムード」であることは認めながらも「(ビジネスとして成立させるには)まだまだやるべきことが多い」と、一気呵成(かせい)の雰囲気をセーブする声も出ている。すでに「ビジネスでも使える構造と環境が、ほぼできつつあることは確かだが、だからといって万全ではない」のがその大きな理由で、しかも「Linuxを導入する前はWindowsNTであったりUNIXであるわけだから、システムの入れ替えには高いリスクも当然ながらつきまとう」のだ、という。

  ただ、逆に見れば「導入したいが、今はまだ消極的」といった潜在的なユーザー予備軍は多い可能性もある。Linuxへのビジネスを本格化させ始めた企業も、決してLinuxの普及に水を差しているのではなく、「話題ばかりが先行しては、足元でつまづく可能性が高くなってしまう」ことを心配している。

  いずれにしても2001年にLinux急伸が続くことには間違いがなさそう。あくまでオープンで、ユーザー自らがトラブルやバグを直していく・・・といったLinux登場のときの精神が、商業化が進むほど求められている。

■URL
・日本Linux協会
http://jla.linux.or.jp/
・リアルタイムLinux協会
http://www.sangikyo.co.jp/rtlinux/
・Professional Certification for the Linux Community(日本語サイト)
http://www.yesitis.co.jp/LPI/
・アジア・太平洋でLinux開発に注力~IBMが4年間で2億ドル投資へ
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/30/doc284.htm
・Linux、急成長でシェア拡大~IDCの国内サーバーOS予測
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/26/doc832.htm

(市川徹)
2001/01/04 10:47