FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~森首相と橋本氏が路線で激突か

  【今週の主な政治日程】
  ▼11日(月)鳩山民主党代表が訪中(14日まで)
  ▼12日(火)与党3党が来年度税制改正大綱を決定
  ▼13日(水)自由党党首選告示(小沢党首の無投票再選)
  ▼15日(金)次期防整備計画決定

  【政局の焦点】
  ●森首相にスキャンダル
  政局は、第2次森改造内閣が予定通りスタートしたことで、とりあえずの小康状態を取り戻した。この内閣が2人の首相経験者を閣内に取り込むなどそれなりの「重厚な布陣」となったことは事実。しかし、改造後の世論調査では75%が「森内閣に期待せず」(8日付読売)としているほか、10日のフジTV調査では、支持13.4%に対し、不支持82.8%と、依然として国民が森政権に厳しい目を向けていることが明らかになった。森首相やその周辺は、橋本龍太郎元首相の特命相起用に成功したことでしてやったりの表情だが、首相と右翼幹部との写真が週刊誌に掲載されるなどスキャンダルも取りざたされる。今後も2001年度予算編成、通常国会と非常に厳しい政権運営が続くことは確実だ。

  ●“第2次橋本内閣”の誕生?
  今回の改造の「大目玉」(小泉純一郎氏)となった橋本氏の入閣は、森首相にとって「両刃の剣」となる可能性が大きい。経済界では柳沢伯夫金融担当相とともに橋本特命相の起用を歓迎しているが、橋本氏が持論の行政改革や経済構造改革を主張するあまり、景気対策優先の森首相の路線と対立する確率は非常に高い。既に、首相が財界首脳会議の存続を表明しているのに対し、橋本氏は同会議が大蔵主導であるとして批判、政治主導の経済財政諮問会議に一本化するよう強く求めている。

  橋本氏としては、2年前の参院選敗北で頓挫した行革、沖縄、日ロなどの総仕上げを図ろうと考えており、批判を覚悟で閣僚を引き受けたのもそのため。鼻っ柱が強い同氏が懸案解決にこだわればこだわるほど森首相の存在は希薄となり、これに抵抗すれば閣内不安定に陥る。その意味では今度の内閣は橋本氏の主張が前面にでたいわば“第2次橋本内閣”的色彩が濃くなる。

  ●「滅私奉公」の河野外相にも大誤算
  改造前は「ポスト森」の筆頭と目された河野洋平外相にとっても橋本氏の入閣は大誤算。同氏の担当が沖縄と北方(領土)対策と外相のテリトリーを侵す可能性が高いためだ。本来、両相の職務分担は分けられているが、橋本氏が首相時代に手掛けた沖縄の米軍基地問題と日ロ平和条約締結問題に固執している以上、河野外相としても無視はできない。さらに政治的にも河野氏のグループがわずか10数名であるのに対し、橋本氏は100人を超す自民党最大派閥の長。森首相に何かあれば、橋本氏が内閣を継承する可能性は非常に高まったと言ってよい。河野氏はこれまで森首相への「滅私奉公」で政権のタナボタ禅譲を狙っていたが、戦術を変える必要に迫られている。

  ●ポスト森は「Y3K」を飛び越したか
  今回の内閣改造・党役員人事のもうひとつの特徴は、町村文部科学相や平沼経済産業相、額賀経済企画相など次代を担う世代の登用にある。これに古賀幹事長の抜てきを加えればその傾向は歴然とする。野中前幹事長は亀井政調会長の更迭も画策したが、先の内閣不信任案騒動で当面の表舞台から降りた加藤紘一元幹事長や山崎拓元政調会長と合わせ、ポスト森レースは既に「Y3K」を飛び越し、次の世代に突入したとの見方もある。

  ●田中真紀子氏の入閣は最初から幻
  このほか、今回の改造で宮沢元首相が三たび留任したことで、同氏は辞め時を失ったといえる。そもそもバブル経済の処理を間違った張本人が同氏であり、その反省もなくずるずると閣僚を続けるようでは、老醜をさらすだけとなるだろう。

  一方、マスコミが一時持ち上げた田中真紀子氏の入閣は当初から計画になかったとの説が有力。森首相としても名前を出すだけで、本気ではなかったと言われる。田中氏の日ごろの派手な言動はマスコミ、特にテレビの格好の餌食ではあっても、良識ある政治家や官僚からは全く評価されていないことを改めて指摘しておきたい。

  ●古賀氏の師匠は故田中六助氏
  自民党幹事長に就任した古賀誠幹事長は世間的には全く“無名”の人物。野中氏の腹心であることや、加藤氏に反旗を翻したことが知られている程度だ。しかし、田中六助、梶山静六両元幹事長を師と仰いでいることはあまり知られていない。つまり根っからの党人派。その古賀氏が政界2世でエリート外務官僚だった加藤紘一氏をなぜ担ごうとしたのか、不思議と言えば不思議。古賀氏は依然、「加藤さんは自民党の中で光輝く宝」としているが、肝心の加藤氏は周辺に「自民党の使命は既に終わった」と漏らしており、両氏が再び和解するのは困難とみられる。

  ●進まない野党の選挙協力
  一方、野党側は「来年の参院選が一番の天王山」(鳩山民主党代表)として、民主、自由、社民3党の選挙協力を進めたい考え。民主党の保守系議員が自由党の小沢一郎党首と会談するなど急接近している。しかし小沢氏が「保守新党」結成による政界再編を目指しているのに対し、鳩山氏と菅直人幹事長は消極的と言われる。また選挙協力もスムーズにいっているとは言いがたい。参院選での与野党逆転が自公保政権引き下ろしの絶対条件となるが、選挙協力ができないようでは絵に描いた餅となりかねない。

  [政治アナリスト 北 光一]


2000/12/11 09:38