FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~“泥船内閣”から逃げ出した野中氏

  【今週の政治日程】
  ▼5日(火)第2次森改造内閣発足
  ▼7日(木)小沢自由党党首が訪中

  【政局の焦点】
  ●再び頭をもたげる「3月退陣説」
  政局は、内閣改造を前に政界最大の実力者、野中広務幹事長が“突然”辞任したことで、森政権は激震に揺さ振られた。首相官邸内からも「野中氏がついに泥船内閣から逃げ出した」との声が出ており、内閣不信任案否決で小康状態を迎えるかにみえた森政権は、再び「3月退陣説」が頭をもたげ始めている。

  ●橋本派が政権から一歩引く
  森首相は、内閣発足に当たって、橋本派幹部である青木幹雄官房長官と野中幹事長を小渕内閣からそのまま引き継ぎ、政権の車の両輪とした。しかしまず青木氏が、そして今回、野中氏も去ったことで森政権の屋台骨が大きく変わることになった。後任幹事長の古賀誠氏は野中氏の腹心とは言いながら、加藤派(反加藤グループ)のため、橋本派が森政権から一歩引いたとの見方が有力だ。

  ●公明も首相とさらに距離
  公明党との最大のパイプだった野中氏が政権中枢からいなくなったことで、同党内にも「大変痛い。こういうことがあると、今後何があるか分からない」(幹部)と、森政権に対する信頼性がさらに低下している。橋本派が今後、森首相を見離すようなことがあれば、公明党が追随するのはほぼ確実だろう。同党の神崎武法代表も2日夜、講演で「残念ながら自民と組むしかない」と、本音を漏らした。

  ●野中氏は党と派閥を“全権掌握”
  一方、野中氏が幹事長を辞任したことで同氏の政界への影響力が減退するとの見方は皆無。逆に、後任に腹心の古賀氏を据えたことで「院政を敷くのでは」(小泉純一郎氏)との観測がもっぱら。さらに、これまで閥務に縁が薄かった野中氏が副会長兼事務総長として橋本派に戻ったことで、同氏が党と派閥の両方を“全権掌握”したとみられている。

  ●野中氏が「新キングメーカー」に
  首相周辺は「森首相は今後も人事などをめぐって野中氏と相談していくことになるだろう」と述べている。また橋本派内でも、野中氏と確執が絶えなかった村岡兼造氏を嫌がる総務会長に送り出すことに成功。公共事業見直しなどで“独走”が続く亀井静香政調会長はずしを一時画策するなど、幹事長辞任で逆にフリーハンドを得た野中氏が「新しいキングメーカー」として権勢を振るい始めている。

  ●「野中派」の結成も
  こうした野中氏の勢力拡大に森派や江藤・亀井派などからは批判ともやっかみともつかない声が上がっている。森派首脳は「橋本派は、野中派と反野中派に分裂含み」と指摘。今後、加藤派から分離傾向を強める“古賀派”と“野中派”が新派閥結成に向かい、結果として自民党内が派閥再編されるのではないかとの見方も出ている。

  ●極めて厳しい政権運営
  いずれにしても森首相が今後、極めて厳しい政権運営を迫られるのは確実。5日に予定される内閣改造・自民党役員人事が順調にいったとしても、野中氏の幹事長辞任で既に大きな打撃を受けており、来年度予算編成と通常国会を無事乗り切れるかどうかは不透明だ。さらに2月には株価急落による景気後退も予想されるなど、森首相にとって3月13日に予定される自民党大会までたどり着くのは容易ではなさそうだ。

  [政治アナリスト 北 光一]


2000/12/04 09:45