レビュー

「揚げたて惣菜発見カメラ」はヒトにも使える? スマホ装着サーマルカメラ「Seek Thermal」

「Seek Thermal」。米国の同名メーカーの製品で、国内ではワイエムエスが取り扱う

つい先日、揚げたての惣菜を見つけるための方法を紹介した筆者のツイートが、期せずして反響を巻き起こした。海外へも飛び火してさかんにRTされたこのツイート、現時点で約5万RT、「いいね」も15万オーバーとちょっとした数だったので、目にしたという方もいるかもしれない。

上記のツイートで使用しているサーマルカメラが、今回紹介する「Seek Thermal」という製品だ。スマホに装着することで、被写体の持つ熱を検知・可視化できる製品である。

サーマルカメラはもともと、非破壊検査などに使われる業務用の製品で、安価なモデルでも数万円はくだらないのが常だが、この「Seek Thermal」はスマホをビューアとして使う仕組みで、ひととおりの機能を備えながら、実売2万円台から入手可能なリーズナブルさが特徴だ。

それゆえ冒頭に挙げた「揚げたて惣菜発見カメラ」のようなカジュアルな用途のほか、異常発熱している電気製品を発見したり、茂みの中に隠れた人や動物を見つけたりと、アイデア次第で気軽に利用できる。今回はこの「Seek Thermal」について、実際にどんな使い方ができて、逆にどんな制限があるのか、実写画像も踏まえつつ紹介する。

筆者のツイート。これまでのところ、インドネシア、香港、韓国、台湾などでさかんにRTされている。揚げ物の話題は万国共通のようだ

手持ちのスマホがサーマルカメラに変身

「Seek Thermal」は3つのラインナップがあり、今回筆者が購入したのは、もっともローエンドのモデル「Compact」だ。最上位の「CompactPRO」に比べると広角側に弱く、かつレベル制御ができないのだが(詳細は後述)、CompactPROが実売5万円台なのに対し、約半額の実売2万円台という手軽さが魅力だ。

ラインナップ(メーカーサイトより)。中間の「CompactXR」は、より遠方の熱源を探知できる代わりに視野角が狭く、山中で野生動物を発見するような用途特化型のモデルのようだ

また上記の各製品はインターフェイス別に、iPhoneで使えるLightningモデル、Androidスマホで使えるUSB Type-Cモデル、さらにmicroBモデルという3つのモデルがあり、今回はPixel 3で使う前提でUSB Type-Cモデルをセレクトした。機種ごとの相性は少なからずあるようだが、メーカーサイトでは検証情報が公開されているのでありがたい。

本体のサイズはUSBメモリを切り詰めた程度で、厚みはあるが、それほどかさばるものではない。現行のスマホは接続端子が本体下部にある場合がほとんどなので、本体の下に取り付けることになるが、海外サイトでの利用例を見ていると、スマホの上下をひっくり返して本製品が胸ポケットから顔を出すスタイルで使っている人もいるようだ。

製品は手のひらサイズ。重量も0.5オンス(約14g)と軽い
横から見たところ。厚みはそこそこある
背面。スイッチ類はなく、制御はすべてスマホ側で行なう
上面。端子はLightning、USB Type-C、microBの3タイプがある
今回は筆者手持ちの端末(Pixel 3)に合わせてUSB Type-Cモデルを購入した
差し込んでアプリ側で認識すればすぐ使える
端子の配置の関係上、ややレンズ部が左に寄ったレイアウトになる
表裏リバーシブルなUSB Type-Cゆえ、前後どちらの向きにも装着できる
スマホよりも厚く、ややかさばるため、使う時にだけ取り付けるのがベターだろう

セットアップは簡単で、本製品をスマホの端子に接続するだけ。あとは専用アプリをダウンロードし、手順に従って画像フォルダへの書き込み権限などを設定するだけだ。アカウントの登録フォームも用意されているが、登録しなくとも全機能が使えること、また今回は登録時になぜかエラーが出たため、以下のレビューは未登録の状態でのものとなる。

まずは専用アプリをインストールし起動する。これはホーム画面。
本体を差し込むたびにこのような表示が出る。「OK」をタップ
サインアップ画面も表示されるが、未登録のままでも問題なく利用できる
画面が表示された。アスペクト比4:3設定の場合、サイズは1,280×720となる
メニューはあまり体系立っていないが、日本語化されているのでわかりやすい
インストール直後は「使用データを送信」がオンになっているので注意。ちなみに使用データが画像そのものを指すのか、撮影データなのかは不明
アスペクト比は4:3になっているが、対比で撮る画像が16:9の場合など、合わせて変更したほうがよいかもしれない

サーマル画像は具体的な温度も表示可能。静止画のほか動画にも対応

機能をオンにすると、カメラでとらえた被写体の熱が、9段階でリアルタイム表示される。また画面中央の温度をピンポイントで測定したり、画面内の最高温度と最低温度を表示したり、温度の境界線を指定して色を変えるなどの機能もある。カラーパレットを変更することも可能だ。

スポットモード。サーモグラフ画像の上に、中央部の温度を表示する
ハイ/ローモード。最高温度と最低温度をそれぞれ検出して表示する
フルフレームモード。9段階の熱それぞれの具体的な温度を表示する
しきい値モード。温度を指定し、それよりも上/下の温度にだけ色を付けて表示する
カラーパレットの変更も可能だ(画面下段)

被写体の映像は、そのまま静止画もしくは動画で記録できる。今回のPixel 3との組み合わせで、かつアスペクト比を4:3にしていた場合は、静止画・動画ともに解像度は1,280×720ドットとなる。熱センサーの解像度が、本製品で206×156、上位モデルでも320×240止まりなので、実用上はこれで十分だ。

【動画】陸橋の上から、車が走る様子を撮影した動画(無編集)。車のほか、歩道を歩いている歩行者の様子もわかる

もっとも、上記のような粗い解像度ゆえ、本製品で取得した画像だけで被写体を識別するのは不可能だ。本製品には、画面を左右に分け、スマホのカメラで撮影した映像を左半分に、本製品の映像を右半分に表示するモードもあるのだが、画角を調整できないため使い物にならない(Pixel 3の場合で、スマホによっては使える可能性もある)。

そのため現時点では、何を撮った画像なのかは、別途カメラを切り替えて撮影するなどのテクニックが必要になる。競合製品では実際の画像にオーバーレイ表示するモードもあるようなので、将来的にはそうした機能追加も期待したい。

左に実写画像、右にサーマル画像を表示するモードもあるのだが、今回のPixel 3では画角が違っているために使い物にならない

異常発熱するデバイスを発見

ここからは実画像を紹介しよう。身近な使い方として、身の回りで異常に熱を持っているパソコン等の周辺機器がないかをチェックする用途が挙げられる。異常発熱までは行かなくても、消し忘れた家電製品の発見にも使えるだろう。

ノートPC。キーボードを中心に発熱しているが、パームレストは温度が低く、そこまで不快感がないのが裏付けられている
大型テレビ。画面上部は熱がこもりや4を帯びているのが分かる
監視カメラがダミーなのか通電しているのかも判別できる(かもしれない)
これはマンホール。外周部だけがやや熱を帯びているのが分かる
駐車場で、長時間停車している車をエンジンルームの余熱から発見できる

また冒頭でも紹介したように、揚げたての惣菜や焼きたてのパンをピンポイントで見つけることも可能だ。最近は店内撮影がNGの店も多いので、店に迷惑をかけないよう留意したいが、食品自体は非常に鮮明なサーモグラフ画像を得られるので、自宅で冷えたおかずを再度あたためる必要があるか否かチェックする用途などに活用できる。

食品は表面まで熱を持っているためくっきりと表示されがち。これはつけ麺で、左がつけ汁、右が麺(冷盛)。コントラストがはっきりしているのが面白い
これまで測定した中でもっとも温度のレンジが広かったのが、石焼プレートの上に載せたステーキ肉。上は203℃にも及んでいる

動物園が面白い! 茂みに潜む人や動物も識別できる

ちなみに個人的におすすめなのは動物園で、茂みに隠れている動物をピンポイントで見つけたり、動物による体温の違いを知ったりと、肉眼ではわからない発見の連続で、撮影せずにリアルタイムに画面を見ているだけで楽しめる。

ちなみにガラスやアクリルで覆われていると検知できないので、そうした囲いがある場所、また水族館などではまったくの無力だ。

実写画像ではよく見ないと分からないが、サーモグラフ画像で見るとリスがいることが分かる
こちらも実写では完全に気配を消しているが、サーモグラフでは木の上に止まっているのが一目瞭然だ
変温動物であるペンギン。21℃という体温が正確かはともかく、この画像では後ろの小屋にもう一羽いるのが分かる
毛皮が厚いと体温が表面まで伝わらないためか、その部分だけが低い温度として表示されるのが興味深い
一般的に、細い部分はなかなか温度がはっきり出にくいが、このタンチョウは首周りもそこそこ熱を持っているのが分かる
ガラス面で覆われている場合は検知できない。逆にガラスに反射した撮影者自身が映り込むこともある
【動画】動き回る動物でもリアルタイムに追従できる
【動画】動物以外に、日光が当たっている部分だけ地面の温度が高いのも面白い
【動画】背景と一体化したり茂みに隠れたりして見つけにくい動物を発見できるのはサーマルカメラならではだ

発熱している人を見つけることは可能か?

ところで、今回の製品がTwitter上で話題になった時、インフルエンザや新型コロナウイルスなど、発熱している人を離れた場所からピンポイントで発見できるのではないかとコメントする人が(国内外ともに)多く見られた。筆者自身、実際に製品を使うまで、そうした用途で利用できるかも? と考えていた。

しかし本製品は、あくまでも表面の温度だけを検知しているため、服を着てしまえば、いかに体温が高くてもそれを検知できない。もちろん服の表面温度が上がるほど体温が高ければ別だが、それが病気によるものか、それとも運動などによるものかは、本製品では識別できない。その他の情報と踏まえて判断すべきだろう。

ちなみに同じ理由で、車のボンネットの中に入り込んだ猫を外から発見する用途にも使えない。そもそも、目視できない熱源がこのカメラでホイホイ見えるならば、マンションの外壁を撮影しただけで部屋の中でウロウロする人が見えかねないわけで、さすがにそれはあり得ないことが分かる。

また本製品は測定できる温度が1度刻みで、あまり細かな温度を表示できるわけではない上、外気温に影響されるためか実際の体温との誤差もあり、非接触型の体温計としてはスペック不足という印象だ。せめて0.1度刻みになれば、定点観測で体温の変化を見る用途くらいなら使えるかもしれない。

手袋をしてしまえば表面温度は下がるので、左右の手を並べても低い温度として表示される。前述の動物園画像で、羊の毛皮の厚い部分が低温で表示されるのと同じ理屈だ
人を撮影しても、コートの裾など、熱を持ちにくい部分は温度が低く表示される。また検出される温度自体も、気温に影響を受けるためか、実際の体温とはかけ離れている

ただし、やり方がないわけではない。それは通常の体温の人と並んだ状態で、サーモグラフ画像を撮る方法だ。これならば、隣の人が基準点となって「この人は明らかに体温が高い」ということが分かる。ピンポイントで測った温度の精度はイマイチでも、同じ画面内にある別の物体との比較であれば信頼性が高いことを利用するわけである。

「画面内の物体だけで温度を比較」というのは信頼性が高い。これは缶コーヒーの、コールド、常温、ホットを並べた状態だが、温度の違いは一目瞭然。これを人間に置き換えれば、体温が著しく高い人を検出することは可能だ

実は本稿執筆中に、これに関連する情報がSeek Thermalのサイトにアップされた。それによると上記の方法のほかに、画面の中に任意の温度を設定できるデバイスを置いてそれを基準点としつつ、「しきい値モード」で具体的な温度を指定し、その温度を超える体温の人がフレームインすると、色がついて表示されるという方法が紹介されている。

これら方法の実用性はさておき、同社がこのサーマルカメラを、現在世界を脅かしている新型コロナウイルスに感染した人の発見に利用できないか、真剣に検討している様子がうかがえる。今後もしかすると、本製品(もしくは競合に当たる別製品)が、新型コロナウイルスなどの感染者の発見に特化したモードを実装してくることがあるかもしれない。

同社が掲載した追加文書(PDF)より。正常体温のユーザーと比較することで、あるユーザーの体温が高いことを検出できる
こちらはその応用で、画面の中に置いたデバイスを温度の基準点とし、それを超える体温のユーザーがフレームインすると、色がついて表示される

使いみちを自ら探していくというスタンスがおすすめ

最後に、実際に使ってみて、ここが改善されればもっといいのに……と思った点をまとめておきたい。

ひとつはレベル調整だ。本製品ではカメラの範囲の中に「30℃~10℃」の物体があると、自動的に30℃がもっとも温度が高い色(赤)、10℃がもっとも温度が低い色(青)として、レベルが自動的に調整されてしまう。

そのため、低温環境で本製品を使うと、実際には氷点下なのに画面上では真っ赤という、やや違和感のある状態になる。このレベルを固定できる機能があれば、用途によって使い分けられて便利だろう。製品仕様を読む限りでは、上位の「CompactPRO」は、この機能に対応しているようだ。

もうひとつはカメラの画角で、本製品は画角が36mm相当と、広角側にはあまり強くない。そのため、近くにある物体を画面に収めようとするとかなり難儀する。上位の「CompactPRO」は32mmと、わずかながらも本製品より広い範囲が撮れる上、解像度も若干高いので、最初からこちらを狙うのも(価格さえネックにならなければ)ありだろう。

以上ざっと見てきたが、表面温度だけではなく光が当たっている場合にも反応しがちだったりと、実際に使ってみて「なるほどそういうことか」と気付かされることも多い。最初からがっつりと目的を持って使い始めるのもよいが、使いみちを自ら探していくというスタンスで臨むのが、製品への向き合い方として面白いのではないかと思う。

渋谷のスクランブル交差点を撮るとこのような状態になる

山口真弘