レビュー
「揚げたて惣菜発見カメラ」はヒトにも使える? スマホ装着サーマルカメラ「Seek Thermal」
2020年2月20日 08:15
つい先日、揚げたての惣菜を見つけるための方法を紹介した筆者のツイートが、期せずして反響を巻き起こした。海外へも飛び火してさかんにRTされたこのツイート、現時点で約5万RT、「いいね」も15万オーバーとちょっとした数だったので、目にしたという方もいるかもしれない。
そういえばスマホ接続型のサーマルカメラなるものを買ってみたんですけど、スーパーで揚げたてホカホカ惣菜をピンポイントで発見するデバイスとして完ッ璧に機能してて草pic.twitter.com/e96Ogc3nGT
— 山口真弘 (@kizuki_jpn)February 7, 2020
上記のツイートで使用しているサーマルカメラが、今回紹介する「Seek Thermal」という製品だ。スマホに装着することで、被写体の持つ熱を検知・可視化できる製品である。
サーマルカメラはもともと、非破壊検査などに使われる業務用の製品で、安価なモデルでも数万円はくだらないのが常だが、この「Seek Thermal」はスマホをビューアとして使う仕組みで、ひととおりの機能を備えながら、実売2万円台から入手可能なリーズナブルさが特徴だ。
それゆえ冒頭に挙げた「揚げたて惣菜発見カメラ」のようなカジュアルな用途のほか、異常発熱している電気製品を発見したり、茂みの中に隠れた人や動物を見つけたりと、アイデア次第で気軽に利用できる。今回はこの「Seek Thermal」について、実際にどんな使い方ができて、逆にどんな制限があるのか、実写画像も踏まえつつ紹介する。
手持ちのスマホがサーマルカメラに変身
「Seek Thermal」は3つのラインナップがあり、今回筆者が購入したのは、もっともローエンドのモデル「Compact」だ。最上位の「CompactPRO」に比べると広角側に弱く、かつレベル制御ができないのだが(詳細は後述)、CompactPROが実売5万円台なのに対し、約半額の実売2万円台という手軽さが魅力だ。
また上記の各製品はインターフェイス別に、iPhoneで使えるLightningモデル、Androidスマホで使えるUSB Type-Cモデル、さらにmicroBモデルという3つのモデルがあり、今回はPixel 3で使う前提でUSB Type-Cモデルをセレクトした。機種ごとの相性は少なからずあるようだが、メーカーサイトでは検証情報が公開されているのでありがたい。
本体のサイズはUSBメモリを切り詰めた程度で、厚みはあるが、それほどかさばるものではない。現行のスマホは接続端子が本体下部にある場合がほとんどなので、本体の下に取り付けることになるが、海外サイトでの利用例を見ていると、スマホの上下をひっくり返して本製品が胸ポケットから顔を出すスタイルで使っている人もいるようだ。
セットアップは簡単で、本製品をスマホの端子に接続するだけ。あとは専用アプリをダウンロードし、手順に従って画像フォルダへの書き込み権限などを設定するだけだ。アカウントの登録フォームも用意されているが、登録しなくとも全機能が使えること、また今回は登録時になぜかエラーが出たため、以下のレビューは未登録の状態でのものとなる。
サーマル画像は具体的な温度も表示可能。静止画のほか動画にも対応
機能をオンにすると、カメラでとらえた被写体の熱が、9段階でリアルタイム表示される。また画面中央の温度をピンポイントで測定したり、画面内の最高温度と最低温度を表示したり、温度の境界線を指定して色を変えるなどの機能もある。カラーパレットを変更することも可能だ。
被写体の映像は、そのまま静止画もしくは動画で記録できる。今回のPixel 3との組み合わせで、かつアスペクト比を4:3にしていた場合は、静止画・動画ともに解像度は1,280×720ドットとなる。熱センサーの解像度が、本製品で206×156、上位モデルでも320×240止まりなので、実用上はこれで十分だ。
もっとも、上記のような粗い解像度ゆえ、本製品で取得した画像だけで被写体を識別するのは不可能だ。本製品には、画面を左右に分け、スマホのカメラで撮影した映像を左半分に、本製品の映像を右半分に表示するモードもあるのだが、画角を調整できないため使い物にならない(Pixel 3の場合で、スマホによっては使える可能性もある)。
そのため現時点では、何を撮った画像なのかは、別途カメラを切り替えて撮影するなどのテクニックが必要になる。競合製品では実際の画像にオーバーレイ表示するモードもあるようなので、将来的にはそうした機能追加も期待したい。
異常発熱するデバイスを発見
ここからは実画像を紹介しよう。身近な使い方として、身の回りで異常に熱を持っているパソコン等の周辺機器がないかをチェックする用途が挙げられる。異常発熱までは行かなくても、消し忘れた家電製品の発見にも使えるだろう。
また冒頭でも紹介したように、揚げたての惣菜や焼きたてのパンをピンポイントで見つけることも可能だ。最近は店内撮影がNGの店も多いので、店に迷惑をかけないよう留意したいが、食品自体は非常に鮮明なサーモグラフ画像を得られるので、自宅で冷えたおかずを再度あたためる必要があるか否かチェックする用途などに活用できる。
動物園が面白い! 茂みに潜む人や動物も識別できる
ちなみに個人的におすすめなのは動物園で、茂みに隠れている動物をピンポイントで見つけたり、動物による体温の違いを知ったりと、肉眼ではわからない発見の連続で、撮影せずにリアルタイムに画面を見ているだけで楽しめる。
ちなみにガラスやアクリルで覆われていると検知できないので、そうした囲いがある場所、また水族館などではまったくの無力だ。
発熱している人を見つけることは可能か?
ところで、今回の製品がTwitter上で話題になった時、インフルエンザや新型コロナウイルスなど、発熱している人を離れた場所からピンポイントで発見できるのではないかとコメントする人が(国内外ともに)多く見られた。筆者自身、実際に製品を使うまで、そうした用途で利用できるかも? と考えていた。
しかし本製品は、あくまでも表面の温度だけを検知しているため、服を着てしまえば、いかに体温が高くてもそれを検知できない。もちろん服の表面温度が上がるほど体温が高ければ別だが、それが病気によるものか、それとも運動などによるものかは、本製品では識別できない。その他の情報と踏まえて判断すべきだろう。
ちなみに同じ理由で、車のボンネットの中に入り込んだ猫を外から発見する用途にも使えない。そもそも、目視できない熱源がこのカメラでホイホイ見えるならば、マンションの外壁を撮影しただけで部屋の中でウロウロする人が見えかねないわけで、さすがにそれはあり得ないことが分かる。
また本製品は測定できる温度が1度刻みで、あまり細かな温度を表示できるわけではない上、外気温に影響されるためか実際の体温との誤差もあり、非接触型の体温計としてはスペック不足という印象だ。せめて0.1度刻みになれば、定点観測で体温の変化を見る用途くらいなら使えるかもしれない。
ただし、やり方がないわけではない。それは通常の体温の人と並んだ状態で、サーモグラフ画像を撮る方法だ。これならば、隣の人が基準点となって「この人は明らかに体温が高い」ということが分かる。ピンポイントで測った温度の精度はイマイチでも、同じ画面内にある別の物体との比較であれば信頼性が高いことを利用するわけである。
実は本稿執筆中に、これに関連する情報がSeek Thermalのサイトにアップされた。それによると上記の方法のほかに、画面の中に任意の温度を設定できるデバイスを置いてそれを基準点としつつ、「しきい値モード」で具体的な温度を指定し、その温度を超える体温の人がフレームインすると、色がついて表示されるという方法が紹介されている。
これら方法の実用性はさておき、同社がこのサーマルカメラを、現在世界を脅かしている新型コロナウイルスに感染した人の発見に利用できないか、真剣に検討している様子がうかがえる。今後もしかすると、本製品(もしくは競合に当たる別製品)が、新型コロナウイルスなどの感染者の発見に特化したモードを実装してくることがあるかもしれない。
使いみちを自ら探していくというスタンスがおすすめ
最後に、実際に使ってみて、ここが改善されればもっといいのに……と思った点をまとめておきたい。
ひとつはレベル調整だ。本製品ではカメラの範囲の中に「30℃~10℃」の物体があると、自動的に30℃がもっとも温度が高い色(赤)、10℃がもっとも温度が低い色(青)として、レベルが自動的に調整されてしまう。
そのため、低温環境で本製品を使うと、実際には氷点下なのに画面上では真っ赤という、やや違和感のある状態になる。このレベルを固定できる機能があれば、用途によって使い分けられて便利だろう。製品仕様を読む限りでは、上位の「CompactPRO」は、この機能に対応しているようだ。
もうひとつはカメラの画角で、本製品は画角が36mm相当と、広角側にはあまり強くない。そのため、近くにある物体を画面に収めようとするとかなり難儀する。上位の「CompactPRO」は32mmと、わずかながらも本製品より広い範囲が撮れる上、解像度も若干高いので、最初からこちらを狙うのも(価格さえネックにならなければ)ありだろう。
以上ざっと見てきたが、表面温度だけではなく光が当たっている場合にも反応しがちだったりと、実際に使ってみて「なるほどそういうことか」と気付かされることも多い。最初からがっつりと目的を持って使い始めるのもよいが、使いみちを自ら探していくというスタンスで臨むのが、製品への向き合い方として面白いのではないかと思う。