AQUOS TRUE STORY

第4回 なぜ4原色パネルで黄色が選ばれたのか

2010/09/27

 2009年、シャープは赤緑青(RGB)の3原色に黄(Y)とシアン(C,水色)を加えた5原色パネルのプロトタイプを発表したことは前回、お話ししました。この5原色パネルは、7月末、アメリカ、ロサンゼルスで行われたSIGGRAPH2010においても「QuintPixel」パネルとして展示されていました。

 現在、TVCMですっかり認知度が高くなった4原色パネル「Quattron」ですが、実は、このQuattronのベースとなったのはこのプロトタイプの5原色パネルなのでした。

 
SIGGRAPH2010で公開された5原色「Quint Pixel」パネル。実はこれが4原色「Quattron」の元となったパネル

物体色カバー率を上げるための方策

自然界の物体色と3原色パネル
AQUOS XS1シリーズ「LC-52XS1」

 自然界で人間が目にする可能性の高い物体色を色域マップ上に●でプロットしたものが右図です。この図に対して、三角形で囲った範囲が、現在のハイビジョンの色表現規格標準規格であるITU-R BT.709(色についてはsRGBと同等)でカバーされる領域なのですが、黄色(Y)方向と水色(C)方向に多くがカバーできていないことが分かります。

 映像が、視界を再現することを究極目標としているならば、「この物体色の全てをカバーしたい」という目標があるわけで、この●のプロットを全てカバーすることを考えなければなりません。

 シャープがまず考えたのは、この三角形を大きくするアイディアでした。

 これを実現したのが2008年秋に発表されたAQUOS XS1シリーズです。この時は業界がRGB-LED採用ブームだったこともあり、シャープも色純度の高いRGBの三色のLEDをバックライトに直下配置したモデルとしてAQUOS XS1シリーズを投入したのです。

 RGB-LEDを採用したAQUOS XS1シリーズは、確かに物体色のほとんどをカバーすることができたのですが、白色光を取り出すのにRGBの3つのLEDが必要となることからLEDの部材点数が多くなりとても高価な製品となってしまいました。また、大量のLEDを点灯させるため消費電力も大きくなってしまいました。

RGB-LEDバックライトシステムの採用は、色域分布図において三角形によるカバー率の面積を大きく取るアプローチで多くの物体色分布をカバーすることに相当した。(2008年 XS1発表時の資料より)

 あれから2年が流れ、エネルギー消費効率の面から、LEDバックライトは白色が主流となってきました。 シャープは、この流れに対応しつつも、効率よく物体色のカバー率を向上させるアイディアを練りました。それが多原色パネルです。

 前出の色域分布図において、物体色の分布を三角形で取り囲むことから離れ、多角形で取り囲むようにしたらどうか、と発想を転換したのです。

 5原色ならば5角形でこの物体色分布を囲うことができます。この図におけるカバー率を表す多角形の面積の広さは、実質的に色のダイナミックレンジであり、これは光源パワーに比例し、ひいては消費電力と比例します。三角形を大きくして物体色として存在しない色までをカバーしてしまうより、多角形で物体色分布を無駄なくカバーした方がエネルギー消費効率的に優位なのは一目瞭然ですよね。

5原色パネルは、色域分布図における物体分布を5角形で囲むことを目指したものだった

なぜQuattronは黄色を4色目に選んだのか?

 では、なぜQuattronでは、黄色だけが採用されて4原色となったのでしょうか。

 これにはいくつかの理由があります。

 5原色パネルを実現するためには、RGBCYの5つのサブピクセルを形成しなければなりませんが、リブレス、スリットレスを実現した世界初のシャープのUV2A(光配向)技術をもってしても、現在の製造プロセスルールでは、サブピクセル周辺に形成させるTFT回路が開口率を下げてしまいます。

 将来パネル製造技術の微細化が進めば5原色パネルの実用化があるかも知れませんが、シャープとしては今世代は、4原色パネルの実用化に踏み切ることにしたそうです。

 その際、問題となるのが黄色を取るか、水色を取るかという究極の選択です。

 これについては、1つ、有力な、黄色選択を後押しする要素がありました。

 それは、バックライトに用いる白色LEDの光特性でした。

 白色LEDにはいくつかのタイプがありますが、青色LEDに赤と緑の蛍光体を組み合わせたものが、液晶パネルのバックライトに用いられることが多く、現在のAQUOSに用いられているシャープ自社開発のバックライト用の白色LEDもこのタイプです。

 この白色LEDから発せられる光成分には、黄色成分が多く含まれているのですが、赤緑青(RGB)の3原色パネルとこの白色LEDバックライトを組み合わせたときには、この黄色成分は捨てられてしまっていました。エネルギーの使用効率からすればこれは「もったいない」と言うことになります。そこで、この黄色の光パワーを有効活用した方がよいと言うことになり、黄色の方が選択されたのでした。

 一方の水色成分は、図を見てもらっても分かりますが、白色LEDの光成分にはあまり多く含まれていません。このため、Quattronでは採用が見送られることになりました。

 それでは、水色側の物体色の再現はあきらめてしまったのでしょうか。大丈夫、そんなことはありません。

 実はQuattronでは、黄色に新たな原色点が置けたことで黄緑方向のカバー率が各段に向上しました。そこで、緑色の原色点を、従来のRGBパネルよりも水色方向に若干シフトすることを実施し、水色方向の物体色のカバー率も向上させています。

 当初、シャープは「黄色が追加されたことで水色方向の物体色再現も向上した」という説明しかしなかったため、ピンとこなかった人も多かったかも知れませんが、こういうことだったのです。

 
白色LEDバックライトに比較的多く含まれる黄色光を有効活用するのに、新原色に黄色の採択はおあつらえ向きだった
 
黄色原色が追加されたことで水色方向の物体色カバー率が上がったのは、緑の原色点をシフトしたため。

 こうした原色点の調整や設定はカラーフィルタで行います。そうです、Quattronの黄色以外のRGBのカラーフィルターの色は、従来パネルのカラーフィルターの色とは違うんですね。

 ところで、この黄色のサブピクセルに対し青を混ぜれば白になります。幸い、バックライト用の白色LEDは、青LEDが元になっていますから、青色の出力チューニングは比較的容易です。

 そこで、Quattronに組み合わされるバックライト用の白色LEDは青色のダイナミックレンジが強化されています。これにより、白がRGBの混色で出せるだけでなく、BYの混色で出せることになり、白のダイナミックレンジが向上することになりました。

 Quattronが発色が豊かなだけでなく、とても明るいのはこのためです。

 この明るさは、立体視(3D)を実現させる際にも武器になりますし、さらにコントラスト感の向上にも貢献します。

 店頭で、Quattron採用モデルを見かけたときには、発色の豊かさだけでなく、明るさとコントラスト感にも着目して見てみてください。

(トライゼット西川善司)

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