清水理史の R2のツボ 第一回 | Windows Server R2 とは何か 清水理史の R2のツボ 第一回 | Windows Server R2 とは何か
注目のWindows Server 2008 R2登場

 前バージョンとなるWindows Server 2008の新しいエディションとして2009年4月に追加された「Foundation(ファウンデーション)」が、Windows Server 2008 R2で正式なラインアップとしてWindows Serverファミリの一員に加えられることになった。

 登場間もないエディションとなるため、まずは概要を簡単に紹介しよう。「Foundation」は15名以下の中小企業やSOHO環境をターゲットとしたWindows Server 2008 R2のエディションの1つだ。Windows Serverファミリのローエンドを担うエディションで、Standardのさらに下に位置するエディションとなっている(ラインアップについての詳細は第1回を参照)。

 Foundationの最大の特徴は、小規模な企業やスタートアップまもない企業などでも、手軽に投資できる低価格にある。たとえば、2GHz程度のCeleronを搭載し、メモリ1GB、HDD160GB前後という構成のエントリーサーバーで比較した場合、Windows Server 2008 R2 Standard(5CAL付き)がインストールされたサーバーは13万円を超える価格となるものの、Foundationなら同一構成のハードウェアで8万円前後と10万円を切る価格で購入することができる。

各エディションごとの仕様の違い

 サーバーと言うと、数十万、場合によっては百数十万のコストがかかるというイメージを持っている人も少なくないかもしれないが、通常のPCとさほど変わらない費用から導入が可能というわけだ。

 しかも、Standardの場合、接続クライアントかユーザーが増えるごとにCAL(クライアントアクセスライセンス:PCをサーバーに接続するためのライセンス)を追加購入する必要があり、この価格が5CALで3万円前後必要になる。これに対して、Foundationは15名以下の環境に限られるものの、CALは不要となっている。

 Windows Serverの導入に際して、CALの考え方を理解したり、ライセンスに違反しないようにうまくCALを使いこなすことは、サーバー初心者にとって大きな障壁となることが多いが、これを考慮しなくて良いうえ、しかも圧倒的な低コストでサーバーを導入できることになる。

各エディションごとの仕様の違い

 他のエディションと異なり、パッケージ版やボリュームライセンスでの提供はなく、サーバーハードウェアとセットで購入する必要があるが、小規模な環境にとっては、OSがプリインストールされたサーバーを購入した方がセットアップの手間を省けるというメリットもある。

 もちろん、コスト的なメリットがある一方で、機能的な制限があることも理解しておこう。具体的には、対応メモリが8GBに限られるうえ、サポートされるCPUソケットも1つのみとなる。また、Standardでは利用可能なHyper-Vによる仮想化機能もサポートされない。とは言え、Windows Server 2008 R2の基本機能と高い信頼性はそのままとなっており、小規模な環境で利用するサーバーとしては必要十分な機能を提供できるようになっている。

各エディションごとの仕様の違い
Windows Serverファミリの構成と用途

 もちろん、いくらコスト的なメリットがあるとしても、その投資に対する明確なメリットがなければ実際の導入には躊躇することだろう。

 実際、中小企業やSOHOなどのファイル共有であれば、Windows 7のホームグループを使ってクライアントのみで手軽に環境を構築できるうえ、家電量販店などで3万円前後から購入できる「NAS(Network Attached Storage)」を利用しても実現できる。

 こういった競合する方法に対して、Windows Server 2008 R2 Foundationを導入するメリットはどこにあるのだろうか?

 ポイントとなるのは、管理の手間とコスト、将来の事業拡大にも対応できる拡張性の高さの2点になるだろう。

 まず、管理面ではActive Directoryが使える点が大きいだろう。4〜5名の本当に小規模な環境であればユーザーやクライアントの管理もさほど手間はかからないが、10名前後、もしくはそれ以上となると、クライアントのみの環境やNASでは管理に時間と手間がかかり過ぎるため、サーバー側で集中的にユーザーやクライアントを管理した方がはるかに効率的となる。

 もちろん、「Active Directory」という言葉やそのイメージが、サーバー初心者には高い敷居に感じられるかもしれないが、初期設定は必要になるものの、基本的にはGUI画面でユーザーの登録やクライアントの管理ができる機能程度に考えておくだけでもかまわない。

■Active Directoryによる管理画面。ユーザーやコンピューターの管理はGUI画面で簡単にできる

 確かに、Active Directoryを活用すれば、「OU」と呼ばれる実際の組織に沿った単位での管理、「グループポリシー」というサーバー側で定義した機能や制限をクライアントに自動的に適用する管理機能、ネットワーク上のPCに自動的にソフトウェアを配布する機能など、非常に高度な管理ができるようになる。

 しかし、このような高度な機能は小規模な環境では最初から導入する必要はない。とりあえずユーザーとクライアントをサーバーに登録して管理するところから始め、会社組織の拡大などに合わせて機能を追加設定していけば良いだけだ。

 組織が拡大するということは、企業としても成長していることにほかならないため、人員の増加に伴って専門のIT担当者を設けたり、システムの構築を外部の業者に依頼するといった費用の捻出も可能になる。そうなれば、自然と高度な機能を使うための敷居も下がってくることだろう。

 一般的には、Active Directoryは難しく、NASの方が簡単だというイメージがあるかもしれないが、単純なユーザー、クライアント管理であれば、NASもActive Directoryも実はさほど大きな差はない。将来的に使うと便利な高度な機能が目立ってしまう分、Active Directoryの方が難しいと感じてしまうだけに過ぎないのだ。

用途でエディションを選ぶ

 また、同様に企業の成長に伴う事業の拡大に伴って、サーバーの機能や規模を拡張することができるというのも、Windows Server 2008 R2ファミリの特徴でもある。

 事業の規模や内容が拡大してくると、IT化が必要な業務が次第に増えてくる。財務会計、在庫管理、人事・給与管理など、企業の基幹業務をクライアントPCのエクセルなどで対応することが難しくなり、専門のソフトウェアを導入する必要が出てくる。

 ファイルサーバー専門として提供されているNASなどでは、このような業務アプリケーションを利用することはできないが、Windows Server 2008 R2 Foundationであればさまざまな業務アプリケーションが対応しているため、インストールするだけで、単純なファイルサーバーから、アプリケーションサーバーへとステップアップさせることができる。

各エディションごとの仕様の違い

 もちろん、企業の成長速度によってはWindows Server 2008 R2 Foundationでは対応しきれなくなる可能性もあるが、この場合は必要なライセンスを購入することで、Windows Serve 2008 R2 Standardにアップグレードすることもできる。これにより、15名以上の規模の利用や仮想化など、さらにシステムを拡大していくことができる。もちろん、ハードディスクなどサーバーのハードウェアリソースを規模に応じてアップグレードしていくことも可能だ。

 NASは、このような機能やハードウェア拡張が物理的に難しいばかりか、将来的にWindows Serverに移行するという場合の敷居も高くなる。NASからWindows Serverへの移行の場合、ユーザーの移行やファイル移動、アクセス権の設定し直しなど、非常に多くの時間と労力、場合によってはコストが必要になる。

 これに対して、Windows Serverでは古いサーバーからの移行やサーバー統合に際してのノウハウや役立つツールなどが提供されているうえ、Windows Server 2008 R2 FoundationからWindows Server 2008 R2 Standardへのエディションの移行もアップグレードメディアキットの利用で手軽に可能となっている。


どこで、いくらで買えるのか?

 このように、Windows Server 2008 R2 Foundationは、15名以下の小さな環境をターゲットとしたサーバー製品となっているが、単に小規模なだけでなく、高い成長力を持った中小企業、スタートアップしたばかりのベンチャーなど、現在の規模は小さいものの、時を待たずして事業規模や事業内容が拡大することが期待できる成長企業に適したサーバーOSと言える。

 「敷居が高い」というイメージがあるかもしれないが、実際には低コストで導入できるうえ、初めての場合でも、基本的な機能を使う限りは設定や管理に手間取ることもない。将来を見据えた長い期間で考えれば、確実にメリットが得られる投資と言えるだろう。

清水理史写真 清水理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。
最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。