清水理史の R2のツボ 第一回 | Windows Server R2 とは何か 清水理史の R2のツボ 第一回 | Windows Server R2 とは何か
注目のWindows Server 2008 R2登場

 10月22日、Windows 7の発売と時を同じくしてサーバーOSの最新版「Windows Server 2008 R2」が発売された(ボリュームライセンスは9月1日より提供)。

 「R2」ということで、位置づけとしては従来の「Windows Server 2008」からのマイナーバージョンアップとなるが、最大256論理プロセッサのサポート(Windows Server 2008は最大64論理プロセッササポート)やコアパーキング(処理を特定のコアに集中させることで他のコアをスリープ状態にし消費電力を少なくする)による低消費電力化といった基本機能が強化されているうえ、さらにHyper-V2.0による仮想環境の強化、支店などでの利用やリモートアクセス環境に便利なDirectAccessやBranchCacheなどの搭載と、その機能は大幅に強化されている。

 前バージョンのWindows Server 2008はすでに多くの導入実績を誇るサーバーOSとなっており、その信頼性に高い評価を得ているが、これにさらに新機能や拡張性が加えられた格好になる。

 中小企業やSOHOなど、これからサーバーを導入しようと考えている場合はもちろんのこと、事業規模の拡大によるシステムの新規導入やサーバーの追加、導入済みのサーバーのリプレースなどを考えている場合は、「Windows 7」の登場と合わせて、最新のWindows Server 2008 R2の導入を検討するのに良いタイミングと言えるだろう。

Windows Serverファミリの構成と用途

 では、実際に導入する場合に、どのような製品を選べば良いのだろうか? 今回登場したWindows Server 2008 R2の各エディションを含め、マイクロソフトのサーバーOSであるWindows Serverファミリのラインアップを規模と用途でわかりやすく整理してみたのが以下の図だ。

各エディションの主な特徴

■各エディションの主な特徴

 Windows Serverファミリには、OEMとしてハードウェアに組み込まれた状態で出荷される「Windows Storage Server 2008」やWebサーバーとしての用途のみに特化した「Windows Web Server 2008 R2」、さらにはミッションクリティカルな金融システムや学術・研究などの非常に高度な計算を処理することを目的とした「Windows HPC Server 2008」など、専用かつ特殊な用途の製品が存在したり、図からは省いたが家庭向けの「Windows Home Server」などもラインアップする。非常に幅広いラインナップと言えるだろう。

 上の図は、横軸に利用環境の規模を取り、縦軸にサーバーの利用目的を機能を取り、縦横の適切な位置にWindows Server 2008 R2の「Foundation」、「Standard」、「Enterprise」、「Datacenter」の4つのエディションを配置している(このほかItanium向けの「Windows Serve 2008 R2 for Itanium-based Systems」も存在するがここでは省略)。

 まず、横軸から注目してみよう。これは規模なので単純だ。Windows Server 2008 R2は、ライセンス数やサポートするハードウェアのスペックによって、エディションごとに適切な規模が想定されている。

 「Foundation」は接続クライアントが15台までとライセンスで制限されているので、小規模な企業やオフィス、SOHOなどでの利用に適しているだろう。一方、それ以外の「Standard」、「Enterprise」、「Datacenter」は、ライセンス上の制約ではなく、搭載する機能や対応するハードウェアを考慮して選択することになる。

各エディションごとの仕様の違い

■各エディションごとの仕様の違い

 上の表のように、上位のエディションになるに従って、対応するメモリやプロセッサ数などが多くなる。より多くのクライアントの処理に対応したり、より高度なアプリケーションを動作させるには、やはり多くのメモリやプロセッサへの対応が不可欠となるため、より上位のエディションを利用する必要があるというわけだ。

 イメージとしては、Standardは中小企業や大企業の支店や部門単位での利用、Enterpriseは大企業の基幹システム、Datacenterは文字通り大企業の基幹やデータセンターなどでの利用に適していると言えるだろう。

用途でエディションを選ぶ

 もちろん、単純に規模だけで判断するのではなく、用途を考慮することも非常に重要だ。先の図の縦軸で示したように、搭載する機能の違いによって、Windows Server 2008 R2の各エディションが適している用途も変わってくる。

 たとえば、FoundationとStandardの違いを見てみよう。この2つのエディションはいずれも小規模な環境での利用に適しており、Active Directoryを利用したユーザー管理ができるうえ、ファイル/プリントサーバー、さらに会計パッケージなどの業務アプリケーションを動作させるのに適したサーバーOSとなっている。

 では、機能的な違いはどこにあるのかというと、最大の違いは仮想化に対応しているかどうかだ。Windows Server 2008 R2 Standardは、Hyper-V2.0の利用が可能となっており、ライセンスを追加することなく管理用の物理OS1つに加えて、仮想OSのインスタンスを1つ動作させることが可能となっている。

 ハードウェアの効率的な利用や管理の効率化などを考慮すると、今後、サーバーの運用は仮想化が主流となる。Standardのライセンスを追加購入すれば、さらに仮想環境をもう1インスタンス実行することもできるので、将来、サーバーを追加する予定がある場合は、最初から仮想環境でサーバーを運用すると良いだろう。

 また他にも、Foundationでは利用できず、Standardで利用できる機能としては、Windows 7と組み合わせた新機能として注目を集めているDirectAccessもある。支店が存在したり、各地に点在する事務所や店舗を管理しなければならない場合などは、小規模であったとしても、DirectAccessによるセキュアなリモートアクセスが利用できるStandardを選ぶメリットが高いだろう。

 一方、さらに大規模な環境の場合、より高性能なハードウェアを利用でき、しかもクラスター構成が可能なEnterpriseかDatacenterを利用することになる(Standardはクラスター構成不可)。Hyper-V 2.0で強化された Live Migrationを利用するにはクラスター構成は必須である。では、EnterpriseとDatacenterとのライセンスで見た違いはどこにあるのだろうか。この違いも仮想化を1つのポイントとして考えるとわかりやすい。Enterpriseの場合、ライセンスの追加なしで実行可能な仮想OSのインスタンスは4つだが(別途管理用物理OS1つを実行可能)、Datacenterではライセンスの追加なしで、無制限に仮想OSのインスタンスを実行可能となっている。

 Enterpriseで4つ以上の仮想インスタンスを実行するためには、さらにEnterpriseのライセンスを購入して4+4=8の構成にするなどの追加投資が必要だが、Datacenterならハードウェアの性能が許す限り、いくつでも仮想インスタンスを追加できる。

 現状、社内で動作している2~3台のサーバーを仮想環境に統合したいというのであれば、Enterpriseが適しているが、より大規模な環境を構築したり、数十台のものサーバーを統合しなければならないなどという場合はDatacenterを選ぶのが効率的だろう。

 もちろん、規模が大きくなると、用途によってさまざまなエディションを組み合わせて利用する場合などもあるため、システムインテグレーターなどによる細かな設計が必要となるが、100台くらいまでの中小規模の環境であれば、ユーザー数や、どのようなアプリケーションを稼働させるか、仮想環境が必要かどうかで大まかにエディションを判断しても差し支えないだろう。

 なお、仮想環境でのライセンスの考え方、さらにCAL(クライアントアクセスライセンス:PCをサーバーに接続するためのライセンス)の考え方については、マイクロソフトのサイトに非常にわかりやすいコンテンツが用意されている。ぜひ、一読をおすすめしたいところだ。

Windows Server 2008 R2 早わかりライセンスガイド
http://www.microsoft.com/japan/windowsserver2008/r2/licenseguide/qgd0803_p02_03.mspx
どこで、いくらで買えるのか?

 このように、自社の規模とサーバーの用途を考慮すれば、どのエディションを利用し、どれくらいのハードウェアを用意すれば良いのかが判断できるはずだ。

 では、実際にWindows Server 2008 R2はどこで購入すれば良いのだろうか? クライアントOSのようにパッケージで購入することも可能だが、それが可能なのは一部のエディションのみとなる。

各エディションの価格および販売形態

■各エディションの価格および販売形態

 上の表は、Windows Server 2008 R2の販売形態と価格(参考価格)をまとめたものだ。パッケージ版として購入できるのは、StandardとEnterpriseとなっており、これらにはそれぞれ5つ、ないし25のCALが付属する。ただし、実際に店頭で購入できるかどうかは状況次第となる。大手家電量販店などでは取り扱っているが、店頭に在庫があるかどうかは事前に確認する必要があるだろう。

 一方、ボリュームライセンスは、パッケージやメディアなどの物理的な品物ではなく、必要な台数分のOSのライセンス(使用権)を購入する方法だ。大企業向けのものと思われがちだが、実際には数台単位でも契約可能な中小規模向けのボリュームライセンス(Open BusinessやOpen Value)も存在し、場合によってはコスト的なメリットを享受することもできる。

 複数の契約形態が存在するため、実際にどの契約で、どのようなメリットがあるのかは別途相談する必要があるが、Datacenterのようなボリュームライセンスのみのエディションだけでなく、Standardも購入できるうえ、クライアントPC用のCALやOS、Office製品などもまとめて購入できる。

 大規模向けのボリュームライセンスはマイクロソフトのラージアカウントリセラー(こちらを参照)での取り扱いとなるが、小規模向けのボリュームライセンスはマイクロソフトの正規販売店やオンラインストアなどでも購入できる。

 いずれにせよ、サーバーやクライアントの台数、必要なOSやアプリケーションの本数を計算して、相談してみるのが一番の近道だ。もちろん、導入やセットアップ、ハードウェアの購入なども、必要に応じて相談してみると良いだろう。

中小から大規模環境まですべてをカバーするWindows Server 2008 R2

 このように、Windows Server 2008 R2といっても、そのファミリにはさまざまな製品が存在し、用途によって適したエディションがあることが理解できたのではないだろうか。

 これまで「サーバー」という言葉に大規模向けのイメージしか持っていなかった人の中には意外に身近な製品が存在することに気づいたり、逆にファイルサーバーなどのイメージが強かった人にとって本格的なエンタープライスサーバーやハイパフォーマンスサーバーとしての十分な実績がすでにあることに驚くかもしれない。

 現在の自社の環境をもう一度見直して、足りないところ、拡張すべきところ、改善すべきところが少しでもある場合は、それを補うためにWindows Server 2008 R2の導入を検討してみてはいかがだろうか。

清水理史写真 清水理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。