日本では普段なかなかお目にかかれないショートフィルムだが、 アメリカではショートフィルムだけを集めた映画祭が開かれるなど、短編ならではの手法やエッセンスが人気を博し、映画の1ジャンルとして確固たる地位を築いている。そんなショートフィルムをいちどに6本まとめてみられるのが『short6』だ。 期待の新人クリエイターから鬼才クローネンバーグまで、 笑いあり、涙ありのバラエティにとんだ作品をまとめて堪能できる。 筆者のイチオシは『四つの部屋と六人の打楽器奏者のための音楽』。 インディーズっぽさも含めてショートフィルムの魅惑的な世界をとくとお試しあれ。

　スウェーデン郊外の住宅地。老夫婦の留守宅に突如進入する怪しげな男5人女1人の集団。彼らの目的はコップや本、ベッドや歯ブラシといった生活雑貨・家具などを使って音楽を奏でることだった･･･。

　 いや～～笑いました。身の回りにあるものを使って音楽を奏でる行為って、私も子供の頃によくやったけれど、大の大人の集団が大真面目にやってる姿が面白い。といっても、これは細かく計算された演出と、彼らの奏でる音楽の完成度が非常に高いからこそ。このへんてこな合奏グループのメンバーは演奏中ぴくりとも笑わないし、演奏後きっちり時間を計って次の部屋に移動する。その“間合い”が絶妙。そして一見適当に演奏しているような彼らの音楽が非常に良く出来ているのだ。また、老夫婦のアパートのインテリアがお洒落なのもスウェーデンっぽくて素敵。この作品のためだけでも『short6』を見に行く価値アリのシュールでユーモラスな一本。

2001年/スウェーデン/35mmプリント/ビスタサイズ/ドルビーステレオSR・THX/10分

監督・プロデューサー：オーラ・シモンソン、ヨハンネス・シューネ・ニルソン
撮影：ヨハンネス・シューネ・ニルソン、ローベット・ブルム、シャルロッタ・テーングロート
編集：ヨハンネス・シューネ・ニルソン、オーラ・シモンソン
音楽：オーラ・シモンソン
美術：マデレーヌ・シュヴァンツ、セシーリア・シュターナー
衣装：カイサ・トスティング
出演：ヨハネス・ビヨーク、マグヌス・ビョルイェソン、フレドリック・ミュール、サンナ・パーション、アンデシュ・ヴェステルゴード他

　ダニエル・デフォー原作の「疫病流行記」をパペット・アニメーション化。ペストが大流行した1665年のロンドンを舞台に、ある鬘職人の苦悩と救済を描く。

　 なんといっても、アニメーションが秀逸。死に充満したロンドンの街を迫力ある世界観で描き、観るものを圧倒する。また、人形の顔も個性的だ。鬘職人など、デフォルトでペストなんじゃないかと間違うくらい、迫力満点（笑）。ストーリーは深刻だが、映像が素晴らしいため異空間につれていかれたような不思議な気分を味わえる。ケネス・ブラナーがナレーションを務めている。

1999年/ドイツ/35mmプリント/ドルビーデジタル/ビスタサイズ/15分

監督：ステファン・シェーフラー
プロデューサー：アネット・シェーフラー
ナレーター：ケネス・ブラナー
原作：「疫病流行記」ダニエル・デフォー著
アニメーション：フィリップ・デイル
撮影：マルコム・ハドリー
音楽：クリス・ヘイン
キャラクターデザイン：カルロス・グランゲル
人形制作：マッキノン＆ソーンダース

　一人のイカれた若者（ジョシュ・ハートネット）が車を走らせながら、世の中に対する不満やらなんやらを吐露するという話をものすごいカット数と次々と変わるBGMに乗せて目まぐるしくお届けする一本。CMクリエイターとして活躍するデヴィッド・ブルックスが監督なだけあって、たくさんのビジュアル効果を楽しめる。また、ジョシュ・ハートネットが社会に適応できずに苦しむ若者を熱演。私は一番前の席で観ていたのだが、目がチカチカして疲れてしまったので、少し後ろの席で鑑賞することをオススメする（笑）。

2001/アメリカ/35mmプリント/ドルビーデジタル・SDDS/ビスタサイズ/15分

監督・脚本・編集：デヴィッド・ブルックス
製作：ギルバート・メルシエ
出演：ジョシュ・ハートネット、マルティーナ・ミゲネス、トッド・マルタ、ミッシェル・ジョナス

　年老いた俳優が子供達が楽しそうに撮影機材を準備する中で自分の人生を振り返り、古いカメラに自分の姿を重ね合わせる。現役を半ば引退している彼と無邪気な子供達は対極にいる。そして、準備を整えた子供達の前で、彼は演じる。

　渋～～～い。『ビデオドローム』、『ブルード～怒りのメタファー～』、『戦慄の絆』など（以上、すべて筆者の好みによる抜粋）、常にショッキングな作品を発表し、また、メディアに登場する際も過激な発言が多いクローネンバーグの映画とは思えないドキュメンタリータッチの切ない1本。老俳優役をクローネンバーグ作品の常連レスリー・カールソンが演じている。ラスト近く、照明が当てられ、カメラを回された瞬間に素の状態から俳優の顔に変貌する彼の演技が素晴らしい。“老い”という人間の避けられないテーマを哀愁たっぷりに描いた秀作。

2000年/カナダ/35mmプリント/ドルビーデジタル/ビスタサイズ/6分

監督・脚本：デヴィッド・クローネンバーグ
製作総指揮：ニヴ・フッシュマン
共同製作：ジェニファー・ウェイス
撮影：アンドレ・ピエナ
編集：ロナルド・サンダース
美術：カロル・スパイアー
音楽：ハワード・ショア
音響編集：デヴィッド・エヴァンス
出演：レスリー・カールソン、マーク・ドネイト、ダニエル・マジェール

　3Dアニメのコーヒー豆達が睡眠とパーティをかけて展開する死闘を描く。コーヒー豆が殺人マシーンと化すというアイデアはすっごく良いと思うんだけど、いかんせん3Dアニメが大味。『マトリックス』ばりのアクションや笑わせるツボもあるんだけど、『鬘職人の日記』のような濃密な映像を見た後だと、荒さが目立った。とはいえ、今後この手の作品は期待大だなと思わせる一本。

2000年/アメリカ/デジタル・ベーカム、DLP上映/ステレオ/8分

クリエーター：ジョウ・リュウ

　DJ Qバートのヒップホップアルバム「WAVE TWISTERS」を基に作られたアニメ。宇宙で歯医者を営んでいるデジタル・コマンダーがR2-D2型ロボットのラビッシュらと供に、悪の帝王ロード・オークが独占しているヒップホップの4つの力（MC、グラフィティ、ブレイクダンス、DJ）を取り戻すまでの旅がヒップポップに合わせて繰り広げられる。言うまでもなく『スターウォーズ』が下敷きになっている作品だが、うーん、なんというかとってもサブカルな感じ。デンタル・コマンダーはバカボンのパパみたいだし、R2-D2型ロボット、アメ車型宇宙船などなど、このテの作品が好きな一定の観客層は絶対あると思われますが、個人的には上映時間45分がちと長く感じられてしまった作品。

2001年/アメリカ/デジタル・ベータカム、DLP上映/ステレオ/45分

監督・アニメーション：シド・ガロン、エリック・ヘンリー
クリエーター：DJ Qバート
製作総指揮：ヨガ・フロッグ
プロダクトデザイン：ダグ・カニンガム
アニメーション：ドリーシャ・ゴルベブ・ラーナー
3Dグラフィックデザイナー：マシュー・ホワイトマン
衣装デザイン：クリステン・ヤングマン
出演：DJ Qバート、ヨガ・フロッグ、D-STYLES、DJ FLARE