こどもとIT

世界を驚かせた中学生チームの技術力! VRとARを使った食事介助ロボットが心に栄養を届ける

――WRO 2018 タイ国際大会オープンカテゴリー出場チームインタビュー

11月16日からタイで開催された、世界の小中高生によるロボット競技会「WRO(World Robot Olympiad)」国際大会。これに出場する日本代表を決める「WRO Japan 2018」決勝大会が、2018年9月に行われ、国際大会に挑む17チームが選出された。今年のテーマは「Food Matters」。食に関するテーマに対し、どのようなチームがどのような工夫をして世界の舞台にたどり着いたのだろうか。今回は、WRO国際大会に出場したオープンカテゴリーの3チームの中から「OTEMON QUEST」の作品を、WRO Japan 本部実行委員で株式会社富士通ラーニングメディアの大木宏昭氏にレポートいただいた。

5年連続国際大会出場を決めた常連校

前回は、WRO 2018 タイ国際大会のオープンカテゴリーに出場した小学生チームを紹介した。今回は、中学生の国際大会出場チームを紹介する。

チーム名は「OTEMON QUEST」、大阪市にある追手門学院大手前中学校の生徒で構成されるチームである。同校は2014年から5年連続出場となる、国際大会の常連校で、昨年のコスタリカ国際大会では、手話ロボットを作り見事3位、銅メダルに輝いている。メンバーは、同校のロボットサイエンス部の倉冨星衣さん(中3)、櫻井鴻乃介君(中3)、南方博君(中2)の3人。倉冨さんと櫻井君は昨年の銅メダルメンバーである。日本決勝大会までは、この3人に加え、下級生のサポートメンバーとともにチームとして活動してきた。充実したチーム体制も強さの源であろう。

左から櫻井君、南方君、倉冨さん

「価値ある創造」を目指してたどり着いた、心を温める食事介助ロボット

この中学生チームが作ったのは、食事介助ロボット「もぐもぐくん」。AR(拡張現実)とVR(仮想現実)という最新技術を用いたロボットである。

ARとVRを使ったロボット「もぐもぐくん」

それにしてもなぜ、食事介助に着目したのか。話を伺うと、昨年銅メダルを獲得した手話ロボット開発の経験を活かして、誰かの心を温めるロボット開発ができないかと思い、「介護」に注目したという。しかし、実際の介護の現場では、「ロボットではなくて、人にやってほしい」と誰もが思っている。そこで導き出した答えが、ARとVRを使って介助を受ける人が幸せに食事することができるロボットだ。仕組みとしては、ゴーグルを覗くとそこに大好きな人がいて、会話しながら自動化されたロボットアームが食事を口まで運んでくれるというものである。技術の力で、ロボットを温かみのあるものに変えてしまおう、という発想が斬新だ。

ゴーグルを覗くと、大好きな人が見える仕組み

このロボットはプログラミングにも工夫がされている。現状のレゴのプログラミングソフトでは、画像認識や映像を表示する、音声や画像を使った通信をする、といった高度なことができない。そこを「Unity」という開発エンジンを用いて作成したのだ。Unityは、ゲーム開発でよく使われる統合開発環境である。ARとVR、そしてUnity。これら技術については、専門家に自らアプローチし、絶え間ない努力の結果、習得したという。その努力が今までに類をみないロボットの実現を可能にしたのだ。

Unityでのプログラミング画面

当初は、今回の「Food Matters」というテーマを考えたときにまず思いついたのは、農業ロボットに関するものだったという。しかし、顧問の先生から「価値あるものを創造し、発信することが重要だ、そして技術が一流であることも必要だぞ」というアドバイスを受け、議論に議論を重ね、2か月の期間を費やし、ようやくこのロボットにたどり着いたのである。情報やモノがあふれる昨今、差別化するためには価値の創造が重要だ。そして、デジタル化が進む世界でテクノロジーが果たす役割も大きくなっている。それらを満たすコンセプトとなっていることが素晴らしい。

そして、迎えた9月の日本決勝大会。実はロボットの準備が万全ではなかったという。これだけの技術を盛り込んだロボットである、完成度を高めることが難しいのは容易に想像できる。このような状況の中、3回のプレゼンテーションの機会に臨んだが、やはりロボットのデモンストレーションが成功したのは、1回だけだったという。しかし、そこは百戦錬磨の常連校、プレゼンテーションを充実させることにより、ロボットの不具合をうまくカバーしたのだ。明るく元気よく、寸劇を交えたプレゼンテーションはさすがの一言である。そして結果は、最優秀賞。困難を乗り越え、見事5年連続の国際大会出場を決めたのだ。

WRO 2018日本決勝大会でのプレゼンテーションの様子

最後の最後までやり切った準備、そして堂々の世界5位!

タイ国際大会に向けては、まず日本決勝大会で露呈していたロボットの不具合を改良していった。ARとVRがうまく同期するようにし、またロボットアームがよりスムーズに動くようにしたのだ。加えて、タイに向かう飛行機の中で、コーチとともにプレゼンテーションや質疑応答の準備を最後の最後まで行ったのである。その甲斐あって、本番で審査員から出た質問はほとんどが想定していたものだったという。まさに、最後まであきらめずに行った努力の賜物といえるだろう。そして結果は、見事5位入賞、メダルには届かなかったが堂々の2年連続の入賞を果たした。

WRO 2018タイ国際大会でのプレゼンテーションの様子

完全燃焼した3人が今後目指したいこと

最後に、世界の舞台で活躍した3人に今後のことについて聞いてみた。「僕はロボットを作るのが大好き、四六時中ロボットを作っていたいくらい。昨年と今年で手と腕のロボットを作れたので、将来はヒト型ロボットをぜひ作ってみたい!」(櫻井君)、「オープンカテゴリーはお金がとてもかかるので、先生から『資金を自分たちで調達してくることも重要だ』と言われている。そのため、ロボット開発の資金援助事業に応募し、採択され資金を調達できた。来月その事業の成果発表会があるので、まずそこを頑張りたい!」(倉冨さん)、「将来の夢はゲームプログラマーになりたいと思っている。人の心を動かす楽しいゲームを作ってみたいです!」(南方君)と、3人ともしっかり将来を見据えていることがよくわかった。自分たちで資金調達する行動も素晴らしい。WROに出場することは単にロボットを作ることだけではなく、付随する多くの経験が子どもたちを成長させるのだと思う。そして、3人から最後に聞けた言葉は「全力は出し切った!」の一言。完全燃焼のOTEMON QUEST、5位入賞おめでとう、そして来年はぜひ優勝を目指して欲しい。

全力を出し切った笑顔の3人

大木宏昭

WRO Japan 本部実行委員。株式会社富士通ラーニングメディア ナレッジサービス事業本部 第一ラーニングサービス部 プロジェクト部長。システムエンジニアとして都市銀行のシステム構築に従事し、三行統合のプロジェクトなどに携わる。その後、現職にてプロジェクトマネジメントやビジネススキルに関する人材育成サービスを提供。2017年に富士通グループ発の子ども向けプログラミングスクールF@IT Kids Club(ファイトキッズクラブ)を立上げ、全国展開中である。現在は、WRO Japan 本部実行委員も務め、2018年度のWRO 日本決勝大会、およびタイ国際大会のオープンカテゴリーの審査員も担う。