[Vol.7]被写体の素晴らしさを伝えたい 元木一菜さん

カメラが自然と入り込んでいる暮らし。カメラを持ち歩く楽しみ。日々キラキラしていることを切り取る喜び。カメラのある生活を楽しんでいる女子に密着します。第7回目はコンシェルジュのお仕事をしている元木一菜さん。

近年ブームのアクアリウム。日本橋で開催されていた「アートアクアリウム 〜江戸・金魚の涼〜」に行きたくて、ネットで調べるうちに偶然たどり着いたのが、元木さんの写真ブログ「Rolling Coaster」だった。どうしてこんな1枚を撮れるのかと、写真に視線が釘付けになった。艶やかでとても優雅なのだけれど、展示される運命となった金魚たちの、ある種の物哀しさも伝わってくる写真。とても深みがあった。

そんな写真を撮る元木さんのことが気になった。直接お会いしてみたいと思った。待ち合わせ場所に現れた元木さんは、かわいらしい笑顔が魅力的な女性で、ふんわりとした雰囲気が漂っている。そしてとてもお洒落な人でもある。しとしと雨が降る日曜日の夕方、恵比寿のカフェでお話を聞かせてもらった。

出かける日は必ずカメラを持ち歩く

「失恋」がきっかけでカメラに夢中に

元木さんがカメラに熱中し始めたのは3〜4年前のこと。「大失恋したんです(笑)。そのショックから立ち直りたくて、何か新しいことを始めたい、自分を変えたいと思っていました」とやわらかく微笑む。当時は雑貨屋で購入したキュートなトイカメラで、思いついたときに写真を撮るくらいだったが、あるとき足を運んだ写真展が、元木さんにとってターニングポイントとなった。

もともと人見知りで、初対面の人と話すのはあまり得意ではない。それでも写真展へ行ったのは「これまでしなかったことに挑戦しよう」と思ったから。失恋する前の元木さんなら、そこを訪れることはなかっただろう。でもそろそろ変わらなきゃ——その思いから一歩前進することにした。写真展には新しい世界が広がっていた。そこで出会ったのはたくさんのカメラ仲間、そして師匠。

キヤノン「EOS Kiss X3」とコニカミノルタ「αSweet DIGITAL」を愛用

成長させてくれた「師匠」との出会い

話の中に「師匠」という言葉が何度も出てくる。一体誰なの? 「その写真展を開催していたのが師匠でした。その後、一眼レフを持つようになってから、カメラの基礎から応用まであらゆることを教えてくれた人」と語る元木さんには、師匠のほか「先生」もいるという。彼らに自分が撮影した写真を見せて「悪いところはどこですか?」とアドバイスを求める。自分では気づかないことを指摘してくれるのが他者の視点。

師匠や先生、カメラ仲間たちとは、月に1度集まって撮影に出かける。撮った写真は皆でコメントし合い、グループ展を開催することも。今年の冬、元木さんもグループ展に参加した。「自分と自分の作品に徹底的に向き合う期間なので、精神的にキツい。写真を拡大するとアラが見えて『飾れるものがない』と憂うつになります」と苦笑。それでもいざ展覧会が始まると楽しいのは、ブログの読者が来てくれたり、楽しんでくれる人の表情を目の前で見られるから。写真を見る人に喜んでもらいたい、という気持ちが根底にある。

食べ物を撮るときには逆光を活かす(撮影:元木一菜) アクセサリーをナチュラルに写した(撮影:元木一菜)

1日700〜800枚撮影はあたりまえ

休日の過ごし方を聞くと、やはり撮影に出かけるのだとか。元木さんのブログに被写体としてよく登場する、前の職場の女性の先輩と出かけることが多いそう。「とてもかわいくてステキな人。女の子の撮影をしたいときにはモデルになってもらいます」とにっこり。彼女と撮影に行く日は最低でも700〜800枚、多くて1000枚を超える写真を撮ることもあるのだとか……!

同じ物を30枚くらい撮ることも

人物を魅力的に撮るコツを知りたい。元木さんいわく「かわいいと本気で言うこと」がポイント。そのほか、たくさん話しかけ、恥ずかしがるキュートな表情をあえて撮影し、撮る側も思いっきり笑うなど、工夫を重ねている。撮影者自身が楽しい雰囲気を伝えることで、相手の表情はふっとゆるんだり、やわらかくなったりと、いい方向に変化していくからおもしろい。

カフェで友達をモデルに撮影(撮影:元木一菜) 緑と女の子のコラボレーションが見事(撮影:元木一菜)

被写体の素晴らしさを伝えたい

カメラを持つようになってから、四季の移ろい、日々の何気ない変化に気づきやすくなったという元木さん。写真で何を表現したいのかと聞くと「被写体がいかに素晴らしいかを、見る人に伝えたいです」と話す。自分の気持ちにとことん素直になり、撮りたいと感じる瞬間にシャッターをきる。会社から美しい虹が見えたときにカメラを持っていなくて、写真を撮り損ねたことがあった。そういった「後悔」はしたくない。

夏の想い出となる1枚(撮影:元木一菜)

今撮影したいものは、着物姿の女性、草原に佇む女性など。人を撮るのが大好きなのは「最も関係性の現れた写真になるから」だとか。その1枚に相手の持つ雰囲気をふわりと閉じ込める。「どの写真を見てもそのときにした会話、そのときの雰囲気を思い出せます。私にとって写真は見返したい大切なものでもあるんです」と話す元木さんからは、カメラと被写体を愛してやまない姿が伝わってきた。

(撮影:元木一菜) (撮影:元木一菜)

師匠、先生、カメラ仲間……元木さんの周りには、刺激し合える人たちがたくさんいる。その人たちと切磋琢磨することで、ぐんぐんと腕を上げている。「私もまだまだ上手くありませんが、上達のコツは人に見せることだと思います」と語っていた。私もただ撮って終わるのではなく、誰かと撮りに行ったり、感想をもらったりと、人を巻き込んでみようかなと思うようになった。週末は、誰かと撮影に行こう。

(2012/10/26)
池田園子
1986年生まれ。岡山県出身。2005年に上京。楽天でポータルサイト運営、某ITベンチャーでメディア運営を経てフリーのライターに。Web、ガジェット、新しいモノ、会社、働き方、恋愛、イケメン系のネタを主に書く。コミュニケーション全般が好きで、人が好き。愛用カメラはPENTAX K-rとRICOHのCX4。取材で人を撮り、散歩しながらも撮っています。(ホームページ)(Twitter)