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アイドルはVRで「500年生きる」。講談社が手がけるVRアイドルプロジェクト『Hop Step Sing!』担当者インタビュー
VRメディア概論 ~VRビジネスの最前線より~ #06
2017年9月11日 11:41
ご存じの方も多いと思いますが、『Hop Step Sing!』とは講談社によるVRアイドルプロジェクトです。メンバーは虹川 仁衣菜(にじかわ にいな)、椎柴 識理(しいしば しきり)、箕輪 みかさ(みのわ みかさ)の3人組グループ。VRで楽しむミュージッククリップ第3弾「気ままに☆サマーバケーション」はすでに発売中。Steam他にて配信開始しています。
私も視聴させていただきましたが、Steam版では既存のミュージックビデオにはないVRならではのギミック、例えば、視聴者が誰をいちばん見つめていたかによってビデオの展開に影響を与えたりといったインタラクションなどが楽しめます。
今回、VRアイドルプロジェクト『Hop Step Sing!』を手がける講談社の松下友一氏に、本プロジェクトの意図、そして今回のVRアイドルプロジェクトMVに関する意気込みその他をインタビューさせていただきました。
筆者もVRビジネスを手がける立場ということもあり、実務的、ビジネスに関するところにも踏み込んで質問してみました。
——バーチャルアイドル企画をやろうと思ったきっかけはなんですか?なぜVRアイドルなのですか? 講談社が手がける意味はなんでしょうか。
松下氏:もともと、デジタル媒体から始まるキャラクターを検討したことが始まりです。ゲームやSNSの発達により、講談社が携わってきた、文章や漫画から始まるものとはまた違ったキャラクターの在り方が成立しています。新しいキャラクターの在り方に、なにかアプローチをしたかったんです。そこにVRという、今までの表現論が通用しない全く新しい媒体と出会い、しかも技術的に編集者でも手を出せるところまでやさしくなっていたので、VRでキャラクターを演出していくチャレンジをすることにしました。
——キャラ設定で一番こだわったところはどこでしょうか?
松下氏:本プロジェクトは「500年生きるアイドル」を誕生させるのが目標です。なので、老若男女、そして世界のどこでも「かわいい!」と思ってもらえることが第一でした。
tanuさんのイラストとキャラクターデザインは本当に素晴らしくて、世界にアピールできる魅力に溢れています。また、声優さんたちの歌も素敵で、音楽の力で国境を問わない魅力をさらにアップしてくださっています。
——本プロジェクトでの今までの手応えはどうですか?
松下氏:おかげさまでVR業界ではそこそこ知られてきたのかなと思っています。次なるステップとして、VRに興味の無い人たちにも、このアイドルたちの魅力を知って欲しいと思って頑張っているところです。
——本プロジェクトで一番苦労された点はどのへんでしょうか?
松下氏:お金が……すごく……かかるんです……(涙)。まあこれは分かっていたことですが。
それ以上に大変なのは、演出の仕方から考えないといけないことです。今までの映画や漫画は、画面や誌面という「四角い枠」をどう活用するかが大切でした。カメラの位置や寄り・引きなど巧みに使い分け、カットを切り替えていくのが大事だったと思います。ところがVRになると、画面の枠がなくなり、カメラもユーザーの自由に委ねられるてしまう。
なにより、ユーザー自身も、目の前に広がるVR世界の一員となるわけです。これでは今までの映画的な演出技法が全然使えない。映像の経験が豊富な人ほど、この差には戸惑っていた印象です。
少しずつ知見を重ね、今回の3作目「気ままに☆サマーバケーション」ではようやく、VRならではの演出を見つけられたのではないかと思っています。
——ビジネスプランはどう考えていますか?
松下氏:VRコンテンツ単品ではまだまだビジネスにならないと思いますので、キャラクターの魅力を活かした商品化展開、他業種とのコラボなどを推し進めていきたいと考えています。
Hop Step Sing!のビジネス的なテーマとして「キャラクター演出と先端技術の出会い」を掲げておりますので、VRに限らず、AR/MRやAI、音声合成など様々な技術を「より魅せる」ためのお手伝いができたらいいなと考えております。
——本プロジェクトの最終目標は?
松下氏:AR(MR)技術を駆使してSFアニメでしか見たことがないようなアイドルライブを実現し、それをVR空間で中継することですね(笑)。VR中継なら、ARに使っている3Dグラフィックスを合成して配信することで、会場よりもリッチな演出ができるかもしれません。そうすれば、会場に足を運ぶ人と、VR中継を観る人とで、得られるメリットは一長一短になると思うんですよ。
演出は一歩劣るけど一体感がある会場、演出がリッチだけど臨場感は一歩劣るVR中継。そうすればリアルとバーチャルの差はただの趣味の差になる。そのとき、アイドルがリアルかバーチャルかもまた、ただの趣味の差になっていると思うんですよ。そうなれば、アイドルは500年だって生きられます。
——その他、告知したいことがあればご自由にどうぞ。
松下氏:自社の技術をキャラクターを使ってアピールしたいという企業様向けに、キャラクターデータやボイスセットのお貸し出しが可能です。編集者にしては技術動向に強いほうという自負もありますので(笑)、展示会などでキャラクターを使って技術をアピールする際の脚本や演出のご相談も承れます。お気軽にコラボできるプランを用意しておりますので、いつでも御連絡ください。
また、Hop Step Sing!のVR3作品は、まだ採用例の珍しいSteamの"Paid Site Subscription"に対応しています。月額固定料金で商業施設でのコンテンツ利用が可能になるものです。ロケーションベースVR施設などで、ぜひご検討ください!
筆者の私見
現実に生きているアイドル、芸能人と違いバーチャルアイドルは、
・年をとらない
・疲れたり眠ったりしない
・不平不満を言わない
・裏切らない
というメリットがあります。が、その反面みんなに愛されるキャラクターを作り出すということは、ある意味「無」から「有」を生み出す、言ってみれば「命」を吹き込むような仕事になります。
講談社という数多くの出版ビジネスを展開してきた企業が、今、このタイミングでVRアイドルを手がける意味ら、松下氏自身のこのプロジェクトにかける熱意と愛情、そしてプロデューサーとしての「こだわり」の複合作用に期待しています。
奇しくもこの原稿を書いているタイミングで、同じ講談社が開催するアイドルオーディション「ミスiD 2018」にて、実写と見間違うほどのクオリティのCGアイドル”Saya”が実際に動いているPRビデオが公開されました。
こちらは実写と見分けがつかないという意味で『Hop Step Sing!』とは対極をなす存在ですが、同じ講談社が絡むプロジェクトでこのようなバーチャルアイドルが出現してきているところに、何か「アイドル」という存在自体が大きく揺れ動いているのではないか、という予感を感じてしまいます。
「Hop Step Sing! 気ままに☆サマーバケーション」概要
タイトル:「Hop Step Sing! 気ままに☆サマーバケーション」
価格:Steam版 グローバル6.99ドル、日本国内698円
日本語、英語、簡体字、繁体字対応
DMM VR動画でも360°映像として配信中(480円)。
キャスト:
虹川 仁衣菜(にじかわ にいな) 声:指出毬亜
椎柴 識理(しいしば しきり) 声:鳥部万里子
箕輪 みかさ(みのわ みかさ) 声:日岡なつみ
スタッフ:
作曲・編曲:サトウ ユウスケ
作詞:結城アイラ
キャラクターデザイン:tanu
音楽制作:ランティス
VR制作:ポリゴン・ピクチュアズ
(c)講談社
表題曲「気ままに☆サマーバケーション」とカップリング曲、音声ドラマを収録したHop Step Sing! 2nd CD Single「気ままに☆サマーバケーション」はランティスより発売中!
商品情報:https://www.lantis.jp/news.php?id=1501808400