VR Watch

映像が人間に与える影響をVRで究明する「VR Insight」の第1弾「VR ON AIR TEST」発表

映像制作会社のAOI Pro.は26日、VRを用いて映像視聴時の生体反応を測定、その心理効果を検証するサービス「VR Insight」の第1弾、「VR ON AIR TEST」のプロトタイプを発表しました。

開発したのは株式会社AOI Pro.、アルティテュード株式会社、株式会社BlueMeme、FOVE, Inc、ニューロスカイジャパン株式会社、アップフロンティア株式会社・株式会社ブライセンの7社。映像制作会社、VRヘッドセットメーカー、ソフトウェアベンダーなどがそれぞれの知見を結集しVRのビジネス活用を促進する「VR Insight」の第1弾サービスとして位置づけられます。

VRヘッドセットとしては視線追跡対応の「FOVE 0」を採用

映像が人に及ぼす影響を可視化する

「VR ON AIR TEST」では、被験者が視線トラッキング機能付きのVRヘッドセット「FOVE 0」や各種センサーを装着し、VR空間内で映像(VR動画ではなく通常の2D映像)を視聴。視聴中の注視点や生体データの変化をモニタリング・記録することで、被験者が映像中の何に注目し、どのように感じたか、といった様々なインサイト(洞察)を得ることができます。また、映像視聴前と後にアンケートを実施して被験者の変化を調べることもでき、主に企業のマーケティング用途に活用を見込みます。

ヘッドセットの他、様々な生体センサーを装着して映像を視聴
視聴中のデータをリアルタイムで可視化できる

AOI Pro.は長らくTV CM映像の制作を手がけている会社ですが、例えば視聴者がCM映像を見て商材を購入した場合、映像のどの点が大きな要因になったかなど、深い知見を得る方法は今までありませんでした。そうした映像制作会社としての問題意識が導き出したソリューションが「VR Insight」であり、今回の「VR ON AIR TEST」ということになります。

ちなみに、なぜわざわざ2Dの動画をVRで見るのか、生体センサー類だけで良いのでは、というのは当然の疑問でしょう。それに関しては、VRヘッドセットやヘッドホンを装着することにより外的なノイズを極力減らし、センサリングの精度を上げることができること、VRなら様々な視聴環境を再現できることなどがVRを利用するメリットとして挙げられています。

データの活用とダッシュボード形式のアナリティクスが真髄

AOI Pro.が手がけるVRとしては、先行事例として野球や歩行をテーマにした体験デモがすでにリリースされています。特に歩行体験VR「WONDERFUL WORLD VR Privater Tour」に関しては弊誌でもレポートしている通り、「VR ON AIR TEST」と同様に「FOVE 0」や各種生体センサーを用いて生体反応をモニタリングしていました。ただ、「WONDERFUL WORLD」ではモニタリングした生体データは特に活用されることなく「垂れ流し」にされていたとのこと。

今回の「VR ON AIR TEST」では、まさにその生体データの分析と活用に一定の道筋をつけた点が大きな前進といえます。

「VR ON AIR TEST」で測定した生体データは、クラウドにアップロードされたのちに分析され、Webのダッシュボード上で測定結果や分析結果を閲覧することができるようになります。閲覧可能なデータとしては、視聴中の集中度やリラックス度、理解度/習熟度、活動負荷、喜怒哀楽など多岐に渡ります。視線トラッキングのデータは実際の動画にオーバーレイされるヒートマップとして確認可能です。

再生映像上に注視点を示すヒートマップがリアルタイムでオーバーレイ表示される
他にも様々な解析結果を閲覧可能

このデータ解析およびダッシュボードの出来については、サービス開発に協力した大阪大学の沼尾正行教授も「マルチモーダルなデータを解析できるのは人工知能の開発にも活用できそうで期待している。ダッシュボードは簡単な操作で視聴時の時系列データが見られて画期的」と絶賛していました。

映像と人間の感情の関係を解き明かす鍵となるか

「VR ON AIR TEST」は企業マーケティング向けのソリューションとしてすでに販売できる状態とのことですが、TV CMに限らず映像の分析には広く利用可能なため、Web動画やショートフィルムなどの映像制作にも活用できる模様。

現状ではデータの絶対数が少ないとのことですが、事例を重ねてデータが増え、分析の精度が十分に上がることで、「どんな映像を作れば人にどんな影響を与えるのか」が理論化されていくかもしれません。映像に関わる業界にとっては非常にインパクトが大きくなりそうな技術です。

桑野雄